面倒
「初日はどうだったー?」
天城莱壽はニコニコしながら質問をした。
「......特に何も」
「相変わらずドライだねぇ〜」
「てか、バケツのことは聞かないんだねー」
そう。周囲には大量の血が入っているであろうバケツが置いてある。
「聞いても答えてくれるのか...?」
「それは君次第だねぇ」
「......もう答えるのも疲れたな」
「君もだいぶここに馴染んできたねぇ〜」
「とりあえず部屋に戻っていいよー明日もあるからねぇ」
「学園生活、楽しんでね」
いやらしい笑みを浮かべている。
ドアを閉め、その場を後にした。
今日は疲れたし変なことはせず自分の部屋に戻ろう。
* * * * * *
部屋に戻ると、カナリヤードとイグナがおもちゃで遊んでいた。
「お兄ちゃーん!おかえり!」
満面の笑みを浮かべていた。
「......あぁ、イグナは何してたんだ?」
「あのね!でっかいクマさんに襲われたの!」
「........は?」
「でもね、お姉ちゃんが指でぱっちーんってやってどっかやっちゃったの!」
イグナは必死にカナリヤードの指パッチンの真似をしている。
なかなか鳴らないようだが。
「.......すまん、全く理解ができん」
「イグナ、少しお兄ちゃんとお話するから休憩していなさい」
「え〜、じゃあおねんねするねー」
すぐにすぅすぅ、と寝息を立てている。
寝るスピードは尋常じゃなく早いらしい。
寝たのを確認したのか、カナリヤードがイグナの方を見ながら口を開く。
「恐らく、ドクターが研究所の中にヒグマを放ちました」
「あの人の気まぐれでしょう」
「気まぐれでやることじゃないな......」
やはり、天城莱壽のことは理解できない。
いや、理解すらしたくない。そう思ったのであった。
「先ほどは無視しましたが、学園初日はどうでしたか?」
「......あぁ、正直言って」
無視という部分は無視して話を続ける。
「初めてここにきて興味が湧いた」
「......興味?」
カナリヤードが、ほんの少しだけ目を見開く。
「あなたが、ですか」
「そんな驚くことか?」
「えぇ」
「少なくとも、以前のあなたなら」
「“面倒”で終わらせていたでしょう」
面倒、か。確かにそうかもしれない。
だが、実際に行って見方や視点が変わること。それを実感した。
他人への興味。戦闘での視点。帝国の謎。
......最後に関してはできるだけ知りたくないかも。
「一つ、あなたに渡すものがあります」
「......ドクターからです」
黒い端末を差し出す。
「連絡用と、学園システムへの接続用です」
「それ以外は使えないようにプログラムされています」
「なくさないでくださいね」
「再発行が面倒なので」
そう言うと、カナリヤードは部屋の扉を閉めた。
今日はどうやらイグナのことは自分に任せるらしい。
いつもはイグナの手を取ってカナリヤードの部屋で過ごしているようだが。
黒いスマホを手に取る。初期設定から行うようだ。
端末の設定が終わり、学園のアプリを見る。
そこには能力測定や時間割及び行事の予定、クラスの掲示板、ニュースなどがある。
なかでも気になったのは「ランキング」というもの。
ランキングに表示されている生徒数は536人。1クラスあたり30人くらいいることになるか。
総合力を元に身体能力・頭脳・能力の強さ・エネルギー密度で計算されているようだ。
おまけに能技劇場への参加回数やスタジアムでの戦闘履歴なんかもある。
1位である紫琶葡萄を見ると、能力や細かいデータが数値化されている。
クラスの欄には1組、ではなくエリートと書かれている。
ワンの言う通りだ。
にしても、このランキングだけで自身の能力ほぼ全てが管理されているのか。
霧生知那がこだわる理由もわからなくはない。
自分は今日が初日というのもあり、当然だが名前は載っていない。
1位:紫琶葡萄、2位:霧生知那、3位:ソアヒート・プレッシュ、4位:ガルム・バイオロー......下にスクロールしていくと、順位別に生徒の情報が表示される。
ソアヒート・プレッシュ。
その名前を見た瞬間、
胸の奥が妙にざわついた。
横で寝ている少女を見る。
「......偶然、か?」
そう感じていると。
「ふぁぁぁ、あれ?お姉ちゃんいなくなってる!」
イグナが欠伸をしながら起き上がった。
「.......今日は自分と寝てほしいそうだ」
そう言いながら、スマホを机の上に置く。
「わーい!お兄ちゃんと!」
二人で一つのベッドを使い、そのまま眠りについたのだった。
今日も研究所では悲鳴が聞こえていた。




