初日
その後も戦い方を教えてもらい、今はスタジアムの観客席で休憩している。
「初日で私の速さについてくるなんて、やっぱりあなたは''才能''があるのね」
水を飲みながら霧生知那は話し続ける。やけに才能という部分を強調している気がする。
「正直、授業に参加してるのはあくまで卒業に必要だから、なのよね」
「あなたと戦ってる方が楽しいかもしれないわ」
剣を扱う様は騎士のようで、それは戦闘狂の性というものか。
「......遅剣様がそんなこと言っていいのか、?」
「その呼び方やめてちょうだい」
「あっ、スタジアムにいたんすね」
不意に声。後ろを振り返ると紫忍者こと、紫琶葡萄がいた。
「嘘よ。紫琶さん、本当は少し前から見ていたでしょう?」
気配がしたもの、と付け加える。
気配とかわかるものなのだろうか?
「流石っすね。にしてもアナタが戦いを教えるとか初めて見ましたよ」
「あと編入生さん、アナタは戦いながら考え込むタイプっすね」
手腕楹咤の目をじっと見ながら、アドバイスをした。
「私も今度お手合わせ願いたいっス......」
ニヤッと表情を浮かべる。
「......あなた、私と手腕くんを呼びにきたのではないの?」
両手を腰に当て、質問をぶつける。
「たしかに言われたっすけど、それより編入生さんが気になるんですよ」
「私のぶどうも食べます?」
そう言うと、どこからか出した紫色に光り輝く葡萄を口に加え、片目を閉じてこちらを見つめている。
その様は非常に妖しく、艶っぽく見える。
「ちょっと!何をしているのあなたは!?」
顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに叫んでいる。
「アナタも食べます?ほら、取って♡」
「やーめーなーさーい!はしたないわ!」
遅剣・霧生知那。クールで大器晩成。剣術を扱う女子生徒。
紫忍者・紫琶葡萄。ワイルドで自由奔放。忍術を扱う女子生徒。
正反対に見えるその2人が今、目の前で言い争っている。
「それで、結局あなたは何をしに来たのよ」
その後もしばらく口論が続き、知那が呆れたようにため息を吐く。
「え、だから呼びに来たんすよ?」
「午後の実技始まるって、サボるのは別に良いっすけど」
「......先に言いなさい」
「でも」
紫琶葡萄がこちらを見る。
「編入生さん、面白いっすね」
「......何がだ」
「普通、“怪物”ってもっと完成してるんすよ」
「でもアナタ、まだ自分のこと知らないじゃないですか」
「.......」
「なのに」
「なんでそんな平然としてるんすか?」
風が吹く。
紫色のポニーテールが揺れる。
「普通、自分が人間かわからなくなったら」
「もっと壊れるっしょ」
「.........」
その言葉に、知那が少しだけ目を細めた。
「紫琶さん」
「あなた、どこまで知ってるの?」
「んー?」
葡萄は笑う。
「さあ?」
「そんじゃ、そういうことなんで早く来てくださいね」
言い終わるとビュン、と速攻でいなくなった。
本当に忍者のようだ。
「......彼女、速攻の刻印があるからあんなに早いのよ」
「元々、ポテンシャルに溢れていた」
下を向き、良くないことであるかのように言った。
「......刻印?」
初めて聞く単語。先の授業では触れられなかったな。
「あら、あなた知らないの?」
「刻印は生まれつき体のどこかに刻まれている紋様よ。未だに原理も解明されてないわ」
「タトゥー......みたいな感じか?」
「そうね。タトゥーと違うのは一生体から消えないし隠せないってこと」
「彼女が首にずっとマフラーをしてるのは、それを隠したいからだと思うわ」
「......なるほどな」
刻印。編纂に襲われたときにもどこかにタトゥーのようなものがあった気がする。
速攻と付くということは他に色んな種類の刻印があるという認識で良さそうだな。
「外国人で刻印がある人は珍しいの。基本的にはキドナク人だけのはずよ」
「彼女に刻印がなければ、私は.......1番目に、、、」
「......別に」
知那は立ち上がる。
「あなたが悪いわけじゃない」
「ただ、この国は最初から差が決まってるだけ」
そう言い、ベレー帽を深く被った。
「行きましょう」
「流石に連続でサボるのは良くないわね」
* * * * * *
午後の授業は能力制御。戦術理論。帝国史。
どれも普通の学校とはズレている。
特に帝国史は酷かった。
「パンドラ様は世界に秩序を与えた」
「能力は祝福である」
ワン以外の教師は当然のようにそう語る。
だが。
教科書のどこにも、実験で死んだ人間の話は載っていなかった。
貧民街も。
研究所も。
“失敗作”も。
存在しないことになっているらしい。
「......気持ち悪いな」
気づけば、そう呟いていた。
17時30分、下校時刻となり帰宅する。
どうやら部活動もあるようで、サッカーや陸上、能力を扱って練習をしている生徒も見受けられる。
ここだけ見ると、何ら日本の学校と変わらないように見える。
下駄箱で靴を履き替え、外を出る。
行きは自分で車を運転してきたが、帰りは......連絡用の端末は渡されていないので、自力で帰るしかないか。
そんなことを考えながら少し歩いていくと。
朝、車を止めたあたりに丸に書かれている白いチョークの跡があることに気づく。
これは恐らく...
「初日はどうでしたか」
指パッチンの音ともに、カナリヤード・ロックルが現れた。
「......あんたの能力か」
「はい、これで帰りましょう」
指パッチンの音が鳴り、研究所の前に転移した。
「......手錠は」
「今日は付けません。イグナが会いたがってるので」
「能技劇場の帰りはつけてたのにどういうつもりだ?」
「......実験長の部屋に行きますよ」
無視か。個人的な事情で外しているのか?
研究所の白い廊下を歩く。
無機質な照明。
機械音。
薬品の臭い。
数週間前までは、吐き気すら覚えていたはずなのに。
「お兄ちゃーーん!」
遠くから聞こえた声に、思考が止まる。
赤髪の少女、イグナ・プレッシュがこちらに向かって走ってきた。
「......」
「イグナ、部屋で待ってなさいと言ったはずですが」
「だってお兄ちゃんの火が見えたんだもーん」
「お兄ちゃんはこれからドクターのとこに行きます、戻りますよ」
それでは後で、と言うとカナリヤードはイグナを連れて自分の部屋に行った。
「......」
無言でドアを開ける。ノックはしない。
扉を開けると異様な匂いがした。
「おかえりー」
天城莱壽は、こちらを振り返り足を組んでいる。
周囲には、赤い血液が入ったバケツがいくつも並んでいる。
鉄臭い匂いが、部屋全体に充満していた。




