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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 3:学園
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遅剣

貧民街...と聞いて思い浮かべるのはカナリヤードがミナという少女と会話をしていた場所。

自分が見た過去では、ミナ以外の人間も相当いた記憶がある。


霧生知那は立ち上がり、別校舎の方を見ながら話し始めた。

「ドクター......天城さんの研究所がある区画は元々貧しい人たちの住処だった」

「小さい頃からずっと、この国で暮らしてる」


「......私がいた貧民街には、無料で食べ物をくれたおばさんと茶髪の学生...?がいてね」

「その2人から食べ物をもらって、分け合ってた」


下を向く。

「でもある日、おばさんが血を出して倒れて、、、」

「気が動転した私は近くにあった包丁で戦って......」

「変な喋り方で杖を持った、、編纂(へんさん)......と名乗っていたわ」

編纂......名前が重なる。能技劇場(カーニバル)の帰りに自分を襲った魔法陣の男。

カナリヤード曰く、パンドラ復活派だったか。


「編纂は、私の包丁の振り方を見て笑ってた」

霧生知那は屋上のフェンス越しに空を見る。

「“良いですね!その殺意!”って」

「気持ち悪い男だったわ」


風が吹く。

灰色のベレー帽が少し揺れた。

「その後、私は研究所に回収された」

「才能がある、とか言われて」


「でも結局」

「私は1番にはなれなかった」


「……?」


「この学校は結果が全て」

「紫琶さんも、先生も、他の連中も」

「みんな最初から怪物だった」


「私は違う」

「生き残るために、必死に覚えただけ」


「......あんたの力」

「どれくらいなんだ?」


「……気になる?」

知那が立ち上がる。


「........」


「あなた、戦い方が滅茶苦茶なのよ」

「全部エネルギー任せ」

戦いって...そもそも1回しかしてないんだけどな。


「少しくらい教えてあげる」

たまにはサボってもいいわよね、と付け加え歩き出した。


「......どこにいく」

「スタジアムよ。付き合いなさい」


* * * * * *


エレベーターに乗りスタジアムに移動する。

幸い他の生徒はいないようで、今ここにいるのは2人だけ。

真ん中に立ち、互いに向き合う。


「私は剣を使うわ」

「あなたの身体能力が怪物なのもこっちは知ってるわ」


「剣と拳で交わらせてちょうだい」

「......流石に無理があるような」


そういうと、腰から長い剣を出し深呼吸する。

「——ハァッ!」


初撃を避ける。

だが、かなり早い。

銃の形を作る前に剣撃が飛んでくる。


「ずっと逃げ回ってたら、私に攻撃できないわよ!」

笑いながら、剣を振り回す。


「バン!」

爆発が爆ぜる。だが、今の爆発は当たったはずだが...

横へ避けた霧生知那の体がビリビリと鳴る。

(攻撃が当たってない...?)


「流石、すごい威力ね」

(爆発もだけど...発火能力もあるのかしら)


次の瞬間。

瞬時に移動し、自分の前に来る。

頬に傷が走る。

後ろに飛び、後退する。


頬を触り、手に血が滲む。

「私はいつも遅いのよ」

「2番目の烙印」

「だから、遅い剣...遅剣(ちけん)という二つ名で呼ばれてるの」


そのまま自分に向かってくる。

それを避け、脇腹に攻撃を叩き込む。


「ドン!」

知那は間一髪で避け、風の衝撃が観客席の方へ音を立てる。


「……なるほど」

「?」


「自分、今まで“力”しか使ってなかったんだな」

霧生知那は少しだけ目を見開く。

「……今さら?」


「.........」

その瞬間。

手腕楹咤は、初めて少しだけ笑っていた。


「それとあんたの能力だが」

「......気づいたかしら?」

ふたたび剣と拳が交わる。


「私の能力は遅延(ディレイ)

「攻撃を視認している間、その攻撃を遅らせる」


「やはり。遅らせるのは薄々勘づいた」

「初見での対応が困難な能力だな」


「でしょう?」

知那が少しだけ笑う。

その瞬間。


——ザッ。

観客席の上段。何かが動いた。

「......?」

反射的に視線を向ける。

誰もいない。

だが。


「どうしたの?」

「......いや」

妙な感覚。視線。

研究所で実験されていた時とも違う。

もっと、粘つくような。


「......監視癖でもついた?」

知那が呆れたように言う。


「......かもな」


「そうだ、もう1個聞きたいことがある」

「なにかしら?練習中に言うってことはそれ相応のことなのよね?」


と言われてしまうと、答えように困る。

「..........」

「冗談よ」


「みるく......あんたの隣の席に白髪のやつが座ってたと思うんだが」


「...?誰のことかしら」

知那はさっぱりわからないようで、止まる。

「は?」

「いや、でも自分が来る前に隣に「そこはあなたの席でしょう?」


「白髪ならクラスでも有名になると思うし、そんな生徒は1組にはいないわよ」

えっ、じゃあ自分が見ていたみるくは幻影...?

動揺を隠せない。


「......他のことを考えて、手元が疎かよ」

その思考を切り裂くように、霧生知那の剣が襲いかかる。


* * * * * *


観客席最上段。

帝国軍兵士であり、皇族の血も引くテンハンドレッド・オッド・アルティメットは、静かに端末を閉じた。

『——管理対象、順調に学園へ適応中』

『ただし』


少しだけ目を細める。

『本人の認識に軽度の齟齬を確認』

『現在、日本人の女と交戦中』


送信。

数秒後。


『♡』

天城莱壽から、それだけ返信が来た。


「......気持ち悪」

言葉を吐き、テンはスタジアムを後にした。

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