遅剣
貧民街...と聞いて思い浮かべるのはカナリヤードがミナという少女と会話をしていた場所。
自分が見た過去では、ミナ以外の人間も相当いた記憶がある。
霧生知那は立ち上がり、別校舎の方を見ながら話し始めた。
「ドクター......天城さんの研究所がある区画は元々貧しい人たちの住処だった」
「小さい頃からずっと、この国で暮らしてる」
「......私がいた貧民街には、無料で食べ物をくれたおばさんと茶髪の学生...?がいてね」
「その2人から食べ物をもらって、分け合ってた」
下を向く。
「でもある日、おばさんが血を出して倒れて、、、」
「気が動転した私は近くにあった包丁で戦って......」
「変な喋り方で杖を持った、、編纂......と名乗っていたわ」
編纂......名前が重なる。能技劇場の帰りに自分を襲った魔法陣の男。
カナリヤード曰く、パンドラ復活派だったか。
「編纂は、私の包丁の振り方を見て笑ってた」
霧生知那は屋上のフェンス越しに空を見る。
「“良いですね!その殺意!”って」
「気持ち悪い男だったわ」
風が吹く。
灰色のベレー帽が少し揺れた。
「その後、私は研究所に回収された」
「才能がある、とか言われて」
「でも結局」
「私は1番にはなれなかった」
「……?」
「この学校は結果が全て」
「紫琶さんも、先生も、他の連中も」
「みんな最初から怪物だった」
「私は違う」
「生き残るために、必死に覚えただけ」
「......あんたの力」
「どれくらいなんだ?」
「……気になる?」
知那が立ち上がる。
「........」
「あなた、戦い方が滅茶苦茶なのよ」
「全部エネルギー任せ」
戦いって...そもそも1回しかしてないんだけどな。
「少しくらい教えてあげる」
たまにはサボってもいいわよね、と付け加え歩き出した。
「......どこにいく」
「スタジアムよ。付き合いなさい」
* * * * * *
エレベーターに乗りスタジアムに移動する。
幸い他の生徒はいないようで、今ここにいるのは2人だけ。
真ん中に立ち、互いに向き合う。
「私は剣を使うわ」
「あなたの身体能力が怪物なのもこっちは知ってるわ」
「剣と拳で交わらせてちょうだい」
「......流石に無理があるような」
そういうと、腰から長い剣を出し深呼吸する。
「——ハァッ!」
初撃を避ける。
だが、かなり早い。
銃の形を作る前に剣撃が飛んでくる。
「ずっと逃げ回ってたら、私に攻撃できないわよ!」
笑いながら、剣を振り回す。
「バン!」
爆発が爆ぜる。だが、今の爆発は当たったはずだが...
横へ避けた霧生知那の体がビリビリと鳴る。
(攻撃が当たってない...?)
「流石、すごい威力ね」
(爆発もだけど...発火能力もあるのかしら)
次の瞬間。
瞬時に移動し、自分の前に来る。
頬に傷が走る。
後ろに飛び、後退する。
頬を触り、手に血が滲む。
「私はいつも遅いのよ」
「2番目の烙印」
「だから、遅い剣...遅剣という二つ名で呼ばれてるの」
そのまま自分に向かってくる。
それを避け、脇腹に攻撃を叩き込む。
「ドン!」
知那は間一髪で避け、風の衝撃が観客席の方へ音を立てる。
「……なるほど」
「?」
「自分、今まで“力”しか使ってなかったんだな」
霧生知那は少しだけ目を見開く。
「……今さら?」
「.........」
その瞬間。
手腕楹咤は、初めて少しだけ笑っていた。
「それとあんたの能力だが」
「......気づいたかしら?」
ふたたび剣と拳が交わる。
「私の能力は遅延」
「攻撃を視認している間、その攻撃を遅らせる」
「やはり。遅らせるのは薄々勘づいた」
「初見での対応が困難な能力だな」
「でしょう?」
知那が少しだけ笑う。
その瞬間。
——ザッ。
観客席の上段。何かが動いた。
「......?」
反射的に視線を向ける。
誰もいない。
だが。
「どうしたの?」
「......いや」
妙な感覚。視線。
研究所で実験されていた時とも違う。
もっと、粘つくような。
「......監視癖でもついた?」
知那が呆れたように言う。
「......かもな」
「そうだ、もう1個聞きたいことがある」
「なにかしら?練習中に言うってことはそれ相応のことなのよね?」
と言われてしまうと、答えように困る。
「..........」
「冗談よ」
「みるく......あんたの隣の席に白髪のやつが座ってたと思うんだが」
「...?誰のことかしら」
知那はさっぱりわからないようで、止まる。
「は?」
「いや、でも自分が来る前に隣に「そこはあなたの席でしょう?」
「白髪ならクラスでも有名になると思うし、そんな生徒は1組にはいないわよ」
えっ、じゃあ自分が見ていたみるくは幻影...?
動揺を隠せない。
「......他のことを考えて、手元が疎かよ」
その思考を切り裂くように、霧生知那の剣が襲いかかる。
* * * * * *
観客席最上段。
帝国軍兵士であり、皇族の血も引くテンハンドレッド・オッド・アルティメットは、静かに端末を閉じた。
『——管理対象、順調に学園へ適応中』
『ただし』
少しだけ目を細める。
『本人の認識に軽度の齟齬を確認』
『現在、日本人の女と交戦中』
送信。
数秒後。
『♡』
天城莱壽から、それだけ返信が来た。
「......気持ち悪」
言葉を吐き、テンはスタジアムを後にした。




