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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 3:学園
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生活

みるくがこちらに向かって手を振っているが、この際どうでも良い。


「席だが、霧生(きりゅう)の隣が空いてるしそこで」

「......わかりました」

教師役であろう大柄の男。生徒という立場なので一応敬語を使っておく。

教室の形は日本の大学に似ている。席は正面から見てちょうど真ん中あたり。

段差に気をつけ、霧生という女子生徒の隣に座る。


「......あなた、能技劇場(カーニバル)で黒い怪物を倒してた人?」

「......さぁ」


「とぼけないで。お腹のナイフ、白と黒のメッシュに左腕のリヒテンベルク図形...間違えるはずがないわ」

「編入前に髪を染めず、おまけに夏服であることを後悔するのね」

良い気分がしないが、正論ではある。


「......ごめんなさい。名前がまだだったわね」

「私は霧生知那(きりゅう ちな)。よろしくね、手腕くん」

黒髪のボブに、灰色のベレー帽を取り、容姿端麗な彼女は挨拶をした。


「あぁ!霧生さんの隣いいな〜」

「わたくしもそこが!」

何やら複数の男女が霧生さんの元に集まっている。

いわゆるクラスの人気者、というやつなのだろうか。


「やめてちょうだい。私は目立つのが嫌なの」

冷たく言い放った。

「この学年はぶどう様とちな様の二強ですのよ!」

いかにもお嬢様っぽい口調で話す女子生徒。


遅剣(ちけん)様は相変わらずドライっすね。そこが萌えるのかな?」

気づいたら目の前に紫色のポニーテールに謎のマフラー。

見覚えがある。紫琶葡萄(しきべ ぶどう)だ。

能技劇場(カーニバル)で見た時とは別人に見える。


「......あら紫琶さん。萌える、なんて表現はやめてほしいのだけど」

「あとあなた、こんな時期になってもマフラーをつけてるの?馬鹿じゃないの?」


「......私のお気に入りのマフラーを馬鹿、とはいただけないっすね」

横で視線がぶつかり合っている。なんだこの光景は。


「おい、そこまで。全員集まったし授業やるぞー」

「ワン先生!今日は何するの〜」


「今日は新しい生徒が来たからな。原点に帰って、能力科の授業だ」


「「「おおぉぉ〜!!」」」


生徒たちの歓声が上がると、目の前の黒板らしきものに文字や図が表示される。

率直に言って発達している。


「位置エネルギーは高さ、運動エネルギーは速さ」

「じゃあ能力エネルギーは?」


「はいはい!」

たくさんの生徒が挙手をしている。小中高ときて、自分はこの手を挙げるのが苦手だったのを思い出す。


「じゃあクロウリー」

「その人らしさ、です!その人の核となる部分が能力エネルギーである、とパンドラ氏は定義しました!」


「......あぁ、そうだ」


ここであることを思い出した。

『位置エネルギーは高さ』

『運動エネルギーは速さ』


『じゃあ能力エネルギーは?』


『その人の存在、核だよ』

カナリヤードの過去を覗いてしまったとき...だったか。その時に天城莱壽が言っていた。


「その人の核となる部分、と言っても抽象的ではあるが」

「生きているだけでエネルギーが生まれる。青白い静電気のようなものはそれだ」

「このエネルギーがあれば、自身が持っている''能力''を扱える」

ワン、という教員が人差し指から青白い光を生み出す。


「だがスマホの充電がなくなるように、エネルギーは使いすぎるとなくなる。要するに枯渇する」

「このクラスには枯渇しないやつもいるらしいがな」

ワンは自分の目を見て少し微笑みを浮かべた。


「あと、エネルギーに関連する現象を語らなければな」


「——それは再構築(さいこうちく)だ」


「破壊の先に辿り着いた、限られる者しか扱えない代物(シロモノ)だ」

またも、ワンは目を瞑りながらニヤっとした。

「再生や治癒など、回復とは異なる」


「肉体や記憶、無機物にも干渉し、名の通り元に戻るという形だな」


「定型文があるが、種類が多いから各自で確認してくれ」

「まあ全部扱える奴なんていないと思うがな」


「再構築を定義したのは、ヴァンパイア・フランケンシュタイン」

「知らない者はいないと思うが、200年前にパンドラが生み出した脅威的な存在」


「——吸血鬼だ」

吸血鬼か。到底この世に存在するとは思えないが...


「フランケンシュタインの影響で夜棺(よかん)が生まれ、パンドラを崇拝するイカれた集団ができたというわけだな」

「まあこの話は俺自身も語りたいことがあるから今度な」


なるほど。エネルギーの謎は大体解けた気がする。

自分の青白いエネルギーは制御ができないんじゃなくて、枯渇しない。

いや、枯渇しないという表現は若干違うのかもしれない。無制限、か?

溢れる寸前まで水を注がれたコップのようで、ほんの少し揺らすと中身が零れ落ちる...みたいな感じか。


「......今日はここまでにするか。あとは自習」

「それと編入生。終わったら俺のとこまで来い」

そう言い終えると、ワンはこの場を後にした。

大方、学園の案内でもしてくれるのだろう。


「......ワン先生が自習を指示するとか、珍しいわね」

「そうっすね。あの人脳筋に見える割に配慮できる」


そんな会話をしている2人をよそめに、目の前のタブレットの使い方がわからずあたふたしていると。

「......手腕くん、タブレットの使い方教えてあげましょうか」

「......たのむ」

支給されているタブレットの使い方を優しく教えてもらい、自習の時間が終わった。


* * * * * *


——ガラッ。

授業終了の鐘と同時に、教室の扉が乱暴に開いた。


「あれ!あの人じゃない?」

「そうですよ!」

「え〜めちゃくちゃイケメンじゃぁぁん」


「お前か、能技劇場(カーニバル)の化け物」


クラスのわいわいした空気が止まる。

廊下側。制服を崩した数人の生徒。

腕に謎の模様。異様な殺気。

霧生知那と紫琶葡萄が同時に小さくため息を吐く。


「……」

「こうも複数人でうちのクラスに来られると困るのだけど。暴犬(ぼうけん)さん?」

靴音を立てながら、霧生知那は彼らの前に立った。


「......そっちじゃなくてアドベンチャーの方にしてほしいもんだな」

「ま、お前は性格とビジュ良いから挑発も見逃してやる」


「俺が見にきたのは化け物の方だ、わかる?永遠の2番目さん?」

「......黙りなさい」

さっきの余裕そうな表情から一変し、顔が強張っている。

それをスルーし、自分の席の前にやってきた。

厳つい顔つき。首には首輪を模したタトゥー。目は紫色でカラコンをしている。


「……で?」

暴犬、と呼ばれていた男が笑う。

「実際どんくらい強いわけ?」


「……知らん」

「は?」

「自分でも、まだよくわからない」

一瞬だけ。教室の空気が静まる。

暴犬の目が細くなる。


「……そりゃ厄介だな」


「この学園は、優秀な家系やら、国への家族の貢献度やらクソみたいな値でクラスを分けてやがる」

「なのに、自分のことすらよくわかってなさそうなこいつがエリート扱いか......ウケるな」

失笑に近い笑みを浮かべている。


「じゃあズラかるか。いつか殺してやるよ」

そういうと、暴犬とそれを取り巻く複数人は出ていった。

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