表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拉致問題  作者: ゆるうる
Case 2:能技劇場
PR
21/34

予感

「名前、イグナ・プレッシュ......」

手腕楹咤とカナリヤード・ロックルは控室に移り、赤髪の少女の話を聞いていた。


「年齢は」

「10歳......たぶん」

少女は俯いたまま答える。


「......能技劇場(カーニバル)を盛り上げるため、子供が投入されるのは珍しくありません」

「ですが、生存した場合——廃棄対象になります」


沈黙。

イグナが小さく震えている。

「.......せっかく生き残ってるのに死なせるのか」


「なぁ」

手腕楹咤は、カナリヤードを見る。

「“あんたは”どうしたい」


「......私は、命令に従うだけです」

「ドクター及び研究所の判断に——」


「違う」

少しだけ声が強くなる。

「そういうのじゃなくて」

「.............」


「あんた、昔」

「助けられなかっただろ」


その瞬間。

カナリヤードの指先が、ぴくりと止まった。

「自分はあんたの過去を知ってる」

「意味もなくこの少女を助けたりなんかしない」


「...........わた、しは」

カナリヤードの口が止まる。

「たすけたい......です、この子を」


手腕楹咤は表情を変えず、わかったと言った。

「じゃあこの子は保護する」

「無能力者なら、反発することもないやろ」


「しかし......ドクターが許可するかどうか」


「それは知らんが、自分の部屋ならいいだろ」

「罠は除去してほしいが」


「あなたの部屋で保護するのですか?」

「......あぁ、なんか問題あるか?」


カナリヤードが沈黙していると、控室の扉が軽い音を立てて開いた。

「やっほ〜」

白衣を揺らしながら、ドクターこと天城莱壽(てんじょう らいす)が入ってくる。


「いやぁ、最高だったよ」

「観客の脳汁の出方がいつもと違った」


「.............」

手腕楹咤は無言で睨む。

「あれ?」

「その子まだ生きてたんだ」

イグナがびくっと肩を震わせた。


「この子、自分の部屋で保護する」

「は?」

カナリヤードが目を見開く。

天城は数秒固まったあと、急に吹き出した。


「アハハハハ!!」

「なにそれ、家族ごっこ?」


「..........」

「別に」

「死なれると気分悪いだけ」


「へぇ〜」

天城は興味深そうに目を細める。

「ま、いいんじゃない?」

「捨てる予定だったんだし」


「..........」

カナリヤードは無表情を貫いているが、憎しみを隠せないのが手腕楹咤には伝わっている。


「ただし条件」

天城は笑ったまま、人差し指を立てる。

「ちゃんと“言うこと聞けるなら”ね」


その瞬間。

“従え”という感覚が、脳裏を過った。


カナリヤードは一礼をし、天城は後ろを向き歩き出した。

「あーそうそう」

「僕やることあるから、先にゴミ連れて帰っててよ」


「......承知、しました」

扉が音を立て閉まった。

どこか重苦しい空気が流れていた。


「車行くか」


* * * * * *


扉を閉めた天城莱壽は、携帯電話を取り出し歩きながら電話をかけた。

「彼を学園に連れていく。テストを受けさせたい」

「彼にもっと、殺してほしいんだ」

『......三例目がパンドラ様に対抗できるとリーダーは仰るのですカ!』


「......それはわからないけど、こっちから刺客を送れば良い話になるんじゃないかなーってね」

「我々はパンドラ様の復活を望んでいる。手腕楹咤にテストとして君たちと戦ってもらう、どうだい?」


『まあリーダーがそれで良いのであれば良いのですヨ!』

「他の3人にもコンタクトを入れておくか、編纂(へんさん)ちゃんもう切っていいよー」

そう言うとすぐに電話を切った。


* * * * * *


今日の能技劇場(カーニバル)が終わり、ノクスを出る頃にはすでに夜になっていた。

それでも人通りは絶え間なく続いている。さすがは栄えている街と言ったところか。


「また無免許運転かよ」

そう言いながら、手腕楹咤は車を走らせた。街のネオンが窓に流れていく。

イグナは疲れてたのか、後部座席ですやすやと眠っていた。


「........なぁ」

手腕楹咤が前を見る。


「従え、って言った時」

「なんであんたあんな顔したんだ」

助手席に座っていたカナリヤードの目が少し細くなる。


「.........わかりません」


「あなたが、能力者ではない別の何か......に見えたからです」

「......一瞬だけ」

「逆らえないと思いました」


「.............」


「あなたは他の能力者とは決定的に違う部分があります」

「今日、それを実感しました」


声が夜の暗闇に消え、走行音だけが響き渡った。

その瞬間。


——ビリビリビリィ!!!

紫電が道路を焼く。

手腕楹咤はハンドルを切る。


ドゴォン!!!!

数秒前まで車がいた場所が爆ぜた。

「え」

「なんで襲われるんだ......?」

冷静を装いつつ焦りが隠せない声が出る。

「あなたが化け物だからでは?」

「それで納得できるか」


車の横。巨大な魔法陣が展開されている。

その中心。

電線の上に、一人の男が立っていた。

顔は全身の紫色の服に紋章のようなものがある。

縫い跡みたいな模様。異様に長い指に右手で杖のようなものを握っている。


「こんばんは!」

編纂(へんさん)、と言っておきましょう!」

編纂、と名乗る男はとびっきりの笑顔を浮かべた。


「.........」


「リーダーの命令により」

「手腕楹咤くんの性能を確認に来ました!」


「性能確認って」

「自分はゲーム機じゃねえぞ」


「あははは!」

男が杖を動かす。

瞬間。

空中に複数の魔法陣。


雷撃。炎。水。氷。


「いや盛りすぎだろ」

「右に避けてください」

カナリヤードが静かに指示する。

「あと私の足を支えて」

「だからなんであんたは冷静なんだよ」

手腕楹咤は片手でハンドルを握ったまま、カナリヤードの脚を支える。

カナリヤードはどこからか弓を持ち、窓を開け、構えた。

青白いエネルギーを纏いながら......

「私、実は弓道を習ってたんですよ」


「——ンッ!」

ドンッ!!!

細い雷光が、夜を一直線に裂いた。


「あっ」

編纂の肩が吹き飛ぶ。

しかし男は笑っていた。


「いいですね!」

「茶髪のメイドさんは良い資料、文献、原稿になりそうです!」


「…...気持ち悪いですね」

カナリヤードが言ったその瞬間。

手腕楹咤の中で、何かが切り替わる。

「うるさい」

カナリヤードの足を掴んでいた片手を放し、そのまま前を向きながら銃の形にする。


「バン」

——ドゴォォォォォン!!!!!!


道路ごと、魔法陣が消し飛んだ。

静寂。

「……は?」

編纂の声が、初めて揺れる。


「あ、ちょ、待ちなさ!」

——ブォォォォン!

窓を閉め、速度を上げその場を後にした。


「ぐ、は……」

「なるほど……!」

編纂は青白いエネルギーを纏いつつ、血を吐きながら笑っている。

「こりゃ確かに」

「化け物だ!」

そのまま、身体が黒い霧になって消える。


「もう追ってこないでしょう」

カナリヤードが呟く。

「......普通に怖いんだけど」

「なんなんだあいつ」


「……おそらく」

夜棺(よかん)の人間です」


「は???なんだそれ」


「端的に言えばパンドラ復活派」

「......帝国が最も警戒している集団です」


「......急に世界観重くなったな」


カナリヤードは窓の外を見る。

「あなたは」

「世界から狙われる可能性があります」

車は、夜の帝国を走り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ