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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 2:能技劇場
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20/34

余白

「......自分がやったのか」

一部が半壊し、崩れた観客席からまだ煙が上がっている。

スタジアムを見て、手腕楹咤は今にも信じられない気持ちになった。


「忘れてた」

そう言い、蜘蛛の糸で瓦礫に固定していたイグナをお姫様抱っこで抱える。


「ごめん、辛い思いさせたね」

「..........」

少女はまだ呆気にとられているようだった。

反対側では兵士がダンプカーで静かに脈打つ黒塊や死んだガイズを運んでいく様子が見られる。


「アンコール!」

「アンコール!」

「アンコール!」

何やら観衆が騒ぎ立てているが、それを無視してゲートに向かった。

腹のナイフはまだ熱を帯びている。


ゲートの奥へ行き、観衆の姿が見えなくなる。

「.......理解できません」

目の前にいたカナリヤード・ロックルは手腕楹咤を見て、そんな言葉を口にした。

「.......自分もわからん」


——ッ!

直後、カナリヤードはどこからか取り出したナイフを刺してくる。

「ぁわっ」

手腕楹咤はそれを見切り、咄嗟にイグナから手を放す。

ナイフを左手で受け止めた。

血が飛び散るのと同時に青白い火花が音を立てる。

「.......あんたの言う通り警戒を緩めたつもりはないんだけどな」


涙を浮かべつつ、カナリヤードはナイフを左手から外し頭を下げた。

「失礼しました。無礼をお許しください」

「私が思っているより、あなたは強くなってしまったようです」


「……いい」

気づけば、口が動いていた。

「なら、自分に従え」


「…………ぇ」

カナリヤードの表情が止まる。

まるで、何か別のものを見たみたいに。


「あなたに……従う……?」

その瞬間。

自分でも、背筋が寒くなった。

(……なんだ、今の)


言おうと思って言ったわけじゃない。

なのに、“命令した”感覚だけが残っていた。


「......お兄ちゃん、モンスターなの?」

横目でそれを見ていたイグナが口を挟んだ。

「......知らんしわからん」

「でも、助けてくれた」

「..........」

自分がなんなのか、沈黙する。


「その赤髪の少女は......」

カナリヤードが少女を見て問いかける。

「......さぁ?なんでここにいるのか聞いてなかったな」

そう言いイグナの目を見る。



* * * * * *



専用の特別観覧席。

少女を連れ、手腕楹咤がゲートを出る様子を見ていたエルティーナ・イーヴン・アルティメット、オブバース・バックリアーの2名はその場で硬直していた。

唯一その場で微笑んでいる天城莱壽は、ぼそっと。

「いや〜、すごいものを見たねぇ」


「.........」

無言で特別観覧席を後にしたエルティーナは、エンペラーキャッスルに向かった。

玉座の間。その奥に封印されている黒い箱。

ここにいる者はただ一人。


「お前のペットの活動停止を確認した」

「Stoping」


「ほーん」

小さい黒い箱から声が聞こえる。

「......やっぱりー?気配がなくなったから、薄々は気づいてたけど」

「てことでそろそろこの窮屈な箱から出してくれな〜い?」


「黙れ。誰が出すものか」

「ちぇっ」

手腕楹咤が黒塊(こっかい)と呼んでいた名の通り黒い塊。誰がどう見ても完全な人外であり、モンスターと答えるだろう。それは紫色の服とポニーテールが特徴的なこの怪物が生み出したものだった。


「パンドラ。私がわざわざ来たのはお前のペットの話をしに来たのではない」

「お前が惨めな箱に封印されて今年で10年だ。私も当時死に物狂いでお前と戦ったのを覚えている。なのに200年前からお前は歳を取らず、その戦争も未だ謎のままだ」


「そんなにうちのこと好きなん?なら出してよ」


「……なぜ、未だに4代目皇帝が存在しないと思う?」

「さぁ?てか無視?」

どうでもいいと感じているようだ。


「全部、お前のせいだ」

パンドラは数秒黙る。

そして。


「……あー」

「そんな引きづらなくてもよくなーい?」


エルティーナの目が冷える。

「200年前と10年前、お前は世界を壊しかけた」


「だから封じられた」

「それだけだ」


「仮に私がこの箱から出たとして、やることないけどね〜」

(あのマスターマインド(幻影)だけは許さないけど)


「......どうだかな」



* * * * * *



座席に座っていた白透看枸は、スタジアムのアンコールの歓声に乗っかっていた。

「えいくんアンコール!!!!!」


そんな少女の言葉はもちろん届かず、ゲートを出る手腕楹咤を見つめた。

「ちぇ、まぁえいくんのレベルはわかったしいいか」

「14歳のとき、クラスで話しかけてくれたときからずっと見てる。えいくんだけをね」

微笑む。それはただの恋する乙女か?


「すみません。少々お聞きしたいことが」


「.......なにかな...なんでしょうか」

「私、帝国兵のテンハンドレッド・オッド・アルティメットと申します」


「あなた、灰色の髪の日本人を見ませんでしたか?」

「昨晩に監視を避けて逃げたようで」


「......さぁ、わからないですね」

みるくは白けた顔で答える。


「そうですよね。ご無礼を」

「あなたの横顔がその灰色の少女に似ている気がしたもので」


「......私じゃないですよ。髪色違うし」

失礼しました、と言うとテンはスタジアムの群衆に消えていった。


「チッ、芝居しながら探すのもだりぃ」



* * * * * *



天城莱壽はエルティーナが立ち去った後、オブバース・バックリアーと会話していた。

「あれは放置できるレベルではありませんね」


バックリアーがワインを置く。

「隔離、監視、処分。いずれにせよ我々帝国府の判断が必要かと」

「え〜、もったいない」

天城莱壽は笑う。


「せっかくなら、社会に混ぜてみようよ」

「...........」


「あの理解不能を、“普通”の中に置く」


「それがどれほど危険か、君も見てみたいだろ?バック」

「学校とか」

「青春ってやつ?」


「最初に彼の手帳?を見たとき、まだ高2だった」

「あと2年弱あるなら、ついでに行かせといても良い」

もちろん拠点はうちの研究所ね、と天城は付け加えた。


それを聞いたバックリアーが眉をひそめる。

「正気ですか」

「正気だよぉ」


「僕も怪物(あの子)のこともっと見たいし知りたいけど、それで彼が反発するのが懸念事項だ」

「.......この力に気づいていたならとっくに反発していたのでは?」

「うーん、どうだか笑」

天城は軽く笑い、小さい牙を出した。


その頃。

手腕楹咤は、自分が“何になり始めているのか”をまだ知らない。

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