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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 2:能技劇場
17/20

学習

『続いて第二戦!!!』

『本日の特別参加者ァァァァ!!!』

『エネルギー測定不能!!謎の凡族ゥゥゥゥゥ!!!!』


司会者のシャーク・スキンの叫びと同時に、ゲートが開いた。

観客席が爆発する。

「来たァァァ!!」

「当たり枠か!?」

「凡族ってやつかよ!!」

笑い声と拍手。

歓声というより、期待のノイズだった。


『フィールドゾーンの変化を開始します』

無機質なアナウンス。

その瞬間、地面が“沈む”。

砂が裂け、水のような空洞が広がっていく。


「うお、フィールド変化きたぞ」

「今回はガチっぽいな」


『今回の処刑対象は元軍人・無能力兵士、ガイズゥゥ!!』

『そしておまけのガキィィィ!!!』

観客が笑う。

「おまけって何だよw」

「それ先に死ぬやつじゃん」

「賭け成立しねぇだろこれ」


そう紹介されると同時に、フィールドに二人が立たされた。

一人は元軍人・ガイズ。

身体はボロボロで、立っているのが不思議なほどの様子だった。

もう一人は小柄な少女。

状況が理解できていないのか、視線だけが泳いでいる。


水のような空洞に目を向けると、何かが跳ねた。

サメのような影が一瞬だけ飛び出し、そのまま水面へ消えた。

歓声が上がる。


「やれえええええええ!」

「いえあああああああ!」


「ひぃ……」

少女はその場にしゃがみ込む。

そして地面が割れる。

そこから“それ”が現れた。

肉でも骨でもない。黒く塊になった異形。

黒塊(こっかい)

そう呼ぶことにする。


「さぁ、どう動くかい?」

ドクターの声。


その瞬間。

黒塊が動いた。

音が消えた。


いや——違う。

“音が遅れて届いた”。

視界が白く割れる。

ガイズが吹き飛ぶはずだった。

少女が叫ぶはずだった。


だが。何も起きていない。

地面だけが、深く抉れていた。


「……は?」

観客がざわつきながら前に寄る。

「今の当たった?」

「見えねぇぞ今の」

「外した?」


黒塊は止まらない。

次の標的を見ている。


手腕楹咤(しゅわん えいた)”。

その瞬間、理解した。


(こいつ……)

(自分“だけ”見てる)

なるほどな。

そのとき、なぜか自分は笑っていた。


初撃は、恐らく視界を眩ませるためのもの。

なら——。

先に“次”へ行けばいい。

黒塊の動きが“見えた気がした”。


いや、違う。

見えたんじゃない。

()()()()()()が分かった。


黒塊が突っ込んでくる。

あえて、受ける。


——ボゴォン!!!

鉄塊みたいな拳。

背骨と肋骨が砕ける音がした。

肺の空気が全部抜ける。

視界が白く揺れた。

だが。


「……あ?」

次の瞬間には、もう痛みが薄れている。

呼吸が戻る。折れた感覚が、消えていく。


観客席がざわついた。

「今、死んだだろ?」

「え?」

「立ってる……?」


黒塊はもう次を見ていた。

ガイズの位置。少女との距離。黒塊の重心。

全部が一本の線になる。

「……そこか」

自分の口から、勝手に声が漏れた。


次の瞬間。黒塊が跳ねる。

だが、自分はもうそこにいない。

一歩だけ、“先”にいた。


——ゴォォォォォン!!!!!

遅れて地面が裂ける。


「……は?」

観客の声が重なる。

黒塊が止まった。

初めて、“見失った”ように揺れる。


その瞬間、理解した。

(ああ)

(これ、“見えてる”んじゃない)

(……追われてる側だ)


理解した次の瞬間には、もう身体が動いていた。

黒塊の“背後”へ跳ぶ。

殴る、というより。

“置く”。

ただそこに拳を通すように。


——ドゴンッ!!

黒塊の背中に鈍い音が鳴る。空気が割れる。

動きが一瞬だけ止まった。

まるで、“予想外の入力”を受けたみたいに。


「グォォォォォ……!!」

地面全体が震えるような咆哮。

逃げも隠れもせず、黒塊の前に立つ。


観客席がざわつく。

「え、今の効いた?」

「いや殴っただけじゃね?」

「でも反応したぞ?」


ドクターが笑う。

「へぇ……」

「“理解して殴る”タイプか」


カナリヤードの視線が、ほんの僅かに動く。

(……今のは)

(偶然じゃない)


黒塊がゆっくりと起き上がる。

だが先ほどとは違う。

“見ている”。

明確に。黒塊は手腕楹咤の目を見る。


次の瞬間。黒塊が飛び込んできた。

さっきより速く見える。

だが——

自分には遅く見えた。


避ける。

だが、避けさせられている。

黒塊は最初から、その位置へ追い込むように動いていた。

(……読んでる)

違うな。

(作ってる)

自分の回避先を、黒塊が“決めている”。


なら。

“読ませればいい”。

一歩踏み込む。

わざと、癖のある踏み込み。

黒塊が反応する。即座に学習。軌道修正。

その瞬間。


「——そこ」

逆方向。


——ビリビリビリッ!!!

黒塊にエネルギーの電流が流れる。


「......まじかあああ」

「エネルギーそのものが具現化してやがる!」

「凡族の癖に強くねぇか...?」

観衆が騒いでいる。


(……これなら)

頭の奥で、何かが繋がる感覚。

天井を吹き飛ばしたあの一撃。

あれと同じだ。

今なら——あれを“作れる”。


指先に意識を集める。

形を決める。

銃。

ただのイメージ。

だが、何か確信があった。

エネルギーが一点に収束する。

周囲の空気が歪む。


(撃てる)

そう理解した瞬間。


「バンッ!」

音より先に、世界が裂けた。


——ドゴオオオオオオン!!!

電流で怯んでいた黒塊の身体が吹き飛ぶ。

地面が抉れ、観客席が一瞬静まる。


「……は?」

「今の何だ?」

「銃?いや能力じゃねぇだろ」


ドクターが目を細める。

「へぇ……」

「もう“再現”じゃなくて完全に“生成”してるねぇ」


カナリヤードの表情が、ほんの僅かに固まる。

(ほんとに.......)


黒塊が再び立ち上がる。

欠損したはずの部位が、ゆっくりと“埋まっていく”。

(……再生じゃない)

(“学習で形を変えてる”)


(......つまり、こいつの能力は戦闘時の学習か)


次の瞬間。黒塊が跳ねた。

今度は真正面ではない。

“死角を削るような動き”。


避ける。

いや、避けさせられる。

拳が空を切る。

その瞬間。

地面が裂けた。


「チッ……」

舌打ちが漏れる。

さっきより速い。

(来るたびに“最適化”してる)

黒塊の動きが変わる。

“攻撃を読む”から

“攻撃を作る”へ。


一撃。二撃。三撃。

自分の攻撃が、全部ズレる。

だが——

身体の中の“エネルギー(それ)”は、減っていない。


(……減らない)

(まだ、ある)

エネルギーが溢れている。

呼吸と同じだ。

吐いても戻る。

使っても満ちる。


——ビリビリビリッ!

「ッ……」

無意識に笑いが出る。

黒塊がさらに変化する。

今度は“攻撃を模倣”し始めた。

拳の軌道が、こちらに似ている。


(……真似か)

(なら)


一歩踏み込む。あえて見せる。

黒塊が即座に反応する。

同じ動き。その瞬間。

横から衝撃。


「グォォォッ!!」

巻き込み。

圧殺。

観客席がざわつく。

「学習してるぞあれ!?」

「いや戦い方変えてきてる!」


ドクターがワインを揺らす。

「いいねぇ……」

「たまらないよぉ、その戦い」


近くで戦闘を観察しているエルティーナは目を大きく見開き、驚く様子を隠し切れなかった。

「なんだ.......こいつは、、」

「天城、こいつ戦闘は初めて....だったな?」

「First Battle」


「うん、僕が見てる限りはねー」

「正直、僕も想定以上なんだよねぇ」

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