学習
『続いて第二戦!!!』
『本日の特別参加者ァァァァ!!!』
『エネルギー測定不能!!謎の凡族ゥゥゥゥゥ!!!!』
司会者のシャーク・スキンの叫びと同時に、ゲートが開いた。
観客席が爆発する。
「来たァァァ!!」
「当たり枠か!?」
「凡族ってやつかよ!!」
笑い声と拍手。
歓声というより、期待のノイズだった。
『フィールドゾーンの変化を開始します』
無機質なアナウンス。
その瞬間、地面が“沈む”。
砂が裂け、水のような空洞が広がっていく。
「うお、フィールド変化きたぞ」
「今回はガチっぽいな」
『今回の処刑対象は元軍人・無能力兵士、ガイズゥゥ!!』
『そしておまけのガキィィィ!!!』
観客が笑う。
「おまけって何だよw」
「それ先に死ぬやつじゃん」
「賭け成立しねぇだろこれ」
そう紹介されると同時に、フィールドに二人が立たされた。
一人は元軍人・ガイズ。
身体はボロボロで、立っているのが不思議なほどの様子だった。
もう一人は小柄な少女。
状況が理解できていないのか、視線だけが泳いでいる。
水のような空洞に目を向けると、何かが跳ねた。
サメのような影が一瞬だけ飛び出し、そのまま水面へ消えた。
歓声が上がる。
「やれえええええええ!」
「いえあああああああ!」
「ひぃ……」
少女はその場にしゃがみ込む。
そして地面が割れる。
そこから“それ”が現れた。
肉でも骨でもない。黒く塊になった異形。
(黒塊)
そう呼ぶことにする。
「さぁ、どう動くかい?」
ドクターの声。
その瞬間。
黒塊が動いた。
音が消えた。
いや——違う。
“音が遅れて届いた”。
視界が白く割れる。
ガイズが吹き飛ぶはずだった。
少女が叫ぶはずだった。
だが。何も起きていない。
地面だけが、深く抉れていた。
「……は?」
観客がざわつきながら前に寄る。
「今の当たった?」
「見えねぇぞ今の」
「外した?」
黒塊は止まらない。
次の標的を見ている。
“手腕楹咤”。
その瞬間、理解した。
(こいつ……)
(自分“だけ”見てる)
なるほどな。
そのとき、なぜか自分は笑っていた。
初撃は、恐らく視界を眩ませるためのもの。
なら——。
先に“次”へ行けばいい。
黒塊の動きが“見えた気がした”。
いや、違う。
見えたんじゃない。
次に起きる形が分かった。
黒塊が突っ込んでくる。
あえて、受ける。
——ボゴォン!!!
鉄塊みたいな拳。
背骨と肋骨が砕ける音がした。
肺の空気が全部抜ける。
視界が白く揺れた。
だが。
「……あ?」
次の瞬間には、もう痛みが薄れている。
呼吸が戻る。折れた感覚が、消えていく。
観客席がざわついた。
「今、死んだだろ?」
「え?」
「立ってる……?」
黒塊はもう次を見ていた。
ガイズの位置。少女との距離。黒塊の重心。
全部が一本の線になる。
「……そこか」
自分の口から、勝手に声が漏れた。
次の瞬間。黒塊が跳ねる。
だが、自分はもうそこにいない。
一歩だけ、“先”にいた。
——ゴォォォォォン!!!!!
遅れて地面が裂ける。
「……は?」
観客の声が重なる。
黒塊が止まった。
初めて、“見失った”ように揺れる。
その瞬間、理解した。
(ああ)
(これ、“見えてる”んじゃない)
(……追われてる側だ)
理解した次の瞬間には、もう身体が動いていた。
黒塊の“背後”へ跳ぶ。
殴る、というより。
“置く”。
ただそこに拳を通すように。
——ドゴンッ!!
黒塊の背中に鈍い音が鳴る。空気が割れる。
動きが一瞬だけ止まった。
まるで、“予想外の入力”を受けたみたいに。
「グォォォォォ……!!」
地面全体が震えるような咆哮。
逃げも隠れもせず、黒塊の前に立つ。
観客席がざわつく。
「え、今の効いた?」
「いや殴っただけじゃね?」
「でも反応したぞ?」
ドクターが笑う。
「へぇ……」
「“理解して殴る”タイプか」
カナリヤードの視線が、ほんの僅かに動く。
(……今のは)
(偶然じゃない)
黒塊がゆっくりと起き上がる。
だが先ほどとは違う。
“見ている”。
明確に。黒塊は手腕楹咤の目を見る。
次の瞬間。黒塊が飛び込んできた。
さっきより速く見える。
だが——
自分には遅く見えた。
避ける。
だが、避けさせられている。
黒塊は最初から、その位置へ追い込むように動いていた。
(……読んでる)
違うな。
(作ってる)
自分の回避先を、黒塊が“決めている”。
なら。
“読ませればいい”。
一歩踏み込む。
わざと、癖のある踏み込み。
黒塊が反応する。即座に学習。軌道修正。
その瞬間。
「——そこ」
逆方向。
——ビリビリビリッ!!!
黒塊にエネルギーの電流が流れる。
「......まじかあああ」
「エネルギーそのものが具現化してやがる!」
「凡族の癖に強くねぇか...?」
観衆が騒いでいる。
(……これなら)
頭の奥で、何かが繋がる感覚。
天井を吹き飛ばしたあの一撃。
あれと同じだ。
今なら——あれを“作れる”。
指先に意識を集める。
形を決める。
銃。
ただのイメージ。
だが、何か確信があった。
エネルギーが一点に収束する。
周囲の空気が歪む。
(撃てる)
そう理解した瞬間。
「バンッ!」
音より先に、世界が裂けた。
——ドゴオオオオオオン!!!
電流で怯んでいた黒塊の身体が吹き飛ぶ。
地面が抉れ、観客席が一瞬静まる。
「……は?」
「今の何だ?」
「銃?いや能力じゃねぇだろ」
ドクターが目を細める。
「へぇ……」
「もう“再現”じゃなくて完全に“生成”してるねぇ」
カナリヤードの表情が、ほんの僅かに固まる。
(ほんとに.......)
黒塊が再び立ち上がる。
欠損したはずの部位が、ゆっくりと“埋まっていく”。
(……再生じゃない)
(“学習で形を変えてる”)
(......つまり、こいつの能力は戦闘時の学習か)
次の瞬間。黒塊が跳ねた。
今度は真正面ではない。
“死角を削るような動き”。
避ける。
いや、避けさせられる。
拳が空を切る。
その瞬間。
地面が裂けた。
「チッ……」
舌打ちが漏れる。
さっきより速い。
(来るたびに“最適化”してる)
黒塊の動きが変わる。
“攻撃を読む”から
“攻撃を作る”へ。
一撃。二撃。三撃。
自分の攻撃が、全部ズレる。
だが——
身体の中の“エネルギー”は、減っていない。
(……減らない)
(まだ、ある)
エネルギーが溢れている。
呼吸と同じだ。
吐いても戻る。
使っても満ちる。
——ビリビリビリッ!
「ッ……」
無意識に笑いが出る。
黒塊がさらに変化する。
今度は“攻撃を模倣”し始めた。
拳の軌道が、こちらに似ている。
(……真似か)
(なら)
一歩踏み込む。あえて見せる。
黒塊が即座に反応する。
同じ動き。その瞬間。
横から衝撃。
「グォォォッ!!」
巻き込み。
圧殺。
観客席がざわつく。
「学習してるぞあれ!?」
「いや戦い方変えてきてる!」
ドクターがワインを揺らす。
「いいねぇ……」
「たまらないよぉ、その戦い」
近くで戦闘を観察しているエルティーナは目を大きく見開き、驚く様子を隠し切れなかった。
「なんだ.......こいつは、、」
「天城、こいつ戦闘は初めて....だったな?」
「First Battle」
「うん、僕が見てる限りはねー」
「正直、僕も想定以上なんだよねぇ」




