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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 2:能技劇場
16/19

狂宴

手腕楹咤とカナリヤード・ロックルは、スタジアムの外で話し合っていた。

能技劇場(カーニバル)は、週に1回開催されます」

「今回の参加者は3名。あなたと同じ凡族が他に1名。そして...紫忍者(にんじゃ)


「自分と同じ日本人が出るのか」

「そうです。といってもただの処刑対象ですが」

軽く言い放った。


「あなたの出番は30分後です。ご用心を」

「..........逃げるのは」

「不可能です」


「......ですが、一つ私からエゴ...お願いがあります」

「.....あぁ」

カナリヤードは数秒黙った。

能技劇場から聞こえる歓声。

爆音。笑い声。

その全部を聞きながら、静かに言う。


「……なぜかわかりませんが、あなたが壊れていくのが見ていられません」


能技劇場から歓声が響く。

誰かが笑っている。

誰かが金を投げている。

カナリヤードは、その音を嫌うみたいに目を伏せた。

「…………」


「.......あんたらがそうさせたんだけどな」

「そうですね......でも」

ほんの少しだけ。

視線が揺れる。

「あなたまで、そちら側に行くのは……」

言葉が止まる。


「あなたは死なないから......」

初めて、口調が緩くなった。


「……いえ、忘れてください」

「あなたは兵器、私もただの道具に過ぎません」

その表情は、何かを躊躇っているように見えた。



* * * * * *



『さぁさぁさぁさぁ!!』

『始まりましたァァァァァ!!!!』

爆音に炎。巨大モニター。

観客席から降る紙吹雪。


『今週の能技劇場(カーニバル)ォォォォォ!!!!!!』


うおおおおおおおおおお!!!!!!

地鳴りみたいな歓声。


『司会は毎度おなじみ!!』

『サメと蒸気機関車の煙突が合体しちまったこのオレ!!』


『シャァァァク・スキィィィンがお送りするゼェェェ!!!!』

「シャーク!」

「シャーク!」

「シャーク!」


シャーク・スキン。この娯楽の司会者兼サメの能力者。

観客が叫ぶ。

酒瓶を振る者。

能力で火花を出す者。

金を賭ける者。

まるで処刑場とは思えず、サッカー中継のようだった。

——いや。違う。

サッカーのほうが、まだ人間らしい。



* * * * * *



会場中央。

一般観客席より遥か高い位置に作られた、ガラス張りの特別観覧席。

そこでは、ドクターこと天城莱壽が一足先に座り、足を組みながらワインを揺らしていた。

眼下では、民衆が狂ったように叫んでいる。


「直接会うのは久しぶりだね〜、バック」

その横に立つのは、キドナク帝国表向きの首相であるオブバース・バックリアー。

「そうですね、ドクター」

「前回の能技劇場(カーニバル)は多忙で観覧できませんでしたから」


バックリアーは静かに闘技場を見下ろす。

「今回は、皇帝候補の御三方もご覧になるようですよ」

「えぇ〜……マジか」

天城が露骨に嫌そうな顔をした。


百連撃(ひゃくれんげき)のワン」

模範紙(コピー)のミメーシス」

「そして——皇剣(エンペラーソード)の娘、エルティーナ」


「誰が皇位を取るんだろうねぇ」


「私に決まっているだろう、天城」

後方から声。振り向く。

白い軍服。長い金髪。

腕の金輪を鳴らしながら、エルティーナ・イーヴン・アルティメットが姿を現した。

周囲の護衛が一斉に頭を下げる。


「エルティーナ嬢」

バックリアーが静かに礼をする。


「ワンとミメーシスはどうしたの〜?」

天城が椅子に座ったまま問いかける。


「ワンは興味がないそうだ」

「“雑魚の殺し合いを見る暇があるなら鍛錬する”だと」

「Training」


「っはは、あいつらしい〜」

鼻で笑う。


「ミメーシスは別室」

「どうせまた紙人形でも置いて遊んでいるんだろう」

そう言いながら、エルティーナは闘技場を見下ろした。


「結局他2人はいないのか、いない方がありがたいけどぉー」

不満なのか嬉しいのかわからない表情を浮かべる天城。


「……それで?」

「例の凡族は」


「まだ控室ですよ」

バックリアーが答える。

「エネルギーが枯渇しないとかいう、変な子」


「変な子、ねぇー」

天城が笑う。


「でも本当に面白いんだよ?」

「壊しても壊しても、底が見えない」


「まるで——」

その瞬間。闘技場全体が揺れるほどの歓声。

『本日の第一戦!!!』

『帝国最速の能力者ァァァ!“紫忍者にんじゃ”ァァァァァ!!!!』


観客席が熱狂する。

エルティーナは、その歓声を聞きながら静かに呟いた。


「……凡族ごときが」

「本当に“あのパンドラ”に届くと思うか?」


「..........どうだろうね、パンドラ(あいつ)は正真正銘の化け物だ」

特別観覧席の3人は未知のエネルギーを持つ凡族に、密かに期待をしていた。



* * * * * *



手腕楹咤は控室を飛び出し、カナリヤードへ「最初の試合を見ておきたい」と頼み込み、観覧席最上段まで来ていた。

人混み。酒の臭い。歓声。

目立たないためでもある。


「紫忍者……」


紫忍者(にんじゃ)こと、紫琶葡萄(しきべ ぶどう)

「彼女は名の通り忍者のような動きと振る舞いで人気があります」

「それ故、能力者最速と名高いです」


「人気で最速、ねぇ……」


「にしても、自ら能技劇場(カーニバル)に参加するとは......」

カナリヤードが目を細くして会場を見る。

「ハズレの可能性が高い宝くじを自ら大量に購入するようなものです」

なるほど。宝くじに例えるのは言い得て妙だな。

にしても処刑対象を見世物にして、人気だの賭けだの。吐き気がする。


『さぁ紫忍者ァ!!』

『今日も魅せてくれるのカァ!?!?』

歓声。その瞬間。

「魅せてくれると思うよ〜?」

すぐ隣から声。

「ッ!?」

振り向くと、白髪に黒い瞳。

ジュースを持ちながら、白透看枸(はくとう みるく)が座っていた。


「……お前、何のつもりだ」


「えー?」

「だってえいくんいたし〜」

まるで友達に会ったみたいなテンションで笑う。

「それに」

「久しぶりに“人が壊れる瞬間”見れるし」


「…………は?」

寒気がした。

こいつと話していると、自分まで壊れていく気がする。


「……悪い、戻る」

手を軽く振り、みるくがいた場所を後にする。


手腕楹咤の背中が人混みに消えた。

数秒の沈黙。

歓声だけが響いていた。


「……あの凡族に随分執着していますね」

カナリヤードが先に口を開く。

みるくはジュースを揺らしながら笑う。

「リヤちゃんもじゃない?」


「私はただの監視です」

「あなたとは違う」

「ふーん」

みるくはストローを噛む。

「でもさぁ」

「昔から変わんないね」


「……あなたとは初対面のはずですが」

無視して話を続ける。

「“居場所ない人”見ると放っとけないとこ」


その瞬間。

カナリヤードの視線が鋭くなる。

「……あなた」

「どこまで知っているんですか」


「え〜?」

「いっぱい?」

笑う。

その目だけ、まったく笑っていなかった。


「リヤちゃんさ」

「また壊れるよ?」

「…………」

カナリヤードは下を向く。

「今度は、自分で」


『さぁァァァ!!』

『第一戦、開始まであと五分ゥゥゥ!!!』


みるくが言い終わるのと同時に、会場が揺れる。

カナリヤードは無言で立ち上がった。

「……業務に戻ります」


「あ、逃げた」

みるくが笑う。


遠く。闘技場のゲートがゆっくり開き始めていた。

『第一戦ッ!!』

紫忍者にんじゃ VS 処刑対象・ヒグマァァァァ!!!×5』


ゲートが開く。

現れたのは、3メートル近いヒグマが5体。

観客席が沸く。


「殺せー!!」

「ぶっ潰せ紫忍者ァ!!」


対する紫忍者(にんじゃ)——紫琶葡萄(しきべ ぶどう)は、

比較的小柄な少女だった。


紫色の装束。布のようなものを見受けられる。

よくアニメで見た巻物を持っている。

そして、異様に細い脚。


「……あれが」


次の瞬間。

——消えた。


「……は?」


遅れて、

ズバンッ!!!!

という斬撃音。どこからか刃物があったのか。

ヒグマの腕が宙を舞った。


観客が絶叫する。

『速ェェェェェ!!!!』

『見えねェェェ!!!』


紫忍者は、

いつの間にか獣の背後に立っていた。


「任務完了です」


ドゴォッ!!!

5体の首が一斉に飛ぶ。

血。歓声。紙吹雪。

巨大モニターには、

スロー映像まで流れている。


『美しいィィィ!!!』

『今週も最速ゥゥゥ!!!』

『ぶどうちゃんに殺されたィィィ』

まるでスポーツのハイライトみたいだった。


「……なんだよ、これ」

理解できない。

殺し合いなのに、誰も止めない。

むしろ、笑っている。


『続いて第二戦!!!』

『本日の特別参加者ァァァァ!!!』


『エネルギー測定不能!!』

『謎の凡族ゥゥゥゥゥ!!!!』


歓声。ブーイング。笑い声。

『凡族ゥゥゥ!!』

『死ねェ!!』

『何秒持つか賭けるぞ!!』


手腕楹咤は、ゆっくりゲート前へ立った。

重い鉄扉。

向こう側から聞こえる歓声。

白い火花が、指先から漏れる。


自分は不死身だから死ねない。でもどうせ逃げたら捕まる。

——だからといって、こんな見世物で人を殺したいわけじゃない。

「……最悪だ」


背後。カナリヤードが静かに言う。

「——時間です」

ゲートが開き始めた。

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