歓声
「なんでお前ここに——」
疑問が止まらない。
「えいくんこそ!」
「何その手錠とお腹のナイフ、ウケる」
みるくがケラケラ笑う。
「ていうか、なんか変わったね」
「前よりいけめんになってるし、髪が少し白くなってる」
髪の白い部分を触ってくる。
「..........ぇ?」
状況が飲み込めない。なんでここにこいつがいる。
それにあの発言がフラッシュバックする。
『ここ数日はあんま外出ない方がいいよ』
「え、あ」
「あれー?えいくん?」
みるくが顔を覗き込んでくる。彼女の目がとても綺麗に映る。
「わ、い拉致、られた......」
「うん。そうだね、知ってるよ〜」
「.......は?」
空気が止まる。
静観していたカナリヤードの目が細くなる。
「あなた」
「やはり、何か知っていますね」
「それに、テンが言っていた白髪少女の拘束......」
「怪しいです」
警戒を強めるように言った。
「え〜?なんのことかな?」
みるくはジュースを飲みながら、わざとらしく首を傾げた。
「その方から離れてください」
「やだ」
即答する。
「私、えいくんとお話したいし〜」
「拘束対象の白髪少女が勝手な行動を——」
「リヤちゃんってさ」
「昔から真面目すぎるよね。だから居場所なくなるんじゃない?」
「........ッ」
その瞬間。カナリヤードの表情がほんの少しだけ揺れた。
「.......みるく、勝手なことを言うのはやめろ」
カナリヤードの過去を知ってしまった自分は、なぜか否定してしまった。
「え〜?えいくんメイドさんの肩もつの?」
「……別に」
視線を逸らす。
「でも、お前」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「メイドさんのこと?」
みるくはストローを咥えたまま、ニヤッと笑う。
「だって、見てたし」
「…………」
空気が止まる。
カナリヤードの瞳がわずかに揺れる。
だが、みるくは気にせず続けた。
「橋から飛び降りたのも」
「死ねなかったのも」
「ミナちゃんのことも」
「全部」
「——黙ってください」
低い声。
今までで一番感情が乗っている。
周囲の空気がビリつく。白い火花。
だが今度は手腕楹咤のものではない。
カナリヤードの指先からだった。
「あ、怒ったね」
みるくが楽しそうに笑う。
「やっぱりリヤちゃんって、“まだ人間”なんだね」
「…………ッ」
手腕楹咤は初めて理解した。
この白髪女。人の心を抉ることに、一切の躊躇がない。
中学の同級生で唯一会話ができた、あのみるくではない。
人格が変わっているのか、なんにせよ別の人間のように感じた。
「ねえ、今日のカーニバル楽しみだね〜」
「……は?」
「えいくん、今日3人殺すの?」
「…………」
「それとも殺される側?」
屋台の笑い声。
遠くの歓声。
巨大モニターのカウントダウン。
全部が急に気持ち悪く見える。
「この国……ほんと狂ってるな」
今どういう表情をしているのかわからない。
「今さら?」
みるくは笑う。
「でもえいくんの」
「そういう顔、結構好きかも」
そう言うと、白透看枸は頬をつついた。
「…………触んな」
「あはは」
その時。
——ブォォォォン!!
街全体に重低音が響いた。
巨大モニターが切り替わる。
『能技劇場、開催まであと30分!!』
歓声が爆発する。
酒を掲げる者。
札束を振る者。
能力を空へ撃ち上げる者。
まるで祭りだった。
「さ、そろそろ行こっか」
みるくが軽く手を振る。
「……お前も行くのか」
「当たり前じゃん」
「ちゃんと指定席だよ」
「今日はえいくんの“初舞台”だもん」
その言葉に、背筋が冷える。
カナリヤードが静かに前へ出た。
「……白透看枸」
「これ以上接触するなら、拘束します」
「えぇ、こわ〜」
みるくは笑う。
でも。その黒い瞳だけは、一瞬も笑っていなかった。
「じゃあね、えいくん」
その瞬間。
——視界から消えた。
「……ッ!?」
次の瞬間には、もう人混みのどこにもいない。
手腕楹咤は息を呑む。
「……なんだ、あいつ」
カナリヤードも無言だった。
ただ。珍しく、その目にだけ警戒が浮かんでいた。
そして。巨大な闘技場のゲートが、ゆっくり開き始める。
その奥から聞こえる歓声は、
まるで人間のものとは思えなかった。
「——さぁ!!」
『能技劇場!!開幕ダァァァ!!!』
歓声が爆発する。
手腕楹咤は、自分が“処刑場”へ向かっていることを理解した。




