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拉致問題  作者: ゆるうる
Case 2:能技劇場
15/23

歓声

「なんでお前ここに——」

疑問が止まらない。


「えいくんこそ!」

「何その手錠とお腹のナイフ、ウケる」

みるくがケラケラ笑う。


「ていうか、なんか変わったね」

「前よりいけめんになってるし、髪が少し白くなってる」

髪の白い部分を触ってくる。


「..........ぇ?」

状況が飲み込めない。なんでここにこいつがいる。

それにあの発言がフラッシュバックする。

『ここ数日はあんま外出ない方がいいよ』


「え、あ」

「あれー?えいくん?」

みるくが顔を覗き込んでくる。彼女の目がとても綺麗に映る。


「わ、い拉致、られた......」

「うん。そうだね、知ってるよ〜」


「.......は?」

空気が止まる。

静観していたカナリヤードの目が細くなる。

「あなた」

「やはり、何か知っていますね」


「それに、テンが言っていた白髪少女の拘束......」

「怪しいです」

警戒を強めるように言った。


「え〜?なんのことかな?」

みるくはジュースを飲みながら、わざとらしく首を傾げた。


「その方から離れてください」

「やだ」

即答する。

「私、えいくんとお話したいし〜」

「拘束対象の白髪少女が勝手な行動を——」


「リヤちゃんってさ」

「昔から真面目すぎるよね。だから居場所なくなるんじゃない?」


「........ッ」

その瞬間。カナリヤードの表情がほんの少しだけ揺れた。


「.......みるく、勝手なことを言うのはやめろ」

カナリヤードの過去を知ってしまった自分は、なぜか否定してしまった。


「え〜?えいくんメイドさんの肩もつの?」

「……別に」

視線を逸らす。


「でも、お前」

「なんでそんなこと知ってるんだよ」


「メイドさんのこと?」

みるくはストローを咥えたまま、ニヤッと笑う。


「だって、見てたし」

「…………」

空気が止まる。

カナリヤードの瞳がわずかに揺れる。

だが、みるくは気にせず続けた。


「橋から飛び降りたのも」

「死ねなかったのも」

「ミナちゃんのことも」


「全部」


「——黙ってください」

低い声。

今までで一番感情が乗っている。

周囲の空気がビリつく。白い火花。

だが今度は手腕楹咤のものではない。

カナリヤードの指先からだった。


「あ、怒ったね」

みるくが楽しそうに笑う。

「やっぱりリヤちゃんって、“まだ人間”なんだね」

「…………ッ」


手腕楹咤は初めて理解した。

この白髪女。人の心を抉ることに、一切の躊躇がない。

中学の同級生で唯一会話ができた、あのみるくではない。

人格が変わっているのか、なんにせよ別の人間のように感じた。


「ねえ、今日のカーニバル楽しみだね〜」

「……は?」


「えいくん、今日3人殺すの?」

「…………」


「それとも殺される側?」

屋台の笑い声。

遠くの歓声。

巨大モニターのカウントダウン。

全部が急に気持ち悪く見える。

「この国……ほんと狂ってるな」

今どういう表情をしているのかわからない。

「今さら?」

みるくは笑う。


「でもえいくんの」

「そういう顔、結構好きかも」

そう言うと、白透看枸は頬をつついた。


「…………触んな」

「あはは」


その時。

——ブォォォォン!!


街全体に重低音が響いた。

巨大モニターが切り替わる。

能技劇場カーニバル、開催まであと30分!!』


歓声が爆発する。

酒を掲げる者。

札束を振る者。

能力を空へ撃ち上げる者。

まるで祭りだった。


「さ、そろそろ行こっか」

みるくが軽く手を振る。

「……お前も行くのか」


「当たり前じゃん」

「ちゃんと指定席だよ」


「今日はえいくんの“初舞台”だもん」


その言葉に、背筋が冷える。

カナリヤードが静かに前へ出た。

「……白透看枸(はくとう みるく)

「これ以上接触するなら、拘束します」


「えぇ、こわ〜」

みるくは笑う。

でも。その黒い瞳だけは、一瞬も笑っていなかった。


「じゃあね、えいくん」

その瞬間。

——視界から消えた。


「……ッ!?」

次の瞬間には、もう人混みのどこにもいない。

手腕楹咤は息を呑む。

「……なんだ、あいつ」


カナリヤードも無言だった。

ただ。珍しく、その目にだけ警戒が浮かんでいた。

そして。巨大な闘技場のゲートが、ゆっくり開き始める。

その奥から聞こえる歓声は、

まるで人間のものとは思えなかった。


「——さぁ!!」

能技劇場カーニバル!!開幕ダァァァ!!!』

歓声が爆発する。

手腕楹咤は、自分が“処刑場”へ向かっていることを理解した。

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