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12.ありふれた「礫」と「自死」と「魂魄」

全員が姿勢を低くし、手近の掩体へ滑り込む。幸い周囲は灌木の茂みと岩場。ボクの身長くらいある岩がゴロゴロして身を隠すには最適だった。かすかな風切音からして西方向からの攻撃だと察せられる。素晴らしいのはミカンさんの行動だった。自衛隊員より遅れはしたけどしっかりとしゃがみ込み、腕のシールドを展開する。そして狙撃で突き倒された柾木2等陸曹の横まで膝を突いて進む。その身体をシールドの中へ入れた。そこへボクが加わりさらに旗島陸曹長も加わる。柾木2等陸曹は真っ青になりながらも意識を失わずに耐えていた。よかった。即死してない。さすが特殊作戦群。目だけで合図してボクと旗島陸曹長が柾木2等陸曹を引摺り、手近な岩の陰に引っ張り込んだ。その間、ミカンさんはずっと付き添い、シールドをかざし続けてくれてた。1度だけバチッとシールドが火花を散らす。前方で自衛隊さんが身を寄せた岩に着弾した敵弾が、跳弾となってミカンさんのかざすシールドに当たったのだ。ミカンさんが眉をしかめていた。コボルドの弓とは比べ物にならない威力。敵弾を反跳させることで消費される魔力量も数倍必要になる。急激に魔力を消費すると目眩やときに鋭い頭痛が生じてきつい。


「ミカンさん。もう少しだけ耐えてください」


「はい。‥‥大丈夫です」


大丈夫じゃなさそうだったけど頑張ってもらうしかない。旗島陸曹長が柾木2等陸曹の胴鎧のストラップを外した。上体をやや持ちあげて胴鎧を外す。血でどす黒く濡れたコンバットシャツを捲りあげる。見事に鍛え抜かれた6パックの腹筋の下から2つ目。左側にコインほどの穴が開いていた。どくどくと出血している。動脈が逝ったのかもしれない。胴鎧と鋼の腹筋で威力を削がれ、貫通まではしていない。貫通していたら射出口は拳がすっぽり入るほどに拡がってただろう。即死したかもしれない。けれど貫通してないならそれはそれで厄介だ。


「弓じゃない。狙撃銃みたいだ。なにをどうやって撃ってるんだ?」


和楽2等陸曹の声。確かに銃撃を受けているような感じだ。柾木2等陸曹を岩陰に引き込むとき垣間見た状況だと、ボクたちが身を隠している岩のひとつ下に横長の大岩が横倒しになっている。その陰に右から日向1等陸曹。続いて和楽2等陸曹。さらにシオン。そして左端に花斗1等陸曹が膝を突いていた。長岩から右に1m離れた小ぶりな岩陰に姫宮2等陸曹が身を潜めている。敵を視認しようと岩陰から顔を出すと、次の瞬間敵弾が飛んできて岩を砕く。


「B班。応答しろ。B班。‥‥だめです。B斑からの応答がありません」


花斗1等陸曹の声。ボクたちの周囲に散って警護してくれているはずのB班が応答せず敵襲を受けているということは、おそらくB班は無力化されたということだろう。旗島陸曹長の眉根が険しくなる。


「各員。状況クリムゾン。状況クリムゾン。R.O.E.解除。ただしまだ状況が不透明だ。積極攻勢には出るな」


クリムゾンな状況ってなんなのか。気にはなったけどいまは柾木2等陸曹の状態のほうが優先だから流した。せっかくボクが流したのにシオンが呑気に和楽2等陸曹に質問してた。


「状況クリムゾンってなに?」


「無条件交戦状態。自分たちの安全を確保しつつ条件なしでの反撃が許可され、脅威を徹底的に排除する。ということ」


のほほんとした会話を片耳で聞きつつ、ボクは旗島陸曹長に告げた。


「貫通してません。切開して取り出します。戦術的戦傷救護は慣れてるので」


この世界の前の世界での話だけどね。銃弾だか鏃《やじり》だかわからないけど体内に残したままポーションを使うと、修復された肉が異物を巻き込んでしまう。異物が鉛製だったりしたら深刻な鉛中毒を引き起こすため、後々大掛かりな外科手術が必要になったりする。ボクは時間を無駄にせず、Eグレードのポーションを取り出すと自分の右手に半分かけた。消毒剤代わりだ。残りは柾木2等陸曹の傷口に流し込む。少しは麻酔効果があるはず。小さくて扱いやすいので魔剣のクナイを取り出し魔力を流した。青く光る刃を血を吹く丸い射創に当てる。筋肉の流れに沿って横に切った。射創を中心に左右10cmほど深く切開する。ドブっと血が溢れた。それでもポーションを流し込んでる分、出血量は少なくなってるはず。その血の海にボクは迷わず右手を突っ込んだ。柾木2等陸曹が顔をしかめ、歯を食いしばる。ギリッと鳴った。手首まですっぽり柾木2等陸曹の腹腔に沈む。指先にはっきりと異物の感触。柔らかな臓器の中に鋼鉄の硬度。間違えようもない。しっかりと保持し、手を抜き出した。大きく開いた腹の穴に本命のポーションを流し込む。こっちはより強力なDグレードポーション。強張っていた柾木2等陸曹の全身から力が抜ける。ボクは手の血を拭いながらミカンさんにお願いした。


「Dグレードポーションを使いました。10分で傷は癒えるはずですけど、失った体液は戻りません。これ以上出血しないように圧迫止血をお願いできますか。傷に当てた布を押さえててください。お願いします。ミカンさんはFグレードポーションを飲んでください。魔力回復効果がありますから」


ミカンさんがうなずき、ボクの圧迫を交代してくれた。ボクは柾木2等陸曹の腹から取り出した金属塊を旗島陸曹長に渡した。


「なんでしょうこれ?」


大サイズのビー玉くらいの金属塊。楕円体の両端を円錐状に尖らせたような物体だった。旗島陸曹長はそれを知っていた。


「敵の武器は『投石紐』。古代の武器だ。金属礫(つぶて)を投射してくるぞ。鉛の弾丸と思え。矢と変わらない速度で矢よりも破壊力が強力だ」


聞いたことがある。投石紐は、片手で握れる程度の石を遠くへ投げるための紐状の道具だ。紀元前の遺跡から発掘されたりもする。古くから羊飼が羊の群を誘導したり害獣を追い払ったりするのに使っていたようだ。1本の長い細布をふたつ折りにしてそこに石を挟む。端をまとめて持ってブンブン回転させひとつだけ端を離すと、挟まれた石が遠心力で飛んでいく。石の受け革をつけたり布を革紐にしたりと工夫や改良はされてるだろうけど、シンプルな原理は石と布だけ。安価に作れて弓矢と同等の射程と威力を持つことから中世には武器としても使われた。


「投石紐ですか。それってダビデが使ってゴリアテを倒したっていう武器ですよね。あのミケランジェロのオチンチンまるっと出してる彫刻のダビデが背中に垂らしているとか」


石の代わりに両端が尖った鉛の塊を投射することで貫通力や殺傷力を強めてる。相当の熟練が必要なんだろうけど、威力は柾木2等陸曹の怪我の度合いを見れば知れる。この状況だとこちらサイドで反撃できるのは弓のふたりだけ。


「敵視認。1時。80m。2時。120m。11時。距離100m。岩陰」


日向1等陸曹の声。敵を発見したようだ。岩陰から棒つきの鏡を突き出して見ている。


「特殊弾頭使用します」


花斗1等陸曹が宣言した。けど、旗島陸曹長が制止した。


「待て。なにか気になる‥‥」


ボクもなにか引っかかってた。奇襲して隊員1名を倒したけど、それ以降は遠距離攻撃を続けるだけ。どこか攻撃が散漫な気がする。


「正面の攻撃者に気を取られすぎてる。周辺警戒を怠るな」


旗島陸曹長が戒める。周辺警戒って言葉にボクも反応した。


「周囲の状況を知れる魔導具があります」


ボクは魔法のコンパクトを開く。3階層の宝箱から出た『生体感知器』だ。魔力を通して空中にホログラフ映像を展開する。


「なんと。立体映像が出るのか‥‥」


旗島陸曹長が唸る。周囲半径200mほどの岩場の状況とそこに存在するすべての生体を表示する魔導具。


「現在の縮尺だと魔物は赤い点、人間は白い点として表示されます。中心がボクたち。白い点が9個、集合してますよね。周辺に魔物はいません。人間を表す白い点だけ」


ボクたちの集合の北、日向1等陸曹が視認した敵位置に点が6個ずつ。それ以外に東と西、3時と9時方向60mの距離に点が6個ずつ。さらに南側にも5時方向と7時方向、表示範囲の縁近くの150m位置に6個ずつの点集合が見えた。


「南側の2つの集合は鉱石採取の冒険者たちっていう可能性がありますけど、左右の2チームはジリジリ接近して来てます。これって敵の攻撃部隊じゃないですか」


「間違いないな。『投石紐』部隊で足止めして左右から白兵戦部隊で急襲する気だろう。おそらく南側の2チームも敵の待ち伏せ部隊と見て間違いないだろう。その近くに先行してたはずのB班員が応答しないことでわかる。目的は君たちだ。生け捕りにするつもりだろう。遠距離武器で目を引きつつ足止めし、白兵戦部隊で奇襲挟撃する。圧倒的武力で我々を消耗させ、民間人を避難させようとした先に生け捕り部隊が潜伏しているという3段構えだ。全員状況は聴こえたな」


隊員たちがサムズアップサインで応える。


「座して奇襲攻撃受けるほど気が長くないんで、こっちから動きます。どこの部隊か知りませんけど白兵戦部隊12人に対してこちらで戦えるのは自衛隊さんだけだと5名。ボクとシオンの機動力を生かさないと劣勢になります。時間がないので民間人がどうのとか、若くて可愛い女の子だからとかいう偏見は捨ててください。3時の敵はボクひとりで相手します。ひとりで対処できる戦術と武器があります。信用してください。9時の敵はシオンと日向さんと和楽さんで制圧してもらいます。そこが終わったらボクひとりで南側の待ち伏せ部隊ふたつを潰しますので、シオンたちは迂回しつつ『投石紐』部隊を潰す遊軍に。花斗さんと姫宮さんにはボクたちの移動をカバーするド派手な陽動をお願いします。旗島さんにはここの守りと指揮を」


旗島陸曹長はボクたちの参戦について一瞬だけ逡巡したけど、ボクの平然とした顔を見てすぐに受け入れてくれた。受け入れようが受け入れまいが独断専行しちゃうけどね。ボクを信用したというより、止めても聞かないだろうとの判断だな。実戦部隊の指揮官は決断に無駄がない。コボルド戦でボクたちの実力を見ていたしね。ボクは旗島陸曹長に魔導拳銃を渡した。


「旗島さんにはこれを渡しておきます。魔法で圧縮した空気を撃ち出す拳銃です。隊長さんでも10発は撃てると思います。握りの下から魔石を装填してください。構えて臍下の丹田からエネルギーが腕にあがって拳銃に流れ込むイメージをします。そしたら『撃つ』って念じるだけ。魔力が尽きたら低血糖みたいな状態になります。Fグレードポーションを飲むともう10発分の魔力チャージができるはず。これ小さな爆発が起きますから、目引きの陽動に使ってください」


「ダンジョンで銃だと。聞いたこともない」


「最初に目眩ましの閃光弾を打ちあげます。そのあと行動開始です。閃光弾を打ちあげたら5秒で炸裂します。下向いて目を閉じてください」


「わかった。陽動だな。花斗1等陸曹。特殊弾頭使用だ。ド派手に陽動してくれ」


「了解。準備できてます」


花斗1等陸曹が返事する。


「魔法の重ね掛けします。10秒ください」


左右から接近してくる敵挟撃部隊は、気配を消すため進みが遅かった。ありがたい。


「燦然たる軌条。太陽の雫。白陽の波動。闇を祓い標となりて導く。繋がりの力。握り包む暗黒の渦。点への回帰。特異への歪み。内破する崩壊。狂える重力の収斂。玉響《たまゆら》の凝縮の果てに。流れたゆとう空なる波動。駆け抜ける力。遙か高みへ。すさび荒れ、渦を成す大いなるうねり。吹き。灯り。弾けよ」


さっきから話しながらもずっと魔素練りを続けていた。魔力の半分を消費するくらいの特大魔力を込める。光魔法に圧縮魔法をかけて空間ごと圧縮したあと、その歪んだ空間に風魔法で空気を押し込む。ソフトボール大の光の塊が風魔法による笛音を撒き散らしながらヒュルヒュルと登っていった。


「5。4。3。2。1。たまやー」


シオンのお気楽カウントダウン。音につられて見あげる敵が多いことを祈る。まあ確かに打ち上げ花火に似てるわな。音もつけたから注目度抜群だろう。上空100m。空間圧縮が解けて光の爆発が起こった。込めた魔力が圧縮された空気の原子を透過する際、原子中の電子を高エネルギー軌道に押しあげる『励起状態』を作り出し、それが元に戻るとき光を放出する。それが狭い圧縮空間で短時間に何万回も起こることで、とんでもない光の爆発を生む。光の奔流そのものに音はない。下を向いて瞑った目の裏でさえ真っ白になった。直視したら数分間は目がキンキラになるはず。光が収まると同時に花斗1等陸曹が赤く塗られた鏃の弓を引き絞った。岩陰から身を乗り出し、ほぼ正面1時の方向の敵が潜む岩を狙って矢を放つ。岩と岩の隙間に矢が吸い込まれ、そこで直径3mはありそうな巨大な紅蓮の花を開かせた。おお。魔石爆発じゃん。特殊弾頭って、鏃に魔石を仕込んだ弾頭のことか。自衛隊の秘密兵器だな。なんて考えながら3時方向の岩陰へ走る。左手には魔剣クナイ。右手にはスタンガンを構えてる。カモシカのように岩場を駆け抜ける。ほとんど音もなく目的の岩へ近づいたとき、岩陰から敵のおじさんが顔を覗かせた。目があった瞬間、その顔のどまんなかにスタンガンの電光が直撃する。光のエフェクトが走り、おじさんは硬直して崩れ落ちた。


「オットケドェン‥‥?」


倒れたおじさんの陰にいた若めのお兄さんが全部いいきらないうちに次弾が胸に吸い込まれた。「なんだどうした?」ってニュアンスだろうか。岩陰に脚から飛び込んで奥の岩壁に地面と水平な体勢で接地する。痩せ我慢したけど脚がジーンと痺れた。膝の屈曲で跳ね飛び、奥に並んでたふたりにドロップキックをかます。腹筋の割れ目に綺麗に爪先が埋まる。ふたりが身体を『くの字』にして倒れていく。ボクは反動を上手に使って着地し、吹っ飛んだふたりにスタンガンを撃った。


「ケニョン!」


なんかよくわからないけど、放送禁止用語で罵られた気がする。右にいた頬に傷のある強面のおじさんがロングソードで斬りつけてきた。身体がくっつくくらいの近接戦闘だ。スタンガンは間に合わない。身体を捻って左手の籠手で受け、撥ねあげるように体を入れる。鳩尾《みぞおち》にスタンガンの銃口をくっつけ発射した。巨体に覆い被さられる前に自分を突き放して1歩さがり、最後のひとり、キツネ目のお兄さんが振りおろしてきた剣を根元から斬り飛ばした。キツネ目のお兄さんは頬に傷があるおじさんを踏みつけてたせいでバランスを崩す。その後頭部にスタンガンを撃ち込んだ。6人を倒すのに8秒で済んだ。スタンガンがあるから速かったな。それから短く切ったロープで6人を後ろ手に縛り、とりあえず放置。待ち伏せ部隊の方角にやや回り込んで進む。背後では派手な爆発音。かすかに剣戟の音も聞こえた。待ち伏せ部隊はまさか自分たちが奇襲を受けると思ってなかったのだろうな。襲撃に怯えて逃げ惑う女の娘数名を拉致するだけだから、と油断してたわけね。散開してカモフラージュシート代わりの毛布を被って伏せている。足音を忍ばせて近づき、ひとりずつスタンガンで昏倒させていくだけ。単純作業だ。12人全員を倒して縛りあげ旗島陸曹長たちのところへ戻ると、すでに戦闘は終了していた。旗島陸曹長は言霊のイヤホンを通して地上との連絡役からの報告を受けている。地上に出ていた連絡役がダンジョンに戻り、通信が回復したようだな。ボクは立ち尽くして遺骸を見つめていたシオンに並んだ。シオンの声も沈んでいた。戦闘で敵兵24人中18人が死亡し、捕縛された6名も襟につけていた薬物カプセルを噛み砕いて自死したらしい。自死。慌ててボクが昏倒させた敵兵のところへ戻ってみたら、全員が服毒死していた。


「なんで。たかがダンジョンで。なんでそこまで」


旗島陸曹長がボクの肩を叩いて慰めてくれた。


「B班の連絡係と通信できた。この連中は『北』の特殊部隊だったようだ。君たちのYouTubeが公開されて最初に動いた国らしい。地上で公安がマークしてた『監視対象者』‥‥潜伏工作員の容疑で監視されてた人物たち‥‥のほぼ全員がダンジョンに入った。その過程で公安のメンバーにも犠牲者が出てるらしい。独裁者の国だからね。行動を遅らせる官僚機構などない政治体制だ。だから真っ先に動けた。監視されてることも承知で、スマホすら使ってなかったようだ。だから君たちの協力ハッカーも撹乱できなかったと考えられる。あの国の工作員は、故国に残した家族を人質に取られてるからね。任務失敗で捕らえられたとき、もし命惜しさに生き永らえたら故国の家族が処刑されるとも聞く」


「そんな‥‥。許せない」


そこへ日向1等陸曹がやってきた。


「B班4名の遺体を発見しました。茂みの裏手の窪地に安置してます。現在C班と普通科のダンジョン特務隊が遺体処理のためにこちらへ向かっています。到着は20分後」


壊滅したB班の代替にC班が入るということか。


「あの。旗島陸曹長。今後、先行警戒や周辺警戒は中止してください。単独行動は危険が多すぎます。ボクたちは生体感知器も持ってます。エコーロケーションで待ち伏せや襲撃も事前に察知できます。先行偵察は必要ないです」


旗島陸曹長はしばらく考え込んだ。彼の権限を超える要請だったかもしれない。でもすぐに頷いてくれる。旗島陸曹長が地上と連絡を取りながらその場を離れた。ボクの要請を伝えたあと、亡くなったB班の4名が集められている場所へ向かうのだろう。ボクたちを護るために命を落とした人たち。同行は申し出なかった。旗島陸曹長がひとりになりたがっているような気がしたからだ。ボクはいったんモンスターハウスの入口のある灌木茂みに戻った。ミカンさんとシオン、自衛隊さんたちが待っていた。ボクは柾木2等陸曹のもとへおもむき傷口を見せてもらった。腕がすっぽり入った傷口は500円玉くらいの赤い斑点になっていてボクが切開した傷は目を凝らさなければ見えない線のレベルになっている。


「痛みや違和感は?」


「もう大丈夫だ。ありがとう。助かったよ」


「結構な出血をしましたから、そうとうな体液不足になってるはずです。急な動きは避けて、水分と滋養をしっかり摂ってください。ホントは休養したほうがいいんですけど」


「大丈夫だ。それほどヤワじゃない」


「その判断は旗島陸曹長に任せますね」


ポーションの効き目は自分でも体験してるし、少し休んで栄養と水分補給すれば大丈夫だろうと思う。柾木2等陸曹はミカンさんにもらったウエットティッシュで血に塗れた身体を拭き、和楽2等陸曹が差し出したTシャツに着替える。ボクは日向1等陸曹に亡くなったB班の方たちのご遺体に手を合わさせてもらいたい、と申し出てた。結局全員で行くこととなり、茂みの裏へぞろぞろと向かう。手を合わせてご冥福を祈る。隠し扉がある灌木茂みに戻ると旗島陸曹長が待っていた。


「救援隊が到着するまでここでキャンプを張ろう。ミナトさんたちもよろしいですか」


異論などなく同意。


「周辺警戒は日向1等陸曹と花斗1等陸曹。敵の予備兵力に注意しろ。ミナトさん。お預かりした銃をお返しします。凄い性能です。まさかダンジョンで銃が撃てるとは思いませんでした」


「モンスターハウスの存在を発表しちゃいましたから、今後色々なところで見つかると思います。ボクもシオンも銃を扱えますけどシオンは近接戦闘バカですし、ボクには魔法がありますし、ミカンさんは銃経験が皆無です。自衛隊さんに持っていてもらったほうが支援してもらえると思いますのでまだしばらく預けておきます」


「そうですか。ではありがたく。柾木2等陸曹の射撃成績は部隊内1番ですし、病みあがりでもありますから彼に持たせます。よろしいですか」


「お任せします。エネルギー源になる魔石も預けておきますね」


ミカンさんと和楽2等陸曹が数人の鍋を供出させお湯を沸かし始める。湧いたお湯を使って本格的なお茶を煎れてくれた。自衛隊さんの野戦糧食がボクたちの分まで提供され、食事の準備も始めてくれる。見ていると思い出したかのようにお腹が空いてきた。食事は分厚く大きなハムステーキ。副惣菜に筑前煮。そしてホクホクご飯。自衛隊さんの野戦食はほぼ例外なく加熱剤入りで、容器の底の紐を引いたら7〜8分待つだけ。高温蒸気が発生して容器内の料理をできたてみたいな熱々にしてくれる。自衛隊さんの胃袋に合わせたボリュームだったけど、ボクもシオンも問題なし。


「なんで人が‥‥人を傷つけなきゃいけないんでしょう‥‥」


ミカンさんは一度、理不尽な暴力で仲間を失いかけたトラウマがある。今度の人死でかなりショックを受けた様子だった。それでも食べないと足手まといになるという思いから、なんとか数口は口に運んでいた。けどそれ以上食べられない。


「人類の文明が始まって6000年。いまだ人類が見出していない答えですね。みんな戦争反対なのに戦争はなくならない。人を傷つけてはいけない殺してはいけないって法律でも教育でも教えてるのに、なくならない」


「ウチはシンプルに考えるな。まず、自分の利益や快楽のために人を害するようなことはしない。そして、自分の命や自分が大切に思う人の命が危なくて、手加減している余裕がないなら迷わない」


「ボクもシオンと同じ考え。それに加えて。争いを避けて平和的にやり過ごすため、理不尽な要求を受け入れて無条件で差し出したりはしない。簡単にいうと強盗には金品を差し出さない。それをすると結果的にその強盗が味をしめて次の犠牲者を生む」


「強盗を平和的に解決するために金品を差し出すことが‥‥次に犠牲者を出すことへの間接的な支援になってるってことですか?」


ボクもシオンもあえて答えない。極論だしね。


「じゃあ。どうすれば‥‥」


シオンがちらっとボクを見てから口を開く。


「強盗が強盗することのリスクに気がつけるよう、ポーションで治せるレベルで叩き直してあげるってことかなー。で。それを実践するためには圧倒的な力量差が必要でー。圧倒的な力量差をつけるためにはー、ダンジョンでの急速なレベルアップが必要」


ミカンさんが考え込んじゃった。彼女が食べ切れなかった分はボクとシオンで分け合って、肉も野菜もご飯も問題なく完食。食後のお茶が内臓に沁みる。ボクもシオンも不必要に人を傷つけたりはしない。けれど必要があり、他に方法がなければ人殺しを行える。そうこうしているうちに救援隊が到着し、遺体の回収や補充などが始まった。破損した柾木2等陸曹の胴鎧や戦闘服が新品と交換される。矢の補充や刃毀れした剣の交換が行われた。ボクから提案して今後ボクたちと自衛隊の混成パーティの水はボクの所持する無限水筒に一括することにした。リスクがないわけではなかったけど、水運搬スペースと重量を考えるとメリットは大きい。非常用の水筒1本を残して水のボトルは放棄し、代わりに弓部隊が使う魔石弾頭矢を全員で分担して運ぶことにする。これにより10本入りの矢筒をひとり3筒運べる。ボクたちもひと筒ずつ運ぶから、全体で210本。弓隊のふたりが最初から携行してる10本を合わせて230本の爆発弾頭を運べる。これでモンスターハウスの攻略が格段に楽になるはず。自衛隊のみなさんが遺体とともに去るまで1時間半かかった。ボクたちのせいとまではいえないと思うけど、起因となったことは間違いない。そのために犠牲になった人たち。敵も味方も含めて。その人たちが弔いの途につくまで、ここを離れるべきじゃないような気がした。ポッカリと空いた無為な時間。その間にひとつだけ確認したことがある。なんていうか、気が乗らななくて後回しにしていたことだ。自衛隊さんの隊長同士が離脱の挨拶している間に、ボクはこっそりステータスパネルを開いた。ひと目見て安堵する。経験値は増えていなかった。人を殺しても経験値にはならないということだ。このダンジョンの設計者はPKを推奨していない。ちょっと好感が持てたかもしれない。


そこからの道中はいままで以上に慎重に進んだ。モンスターハウスを発見しても周囲の状況を生体感知器で探ってから突入する。『北』の工作員に続いてボクたちを追跡してくる国や組織はいないだろう、という情報はあった。でも全面的に信用する気はない。7階層に降りるまでに発見したモンスターハウスは7つあった。


1つ目のモンスターハウスは、グレムリン群220匹部屋。映画に出てくるモコモコの毛むくじゃら3頭身キャラなら可愛げもあるだろう。けど、この階層のグレムリンは身長40cmほどと大きく、コウモリの顔とマダラヘビの皮膚をした手足の長い醜悪なモンスターだった。長い手足でバッタのように跳ね回り予想外の速度で襲ってくる。両手に痺れ毒針を持ち、何度も刺されると全身麻痺に陥る。とにかく数が多いので爆発鏃の使用解禁はありがたかった。階段踊り場で弓隊と魔法隊が協力して爆破しまくる。数匹レベルに数を減じてから剣隊が掃討した。経験値を66000獲得。宝箱は『聖水の瓶』だった。第6層に降りたパーティが宝箱を開けるとかなりな確率でこの瓶が出てくるらしい。これを1滴垂らすことでどんな毒性のあるものでも無毒化でき、武器に垂らせば7階層に出る不浄のモンスターであるゾンビやゴースト系モンスターを浄化殲滅できるという。自衛隊さんはすでに持っていたし7階層のモンスターについてもよく知ってた。


2つ目のモンスターハウスは、コボルト155匹の部屋だった。これも階段からの爆発鏃で群れを吹き飛ばし、火炎魔法で焼き払う。途中から姫宮2等陸曹が使った魔弓は魔力を込めると着弾時に爆発させることができるとわかり、戦いがさらに楽になった。焼け残った30匹足らずを肉弾戦で殲滅する。経験値は62000。宝箱は『シールド籠手』だった。ミカンさんが装備しているものと同じだ。弓隊防護でカバーに入ることの多い日向1等陸曹が装備することになった。


3つ目のモンスターハウスは、カッターコウモリ300匹の巣。ここでは全員が辟易《へきえき》させられる。床が沼地みたいに大量のコウモリ糞で埋め尽くされており、臭いで失神しかねなかった。3階層の吸血コウモリ部屋で手に入れた『浄化魔導器』かなかったら戦闘どころじゃなかったろう。贅沢に5ct魔石を挿入して作用範囲を極大まで広げる。300匹のコウモリはすべて天井から逆さにぶらさがっていて、黒い絨毯みたいになっていた。炎は上にあがるから最大効果が得られる。ドッカンドッカン燃やし尽くし吹っ飛ばし尽くした。黒焦げの死骸はすべて床の糞の海に落ちていく。誰ひとり魔石を回収に行こうといい出す者はいなかった。それどころか「今度コウモリ部屋を見つけてもパスしない?」と主にシオンが提案する。誰ひとり反対しなかった。でも経験値は美味しく90000も獲得。


4つ目のモンスターハウスは、コボルト132匹部屋。数も少なかったのでサクサク攻略。それでも弓矢はやっぱり厄介で3人が浅傷を負う。Eクレードポーションを惜しげもなく使った。自衛隊さんは「唾でもつけとけ」タイプの野人思考が蔓延してたけど、ボクは擦り傷から入る雑菌の方が魔物より手強いと思ってるのだ。経験値は52800を獲得。宝箱からは武器が出た。魔剣じゃないけど魔法のかかった武器だ。握ると敏捷ステータスが+5される『敏捷+5のロングソード』。剣そのものもかなり上物だった。


そこを攻略した時点で第6階層の中ほどに達していた。そこに野営にピッタリの洞窟があるということでキャンプを張ることにする。時刻は17時。前回の睡眠キャンプから20時間ほど経ってる。ガッツリ食事して自衛隊さんにもお風呂を使ってもらい、目が腐るくらい寝ることにした。対人戦闘まで経験してミカンさんがかなり疲弊してる。ここで活動再開まで12時間のロング休養を取ろうと決めた。この時点までで4つのモンスターハウスを掃討していて、自衛隊さんの爆発鏃の支援もありさくさく攻略できてる。なんと得た経験値の合計は270800ポイント。そこまでで得ていた184700ポイントを凌駕する経験値が一気に獲得できちゃってる。ボクたちは一気に17覚値も獲得できちゃった。レベル47からレベル64にジャンプアップだ。


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ミナト


【獲得経験値:184700→455500】

【ステータス覚値:17/47→64】


筋力:6→7   敏捷:9→12

知力:13→17 精緻:8→12

生命:5→6   感覚:6→10

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シオン


【獲得経験値:184700→455500】

【ステータス覚値:17/47→64】


筋力:8→10 敏捷:11→14

知力:7→9  精緻:10→14

生命:3→6  感覚:8 →11

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ミカン


【獲得経験値:184700→455220】

【ステータス覚値:17/47→64】


筋力:5→6   敏捷:9→13

知力:11→14 精緻:9→13

生命:5→6   感覚:8→12

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自衛隊さんたちはもともとレベルが高かったからボクたちほどじゃなかったけど、それでも5ポイントから6ポイントも獲得。ボクたちの戦い方やエコーロケーションの重要性を理解したようで、知力と感覚に振り分ける人が多かった。


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旗島 統吾


【獲得経験値:976840→1247640】

【ステータス覚値:5/80→85】


筋力:23    敏捷:19

知力: 7→10 精緻:14

生命:10    感覚: 7→9

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**************

日向 颯真


【獲得経験値:946840→1217640】

【ステータス覚値:5/79→84】


筋力:25   敏捷:17

知力: 4→7 精緻:16

生命:12   感覚: 5→7

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花斗 結那


【獲得経験値:958840→1229640】

【ステータス覚値:5/79→84】


筋力: 8→10 敏捷:20

知力:11→12 精緻:20

生命: 8    感覚:12→14

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姫宮 瑠香


【獲得経験値:873840→1144640】

【ステータス覚値:6/77→83】


筋力: 7→9  敏捷:19→20

知力:11→12 精緻:20

生命: 8    感覚:12→14

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柾木 理人


【獲得経験値:875340→1146140】

【ステータス覚値:6/77→83】


筋力:20    敏捷:16

知力: 9→11 精緻:12→14

生命:10    感覚:10→12

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和楽 利哉


【獲得経験値:872380→1143180】

【ステータス覚値:6/77→83】


筋力:16    敏捷:12

知力:11→13 精緻:10→12

生命:16    感覚:12→14

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簡易プールをふたつ用意して女湯男湯を作る。ダンジョンでお湯が使えるだけでも感激モノなのにお風呂に入れるなんて奇跡でしかないって感謝された。自衛隊さんたちが感謝の印に特別糧食を大盤振る舞いしてくれる。和牛ステーキ30人前。ボクとミカンさんがお返しに鶏鍋を作ったりして大いに盛りあがる。ビール飲みたいと全員がしみじみ思ったりしつつごろ寝タイム。夢も見ないでガッツリ7時間寝て、目が醒めたら花斗1等陸曹と和楽2等陸曹が朝食の雑炊を用意してくれてた。なにせ魔石も売るほどあるので結界魔導器も浄化魔導器もフル稼働させてる。魔物に襲われる心配はほぼないっていうのに、自衛隊さんはきっちり哨戒をこなしていた。自衛隊さんたちの凄いところは休養時間だというのにスクワットとかしてること。ストイックじゃなければ厳しい選抜を勝ち抜けないんだな。暇潰しのオシャベリも主にシオンとミカンさんが仕掛けてた。和楽2等陸曹のご実家が有名な赤坂料亭だということで今度招待してもらえることになったり、姫宮2等陸曹のお母さんが知る人ぞ知るあの有名歌手だったりといった話も聞けた。休養12時間。生まれ変わったかのようにリフレッシュして冒険行を再開したのはダンジョン内体感時間で朝の5時だった。


行軍を再開して最初に見つけたモンスターハウス、第6階層で5つ目の空洞にはなんと希少種のボルトスライムが132匹も蠢いていた。一撃で中心核を破壊しなければ人間が昏倒するほどの電撃を放出してくる厄介なモンスター。自衛隊さんには申し訳なかったけど爆発鏃を10本も消費してもらった。爆発でボルトスライムを細切れに粉砕する。ボクとシオンとミカンさんは風魔法でカマイタチを創り出し、スライスハム並みに切り刻む。遠距離攻撃で殺せないまでも放電を誘って無害化できるはず。それでも念のために直接叩かず、魔弓と魔導銃で内部から爆発させて討伐していく。安全圏からボルトスライムをスライスしながら、これ近接武器だけのパーティなら100%死ねるなと思った。1匹叩いているうちに横や後から放電されて丸焼きにされる。この戦闘動画をアップするときは遠距離武器がないパーティは逃げるが吉と警告を入れてもらおう。経験値は66000ゲット。宝箱には籠手が入っていた。白地に金糸の文様が入っている。なんだかわからない物は身につけて魔力を流す。という乱暴の極地なシオン流鑑定術で『雷球生成籠手』だとわかった。ピンポン玉ほどの球雷を撃ち出すことができ、当たると人間ひとりを包み込むほどの放電アークを迸らせる。遠距離攻撃にも使えるけど球雷の速度がやや遅い。接近戦で至近距離から撃ち出せば強力な武器になる。ということで突撃隊長シオンが右腕に着けることになった。


6つ目は、グレムリン268匹部屋。数は多かったけど無難に掃討して経験値80400を獲得。宝箱からは『睡眠魔法の実✕5個』が出た。地味なお宝だけど、後々使い出がありそうだ。


7つ目のモンスターハウスは、コボルト163匹部屋。経験値65200を獲得。宝箱からは魔法紋様が刻み込まれたブローチ状のアクセサリーが出てくる。その正体は自衛隊さんが知っていた。アメリカ軍のダンジョン攻略部隊が発見して実戦で使っているものだという。シオンが手にして上から下から眺めている。


「アメリカさんってノアのいるチームかな。んで、これなんですの?」


シオンの問いに旗島陸曹長が答える。


「たぶん『自動マルチ展開ミニシールド』って彼らが呼んでいるものだと思うよ」


「マルチ商法じゃないわなー。ミニシールドってなんぞや?」


「使ってみたほうが速いな。そのブローチを胸でもお腹でも押し当てて。吸着するはず」


ミカンさんの肩に乗ってる猫カメラと同じ原理かな。シオンが服の上から鎖骨の下に押し当てた。ぴったり貼りつく。手を離してもずれない。


「ミナトさん、シオンさんを殴ってみて。おふざけレベルの方がいいかな。拳を痛めるから」


公然と殴っていいといわれたら遠慮しないのがボクのいいところ。どりゃあっとシオンの顔にドストレートをぶち込んだ。ドゲシッ。シオンの顔前30cmくらいのところ。直径にして20cm程度の小さなシールド円盤が宙に浮き、ボクの拳を受け止めた。痛ってー。加減してたはずだけど、拳の皮が擦り剥ける。フェムトマシンが瞬時に修復した。いったん拳を引き、気合と腰を入れ直す。ボクシング世界チャンピオンレベルのジャブ20連発でシオンをぶん殴る。痛っててー。シールドに全部受け止められてしまった。


「すっごー。ウチなんにもしてないのに勝手に小さなシールドがパカパカ広がる」


「弓矢くらいなら止められるはず。斬撃も相手が達人じゃなければ止めるといってた。ただハンマーとか斧とかではシールドが破壊される場合があるらしい。これは前衛のシオンさんが着けるといい」


そういって旗島陸曹長は売りに出したら何億円になるかわからない財物をあっさりシオンに与えてくれた。歩き出してしばらくして小さな広場に出た。道にぶらさがるように小公園くらいの空き地が拡がってる。7階層への階段まであと400mほどか。階段前に大きな広場があるらしいけど、ちょっと特殊な7階層の魔物対策で準備キャンプを張っている別パーティがあるかもしれない。他の人がいるところでトイレとか嫌だし、ここで休憩と準備がてらポイントの振り分けをすることにした。ボクたちパーティは8ポイントアップ。全体的な能力の底あげを行った。自衛隊さんたちは3ポイントアップ。自衛隊さんたちは知力と感覚に振り分ける人が多い。ほとんどの人がエコーロケーションでかなり明確なビジョンを掴めるようになってきてる。


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ミナト


【獲得経験値:455500→667100】

【ステータス覚値:8/64→72】


筋力:7→8   敏捷:12→14

知力:17→18 精緻:12→14

生命:6→7   感覚:10→11

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シオン


【獲得経験値:455500→667100】

【ステータス覚値:8/64→72】


筋力:10→11 敏捷:14→16

知力: 9→10 精緻:14→16

生命: 6    感覚:11→13

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ミカン


【獲得経験値:455220→666820】

【ステータス覚値:8/64→72】


筋力: 6→ 7 敏捷:13→15

知力:14→15 精緻:13→15

生命: 6    感覚:12→14

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旗島 統吾


【獲得経験値:1247640→1459240】

【ステータス覚値:3/85→88】


筋力:23    敏捷:19

知力:10→11 精緻:14

生命:10    感覚: 9→11

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日向 颯真


【獲得経験値:1217640→1429240】

【ステータス覚値:3/84→87】


筋力:25   敏捷:17

知力: 7→8 精緻:16

生命:12   感覚: 7→9

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花斗 結那


【獲得経験値:1229640→1441240】

【ステータス覚値:3/84→87】


筋力:10  敏捷:20

知力:12  精緻:20

生命: 8  感覚:14→17

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姫宮 瑠香


【獲得経験値:1144640→1356240】

【ステータス覚値:3/83→86】


筋力: 9→10 敏捷:20

知力:12→14 精緻:20

生命: 8    感覚:14

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柾木 理人


【獲得経験値:1146140→1357740】

【ステータス覚値:3/83→86】


筋力:20    敏捷:16

知力:11→13 精緻:14

生命:10    感覚:12→13

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和楽 利哉


【獲得経験値:1143180→1354780】

【ステータス覚値:3/83→86】


筋力:16    敏捷:12→13

知力:13→14 精緻:12→13

生命:16    感覚:14

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第7階層は他の階層と違って、ネットでは『ご不浄階層』と呼ばれたりする。その理由はこの階層のメイン魔物が『ゾンビ』だからだ。腐乱しているので斬っても叩いても血飛沫《ちしぶき》の代わりに腐汁《ふじゅう》が飛ぶ。これがまた鼻が曲がりそうなほど臭いらしい。顔面をすっぽり覆う本格的ガスマスクやバイオハザードスーツ装備を勧める人もいた。でも視界や動きが制限されるのは致命的な感じがして気が乗らない。つくづく運がいいことにボクたちは『浄化魔導器』を手に入れていた。かなりなレアアイテムだ。思うに、この世界ではボクたちのステータスに隠しパラメーターとして『運』の項目があったりするんじゃないかな。ちなみにボクの運はといえば、バスを待てば絶対に向かい側のバスが先に来るし、目玉焼きを作ろうとして卵を割れば3個に2個は黄身が潰れるし、階段を駆けあがると目の前で電車のドアが閉まるし、列に並ぶとボクの前の人で売り切れになるし、バターを塗ったトーストを落とすと確率無視でバターを塗った面が下になって落ちる。ボクの運にはまるで期待できない。しかーし。ボクの運の値が1だとしたら、シオンの運の値は1000くらいあるんじゃないかな。おかげで宝箱から出る品の等級が、2レベルくらいあがっているような気がする。


ゾンビ以外には超怪力な『マミー』つまりミイラがいる。干乾び切っててくれたら干し草の臭いかなにかだろうけど、これもまた腐敗臭に薬品臭が入り混じった刺激臭らしい。臭い的にマシなのはレア魔物のゴーストとかウィスプ。臭いはマシなものの、壁をすり抜けて襲ってくるから厄介だという。ゴースト系は聖水を垂らした武器か魔剣でないと倒せないと聞いた。ボクたちは聖水も魔剣も持ってるし、もしかしたら魔法も効くんじゃないかなと思う。なので、攻略的にはなんとかなるだろうけど‥‥。やっぱり問題は臭気だな。コウモリ魔物の糞堆積物も臭気的に凄まじかったけど、それ以上という話も聞く。浄化魔導器はあれど、どっちかというとご遠慮したい気分。サクサク先へ進むのが吉な階層だろう。


ただし一般冒険者たちにとっては、ハイグレードポーションの材料になる生命石や聖光草や輝晶花が採取できる蓄財階層なのだそうだ。ボクが見た動画では、この階層に降りる冒険者は必需装備として鼻と口だけを覆うタイプの簡易ガスマスクを着けていた。自衛隊さんたちもちゃんと持っていて黙々と装備してる。剣や鏃に聖水を垂らし、対アンデッド用準備も怠らない。ボクたちはガスマスクを用意してなかったので浄化魔導器に新しく5ct魔石を装填した。水分補給と排泄を済ませる。それぞれ準備を整え、階段広場へ向けて出発した。あと200mほどか。ビルほどもある巨岩群の隙間を縫うように踏み分け道が続く。生体探知機を展開すると階段前広場に4人の人間反応があった。ボクの中に無意識の『知らない人緊張』が昂まる。


「どうしたよ。クチバさんよ。ゾンビごときでビビってんのか?」


若い男の声がした。思わずボクの足が止まる。生体探知機を使うため、列の先頭を歩いていたから後に続くみんなまで止まる。話の内容からしてボクたちを待ち伏せする敵対国家の尖兵でもなさそうだし、強盗や物取りの類でもなさそうだ。


「行かないと日が暮れちゃうわよ」


別の女の声。階段前広場で第7階層の準備をしてこれから降りようとしているパーティらしい。ひとりぐずっているようだけどちょっと待てば降りていくだろう。自衛隊さんを引き連れた若い美女パーティって結構目立つ存在だから、ここは動かずやり過ごすほうがいい。後を振り向くとシオンが呆れた顔をして見返してきたけど、ボクの屈折ぶりを知っているからなにもいわない。


「おっさん。行かないなら置いていくぞ」


「いや。行くのは私だけだ。君たちの役目はここで終わる」


渋い大人の声だった。でもなぜだろう。聞いたとたんうなじの毛がチリチリ逆立つような気がした。


「なんだそれ?」


「君たちは私の『お弁当』だ。これから遂行しなければならない私の任務には大きな力が必要となるのでね。惜しむらくは時間がないことだな。タイミングがすべてなのだ。だから君たちの『魂魄《こんぱく》』をじっくり吟味して味わう時間がない。残念だが‥‥手早くランチタイムを済ませよう」


「なにわけわかんないこといってんの。きしょ!」


「頭おかしいんじゃ‥‥」


女の罵りが途中で途切れた。200mの距離などないかのようにその音ははっきりと聞こえた。ゴキッ。パキッ。ズリュッ。ベチャッ。ベキッ。女の絶叫が響いた。


「なん。なんだ。なんだ。なんだよこれ」


「シンジ。シンジ。化物!」


ボクの目の前に展開している生体探知機の白点が重なったと思った瞬間、ひとつは掻き消すように消え、もうひとつは紫色に変じた。魔物の赤じゃない。でも人間の白でもなかった。あいかわらずシオンの動きは神速だ。生体探知機をしまう瞬間にもボクの横を風を巻いてシオンが走り抜ける。ボクはコンマ1秒遅れて続いた。


「来るな来るなくるなくりゅ‥‥」


男の濁声が掻き消える。その瞬間、ボクとシオンが階段前広場に突入していた。冒険者の衣装を着けた痩せぎすな身体が同じ冒険者衣装を身に着けた体格のいい男の身体に覆い被さっている。じゅるるる。なにかを吸いあげる音。痩せぎすな冒険者の頭が見えなかった。なんだろう。パーカーのフードをおろしたかのように背中で弛んでいるのが、さっきまで人間の顔と頭の肉や皮膚だったモノだろう。剥き出しの頭蓋骨の代わりに黒いゼリーのようなモノが伸び出し、若い男の頭をすっぽり呑み込んでいた。見た瞬間、全身の毛穴が開く。産毛も髪までもが、帯電したかのように逆立つ。感じたことのないおぞましさだった。恐怖とも違う。純粋な嫌悪だ。絶対に自分とは相容れない存在に対する拒否反応だ。ボクは異常事態に相対したとき、分析し観察しようとブレーキを掛ける。シオンは異常事態に相対したとき逆にアクセル全開になる。いつ抜いたのかも見えないほどの速さで双剣が抜き出された。人間には対応不可能な速度で、角度の違う2方向から薙ぎ払われる。頭のない痩せぎすの化物がぬるりと動いた。ちゅぽんと飲み込まれていた男の頭が吐き出される。力を失った身体がぐねっと地面に崩れ落ちた。垣間見えた彼の顔は、粘土細工のような灰白色。生きた人間の顔色じゃなかった。その身体がまだ宙にある刹那、化物の身体がブレる。シオンの斬撃がかすりもせずかわされた。男の脚が関節を無視した動きで、鞭のように振りあげられる。シオンが身に着けていた『自動マルチ展開ミニシールド』が発動し、男の脚を受け止めた。かに見えた。砕けた。青い細片となってシールドが粉々になる。そのままシオンの胴鎧に吸い込まれていく。爆発音に似た打撃音が響き渡った。シオンの身体が吹き飛び、3m近く飛んで広場の壁に叩きつけられる。口から噴き出した血が、地面に線を描いた。


挿絵(By みてみん)





to be continued



この物語はフィクションです。そもそも時間線も違えばマルチバースにおいて宇宙そのものが違う世界です。そのため登場する人物・団体・組織・国家・名称などは実在のものとはぜんぜんまったくこれっぽっちも関係ありません。


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イラストはChatGPTで生成しています。

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