16.飛び込みと綿
「…………よし、見に行くか」
「気が早いにゃ!アイを信じるにゃ!」
「どの口が言うんだよ。ほらほら、そんなこと言ってマル君も心配なんでしょ?」
「いや遠慮しておくにゃ。ジンはどうにゃ?」
「キョウに任せる」
「よし行こう」
「えー……キョウ、行ってきてにゃ」
「行かないの?」
「んー……この流れでいいことが起きたことあるにゃ?いや、ない(反語)。」
「だけどこの流れで放っておいたことないでしょ?ほら文句言うな行くよ!」
怪力舐めんな!
マル君の脇の下に手を入れて立たせる。
逃げ出そうとジタバタするマル君の襟首を掴んで落ち着かせていると、やれやれという顔でジンも立ち上がる。
ジンにマル君を預ける。
後ろ手を組ませて掴んでるから逃げれないね。
よかったよかった。
「俺は忠告したにゃ!絶対落ちすぎてやばいにゃ!せめて一人残るとかイヴにもう少し働いてもらうとか!した方がいいにゃ!」
「ええい黙れ!ジン覚悟決めて!」
「本当にやんのか?俺一応高所恐怖症なんだが……」
「イヴヌーンに乗ってる時点で大丈夫!少し内臓がヒュンッてするだけだから!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬにゃ!なんでそんなにキマってんのにゃ??」
ぐちぐちうるさいマル君を引きずって崖の淵に立つ。
白い雲に遮られて下は全く見えない。
まあここでダラダラしててもどうにもなんないし!
ジンとマル君の手を掴んで飛ぶために膝を曲げた。
「いい?三、二、一………ハッピーフライト!!」
「ふざけんなにゃああああああああ!」
マル君の悲鳴が雲に吸い込まれる。
内臓がヒュンッてなって気圧で耳がキーンとなる。
白い雲が視界をジャックする。
ジンは目を見開いたまま固まっている。
マル君はこの世の終わりのような顔で虚空を見つめている。
空の旅を楽しもうじゃあないか!
あだけどそろそろ魔力展開しないと落下死する。
魔力をクッションのように厚く平たく…………
平たく………………
平たく……?
えなんか魔力使えないんだけど???
「ままままマル君!魔力!」
「は?え?使えないにゃ!!」
「終わった、俺の人生こんなところで……」
「ごめんってジン、そこまで恐怖症だったんだね知らなかったのごめんってだからユサユサしない!」
「というか予測できたはずだろ?!エリのところでもこんな仕掛けあったらしいじゃねえか!」
「そういえばそんなこともあった!あんまりインパクトなかったから忘れてたよ」
「待って待って死ぬにゃ!ほんとに地面に叩きつけられて落下死とか勘弁にゃ!」
は、あれは!!
アイ!これは素晴らしい展開!
「アイ!」
風に声が持っていかれるような感覚がする。
負けないように声を張って腕を広げる。
「受け止めて!」
「????えー?なにやってるんこの人たちー?」
「う!け!と!め!て!」
「…………おっけー!わかったー!」
多分あれはわかった(わかってない)だ!
え、だけどなんか呪文唱えてる?
ここで魔力使えるのかな、アイ竜最強説きた!
もう全てを諦めたマル君とジンの手を硬く掴んでアイのところに飛び込む。
地面まで後もう少し……
五、四、三、二、
バフン!
地面が唐突に爆発し、さっきのように視界が白で埋め尽くされる。
それの勢いに乗せてマル君とジンの手が離れる。
そして、地面は依然として近づいてきており……
白の中に人影が見える。
その人は手を広げてこちらを受け止めようとした。
私も!
人影…………もちろんアイに受け止められてギュッとされる。
勢いを殺すようにグルンと一回転する。
「よかった、伝わってないと思った」
「声は全然聞こえなかったけどねー、状況から見て何をして欲しいか察することくらいはできたよー」
すごい、アイが頼もしい!
元々は私よりも小さい身長がアイ竜になったことで伸びて私よりも少しだけ高い。
中性的だった顔がフラッシュに少し近づいたのか男性的な面が混じってる。
口さえ開かなければただのイケメンだ。
そう考えると少し気恥ずかしくなって離れた。
「本当にありがとう…………あ、マル君とジンは?」
「隣見てー?」
促されるがままに横を向く。
視界をジャックしていた雲のような白は捌けたが、雲のような水の集まりではないようだ。
命の危機がなくなったと脳が認識した瞬間に軽く咳き込む。
「ちょっ、コホッ何これ?」
「見た通りだよー。フラッシュは植物を扱う魔法が波動砲の次くらいに得意なんだよねー」
目の前にあるのは白い塊。
そこから出るふわふわが気管に入り込んでいる。
何も考えずに見ると幻想の中の羊だ。
まあ羊はこんなに真っ白と言えるほど白くはないんだけどね。
アイとの会話から推測するに、これは綿。
触ってみるとふわふわだし。
叩いてみると出る小さなふわふわがふわふわでふわふわ…………
「キョウー!正気に戻ってー!」
「ハッ、ふわふわの世界に吸い込まれてた……」
頭からもふもふふわふわ羊パラダイスを振り払う。
綿の塊は高さ自体は五メートルほどだけど、吸い込むと咳が出るふわふわが近くを飛んでる以上かき分けて中にいるはずのジンとマル君を救出することは不可能と言っても過言ではない。
「んじゃ、この魔法解除するねー」
「え、うん、うん??」
それやると五メートル地点から落ちるのでは?
そんな言葉を言う暇もなくコットンフラワーの魔法を解除したアイ。
ちょちょちょちょちょ!落ちる!
死ななくても背骨が折れる!
そんなことを考えながら受け止めようと綿の中にダイブする決心を決めた直後。
現れたジンとマル君の体は緩やかーに地面へ降り立った。
困惑する四人のなかに投げ込まれたのは幼いと言えるほどの声。
「なに?今日は自殺志願者が多い日なのかしら?」




