12.魔力犬ぞりと倫理観
「………………」
「あんなに頑張って登ったのにすぐ降りるってどういうことだよ。」
「………………しゃーないじゃん、降りないと先に進めないんだから。」
「…………だけどさー、」
一息ついてアイは眉を思いっきり顰める。
「この降り方はないでしょー」
耳を劈くような音に邪魔されてアイの嘆きは聞こえなかった。
「え??なんて?!」
「この轟音の中人の声を聞こうとするのはバカにゃ!そんなことより魔力の維持に集中するにゃ!」
白い山から白い砂埃が巻き上がり、目がいたい。
石と魔力で作られた硬い板が擦れ合ってずっと耐えがたい音が耳に響く。
イヴとヌーンを呼び出した後、少し飛んでみようと試したがやはり飛べなかった。
知ってたけど!
この山だらけの場所を全部徒歩とかバカでしょ!
まあ文句を言っていてもしょうがないからとりあえず山を降りようと思い、ジンが足をかけたけどその瞬間細かい石がパラパラってなってジンが滑り落ちそうになったからどうしようかってなった。
「え、なんか登りと高さ違うな。」
「当たり前にゃ。下りは一気に谷底まで行くから麓なんてないからにゃ」
「どう降りる?登るのより怖いんだけど」
「というかあんな滑るもんなのー?」
「なんというか岩が柔らかいんだよな。踵が岩に沈んだ。」
「なるほどにゃ」
マル君が山頂から45度ほどに傾く下りの道を覗き込む。
「滑り止めとして小さな石が岩にたくさん埋められてるにゃ」
「なるほどね、それで沈まないように……」
「どーやって降りるー?柔らかいと支点ができないから魔力の糸便りもできないよー」
どうしようかという空気が私たちの中に立ち込める。
引き続き下を見ていたマル君が何かに気づいたようにこちらを見る。
「いや、あれ見るにゃ」
「ん?」
マル君が下を指差す。
マル君に倣うように下を見ようと顔を出した私たちの目に飛び込んだのはハーピィ。
忌わしいとでも言いたげにアイが歯軋りする。
「キョウ、テイムのやり方ってどうやるにゃ?」
「えーっと……」
しばらくやってないな。
「相手の魔力はコップみたいなのに入ってるから、そのコップを自分の色で塗り替えて満たす……みたいな感じ?」
「じゃあ少し実験にゃ。そのコップを満タンではなく、中途半端に塗り替えるとどうなるにゃ?」
「あー…………魅了、みたいな感じになる?」
「それは知らんにゃ。というわけで実験にゃ。」
「なるほど、とはならんのよ。なんで落ちたら一発死の所でギャンブルしないといけないの?」
「大丈夫にゃ!命綱つけとくにゃ?」
「そういう問題じゃない!え、死ぬって!」
「じゃあ他にどーするのー?」
「アイ、賛成派なのか?」
「んー、あの忌わしきハーピィがキョウにメロメロになってるの見てみたーい」
「女って怖え……」
「よけーなこと言ったー?」
「いえ特に何も」
つまりアレでしょ?
ハーピィに引っ張ってもらって降りるみたいな?
だけどそれの欠点!
前提条件が厳しすぎる。
テイムする直前が本当に魅了状態になるのか。
あとは途中で魅了が解けたらこの標高を真っ逆様だ。
死ぬ。明らかに生きてらんねぇ。
「靴の底が剥げるとここから歩くのが大変にゃ。なにか安定した乗れるものないにゃ?」
「魔力で板を作ってそこからハーピィのリードつけて、犬ぞりみたいにするのはどうー?」
「え、倫理的にダメくね?」
「今更それ気にするー?」
さすが人型の魔物を容赦なくグチャグチャにしたやつだ。面構えが違う。
「キョウ、やるしかないよねー」
「デメリットが倫理観がマズいしかないにゃ」
「いやいやいやいや、私の安全性が考慮されてないのが一番マズいでしょ!」
「キョウ、あきらめろ。」
ポンって私の肩に手を置いたジン。
お前は私の味方じゃなかったの?!
「キョウ、世の中はチャレンジでできてるにゃ。チャレンジしないと先には進めないにゃ」
「え、え?これ私が悪い?」
「キョウー、早く行かないとヤバいよー」
「キョウ、大丈夫だ。死ぬ時は俺も一緒だ」
「一緒に逝くの??生きて!」
テンションが終わってる。
頬を軽く叩いた。
乾いた音が鳴って、私に行けと催促するように感じた。
「ミスったらちゃんと助けてね?」
「信用するにゃ!俺がカバーするにゃ!」
「ん、頼むよ!」
マル君の心強い言葉を背にして崖の断面を見つめる。
ゆっくりと縁に腰掛ける。
そして、壁を蹴った。
足の裏に魔力の板を作り出した。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
内臓が全部上に持ち上がってるような感覚。
ハーピィまで後もう少し。
だけどハーピィを魅了する前に私がこの世からおさらばしちゃう。
ガリガリと細かな石と硬い魔力の板が絡み合って崩れる。
耳を支配するのは自分のか細い悲鳴と不安な音。
ハーピィとのリーサル圏内を考えておかないと、いざとなった時にできなくて谷の一番下まで転落とかまじ勘弁。
人間が耐えられる高さじゃない。
そんなこんなでハーピィが目の前に。
逃げずに道を譲ろうとするパーピィに手を伸ばす。
「とどいて、これ無理だったら。」
ハーピィの羽と合体した鋭い爪の生える手が私の指先と触れ合う。
あと少し!
ちぎれるくらい伸ばし、超絶美少女の手首を掴む。
側から見たら、ただの不審者なんだよなー?




