10.ハーピィと投擲
「「…………」」
無言で登り続ける。
キツイ、やめたい……
異世界にきてこんなにフィジカルが求められるの初めてかもしれん。
ドラゴン化&大人化してからは基本的に体力やパワーでキツくなることなかったから、久しぶりのヤバさに戦慄する。
だけどもう少しでそれも終わりだ。
頂上が見えてくる。
もう一度上を見据える。
「アイ!あと5メートルくらい!まだいける?」
「んー、だいじょぶーなんだけどちょいとやばいかもー」
「え、何が?というかどっち?」
「上ー見てー」
「え、魔物…………」
「めっちゃかわいい女の子ー、ハートにドストライクー」
アイに促されて上を確認する。
すると丁度5メートル先から顔を出す美少女。
うわあかわいい美少女型ハーピィ。
羽生えてるし頭からも羽生えてる。
だけどちょこんと出ている手はしっかりとした鳥足だ。
「まてまてまて、魔物だよ?」
「えー女の子だよー、しかもちょーぜつ美少女ー」
「ちゃーんと見て?羽生えてるし足も鳥っぽいよ?」
「かわいければーなんでもいいよー」
ぼうっとするアイがスルスルと残り数メートルを登っていく。
「いやまあ異形な女の子がいてもおかしくないよねー。すげえどタイプだー」
「アイ?!ちょっ死ぬ死ぬ!やばいって」
「どうかしたのにゃ?」
「アイがハーピィに魅了された」
「まずいだろそれ」
「救助の準備しといて!」
ハーピィにどんどん近づいていくアイ。
体力どうなってんの?というかヤバいって!
「よし登ちょ――」
「アイ!」
鳥足で上手に輪っかを作ったハーピィは器用にアイにデコピンした。
不安定な岩場からアイの手と足が離れる。
死ぬ死ぬ死ぬ!
重力の仰せのままに下に落ちて行こうとするアイの手を咄嗟に掴む。
「いだぁぁぁぁぁッ」
「キョウ何してるにゃ?!腕がちぎれちゃうにゃ!」
これマル君に任せたほうがいいか?
私の腕にぶら下がるアイを見つめると、金色と瞳に浮かんでいたハートが薄れて消えていく。
「や、やばー!私何してんのー?!」
「ッガチで腕死ぬ……」
「あははっ」
ハーピィが初めて声を出す。
笑い声も可愛いことで!
足が元から笑ってるのに滑って支えられなさそう……
「アイ!ロープを固定するにゃ!あと少し耐えるにゃ!」
真っ白になった頭の中にマル君の声が響く。
その直後、アイの重さが少し消えて私にも少しの余裕ができる。
下を見るとマル君とジンがアイの魔力の糸を全体重かけてひっぱっていた。
「マル君、ジン、ありがとう!アイしっかりして!」
上ではハーピィがコロコロと笑いながら岩を用意してる。
え、岩?お嬢さんそれ落とすつもりじゃないですよね?!
しゃあない、最終手段に出よう。
「アイ、私のこと信用してる?」
「?いえすー!愛してるー」
「よく言ったアイ!私も大好き!じゃあ、」
自分でわかる。
多分今満面の笑みだわ。
「私のために身も危険に晒せるよね?」
「…………は?」
「マル君、掛け声に合わせてロープ緩めて!」
「え、え?了解にゃ?」
「せぇーのッ!」
体が思いっきりしなる。
その後に手を思いっきり振り上げた。
もちろん、アイと繋がれた方を。
フルパワーが込められた投擲は狙い通り真上に飛んでいく。
アイは軽すぎる。
私に投げられちゃうんだからさ、もっと食べた方がいいよ。
ハーピィがいる頂上を通り越して3メートルほど跳躍したアイはその後地面に顔面から着陸する。
見えてないけど痛そうな音がしたから多分そう。
「いったー、ちょまじでやるやつがいるかー?!」
「無事でよかった!すぐいく!」
空いた手が震えている。
最後の支えの手が離れそうでドキドキする。
「は、これが恋?!」
「気のせいだから安心してー!ハーピィ拘束したよー、安全第一で登ってねー」
「ちょっとボケただけだから!」
腰に下がったお守りのジンの斧を手に取る。
そして、刺す。
岩と岩の丁度いい隙間に力いっぱい。
ガリっと音を立てて削れた岩に心強い支えがある。
それに掴まって勢いをつけたのちに後の数メートルを気合いで登った。
地面に足がつく。
「のぼりきったーーーーー!」
「おめでとー!いや本当に怖かったー、死ぬかと思ったー」
魔力の糸を巻いてジンを回収しながら辺りを見回す。
後は稜線部を少し登ったら頂上だ。
後ろに壁があるから落ちる心配もない。
ちなみに私たちに最悪なイタズラをしかけてきたハーピィちゃんはアイのダークボンドで拘束されている。
上半身のみ出ていて傷ついてもいないからジタバタと抵抗を続けている。
たしかにかわいいわ。
もう全人類から愛される運命にあるくらいかわいい。
多分魅了の技?持ってるんだろうなー。
だってアイの様子明らかに変だったもん。かわいいけど。
「お、ジンっうがっ」
「うわ、何してるにゃ?」
跳んできたジンが勢いよすぎて私に頭突きしたのだ。
すごいいたい。
「いっってぇ……あ、キョウごめんな。」
「というか火事場の馬鹿力すぎるにゃ。アイのことあの状況でぶん投げるとか正気じゃないというか普通は物理的に無理にゃ。」
「まあ普通を乗り越えていくのが私だから。」
「…………ちなみにハーピィどうするにゃ?」
「無視すんな」
「キョウテイムするか?」
「…………あー、かわいいけどね。ガチで命の危機を味わったからテイムしたくない。」
「それはわかるー。一緒にいたら暗黒騎士からハーピィだけのための騎士に転職しそー」
「本当にメロメロだったもんね。魅了って怖い」
「まあじゃあーね、私を酷い目に合わせたハーピィちゃんはねー、ごしゅーしょうさまー」
にっこりと笑ったアイが恐ろしかった。




