9.休憩と夕暮れ
少しの間、腰を落ち着ける。
雲はもう少し高いところにあるから視界が悪くなったりはしない。
「どうする?ジンたち引き上げてみる?」
「にゃー、いいと思うにゃ。少し休憩してから下に声かけるにゃ」
会話を切り上げて息を吐く。
上と下が半分くらいに見えるからここは中間地点。
このキツイやつがあと半分あると考えると嫌になってくる。
テラスの広さは四人で乗ったらちょっと狭いかもしれないけど、途中で魔力の糸が足りなくなるよりはいい。
「ねえマル君。指がいうこと聞かないや」
「完全に登山舐めてたにゃ……ちょっとここで死ぬかもしれないにゃ」
「これさー、エベレスト登頂者の偉大さがわかるよね。」
「それにゃ。もしかしたら登り方とか違うかもしれにゃいけどそれでもキツイことはわかるにゃ」
「あと半分くらいかな?」
「キョウ、包帯巻き直すにゃ。緩むと引っかかって落ちるにゃ」
「お、お願い」
手首で縛っていた包帯をスルスルと解き、マル君が巻き直してくれる。
「あはは、膝が笑ってもう立ちたくない。だけど一日経ったらもう登れない気がする」
「絶対明日は筋肉痛にゃ。普段は使わない筋肉が動いてるにゃ。アドレナリンが出てるうちに登っておいたほうがいいにゃ」
キュッキュッとキツく包帯手袋を結ぶと私にも手を差し出してくる。
確かにこれは一人でやるのは難しい。
解けかかった包帯を同じように巻き始める。
「なんで俺らこんなことしてるにゃ?普通の六年生だった気がするのに」
「原因の一端は間違いなく私が担ってるけどさ。これはこれで楽しくない?」
「確かに…………俺、不思議だにゃ。こんな事が起きたら原因のこと恨むはずなのに。なんかキョウのことは恨めないにゃ。」
「なんでだろうね。やらかしたって感じた時からめちゃくちゃ責められると思ってたけど。」
「その割には気楽そうだったにゃ」
「うん。全部背負ったら潰れちゃうから。」
「にゃは、キョウはそういうやつだったにゃ」
「だけどね。一番最初にミヤビさんが死んだ時に思ったの。」
なんでこんな話してるんだろ。
他の人に話して別に何があるわけでもないのにね?
「何をにゃ?」
「んー、もう破られた契りだけどね。誰も死なせたくない。もし、死んだら……」
私はヒトゴロシになっちゃうから。
つまりもうヒトゴロシってことですね。最低。
「ちょ、いいところで言葉切るのやめるにゃ!」
「よーし!ジンとアイのこと呼ぼ!ジーン!アイー!」
「キョウにゃ!!」
むっすーとしたマル君がゆすってくるけど気にせず手から伸びてる魔力の糸を巻き戻す。
糸に引っ張られて落ちそうになったけどマル君が後ろから支えてくれた。
「キョウ、ぜっっっったいに聞くにゃ!」
「なんのこと?ほら詰めて!二人入るには少し狭いんだから!」
釣り上げられた魚みたいな勢いでジンとアイが飛んでくる。
「うっわー、ガチ怖かったー」
「なんの話してたんだ?」
「ジンよく平気だね。下手なジェットコースターより怖いはずなんだけど」
「もう少しゆっくりとかできなかったー?内臓がヒュッてなったんだけどー」
「ごめんごめん。」
「あのにゃジン、」
「なんか話すのー?マルト変わろっかー?」
「え、ガチで言ってるにゃ?まじで頼みたいにゃ!」
「ねえジン、私も……」
「キョウ、ファイトだぜ」
「前衛職頑張ってよ!」
「キョウ頑張るにゃー」
「マル君一緒に登ろうよ!手袋巻いてあげたじゃん!」
「キョウが中途半端にしたセリフを考察しておくにゃ」
「時間の無駄大賞受賞おめでとうございます!!」
「精一杯の皮肉なんだろうけどねー」
魔力の糸をジンに渡す。
アイにもマル君から解いた包帯を巻いてあげた。
アイにも魔力があるけど総量が少ないから緊急救助役はマル君がやることになった。
「あ、ジンもアイもさっきは助けてくれてありがと」
「いや、登ってくれただけありがたいぜ。」
「そういうなら変わってくれん?」
「無理だぜー」
「ダルいてー……そんなことが言いたかったわけじゃないから。手、摩擦で擦り切れたりしてない?」
「あーちょっとな。」
「待ってて、『癒しのき」
口を大きな手で塞がれる。少し鉄みたいな匂いがした。
「待て待て待てその魔法気軽に使うな?」
「えー、だけど自分の命守ることにも繋がるしさ?」
「魔力足りなくなったら命綱も消えるんだからな?慎重に頼むぜ」
「確かに。まあバイキンが入らないように気をつけて」
「大丈夫だ。キョウの魔力は汚れてないからな」
「そういうことじゃないから!ちゃんと手当してってこと!というか汚れた魔力ってなに?」
「いやありそうだろ?手当はまあ適切にしておく。」
「ならいいけど。」
手を次の岩場にかける。
油断は禁物だから、深呼吸をゆっくりした後に手を踏ん張らせて足を岩にかける。
アイも少し手間取ってるように見えたけど無事登り始められたようだ。
「フー、きっっついなー」
「わかるわかる。何か一つミスったら死ぬ可能性があるから気をつけて」
少し緩んでいた指の強張りが戻ってくる。たまに力を抜いて一秒にも満たない時間休憩させておかないと膝が笑って真っ逆様に落ちてしまいそうだ。
いつのまにか空が赤い。
さすがに朝からハプニングも多かったしグダリ過ぎてた。
この山の頂上にはどんな景色があるんだろう。
全員で夕日を眺めて星空の下で筋肉痛で二日くらい苦しみたい。




