8.登攀と墜落
「さすがにふざけすぎた?」
「騒ぎすぎにゃ、安全圏じゃなかったらモンスターが来てたにゃ……」
「こっから登るのか」
「グラグラの岩がないかは注意しないとねー」
「少し怖いな、まあ落ちたら……うん」
「落ちたらなんだよ!」
「最悪なこと考えないでほしいにゃ!」
「ごめんごめん。これさ、全員一気に登るんじゃなくて二人くらい登って落ちたら下でキャッチ。登りれたら魔力の糸使って下の人回収って感じでどうかな。」
「そーだねー。安全策大事ー」
「危険も少ないからな。登る人はどうする?」
「魔力糸を使うのなら俺とキョウで行くのがいいと思うにゃ。」
「剣とかは重いからおろして行った方がいいと思うぜ」
「というかー、これってフリークライミングってやつだよねー?一回もやったことない私たちがやってもいいのー?」
「それは確かに?だけどやるしかないよ、どうしようもない時はイヴやヌーンに頼るし。」
了解とでも言いたげに腰から下げる瓶が揺れてカランと音をたてる。
もし落ちたとしても下には助けてくれる仲間がいるから。
自分を信じて。
登る、この山を。
高く聳え立つ白くてゴツゴツした岩を素手で触る。
ヒンヤリとした感覚が手に染み渡り、不安な気持ちを加速させた。
せめて手袋があればいいのに。
魔力では糸はつくれるけど布を織るには機織り機とか使わないといけないから手袋はつくれない。
「にゃ、包帯って在庫あるにゃ?」
「まだあるぜ。」
ガサゴソとリュックを漁り始めるジンを横目に眺めながら、緊張をほぐすためにストレッチを軽くする。
「包帯で手袋の代わりを作れないかにゃ……素材的には滑り止め効果がありそうな気がするにゃ」
「あったぜ!あとは俺の斧一本ずつ持っとけ。」
手渡された斧と包帯を装備する。
包帯はマル君の真似をしながら手にくるくると巻きつけ指だし手袋みたいな形にした。
ついでに魔力の糸を太めにしてジンに渡す。
岩の大きな出っ張りに結べば落ちても確定死じゃなくなるかもだから。
縄のような太さになった糸を自分の腰に巻き付ける。
「大丈夫、下にいるから安心して登れよ」
「最悪ピンチな時は助けるからー」
「心づよいにゃ」
「うん……よし、行こう」
声が震える。
冷たい岩が指を刺すように感じる。
摩擦で手の皮が冷たいのにあつい。
最初の一歩はどんなことだって怖いんだ、ただ今回は失敗が死に直結する挑戦だってだけだ。
地面から足が離れる。
岩を踏み締めて次の近くの岩に手をかける。
足と手を交互に慎重に動かす。
途中で狩ってきた魔物の骨を岩に埋めて落ちる時の予防もする。
マル君も順調に着いてきてるように感じる。
あと三分の二。
「やっば……」
アクシデーント!
手が少しだけ届かない!
次の掴める岩が少し遠い。
あと指の関節一つ分、それだけなのにそれがすごく遠く感じる。
伸ばしきった指先が震えて体が限界を訴える。
フッと足から力が抜けそうになった時に事件は起きた。
ガラ、ゴト
足場が崩れたんですけどー?
「あ、落ちそう。」
「?!大丈夫にゃ?」
「うーん、ちょっと平気じゃないかも……ジン!頼んだわ!」
その言葉を言った瞬間指からも力が抜ける。
臓器が浮遊するような感覚とともに落下が始まる。
「俺に任されても……!責任が重すぎんだよ!」
「微力ながらお手伝いするよー」
渡したロープがピンと張られて落下が最後につけた魔物の骨の少し下で止まる。
お腹がめちゃくちゃロープに圧迫されて痛い。
息が止まって全身から体温が抜け落ちていくのを感じる。
と、とりあえず捕まってロープを緩められるところを探さないと。
下を見ると、三十メートルほど下に地面があった。
ジンが顔を赤くして苦しそうにロープを引っ張っているのとそれを支えるアイが見える。
「……ッ離すかよ!」
「当たり前だねー、こんなところで死なれちゃ困るからねー」
上からはマル君が心配そうに見ている。
安定した足場を見つけたのかそこに腰掛けているようだ。
手の近くに魔力が集まったり散ったりしていることから魔力の糸を垂らそうとしてるのかも?
「大丈夫にゃ?手伝えること……」
「まだ行ける!ジンとアイが頑張ってくれてるのに私だけ諦める訳には、行かないでしょッ」
マル君に残りの息で返事を返して気合いでロープを引っ張り体を一瞬持ち上げる。
息を吸って勢いよく絶壁のゴツゴツに張り付く。
さっきの岩崩れで少し地形が変わった?
登りにくいことには変わりないけどね。
ロープが張らない位置まで急いで登る。
下は確認できないけどジンとアイが少しリラックスできてますように!
「キョウ!少しナビゲートを手伝うにゃ!まずはそこの岩を掴むにゃ」
上から降ってくるマル君の言葉に従い登る。
足が震えて限界を訴えるけど今日ばかりは従ってもらう他ない。
指も最初は感じていた冷たさなどの感覚がなくなってただ岩肌を掴み動くための機械と化している。
だけど、大丈夫。
私には支えてくれる仲間がいるから。
怖いけど怖くない。
ただ、登るだけ。他のことは忘れていいから。
後、一歩。
マル君がいる足場に手をかける。
今使ってる足場が崩れる。
それでも!
仲間がいるから!
しっかり掴まれた手を握り返し私は足場にたどり着いた。




