21 マヌケなカーライル。
砦に駐留して一週間が過ぎる。
俺、カーライル・ハイデンマルクは、例えようのない緊張感の中にいる。
国境の向こう側では、隣国の軍が集まっているという報告が上がっている。確か、聖女だか何だかが現れたとかで、強気になっている隣国は、こちら側だけでなく、他方の小国にも攻め入ったと聞いた。
聖女…………
伝説の中にある存在。
祈るという行為のみで、傷付いた兵士達を癒すという。傷を治し、失われた四肢さえも復活させる──って、反則だろう、そんな力。
今までも小競合いはあったが、隣国が今回集めている軍勢は大きい。力押しの構えだ。奴等は、奇襲なんて事を考えていないのだろう。
もしかして大軍自体が囮なのではと、国境を接している他の地域にも、国から他の騎士団が派遣されている。漁夫よ利を狙った他国の参入も考えられると、外交方が情報収集にあたっているが、その様な報告は上がっていない。
いつ動きがあるのか?今日、奴等は攻めてくるのか?今夜、来るのか?来ないのか?心が擦り減っていく。
「聖女の力は、怖ろしいものですね」
背後から声。副団長補佐をしてくれているフレイマンがやって来た。
「ああ、怖ろしい。おかげで隣の小国が、一端の軍事国家になってしまった」
「聖女が現れるにしても、国を選んで欲しいものですね」
確かにそうだ。大陸の人口比でいけば、隣国よりも我国に生まれる確率の方が高いだろう。〝聖〟と言うのであれば、聖国に生まれるのが筋だろう。何故、隣国なのだ。
「ところで、何か用事があったんじゃないのか?」
「あ、すいません。宰相補佐室から監察が参っております」
「また面倒な。戦場は俺達騎士に任せてほしいもんだな」
「そう言わないでください。彼等も仕事です。仕方ないでしょう」
「フレイマンは、文官にも優しいんだな」
「当然です。彼等も私達も王国の為に働く同士ですから」
「流石だよ」
納得したフリをした。
フレイマンの言う事も理解できるが、今にも戦闘が起ころうかという前線に来て、風紀だの、予算の使用状況だの言われても面倒臭いにも程がある。戦場は命をかけて戦う者に任せてほしいものだ。文官風情がやって来ても意味がないだろう。
俺のそんな気持ちを顔色から察したのか、フレイマンは軽く口角を上げて、ちょっと軽く言う。
「監察の中に、ブロッサムス嬢がいましたよ」
「ナタリアが!」
ナタリア──真実の愛の相手。
何年も付き合っていたのに、俺の結婚と共に去っていってしまった。いつか迎えに行こうとしていたのに、その前に消えてしまった。俺が悪いのは、理解している。ちゃんと言わなかったから。
でも、言えなかったのだ。
言えるハズがない。後ろ盾を得る為に政略結婚をして、出世をし、爵位を上げる事ができたら側室として迎えに行くつもりだなんて。いつも小さな幸せを望んでいた彼女が、側室になりたいなんて、思うハズもないだろう。側室…………妾かな。よけい駄目だ…………。
「あ、そうそう、ブロッサムス嬢にお会いしたいなら、髭は剃ったほうが良いと思いますよ」
「えつ、似合わない……のか?」
似合ってなかったのか…………。
ナタリアに会えなくなってから伸ばし始めた口髭。つい先月迄は伸びすぎた無精髭みたいで、やっと整えられるまで伸びたのに。ダンディじゃないのか……。威厳があるように見えない?格好良いと思ってたのに。
似合ってなかった?
「いや、お似合いですよ。ただ、若い女性にウケるかと言われますと、疑問がありますね」
端的に言われた。
「ちょっと剃ってくる」
「ここは私が見ておきますので」
「すまないな──と、ところで、この砦は聖地なのか?」
「聖地ですか?」
「いや、文官の娘達がそんな話をしていたから、気になってな」
「この砦に歴史的遺跡があるようには聞いていませんが。調査してみましょうか?」
「いや、いい。作戦には関係ない話だ」
「まぁ、頭の端の方にでも残しておきます」
「すまない。では、行ってくる」
ナタリアが来ている!
フレイマンに髭が似合わないと言われて、かなりショックだったから、女官が言っていた『聖地』というワードを出してみたけど、誤魔化せてないだろうな(俺も何故聖地なのか、知らないのだけれど)。
でも、皆んな似合わないと思ってたんだろうか?フレイマンは客観的意見を言える男だし、間違いなく似合ってないのだろう。ナタリアが来たから、似合わない髭を剃るというのは、なんとなく逆に恥ずかしい気がするけど、フレイマンが言うなら、その通りにしておく方が良い。今までの経験上、そうだ。
それにしても、ナタリア。
ナタリアに会える。
知らないうちに引っ越しをしていたナタリア(文官達の女性寮に移ったのだから仕方ないけど)。寮の前で待ち伏せなんて、恥ずかしくてできないし、王城内で探すなんて無理だ。まして、彼女は宰相補佐室に配属と聞いている。よけいに無理。
それが、こんな前線の砦で会える。
気が付けば、年甲斐もなくスキップしている自分がいる。
ああ、ナタリア。
君が、妻であるミラに申し訳ないと思って、俺から身を引いたのは、分かっている。
ああ、ナタリア。
真実の愛は、君に有るんだよ。
ああ、ナタリア。
ここなら、妻の目も届かない。
ああ、ナタリア。
君を抱きしめたい!
◇
おわぁ、何だ!
髭を剃ったら、鼻の下だけ白い!
髭で変な日焼けになってる!
これじゃあ、恥ずかしくてナタリアに会えない…………。
【昊ノ燈】と申します。
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