18 宰相閣下からのお呼び出し
あれから、第二王子殿下は自分の祖母程のメイドにも手を出すという暴挙にで始めた。
城内では、枯れて垂れた胸を揉みしだかれたとか、骨張った尻を撫で回されたとか言う老女が溢れた。その為、第二王子のいる西の宮からは性別の女は、子供から年寄りに至るまで排除され、男性だけに固められてしまった。四六時中監視され、西の宮から逃げる事も、出る事もできなくなった第二王子殿下は、遂に男性執事から男性の騎士にまで執拗なスキンシップをはかるようになる。
幸い、スキンシップの域を出ないから、あちらの世界には旅立っていないのだろう。
そんな第二王子殿下の行動に戦々恐々としながらも、城中に目を配る宰相補佐室は、今日もゾンビ製造工場と化していた。
私は、終業前の日課のように憐れなゾンビ達に食料を配っている。
いつもながら、メイドさん達のあざとい笑顔が眩しいわ〜。
弁当を食べて満腹になった先輩補佐官達が、机にうっぷして寝てしまう中、再び宰相補佐室の扉が開いた。
「え〜と、起きてる(生きてる)のは〜〜と」
間延びした口調で入ってきたのは、宰相閣下。
この人も寝れていないはずなのに、いつも通りの気の抜けた様子だ。
「あっ、トールテサイッツくん。これから僕の所に来てくれるかな」
「はい……承りました」
「君もね、ブロッサムスさん。新しい、お・し・ご・と」
意味不明な可愛らしい仕草の宰相閣下は、それだけを言うと、去っていった。
あざとい初老って、何なんだろ?いつもながら、そんな感想が出てくる。
ともあれ、私とうんざり顔のポールさんは、宰相執務室に向かう。
◇
「やあやあ、よく来てくれましたね。あっ、二人とも腰を下ろしてね」
待ち構えていた宰相閣下の促しで、ソファーに腰を下ろす。
宰相閣下を正面に、私とポールさんが座っている形。これはもしかして、俗に言うところの、『君たち付き合ってみない』っていう、上司だけが持つ縁の取り纏めというやつなのでしょうか?
なんて事を思い、横目でチラッチラッと彼を見る。
素材は良い。疲れ果て、目の下に濃い隈ができているけど、整った顔立ちで背も高い。こんな風に先輩補佐官を評価するのはNGなんでしょうが、正直、素材を活かせてないのが勿体ない。
彼も、こちらをチラ見して、何かを呟いている。
微かに聞こえた言葉は、『健康的な肌色、簡素に束ねられた飴色の髪。好奇心の旺盛さを醸し出すようなエメラルドグリーンの瞳。小さく整った鼻に口角の上がった薄い唇。お世辞抜きに言っても、綺麗だ』
うん、脈はある。
っていうか、本人目の前にして、よく言える。あっ、疲れすぎてるからかな?
「あっ、僕は仲人とかに興味はないから安心してね」
場をぶち壊す一言。
無いのか…………。
「それよりも、最近の城内をどう思う?」
どう思うと言われても、宰相補佐官さんは室内に自主的監禁状態で、殆ど部屋から出ることはないよね。出るとしても、別の部署に行くぐらいだし、太陽すら拝むことが無いような生活。
そんな補佐官さんのポールさんに、なんて質問なの?
まぁ、私に対しての質問じゃないよね。
私、まだ見習いだし。
宰相閣下は、回答が無い事を気にするでもなく、言葉を続ける。
「まあ、隣国による北部ローレン地方への侵攻の兆しがある今、寝る間もないくらい忙しいだろう事は理解しているんですけどね。それでも、──」
宰相閣下の言わんとしている事は、城内で色々と起きている不可思議な現象の事だった。
第一の現象は、クレイシュ第二王子殿下の事。
最近、第二王子殿下の性格が変わったという事だ。
数ヶ月前に第二王子殿下が御結婚された。確か、お相手は伯爵家のキャサリン・トレンディウス様。
御結婚前の婚約されていた時から、第二王子殿下の素行の悪さは噂されていた。何でも、城外に女を囲っていたとか、愛人(ルビー先輩)がいたとか、女絡みの噂。
その第二王子殿下が、結婚を境に見境いが無くなった。誰彼なくというよりも、年齢も性別も越えてしまっていた。唯一残ったボーダーラインは、種族くらい。高齢の女官から年若い護衛騎士(男)、文官に至るまで、どう見ても性的としか言いようのない接触スキンシップを行いだしたのだ。
呼び出される前も噂話をしていた事だ。
『ああ、宰相閣下にまで話が入ってたのか〜』とか『当然、宰相閣下が知らない訳がないよね〜』とか遠い目をして思っていると、執務室付きの執事さんが紅茶と茶菓子を目の前においてくれた。
で、話を戻すと、その第二王子殿下だが、最近は更に変貌を遂げてしまっているとの事。まるで、悟りを開いた高僧の様になっているらしい。
さらに進化してたんだ…………。
第二の現象は、これは第一と繋がっている可能性が高いと言うか、まんま繋がっているんだけど、第二王子殿下の御寝所の事。
室内の管理清掃を行うハウスキーパー、ランドリーメイド達は、当然寝所に入る。すると、異様な芳香がして、気分が高揚してくるというのだ。それも、淫靡な方向で。
これ、絶対にお香の残り香だ。
この間、侍女さんから聞いたばかり。
ここで、ちょっと疑問が浮かんだ。この第一、第二の現象を聞いたところで、私とポールさんに何をさせようというのだろう?
「まぁ、これらに関しては、調査は出来てるんですけどね」
えっ?何ですか?
調査が済んでいるなら、何で自分が呼ばれているのでしょう?
イヤな予感がする。
私たちの訝しむ視線を気にするでもなく、宰相閣下は話を続ける。
「影を使っちゃいました。影、つまりは暗部ってやつですね〜。僕だって暗部くらい持ってますからね。でも、寝所を⋯⋯なんて、考えもしたんですがね。まあ、王族にプライバシーなんて存在しないので、ね。そしたら、凄いの──」
その寝所では、催淫のお香が使われていた。高額で希少なお香であるが、ご禁制の品という訳でもなく、世継ぎを産む事が第一の仕事である王族にとっては、さもありなんという事。
でも、問題はその使い方。
普通ではなかった。
寝所の中、そこには椅子に座った第二王子殿下。身動きできないように椅子に縛り付けられている。
第二王子殿下の前には、キングサイズのベッドの上に座った、一糸纏わぬ第二王子妃キャサリン様。
その他には、キャサリン様の後ろに侍女が一人、第二王子殿下の後ろに椅子を押さえるように持つ女騎士。
催淫のお香の焚かれる中、ただひたすらにキャサリン様は第二王子殿下に語り続けている。不貞腐れた顔、つまらなそうな顔、悲しそうな顔、そして稀に嬉しそうな顔を混ぜながら。第二王子殿下は、禁欲生活に催淫のお香の効果があらわれたのか、縛られて動かない手に力を込め、指先で空気を掻いてもがいでいた。体はあらん力で捻らせ、よだれを垂らし、届かぬ新妻の裸体を舐ろうと、あらん限りに舌を伸ばしている。
やがて、お香が燃え尽きた頃、部屋中にお香の色が充満して、薫りが濃くなっていた。ついに我慢できなくなったのか、ずっとモジモジしていた侍女と女騎士が衣服を脱ぎ、主人達のベッドでまぐわいだした。年頃の女人による淫らな行為。それが、一糸纏わぬ主人の後ろで展開されているのだ。
第二王子殿下の欲望は絶頂を迎える。遂には、限界がきたのか、怪鳥のような奇声を上げて、果てた。
「いやぁ~、触らなくても果てる事ができるんですねぇ。影から報告を受けた時には信じられなかったですよ。確かに、僕も若い時は、二擦り三擦りで果てたかもしれないですけど、無擦りでは⋯⋯ねぇ。ま、殿下は自業自得でしょうし、良い薬でしょう。ねぇ」
ねぇ、と言われても…………。
「それに、ハウスキーパー達の異変は、部屋の残り香が原因でしょうね」
付け加えられた言葉。
これで、問題とされている二つの事象は、完全に不可思議でも何でも無くなった訳で…………本当に自分たちが呼ばれている理由は?
【昊ノ燈】と申します。
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