16 肉串→クレープ→肉串
暑い日が続いています。
お盆休み最後にしてブッ倒れた私です。
投稿出来ずにスイマセン。
皆様、体調はいかがですか?
私は、やっぱり最悪です。
「お嬢様、楽しくなってまいりましたね」
紅茶を注ぎながらアンが、ミラに話しかけた。
「アン、注ぎながら喋るのは、マナーが悪いですよ」
昼下がりの穏やかな四阿で、ミラとアンがお茶をしている。自ら給仕をしながらお客様役もするアンに、ミラは薄っすらと笑みを湛えながら言葉を返す。湖面が初夏の陽射しを受けて、キラキラと輝いている。
二人だけのゆっくりとした時間。
この館に訪れる者は少ない。
主であるカーライルが寄り付かない館の女主人と懇意になろうとする者なんているはずもなく、たまに訪れるナタリアかイリヤ、そして出版の下請けをしてくれている印刷所の女所長くらい。
大概の人は、淋しい館と言うであろうが、ミラにとっては、心ときめく夢のような場所である。貴族子女として、様々な教育を受けてきた。政治、法律、経済、商学、語学、神学、芸術、礼儀作法から領地経営に至るまで。必要であるからではなく、必要になる可能性があるからと、学ばされてきた。
そんな窮屈な毎日を送るミラの心を安んずるものが、読み物だった。神話から歴史小説にいたり、紀行、冒険小説から恋愛小説へと移行し、遂には禁断の予言書『襲撃体勢万端です──青白き焔を燃やす騎士達』に辿り着いてしまう。
この生活は、雁字搦めだったミラを解き放った。なによりも、相手は予言書にも書かれている第二騎士団の副団長。彼を調べてみると、正に予言書の通り。天の采配を感じた。そして、次第に自分の中だけに抑えていくことに罪を感じるようになっていく。それは、アンも一緒だったのだろう。
白羽の矢は予言書にもでる、副団長の愛人であるナタリアに向けられた。
それから、さらなる興奮がミラを包む事になる。
既に予言書に書かれている内容は、全て現実となってしまっている(若き騎士が副団長となり、真実の愛を貫くところで予言書は終了)。しかし、新しい仲間であるナタリアとイリヤにより、それはより万人に受け入れられやすい薄い本と形を変え、新しい文化を形成した。
薄い本は、予言書を超えて文化を広めていく。世に言う『腐女子文化革命』を成す。
ミラ、アン、ナタリア、イリヤにより作られた〝白と青の出版〟は、それぞれの妄想を乗せてアンダーグラウンドに根を伸ばし続ける。
「それで、お嬢様、今日は何をいたしましよう」
「何を…………って?」
「先日、お嬢様は、偶には外に出てみようかなと、仰られておりました──ですよね」
確かに言われてみれば、昨日、そんな事を言った気がする。
考えてみると、ミラが結婚してから邸から出たのは、片手の指で足りる程しかなかった。折角、侯爵令嬢という重荷を下せたのだから、町というものを経験してみたい。色んな店を見て回って、屋台料理を食べてみたいと言ったような……。
◇
「それでは、行ってきます。ハンナ、留守をお願いしますね」
あれよと言う間に出発となった。
出かけるのは、ミラ、アン、執事長のヨハン、料理人のアンクルそしてメイド選抜部隊を含んだ、計十人。
〝白と青の出版〟の敬虔なシンパとなっている年若いメイドの中には、ミラと一緒に町歩きをしたいという者が多数で、熾烈な選抜大会が開かれたらしい。
料理人のアンクルは、初老に差し掛かろうという小柄な中年男性で、『若奥様が何を好まれるか、料理人として知る必要がある』とばかりに、強行参加。
ちょっと小太りな執事長のヨハンは、財布係。
「若奥様。若奥様。あの屋台から肉の焼ける香りがしますぞ」
「キャ〜、あのお店、可愛い〜」
「ねぇねぇ、あそこのブローチ、ミラ様にお似合いじゃない?」
「だったら、さっきの店のアスコットタイなんて、アン様に絶対よ」
「わかる〜。白のブラウスにアスコットタイ、完璧よね〜」
アンクルは屋台の料理に夢中。メイド達は色々な小物や衣服、装身具を見ては、ミラに似合う、アンに似合うと盛り上がっている。
ミラは知っていた。
邸のメイド達が、ミラを姫、アンを王子として、華やかな百合の世界を想像している事を。
「ナタリアが言っていた、第二王子妃の侍女と女騎士の話、作らせようかな」
「ダメですよ、お嬢様。炎上します」
アンはそう言うけど、既に炎上中、萌え上がっている気がする。薔薇に続く、百合の世界。革命は終わっていない。革命の中にこそニーズがある。
出版社の頭としての思考と、一人の女としての思考が揺れ動く。
でも、知っている。
ミラは知っている。
自分よりも頭一つ分背の高いアンが、自分よりも胸が大きいことを。服装の関係で分かりにくいけど、確実に大きい事を。
どことなく遠い目をして、ミラは皆んなを眺める。その右手には肉串を、左手にはクレープを持って。
【昊ノ燈】と申します。
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