13 薄い本の中の怪談
すいません。
長くなってしまいました。
いつもの約倍。
『先輩、俺どうしたら良いんですかね…………』
出だしは、こんなセリフからにしようと思ってるの。
で、背景は、騎士団の訓練所にほど近い酒場。平民街が近いから、様々な者達が入り乱れ酒を煽っているって感じで。
主人公は、入団二年目のやっと新人を抜けたくらいの、まだまだ半人前の騎士。
自分が、こんな悩みを持っていて良いのか?と思い悩みながらも、騎士団の先輩に相談とも愚痴とも判断できないような事を言っているところで、小心さをアピール。
「あっ、ゴメンね。イリヤ様の旦那様を小心なんて」
「いえいえ、構いませんよ。彼、小心者なんで」
イリヤ様に了承を得られたので、続けま〜す。
当然、先輩役はフレイマン様。いやいや、る作中ではフレイル様か。
申し訳ないと思いながらも、チラッと先輩であるフレイルの表情を盗み見しながら、話を続ける主人公。
先輩の瞳は、優しげにこちらを見つめている。
人気のある表情なんだよね。このフレイルの優しい微笑み。
「ここで、悩んでるんですよ。確かにイリヤ様の旦那様に平民の彼女がいたのは掴んでいるんですけど、既にフレイマン様と関係があった可能性もあるでしょ。もう、彼女の存在を消して、フレイマン様との情事を悩みの理由にしてもいいかなと思ってるんですよ」
「今のままが良いと思うわよ」
「そうですね。ここでフレイマン様との関係を出してしまうと、濃すぎる気がします」
「じゃあ、そうします。ここままで行きますね」
『俺、来月には結婚しなくちゃいけないんです』
お相手は、イリヤ様よね。作中には、姿は出さないけど、イリヤ様。主人公とイリヤ様は婚約している。幼馴染の子爵令嬢であるイリヤ様と主人公は、幼い頃から兄妹同然に育ってきたので、今更女として見ることができない!
くうっ。ありきたりだけど、感情移入しやすいシチュエーション。
でも、主人公が結婚したくない本当の理由は別にある。
彼女がいるのだ。真実の愛の相手。
家どうしで決まった結婚と、別に存在する愛する彼女。
主人公の中では、どうしようもない思考が渦巻いているのよ。
そして、ポツリとこぼす。
『もう、正直に言ってしまいましょうか……お前を愛せないって』
はい!
ここで新キャラ登場。
枯れ専用キャラ。
彼が一言、『それはしないほうがいい』。
横のテーブルに座っていた一人の初老の男。その男が声をかけながら近付いてきたの。
そして、片手に酒瓶を持った男が、無造作に束ねた伸び放題の髪を撫でくりながら近くの椅子に座る。
伸ばしたままの髭のせいで、顔の下半分はよく分からないが、切れ長の目元は、どことなく気品を感じさせる。
ここで、枯れた色気がドーン!
男は、遠くを見るような目で、主人公達の言葉を待つことなく話を続けるの。
『俺もな、昔は許婚という者があった…………』
で、ここから男の独白がスタート!
◇
呑んだついでの昔話。
目の前の二人の男は訝しげに見てくるが、俺に他人の視線を気使うほどの繊細さは、すでに無くなっていた。
「俺もな、こう見えて昔は貴族の一員だったんだよ──」
そう、昔は貴族としての人生を謳歌していた。
謳歌?──いや、ただ調子に乗っていただけなのかもしれない。
許婚がいた。
自分より下級の貴族の出だったんだが、親同士も仲の良い幼馴染。線の細い綺麗な娘だった。いつも兄妹同然に遊んでいたから、許婚となるのも当然の事だったんだろう。
ある程度の年になると、俺は彼女より二年ほど先に学園に入ることになった。
初めての王都。
建物も多く、人も多い。
人よりも羊の方が多い田舎から来た思春期の男子。都会というものに舞い上がってしまったのも仕方のないことだろう。
それにしても、学園の内外で見る年頃の娘達は、皆垢抜けて、お洒落で、綺麗だった。
それなりに引き締まった身体と悪くない顔だった俺は、自分に寄ってくる都会の娘達と遊び呆ける毎日を送っていた。
そんなある日、一人の女性に出合った。
その瞬間、運命だと思った。一目惚れだった。
彼女と付き合い始めるまでに、時間は必要なかった。
平民で飲み屋で働く彼女。
焔のような長い赤髪をかき上げながら微笑む彼女。
男を知り尽くしたような洗練された所作で、豊満な肢体を絡めつける彼女。
運命に溺れていった。
王都での学園生としての生活も二年、幼馴染の許婚も学園に入学の年となった。
彼女は、俺に会いたくて探していたようだが、俺は会いたくなかった。運命の相手と共に居ることは、彼女にとっては裏切りに他ならないことは理解していた。だから、後ろめたく、避けるように過ごしていた。
それでもどうしようもない時はくる。
入学してから一ヶ月後に行われる、入学パーティーだ。
舞踏会でもあるそれのパートナーは、大概が親等の近親者が務めるが、婚約をしている者は、婚約者が務めることになる。
当然、俺は許婚のパートナーを務めることを約束されていた。実家からも、ちゃんとパートナーをするようにと便りがあった。許婚の家からも、娘をよろしくお願いすると便りがあった。
今思えば、親として当然の心配だったのだろうけど、当時の俺からしたら、自分を雁字搦めにする重荷にしか感じられなかった。
だから…………馬鹿をした。
パーティーの前、新入生を示す白いドレスに身を包んだ許婚の前で、言ってしまったのだ。
「お前を生涯愛することはない」
俺の横には、赤いドレスを纏った運命の女。
腰に回した左手に力が入る。
「…………そうなんだ」
呟くように返事をした許婚。
「そうなんだ……その女が……その女が…………」
そこから先は、よく覚えていない。
一瞬の事だった。
急に激昂した許婚が、髪飾りを刃物代わりに振りかざし、俺の横にいた彼女に向かって走り寄ってきた。
俺は彼女を守った。
どうしたのだろう──気が付くと、俺の手には許婚の髪飾りが握られ、目の前には顔を押さえ蹲る許婚。
その顔を押さえた手の間からは、真っ赤な血。
パーティーに参加する事なく、許婚は地元に帰っていった。
一ヶ月ほどした頃だろう。
俺は地元に帰っていた。
あの後、地元に帰ったきり、王都の学園に来ていない許嫁の事が、急に心配になったからだ。
勝手知ったる許嫁の家には、人の気配がなかった。
不思議な事もあるものだと思いながらも、廊下を進み、許嫁の部屋の前に来る。
「どうぞ」
ノックをする前に声がした。懐かしい声。
部屋に入ると、ベッドの上で上体を起した許嫁。
顔には痛々しい包帯。
「や、やあ、久しぶり」
恐る恐る声を出した。
ネグリジェの彼女。二年前には気に留めるほどもなかった、成長した彼女がいた。
王都では、ちゃんと見ることのなかった二年経った許嫁の姿。
ほっそりとした肩は、細い鎖骨を淫靡に強調し、成長しきっていなかった双丘も、明らかな存在感を持って、形良く上を向いている。斃れそうな首筋には白金の髪が軽く掛かっている。包帯の隙間から覗く瞳は切れ長で深い蒼。
凝視する俺を誂うように瞳を細めると、少女らしい鈴を転がすような声に淫靡な声音を隠しながら誘ってくる。
誘われるままにベッドに…………
糸を引いて離れた薄い唇は、耳元を擽るように囁く。
「私のこと、忘れないでね」
「ああ」
「愛してる?」
「ああ」
「渡さない。他の女に──」
「ああ」
麻痺しているみたいだ…………耳元から頭の真ん中に痺れる何かが流れてくる…………。
「あなたの女は私だけ」
「ああ…………」
ああ…………………………
唇が耳から離れ、再び碧い瞳が俺を映した時、ハラリと彼女の包帯がベッドの上に落ちた。
そこには、懐かしい彼女の顔。
傷一つ無い、美しい顔。
──?
──何故?
──思い出す。
──あの時の彼女を。
額から左頬にかけて付いた傷。
決して浅くなかったその傷は、左の瞳を…………。
鈍く複雑な形の髪飾りで付けられた傷は、刃物傷のように綺麗に治るものではなく…………。
──!?
──違う!
──違う!違う!
俺は、笑っていない。
今の俺は、笑っていない!
なのに、何故?
彼女の瞳の中の俺は、笑っているのだ?
瞬間、恐怖に包まれた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い恐い………………………………………………………………………………………………………………
走り出していた。
部屋から飛び出し、屋敷を出て、走る。胸が痛み、胃の奥から酸いものがこみ上げて来ようとも、走った。
振り返れない。
止まれない。
ただただ走り、走り、走り……………………………
気を失っていた。
気が付くと、王都の自分の部屋だった。
ありえなかった。
そもそも、伯爵領から王都までは馬車で四日はかかる。走って帰れる距離ではない。その上、俺は領に行っていない。王都から出ていないのだ。
夢だったのだろうか?
そう考えた時、連絡が入った。
彼女が死んだ。
男爵領の自分の部屋で亡くなったのだそうだ。
自殺だった。
入学パーティーに着ていた白いドレスを纏い、死んでいた。
彼女の死は、病気という事になった。
身内だけで執り行われた式には、俺は呼ばれていない。
ただ、聞いた話では、彼女の顔には惨たらしい傷があったらしい。
俺は、許嫁の事を忘れるべく、毎晩のように彼女を抱いた。夢の中の許嫁の感触を忘れようと、無我夢中で抱いた。そんな俺を、運命の女である彼女は、いつも優しく抱きしめてくれた。
でも、許嫁が死んでから一月後、彼女が死んだ。
寝ている間に、鈍く複雑な形状の物で首を搔き切られ、死んでいたのだ。
そして、俺は血の中で目覚めた。
彼女と同じベッドで寝ていたのだ。何に気付く事もなく寝ていた、横で運命の彼女が殺されているというのに、何も気付かず寝ていたのだ。
そして、床に流れた血溜まりには、女性の足跡。
「それから、俺は伯爵家を継ぐ事になったんだけどな、無理だったよ。世継ぎを産んでもらう為に、何度結婚しようとも、みんな死んじまうんだよ。俺の横で…………。全て殺されてしまうんだ。──俺は逃げたよ」
「全てを捨ててな……」という言葉で、俺は話が終わらせた。
そして、話を聞いてくれていた二人の瞳を覗き込んで、言葉を添える。
「運命でも、真実でも何でもいい。でもな、それを他の女を邪険にする理由にしちゃあいけない。選ばれなかった女だって、心はあるんだ。独りよがりの愛で踏み躙ったら、俺みたいになるぞ」
◇
「そして、タクトキオは、男に頭を下げて、店から走り出すのよね」
見回すと、三人とも声を失っていた。
私は、ちゃんと怖がってくれてるのを嬉しがり、話を続ける。
「そして、フレイルは、俯いたまま動かない男に話しかけるの。『だったら、男ならどうだい?』そして、酒場から二人で消える──どうでしょう?」
最初にコメントをくれたのは、ミラ様。
「それ、読者が欲しがっている、フレイルと男の絡み合うシーンが無くない?」
そして、イリヤ様。
「普通のセックスシーンだけですよね……描いてて萌えない」
最後に、アンさん。
「ただの怪談ですね」
あ〜〜、そうだった。
普通の小説だったら、想像で終わらせられたのに…………これじゃあ、薄い本として成立しない!
項垂れる私に、ミラ様が一言。
「オチを付けたらどうかしら?」
◇
「あっ、駄目だ…………」
「ううん、僕に全てを任せてください」
「あ、あああああ。くっ、こんな…………」
「さあ、もっと正直になってください」
「あっ、くぅっ」
「ねっ」
「あ…………」
コツコツコツ…………
あの人は、どこ?
彼には、私だけなの。
渡さない、他の女なんかに………………。
許さない………………………………………………。
えっ?
男?
えっ?
男にいっちゃったの?
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
◇
スマッシュヒットを記録した。
【昊ノ燈】と申します。
読んでいただき、ありがとうございます。
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