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戦闘力ゼロの元社畜事務員、前世の管理術で辺境ギルドを大改革!〜追放した最強クランが自滅して泣きついてきたが、もう遅い〜  作者: ハンバーグ伯爵


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第6話「崩れゆく栄華の虚構」

 分厚い灰色の雲が王都の空を覆い、じっとりとした湿気が石畳を濡らしていた。

 クランの応接室には、質の良い絹の衣服を身にまとった初老の商人が、顔を真っ赤にして立っている。

 彼の前には、冷めきった紅茶の入った陶器のカップが置かれていた。


「どういうことかね。我が商会の馬車を護衛する契約は、三日前から始まっているはずだ。それなのに、君たちのクランからは誰一人として集合場所に姿を見せないではないか」


 商人の怒鳴り声が、天井の高い部屋に反響する。

 レオンは革張りの長椅子に深く腰掛けたまま、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。

 彼の傍らで、事務担当の男が複数の書類を抱えながら右往左往している。


「ですから、その、現在主力部隊は北の山岳地帯へ遠征に出ておりまして、人員のやり繰りがつかず……」


「人員がいないだと。私は一ヶ月も前に前金を支払い、契約書を交わしている。それを今更、遠征に出ているから手配できないで済まされると思っているのか」


 商人は持っていた杖で床を強く叩いた。

 レオンは事務担当の男から契約書の控えをひったくり、そこに記された日付と依頼内容に目を通す。

 確かに、商人の言う通りだった。

 しかし、同時に受注している北の山岳地帯の依頼も、王家直属の重要な案件である。

 スケジュールの重複。

 これまで一度も起きたことのない致命的な過ちが、目の前で現実の形をとって現れていた。


「……手違いがあったようだ。すぐに別の傭兵団を手配し、そちらに護衛を回す。費用はこちらで負担しよう」


 レオンが苦し紛れに提案するが、商人の怒りは収まらない。


「もはや金の問題ではない。君たちのクランへの信用は地に落ちたということだ。この件は商業ギルドにも報告させてもらう。失礼する」


 商人は吐き捨てるように言い残し、乱暴な足取りで部屋を後にした。

 重い扉が閉まる音が響いた後、応接室には息が詰まるような沈黙だけが残された。

 栄華を極めたはずの巨大組織の機能が、音を立てて停止した瞬間だった。

 書類の束が一つ処理されないだけで、これほどまでに組織が脆く崩れ去るものなのか。

 レオンは両手で顔を覆い、深く重い息を吐き出した。


 対照的に、辺境の街には高く澄み渡った青空が広がっていた。

 ギルドの執務室は心地よい風が吹き抜け、整理整頓された机の上に朝の光が差し込んでいる。

 アルドは大きな羊皮紙の地図を広げ、定規とコンパスを用いて慎重に線を引いていた。

 セリアは彼の横に立ち、湯気を立てるお茶の入った木の実のカップをそっと置く。


「アルドさん。その赤い線は、どのような意味があるのでしょうか」


 セリアが地図を覗き込みながら尋ねる。

 アルドはペンを置き、引いたばかりの線の上を指でなぞった。


「物流の経路です。この街の周辺には、質の高い薬草や希少な鉱石が手付かずのまま眠っています。これまでは冒険者が個人で採取し、安値で売却しているだけでした」


「はい。採取の依頼は報酬が少ないので、受ける人も限られていました」


「そこで、ギルドが主導して採取のスケジュールを管理し、一定量をまとめて隣の大きな街へ輸送する仕組みを作ります」


 アルドは手元の帳簿を開き、綿密に計算された数字の列をセリアに見せた。


「馬車の手配と護衛は、ガイルさんのようなベテランに任せます。定期的な輸送ルートを確立すれば、輸送コストは下がり、利益率は大幅に向上する。冒険者には護衛報酬として還元し、ギルドには手数料が入る。この街の特産品を、経済という新しい武器に変えるのです」


 セリアは帳簿の数字と地図の線を交互に見つめ、息をのんだ。

 それは単なる書類の整理や依頼の斡旋を超えた、街全体の未来を切り開く事業計画だった。

 魔物を狩るだけの拠点だったギルドが、この地域の経済を回す中心地へと生まれ変わろうとしている。


「すごい……。こんなこと、私一人では想像もできませんでした」


「計画を立てるだけなら誰にでもできます。重要なのは、それを実行する人々の土台が整っているかどうかです。今のこのギルドのメンバーなら、十分に実現可能です」


 アルドは窓の外へ視線を向けた。

 裏庭では、ガイルが若い冒険者たちに剣の振りを教え、リュカが魔力の制御について穏やかな顔で語り合っている。

 彼らの表情には余裕があり、互いを尊重する空気が満ちていた。

 前世でどれほど努力しても得られなかった、理想的な組織の姿がそこにあった。

 アルドはお茶のカップを手に取り、温かい一口を喉へ流し込む。

 ほのかな甘みが口の中に広がり、彼の胸の奥を静かな充足感で満たしていった。

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