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戦闘力ゼロの元社畜事務員、前世の管理術で辺境ギルドを大改革!〜追放した最強クランが自滅して泣きついてきたが、もう遅い〜  作者: ハンバーグ伯爵


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第12話「崩壊の音が響く朝」

 数日後。

 王都に降り続く冷たい雨が、白亜だった建物の壁を灰色に染め上げている。

 かつて最大規模を誇ったクランの本部では、静かに解体作業が進められている。

 入り口に掲げられていた豪華な金色の紋章は、借金の清算として商人たちの手によって乱暴に引き剥がされた。

 壁には生々しい留め具の跡だけが残り、冷たい雨水がその傷を洗い流している。

 薄暗い執務室の中からは、高価な調度品が次々と運び出されていく。

 細やかな彫刻が施された革張りの長椅子。

 要人をもてなすために設えられた黒檀の机。

 灯りをともすことのなくなった銀の燭台。

 それらが一つずつ運び出されるたびに、広い部屋は不気味なほどの空虚さを増していった。

 部屋の片隅に置かれた粗末な木箱の上に、レオンが一人で腰掛けている。

 彼の衣服は泥と雨で汚れ、金糸の刺繍は見る影もなくほつれていた。

 かつて美しく整えられていた髪は手入れもされずに伸び放題となり、彼の顔に暗い影を落としている。

 荷物を運ぶ商人たちは彼に一瞥もくれず、ただ機械的に作業をこなしていく。

 誰も彼に指示を仰がず、誰も彼を恐れない。

 剣を振るうことしか知らなかった男は、戦場以外の場所では何の価値も生み出せないことを、周囲の冷淡な態度が痛烈に証明していた。


「……なぜ、こうなった」


 虚ろな瞳で何もない空間を見つめながら、彼のひび割れた唇から空虚なつぶやきが漏れる。

 その声に答える者はいない。

 最後の荷物が運び出され、重い扉が外側から無情に閉ざされた。

 錠前がかけられる硬い金属音が響き、彼が築き上げた栄光の虚構は終わりを告げた。

 それは、一人の裏方を切り捨てたことから始まった、巨大な組織が崩壊する最期の音だった。


 時を同じくして、辺境の街には高く澄み渡った秋の空が広がっていた。

 朝陽を浴びて輝くギルドの前には、王都の紋章を掲げた一台の立派な馬車が停まっている。

 馬のいななきとともに降り立ったのは、仕立ての良い礼服を着た領主の使いの男だった。

 彼は二人の重武装の護衛を従え、恭しい足取りでギルドの扉をくぐる。

 室内には朝から多くの冒険者たちが詰めかけていたが、その荘厳な雰囲気に自然と道を開けた。


「辺境ギルドマスター、セリア殿はいらっしゃるか」


 使いの男がよく通る声で尋ねる。

 セリアはカウンターの奥から静かに歩み出た。

 かつて書類の山に埋もれて泣き出しそうだった少女の面影はない。

 背筋を真っ直ぐに伸ばし、ギルドを束ねる長としての確かな風格を身にまとっている。


「私がセリアです。本日はどのようなご用件でしょうか」


「領主様からの親書と、報奨金をお持ちいたしました」


 使いの男は革の筒から羊皮紙の巻物を取り出し、うやうやしく広げた。

 そこには、この数ヶ月間でギルドが達成した物流網の構築と、周辺地域の治安維持に対する深い感謝の言葉が綴られていた。

 護衛の男たちが、ずっしりと重い木箱をカウンターの上へ置く。

 金属の留め具が外され、蓋が開かれると、中にはまばゆい光を放つ金貨がぎっしりと敷き詰められていた。

 周囲の冒険者たちから、感嘆のどよめきが沸き起こる。


「この街の特産品が隣の街で高値で取引され、領地の税収は過去最高を記録しました。領主様は、貴ギルドの卓越した管理能力を高く評価しておられます。今後もこの地域の中心として、更なる発展に寄与していただきたいとのことです」


「ありがたき幸せに存じます。ギルド員一同、誠心誠意努めさせていただきます」


 セリアは深く頭を下げ、親書を両手で受け取った。

 使いの男たちが満足げにうなずき、再び馬車へと戻っていく。

 重い木扉が閉ざされ、彼らが見えなくなった瞬間、ギルド内に割れんばかりの歓声が響き渡った。

 ガイルが木箱の金貨をすくい上げて笑い声を上げ、リュカがセリアに祝福の言葉をかける。

 誰もが自分の働きが正当に評価された喜びに酔いしれていた。

 その喧騒から少し離れたカウンターの端で、アルドは手元の帳簿に新しい項目を追加している。

 報奨金の額を正確に書き込み、それを今後の街の拡張計画へと割り振っていく。

 老朽化した孤児院への寄付、新しい井戸の掘削、冒険者たちの装備の修繕費。

 彼の指先から生み出される数字の羅列が、この街の未来をより豊かで確かなものへと変えていく。

 窓から吹き込む乾いた秋風が、アルドの前髪を優しく揺らした。

 彼はペンを置き、歓喜に沸く仲間たちの姿に目を細める。

 かつて王都で抱えていた焦燥感も、誰にも認められないという孤独も、今はもうどこにもない。

 自分が整えた土台の上で、人々が笑顔で今日を生き、明日を思い描いている。

 インクの匂いと、仲間たちの温かい体温に包まれながら、アルドは深く、穏やかな呼吸を繰り返した。

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