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戦闘力ゼロの元社畜事務員、前世の管理術で辺境ギルドを大改革!〜追放した最強クランが自滅して泣きついてきたが、もう遅い〜  作者: ハンバーグ伯爵


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第11話「守られるべき居場所」

 日没を迎え、辺境の街を囲む空は深い群青色へと沈んでいく。

 街の入り口に新設された物流拠点の倉庫では、等間隔に配置された松明の赤い炎が夜風に揺れていた。

 アルドは片手に携帯用のランプを提げ、高く積み上げられた木箱の前に立っている。

 麻袋からこぼれる乾燥した香草の青臭い匂いと、獣の毛皮が放つ独特の獣臭が冷たい夜気に混ざり合っていた。

 彼は手元の羊皮紙に目を落とし、隣の街へ発送する予定の積荷リストと現物の数を一つずつ照合していく。

 羽ペンの先が紙を擦る微かな音が、静まり返った倉庫に規則正しく響いていた。

 アルドが最後の箱の確認を終えようとしたとき、背後の暗がりで砂利を強く踏みしめる足音が鳴った。

 彼が振り返るよりも早く、鋭い刃を抜く金属音が冷たい空気を切り裂く。


「お前が来ないなら、手足を切り落としてでも連れて帰る」


 倉庫の入り口に立っていたのは、泥にまみれたレオンだった。

 昼間の面会で明確に拒絶されたはずの彼は、王都へは戻らず街の郊外で身を潜めていたらしい。

 彼の目は暗い執着に濁り、荒い呼吸に合わせて肩が大きく上下している。

 背後には三人の部下たちが、怯えた様子でそれぞれの武器を構えていた。

 アルドはランプの位置を少しだけ高く上げ、彼らの姿を冷ややかに見据える。


「ギルドの敷地外とはいえ、ここは街の重要な施設です。力に訴えれば、ただでは済みませんよ」


「黙れ。お前さえ僕の元へ戻れば、すべてが元通りになるんだ」


 レオンは怒声とともに地面を蹴り、長剣を真っ直ぐに構えてアルドへと突進した。

 刃の先端がランプの光を反射し、冷たい輝きを放ちながら迫り来る。

 しかし、アルドは手元の羊皮紙を盾にするような無意味な抵抗はしなかった。

 ただ静かに、自分の背後にある闇へと視線を向ける。

 レオンの剣がアルドの身体を捉える直前、暗闇から赤熱した炎の塊が射出された。

 炎はレオンの足元の地面に正確に着弾し、熱風を伴う衝撃波を撒き散らす。

 レオンは顔を覆い、たまらず数歩後退した。

 焦げた土の匂いが鼻を突き、部下たちが短い悲鳴を上げて武器を取り落とす。


「夜間の積荷の警護を、うちの副マスターが一人でやっているとでも思ったか」


 炎の名残が照らし出した暗がりから、大剣を肩に担いだガイルが姿を現した。

 彼の隣には、杖の先端に再び魔力を収束させているリュカが静かに立っている。

 さらに倉庫の梁の上や、木箱の影から、武装した数名の冒険者たちが次々と姿を見せた。

 彼らは皆、アルドが手配した新しい装備を身につけ、迷いのない目をレオンたちへ向けている。


「なんだ、お前たちは。薄汚い傭兵くずれが、僕の邪魔をするな」


 レオンは再び剣を構え直すが、その切っ先は微かに震えていた。

 ガイルは鼻で笑い、肩から下ろした大剣の切っ先を地面に突き立てる。


「傭兵くずれ、確かに昔の俺はそうだった。だがな、後ろで帳簿をつけているその男が、俺たちに真っ当な居場所を与えてくれたんだ」


 ガイルが一歩前へ出ると、その巨体から放たれる気迫が周囲の空気を重く押し潰した。


「錆びた剣を磨き直し、誰の背中を守るべきかを教えてくれた。あんたが捨てた男は、俺たちにとっては命を預けるに足る最高の指揮官だ」


「たかが事務員に、命を預けるだと。正気か」


 レオンは理解できないものを見るように顔を歪め、ガイルへと斬りかかった。

 しかし、その動きは疲労と焦りによってひどく単調なものになっていた。

 ガイルは大剣を振り上げることもなく、鞘に収めたままの太い柄でレオンの剣を横から弾き飛ばす。

 手首を砕かれんばかりの重い衝撃に、レオンの指から長剣がすっぽりと抜け落ちた。

 剣は虚空を舞い、乾いた音を立てて冷たい土の上へ転がる。

 レオンは両手で自らの手首を押さえ、膝から崩れ落ちた。

 部下たちはすでに逃げ出し、闇の中へ姿を消している。

 残されたのは、己の無力さを思い知らされ、土に這いつくばるかつての英雄だけだった。


「これが答えだ。とっとと王都へ帰りな」


 ガイルはそれ以上追撃することなく、冷たい視線で見下ろした。

 そこに存在していたのは、剣の腕だけではない、自己を律し仲間を信じる者とそうでない者との、歴然たる実力差だった。

 レオンは歯を食いしばり、震える手で地面を掻きむしる。

 もはや彼を庇い、その見栄を支えてくれる者はどこにもいない。

 彼は這うようにして立ち上がると、夜の闇へと逃げるように背を向けた。

 その足取りは重く、二度と立ち直ることのできない敗北者の姿だった。

 周囲の冒険者たちが武器を収め、倉庫に再び静寂が戻る。

 ガイルがアルドの方を振り返り、白い歯を見せて笑った。


「驚かせて悪かったな、アルド。怪我はないか」


「ええ。皆さんが控えてくれていることはわかっていましたから」


 アルドはランプの火を少し落とし、胸の奥で温かいものが広がるのを感じていた。

 前世では、どれだけ組織のために尽くしても、最後は一人で冷たい部屋に倒れた。

 しかし今、彼の目の前には、自分を守るために壁となってくれる頼もしい背中がいくつもある。

 彼は手元の羊皮紙を丁寧に丸め、仲間たちの輪の中へと歩み寄っていった。

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