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プロローグ

「所長、一回人間作ってみませんか?」


「何を言うとるんだお前は」




 王城に存在する総合研究施設。数多存在する中の一室にて、一人の少女が彼女と同じような白衣を着た男に言い放った。その国――ゼルトース王国内で最も権威のある学者の一人である人間にだ。


 少女がその才を認められ、城で働くこととなって早三年。所内でも頭角を現し始めていた彼女ではあったが、同時に問題発言なども多く、城内を騒がせるのもしばしば。


 今しがた言い放ったのだってそう。普通に聞いたとしても、齢十九の女性が自身の年齢の三倍など優に超える男に向けて人を作ろうなどというのだ。それだけ聞けば、歪んだ愛を連想する輩だって少なからずいるかもしれない。


 だが、ある意味ではそんな恐ろしいながらもかろうじて想像できるものの方が可愛く思えてしまうだろう。なんせ彼女は、本来のそれからあまりにもかけ離れた方法――――自らの知識と技術のみで、一つの命を作ろうとしているのだから。




「……ミシャリーゼ。大体人間を作って何をする?」


「いえいえどうもしませんよエルドル所長。人を作るその”過程”が重要なんです。もうワックワクでしょ? 死ぬかもだけど」


「まずはお前自身の頭の中に倫理観を作ったらどうかね」


 勤続年数だけ考えれば、彼女――ミシャリーゼと呼ばれた少女は新人に毛が生えた程度。接する側も手心を加えて話すはず……その組織のトップともなれば、尚更。

 しかし所長エルドルのミシャリーゼに対する言葉選びは、まるで何十年と共に過ごして来た腐れ縁の者とでも話しているかのようなそれ。呆れ顔でため息を吐くその様からは、彼の目の前に立っている若人がこれまでにどのような所業をやらかしてきたのかが伺える。




「――それで? 頼んでおいた物の作成は順調か?」


「それならもう全て作り終えてますよ。数もバッチリです…………が、それよりっ!」


 その時、突然ミシャリーゼがどこか不満げな表情を見せながらバンッ、と机を叩いて立ち上がった。

 叩かれたその机の上には、薬品と思われる色鮮やかな液体の入った小瓶がずらりと並んでおり、その数は優に二百を超える。


 それらの調合を一人だけで……それも、一晩でやってのけた事実には、流石のエルドルも驚くばかりであった。それほどの仕事をミスなくキッチリやってのけるのだから、一組織の長が若いミシャリーゼに全幅の信頼を置くのも頷ける。


「私は医者じゃないんですよ! なんで医務室側のする薬の処方までしなきゃならんのですか! おかげで研究にも没頭できやしない!」


 自分の属する場所の長に対し、容赦なく己の不満を苛立ちのままにぶつける。目上の者への態度とはとても思えぬ口ぶりで、周囲に他の人間がいないのをいいことに思う存分言い放つのだ。


「他にも騎士団の武装開発、兵糧のレシピ作り……挙句の果てには訓練相手って! 根本的にジョブが違うんですよ私は!」


 そしてその不満の内容が、あまりにも異質。

 理不尽な仕事量にではない、幅広く仕事が出来過ぎるが故に己へと回って来る仕事内容に、彼女は起こっていた。

 

 豊富な知識と確かな技術……若くして高いそれらを己のスキルとして確立させていたミシャリーゼ。城に来てからの働きぶりでそれが良くも悪くも噂を通じて広がっていき、最終的には本来の研究職以外の人間からも頼られることとなった。


 問題児扱いされていることに変わりはないが、その腕は皆から信頼されており、だからこそ仕事が彼女の元へやって来るわけであるが…………当の本人からすれば、頼られる喜びよりも窮屈感が大いに勝っていたことは言うまでもあるまい。


「――ックク、その点においても人体錬成は試してみるべきですよ……! 上手くいきゃあわざわざ私が出張る必要も無いですし、他の研究にも精が出るってもんです……!」


「倫理的にどうなのかねそれは……っと、そういえばミシャリーゼ」


「いっそのこと不死の軍団を――ん? なんです?」


「っ……はぁぁ…………単刀直入に聞くぞ」


 物凄く不穏な言葉を聞いたような気がしたエルドルであったが、それに関しては気にせずに会話を続ける事を選択した。極めて賢明である。






「――なぁ、今度はどんな大やらかしをしたんだ?」


「はい?」


 すると、ミシャリーゼをじっと見つめる長は呆れて気の抜けていた顔、その表情筋を叩き押すように神妙な顔を見せた。だがその眼色には、彼女に対する心配も入り交じっていた。


「いやいや、私は働き始めてからというものの…………えぇっと……まぁ、はい。ここ数”日”は大人しくしてましたね」


「”ヶ月”や”年”じゃないのは実にお前らしいな……」


「それで、何かあったんですか?」


「何かあったかなどというものではない……!」


 辺りが徐々に、重い空気で満たされていく。同時にエルドルの強張った表情には、事実に対する焦りが見え始め……次第に、それを聞くミシャリーゼの方も緊張が迸った。そして、告げられたのは――――






「――――国王陛下から、直々に呼び出しがあったんだ…………明日、ミシャリーゼ・ルーロ一人で、玉座の間に赴けと……!」

足を運んでいただきありがとうございます!

2〜4話は、本日22:00より更新いたします。よろしくお願いします!

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