束の間の冬休み
冬休み五日目――
名柄川羽海
夏休みが長かったら冬休みが短い、これが自分達の普通だけど東北の方だと夏休みが短くて冬休みが長いらしい。自分は東北の住民じゃなくて関東の島、千葉県に住んでいる。「千葉県は島じゃないだろふざけるな!」と思ったそこの人は大いに勘違いをしている。別に何かと比喩とかをしてるんじゃない、実際に千葉県に行こうと思ったら分かるだろう。東京都と埼玉県から行く時は江戸川を渡るし、茨城県から来る時は利根川から渡る。地面から千葉県に行こうだなんて絶対に無理という事が分かるだろう。――後はマップなりを使って千葉県の周りを見てくれ。……神奈川から千葉? アクアラインはこの二〇一〇年高いから止めて欲しい。
――それで千葉県の話を長々と話したか? すっかり雪は溶けて車もバイクも普通に走れるようになって、川を渡るからだ。そしてこの島から出て何をするかって? 舞弥がSR400で何処か行きたいとなって、暖かい所に行こうと自分は言ったハズなのに……。
「神奈川県行くっつったのに埼玉とか寒いいいい――」
「羽海殿、軽装だからですよ」
舞弥もそうは言うけど、これでも重装備だ。股引を下に付けて防風ジーパンで完全防御、上はヒートテックを来て暖かくしてたのに――心が寒い。毎回振り回されているんだ自分は――どっかの誰か、〈キーボードをカタカタとこの文字を書いている奴〉と麻衣に振り回されて休みたいんだ……。重要な奴かって? 重要なんだ。
同日――
聖山麻衣
「出ない――羽海ちゃん出ないなぁ」
私は電話で羽海ちゃんに電話を繋ごうとしてるけど、何処かに行ってるのかな……。ウエハースを片手に電話を片手に――。結局羽海ちゃんは出なかったから携帯を閉じる。何か最近は「すまーとふぉん」っていうのが流行りだすとかなんとか……。羽海ちゃん出ないからそれを買いに行こうかなぁ。
だから……ここで呼び出すのは龍ちゃん。携帯を開いて待ち受けるけど、残念ながらこっちも電話に出なかった。――仕方がない、一人で携帯ショップに行こうとするかな。
※ ※ ※ ※
冬休み七日目――
刃連鰻
「冬コミ諦めるかなー。羽海さんと遊ぶの楽しいし――」
「……今日は遊びに来た訳じゃないんだけどなぁ……」
羽海さんにも今年で最後の冬コミの準備をしてもらっていた。二十九日から三十日。まだ原稿が出来上がってないから、そのペン入れを。パソコンをもう一台用意してデータを共有しての作業。
――昔はこんなデジタルな物なんて無くて道具を色々用意して鉛筆とインクペンでペン入れしてたのに今はデジタルで楽。でも結局切っても切れない縁は『紙』。紙が無かったら伝えられる事も伝えられない事が多い。
「むなぎ、また面倒な事聞くけどいいか?」
「それは――」
羽海さんパソコンに関しては素人だからこれも教えないと――。
同日――
名柄川羽海
「今日は遊びに来た訳じゃないんだけどなぁ……」
正直、ペン入れって言う作業が面倒だ。二日前には埼玉県まで遊びに行って何にもなくて超が付くほど明るい時に帰っていった。――どうしても自分は断れない性格だからこうして手伝ってしまうんだよな……。それに、サブのパソコンとは言ってたけど色んなプログラムが入っている。――普段パソコンなんて触らないからあんなこんななプログラムが……。それから、セブンって何……?
同日――
鷹見亨
やっと出番が来た――。
※ ※ ※ ※
冬休み九日目――
名柄川羽海
家でゆっくりするものの、束の間の休息でまた電話がかかってくる。こんなに電話が掛かってくるんだったらマネージャーが必要になってくる。自分の予定表が大変になってくるからだ。二日前といい四日前といい色んな友達に引っ張りだこ。年末ぐらいゆっくりしたいのにな。去年の冬は〈事件〉があったから誰とも会わずにゆったりしてたのに今年の年末は友人が多く居るからこうな訳で――あーあ、電話に出るのも面倒だからまた寝るとするか。
同日――
聖山麻衣
「…………」
やっぱり羽海ちゃん電話に出ない。羽海ちゃんの事だから面倒だと思って出ないと踏む。一人で「すまーとふぉん」に換えに行ってもいいけど周りが「すまーとふぉん」じゃなきゃ私も嫌な訳で――。
羽海ちゃんがでなければこの「すまーとふぉん」以外にどうしようかなと考えたけど、冬はバイクに乗りたくないし、この休みに入ってから羽海ちゃんも舞弥ちゃんもバイクに乗ってないでしょ……。
同日――
砂原舞弥
「ハッ……くしょん」
「舞弥ちゃん大丈夫?」
「は、はい――」
今日は今年最後の大寒波みたいでして、私殿がアルバイトで勤めているファストフード店にも人が来ません。クリスマス前までは結構忙しくて予定が入ってたんですけど、クリスマス後はまた予定が空き始めて何をしようかと考えている所です。
――人が入ってきましたか、やれやれ。
「いらっしゃいませー」
立ち止まって一礼するなやカウンターに来るかと思ったらテーブルの方に座っていってしまいました。
――なんですか? この客は。そして何かを探しているみたいなんですけど。――目が合ってしまった。それと一緒に手を上げてきた。こっちに来てくれと行ってるんですかね? しょうがないので向かう事に。
「お客様、どうしました?」
「ごめんなさい、メニュー表を」
「はい……?」
同日――
岡田由里
「いらっしゃいませー」
初めてのファストフード店。お店の人に一礼をしてからテーブルに向かう。――案内が無いとは失礼な。見通しのいい所に座る事にしましょう。――メニュー表は何処にあるのでしょうか? それさえも用意してくれないとはファストフード店も最低な場所なのですね。 ベルも無い……これもまた最低。評価はだだ下がりですわ。
仕方がないので手を上げてあの店員を呼ぶことにしましょう。庶民というのはこういうので満足なのでしょうか。――そんな呆れた顔をお客様にするのではありません。
「お客様、どうしました?」
「ごめんなさい、メニュー表を」
「はい……?」
何かを私は間違えたのでしょうか? 聞き直されてしまいましたわ。
「申し訳ありませんお客様、当店はカウンターで頼むようになってまして、こちらに来ていただけませんでしょうか?」
私はカウンターという所に案内されました。
同日――
砂原舞弥
「…………」
このお客様随分長く悩んでいらっしゃる。普通ならばこっちに直ぐに来て「ハンバーガーセット」とか「アイスコーヒー単品」とか簡単に頼む人が多いのにこのお客様は一つ一つ見ている。
「ごめんなさい」
「はい、お客様」
お客様は気難しい顔をして口をモゴモゴとさせています。
これは一体――
「あの、店長のおすすめは何……ですかね?」
「えっ――」
おすすめ? よく分からなかった。おすすめを聞いて来るなんて初めて。取り敢えず、私は「チーズバーガーセット」を指刺す。
「私のおすすめとしてはこちらになります」
「チーズ……バーガー……それでお願いします」
それで注文が確定したので、入力してレジのデジタル表記で料金がでる。
「こちらになります」
「カードでお願いしますわ」
黒いクレジットカードが出てきましたけど、まさかブラックカードを出されるとは……。ブラックカードが出てきたということは、もう庶民という枠には入ってないですねこの人。私が鄭重にお断りしましたら、そのお客様は「なってませんわ!」と言って帰ってしまいました。
――富豪、恐るべし。
※ ※ ※ ※
一月、なんだかんだの束の間の冬休みが終わって、また新学期が始まった。大した記憶は無く、むなぎの同人活動に手伝ったり、舞弥と埼玉で遊んだりしただけだった。そして何故か麻衣が「電話どうして出なかったの⁉」と滅茶苦茶にキレていた。自分だって麻衣に付き合うほど暇はなかったんだよ、自分はそんないつまでも時間があるような人間じゃないし、そもそも麻衣は約束をすっぽ抜かす事が多いから一つ一つの約束が怪しいんだよ。
新学期というのは大した事をしないから教室内はもう雑談で暇を潰すしかなかった。
「由里様は何したー?」
「初めてファストフード店に入ったのですけど……もう今後行く事は無いと思いますわ」
「おぉ……」
由里様ファストフード店で何があった? 特に庶民がここ朝一で使う場所なんだけどここを慣れてなきゃ由里様多分一生庶民になれないと思うんだけど。
「むなぎはー? 自分と活動した事以外で」
「わたしは……これかな」
「なにこれ?」
薄くてシュッとして液晶の付いた変な道具を出してきた。むなぎが電源ボタンらしき物を押したら液晶画面のバックライトが付いた。
「…………」
「今流行りでスマートフォンって言う携帯なんだけど、知らない?」
「ゴメン、最近はあんまりテレビを見なくてな……」
今はこんなのが流行りなのか?
「次世代はみんなこればっかりになるよ、指で操作出来て、ゲームもここで遊べてSNSも全部アプリで管理出来るの。音量ボリュームも端のボタンで変えられるし、一目で誰からの着信とかメールとか……」
「そ、そうか……」
いやに複雑そうな携帯だな。自分はメールと電話が出来ればいいんだけど、これからはこんなスマートフォンばっかりになるのか?
「あーっ⁉ 『すまーとふぉん』!」
トイレから帰ってきた麻衣がスマートフォンを指差して大声を出す。
「どうしたのそれ⁉ むなぎちゃん『すまーとふぉん』に替えたんだ! 使い心地はどう⁉」
「凄い便利だよ、ほら指で操作出来て――」
自分と一緒の事をむなぎは言う。全部暗記したように言うから割りかし頭は良い方なんだろうなむなぎは。――スマートフォンか、自分は別に今の携帯電話が好きだからスマートフォンに替える事は無いかな。顔を伏せて寝るとするか。
「ねーねー! 羽海ちゃん! 『すまーとふぉん』凄いよ⁉ 羽海ちゃん替えに行こうよ!」
始まった。
こう言い出すと麻衣はもう止まらない。寝ている自分の体をぐわんぐわんと揺らして寝るに寝れない。
「ねーねーねーねー!」
「……チッ、あーもう分かった。明日行こう……ったく面倒くせーな」
替える必要も無い自分まで携帯ショップに連れて行くとかただ単に麻衣が一人で行くのが嫌なのか、それとも流行りの道具を一人で使ってるのが嫌なのかの二つ。
「羽海殿ー」
下校になって舞弥もホームルームが終わって駐輪場にやってきた。自分は手を振る。
「羽海殿ー、これ知ってます?」
「そのポケットから出てくるのは『スマートフォン』だろ? 本当に流行ってんのかよ……」
尚後ろにいる麻衣の反応は見なくても分かる。
「羽海殿も知ってましたかー。勿論持っているんですよね?」
「いや」
「は?」
「はぁ?」
先輩に向かって「は?」ってお前も立場が危険になってきたぞ。
「なんで持ってないのにそんな知ったような口を?」
「そりゃ――さっき説明受けたからな。今度この馬鹿とスマートフォンに替えに行く予定だ」
「替えたほうが良いですよ。良いですね~次世代」
「はぁ……」
尚後ろにいる麻衣の反応はますますキラキラしているようだ。お前は色んな人から"キラ付け"され過ぎだ。そもそも影響されやすい人間で後悔するようなのがいっぱいなんだからその性格なおした方がいいと思うぞ。
「それじゃ――帰るか」
自分もエンジンをスタートさせてさっさと常日高校を出る事にした。
――後一年、一年でこの高校とお別れだ。
これで今年の投稿は最後になります、来年も羽海の話は続くので宜しくお願いします。




