日常崩壊の衝撃
二〇一一年三月十一日、高校の三年生共の卒業式が終わった。
「おおおおお――羽海さんに! 羽海さんにもう会えないいいい!」
「落ち着けクソ三守! お前との思い出は遥かに遠いけど、多分一生忘れないと思うから!」
「俺の! 俺の名柄川羽海にするんだーッ! 三守羽海にするんだーッ!」
「勝手に自分をお前の嫁にするんじゃないよ!」
地味に語呂がいいだから困る。ミカミウカイって言いやすい。――でも寂しさは少しあり、安心は大幅に上がった。でも一年の頃は意外と感謝してるんだぜ三守。
「いよいよ三年生だね羽海ちゃん」
「ああ――」
短い冬休みの次はちょっぴり長い春休みの版だ。自分は特にこの時期が好きでもっと長くならないかと考えているが、徐々に暖かくなるこの時期はやっぱりこのぐらいの休みでいいかな。タイミングというのはやっぱり噛み合わせが大事だからな。
「羽海さん」
「お、どうしたむなぎ?」
「今日私と一緒に遊びませんか?」
むなぎに誘いを受けた。――別に今日は麻衣や舞弥と遊ぶ予定は無いし麻衣は自分の下を離れて何処かに行ってしまった。むなぎとの家は近いし、一緒にバイクに乗せてしまえば連続で行けるしな……。
「分かった、遊ぼう」
「ありがとうございます」
多分また同人活動を手伝わされる事になるのだろうけどあのペン入れ作業楽しいから断れない。ちょっとずつパソコンにも慣れてきたし。何より作業終了後のレトロゲーム遊戯が楽しい。
野球ヘルメットを拝借してむなぎを後ろに乗せて走る。今日は十二時に終わって今日の時間が多いに余る。むなぎも冬コミを終えて受託販売の申し込みとかで休む時が無いらしい。今回自分が楽しみのペン入れ等の原稿作業は無いとのこと。つまり、本当に遊びに来たという所だ。
「羽海さん、お腹空きません? 何処かでご飯を」
「そっかぁ、昼真っ最中だもんな。むなぎのキッチンって何かあまりもんある?」
最近スマホで料理レシピを検索するのが楽しくなってお気に入り登録してるのが多い。それの幾つかをむなぎに披露したかったのだ。
「あるけど……殆ど外食だから大した物は無いよ?」
「あーそうなんだ。じゃあ近くのサイゼにするか」
むなぎは料理というのが得意ではないのか? ――まさか、麻衣と同レベル? そんな下らない事を考えながらレストランまで走る。
「むなぎはよく食べるな、それにしたって太んない」
「そういう羽海さんも」
テーブルにはイタリアンのフルコース。パスタから肉からドリアまで、ナイフとフォークでとにかく口に入れる。
そういえばサイゼリヤは千葉県市川市に一号店がある、つまり出は千葉県なのだ。元々は洋食店だったのだか今の社長が大学四年の頃に店を引き受け、不幸にもその7ヶ月後に店が火事に。だがそれが転機になり洋食店から今のイタリア専門店に。――だけど急が急で客足が無くなり店は商売にならない状態の時、閃いたのが全メニュー七割引。この思い切った行動で店は商売繁盛、この線で行けると思った社長は二号店三号店と出した所今に至ると。
――自分達サイゼは何処にでもあるものと思っていたが、まだサイゼは全国に無いんだよな。関東全域にはあるそうだが、東北の一部や地元民には不遇と言われる地の四国と九州にはサイゼは無いらしい。まぁこれは他にも言える事なので県にあるないはこれ以上は控える。強いて言えば『マッカン』は伝わるとして『銚子丸』は他の人には絶対伝わらないだろう、こちらでは有名な寿司屋チェーン店なのだが。
「羽海さーん? タラコソースシシリー風の手が止まってますが?」
「あ? いや悪い、なんか変な気分でな」
「偶然、私も」
今日の朝起きてから平穏じゃない気がしている。カラスも嫌に落ち着きが無く、隣の犬も今朝から落ち着きが無かった。はたまたウチの父親が「靴ひもが上手く結べない……」と悩んでいた……それは関係無いか。
「なぁむなぎ、昨日はこんな感じじゃなかったよな?」
「はい、特に日常通りに終わり、今ここで食事してますもん、普通です」
普通……だもんな。特に回りも楽しそうにお喋りしてるし、中には常日高校の卒業生も昼飯でここに来ている。スマホの時計も普通に回って十二時半だった。
「……あー、スマホの電池切れそうだ。パカパカに替えてから電池の持ちが悪くなったなチクショウ」
「そういう時はモバイルバッテリー持つといいですよ」
「まーたそういうのが出んのか」
半日も持たないで電池が切れそうなスマホ。パカパカだったら使って三日、待ち受け開かなかったら一週間は持ったのに今の充電回数は四回もしている。技術が発達しなさすぎて高い試作品を買わされた気分だ、本当にこれが流行ってるのか? ここの店の周りを見ても全然流行ってる気配が無い。
「他にも、microSDカードを入れて軽量化したり、光度を下げたりして――」
「はぁ――ずっとパカパカにしとけりゃ良かった、無理に麻衣に付き合うんじゃなかった」
パスタを巻きながら後悔する。
※ ※ ※ ※
昼飯も食べ終わってむなぎの家に到着。時刻は午後二時、自分が帰るまで全然早かった。ということでいつものむなぎ先生によるレトロゲー講座が始まる。この週一の楽しみになってきた。何せ今の高画質高音質ゲームには疲れて来たからだ。自分はドットで描かれる目に優しいゲームが好きだ。――難易度はどうかとして。
「まずはロクヨンでもやろっかー」
「おお急に近代的に、ロクヨンぐらいだったら知ってるぞ」
平成六年生まれと言えども、流石にロクヨン、ドリキャス、プレステは知っている。
「まぁ流石にか……じゃあ3DOね?」
「……は?」
3DOと言われて出されたのがデカい四角いゲーム機、それで「Dの食卓」とやらを遊ばされて自分は戦慄した。このゲーム機器は随分と怖い作品が多いのかと思いきや、あまりにもマイナー過ぎて作品がそんなに出てないらしい。因みにこのDの食卓も名作の一つとの事。
「玉虫集める度にエグい演出入るんだけど……」
「まぁそれが目的だから。因みにDの食卓2もあるけどやる?」
「いや! 結構! 他のやりたい」
「そう……」
そんなにがっかりするな。自分にだって怖い物はあるし、ゲームで怖いもの見たさはない。出来れば楽しくやりたいだけなんだ。
「じゃあ……ファミコンの……」
ファミコンを出し始めた時に部屋が揺れ始める。
「地震か」
「うん、でも日本じゃ日常的だし落ち着くでしょ」
そうむなぎは言うけどこの揺れは収まりそうにない。
「むなぎ……部屋危なそうだし……ちょっと出ないか……」
「うん……私もそう思った……」
不穏な空気が漂っているこの部屋を出て、玄関を開けてマンションの廊下に出る。緩い揺れだが、明らかに揺れの時間が長く、モタモタ……とでも言うのだろうか。
「……いや、強いのが来る⁉」
「わっ⁉ 羽海さん!」
むなぎの後頭部に手を添えて押し倒す。自分の予感が当たった。震度四、いやもっと――震度五か六弱はある衝撃と揺れがマンションを襲う。自分の事はともかく、親友はとにかく助けねばならない、咄嗟の自分のかばうコマンド。
マンションの廊下に出たのは正解だった。むなぎの部屋は落下物が多く、この震動だと身に危険を晒す事になる。第一に家で机の下に隠れるという行為は危なく、問答無用で外に出るのが一番だとテレビで聞いたことがある。学校の耐震性だからこそ机というのは有効で、家だと真っ先に外に出てしまった方が良いらしい。特にマンションの廊下は一番とはいえないけど安全圏の一つに入る。
「収まった……? むなぎ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。結構大胆な事するんだね」
「あっ、いや……別に……」
「結構そういうの私も好きだよ」
むなぎを立ち上がらせてスカートを叩く。
色々と現状を確認したい所だけど、まずはむなぎの家の被害状況を見てみる。地震の事を考えていなかったからかかなり荷物を積み上げていたし、悲惨な事にはなってるだろう……ご愁傷様です。
「「あぁぁ……」」
その通り、イグザクトリィ。
笑えない話がここにある。むなぎのゲームルームと、作業場がもうメチャクチャ。
作業場は参考資料になると言っている本棚の漫画や美術の本や、フィギュアもバラバラに落ちていて。創作したCDも全て床に落ちていた。机の端のダンボールも一個ひっくり返ってて他のサークルの同人誌が全部出ていた。
ゲームルームの各ゲーム機はメタルラックで下がローラーで倒れはしなかったものの、丁寧に棚にしまったであろうゲームカセット類は全てバラバラ。ロクヨンだのファミコンだのメガドラだののカセットが床で混同していまっていた。
「むなぎ、とりあえず担当はどうしますか……」
「私は作業場を片付けるから、羽海さんはこっちお願い……」
自分が一番に面倒な片付けが始まった。一方でリビングルームやベッドルームは恥ずかしいからむなぎ一人で片付けると言った。むなぎのプライベートルームは気になるけど、むなぎはそういうのだから立ち入る事は出来ない。
「カセットは駄目になってない、か。良かったなむなぎ」
こう見えてもカセット類も精密機器の一つに入るから衝撃で割れたりセーブデータがパァになったりするから怖い。昔のカービィデラックスとかがそれに入る……0%0%0%は結構怖い。カセットの中身まではいちいち確認する事は出来ないから今回は棚に片付ける事だけに専念。
――片付けてて思ったけど一度お母さんに電話するか。スマホを取り出し、耳に当てる。
「現在、電話が繋がりにくい状態です。もう一度――」
「だと思ったよ……これは一度帰る必要あるな」
まだ外の状況は掴めてないけど、バイク位だったら走れるだろう……あんまり震災にあった時は乗り物にのっちゃいけないんだけど、むなぎの家から自分の家まで遠いからな。いくら津田沼内とはいえ。
片付けてる途中に何かを踏んでしまう。
「先ほどの地震での被害ですが――」
テレビリモコンを踏んだみたいだ。小さな机の上に置いてあったのまでは覚えていたが、その後は床に落ちてしまったみたいでテレビの電源ボタンを足で押してしまった。
「……東北地方真っ赤じゃねぇか! 震度七⁉」
片付ける手を止めてテレビを見るのに集中する。太平洋側の岩手から茨城まで全て震度六弱もしくは震度六強、そして宮城県の北部のみに震度七の表示。定点観測のカメラが幾度も再生されているが、恐ろしい斜め揺れと、テレビ社内を回すカメラマンが写す最悪の光景。自分達の場所、千葉県よりも東北地方の場の被害が凄い。
そうなると、地震の次に被害が出るのは火事もしくは津波。火事はまだ免れるが、第二の自然災害の津波はこのままでは免れないだろう……これだけは自分達の手でもどうしようも出来ない。
「羽海さん、相当な被害になりそう……ってテレビ見てましたか」
「ああ……ネットでも?」
「SNSから何まで。……羽海さんこれからどうします?」
「自分は一回家に帰る。様子を見なきゃ」
「分かりました、ある程度片付けたら帰って下さい」
家族の安否の確認と、周りの状況の確認をしなくては。
焦っては駄目だ。こういう時こそ冷静に行動する事が大事だ。
※ ※ ※ ※
ある程度どころか、ほぼ完璧に崩れた所の位置を取り戻し、むなぎを後ろに乗せて自分の家に走る。どうしてかと聞いてみたらガスが止まってしまったらしく、元栓を繰り返し捻ってもガスが出なかったとの事。それで今回は家に泊めて欲しいとの事だ。自分の家は確かに一軒家でガスも電気も止まりづらいは止まりづらいけど……。
津田沼の踏切を越えるまで、車が立ち往生し、いつも通りがいつも通りでは無くなってしまった。電車も駅で停まり、バスもバス停で止まったままだ。ここ津田沼では働く人が大半だから連絡を取ろうとしてる人が多いが、残念ながら全員が全員で携帯を使うから繋がりにくい。自分もその被害の一人だから携帯で何をしようか分かる。第一に家族の安否確認に入るのだから。
失礼ながらもバイクで車の間を通り家に辿り着いた。相変わらず親父の車も、母親も居ないだろうけどおばぁ一人ずっと家に残っているから不安になっていた。
「むなぎ入って、部屋分かるよね?」
「うん、先行ってるね」
むなぎを二階に行かせ、おばぁの部屋に入る。
「おばぁ、大丈夫? ……あれ」
何処かに出掛けていたのか、残念ながら居なかった。名柄川家には誰も居なく、留守の状態だった。おばぁが心配だが、連絡手段も無いので帰る事を無事に思うしかない。……蛍光灯のヒモを引っ張るとちゃんと蛍光灯が灯った。ガスも電気も大丈夫かな。二階の自分の部屋に行くとしよう。
「むなぎ、電気ガス大丈夫」
「そう、じゃあ一日止めさせてもらうね」
……こうして人を泊めさせるのは初めてだな。まぁ別に広い家だし大丈夫か。引き出しから予備の布団を取り出してむなぎの寝場所を提供。その後はテレビを見て、むなぎはパソコンで情報を確認。テレビからはとにかくテレビ社内の社員たちが忙しなく動き、アナウンサーは必死にテレビの自分達に一つでも伝えようとしている。
「どう、インターネットのほうは」
「流石に地震でパニック起こしてる。不安定」
明日にならないと駄目みたいだな。今日限りの情報はどうにもならない。でも見えないからこそ仕方ないものだ。見えてたら何だって直ぐに伝わる。
「……あ、電車の運行情報と交通情報って分かる?」
「直ぐに出るよ」
素早いタイピングでその二つの情報が出る。
まず電車の運行情報は、全部バツ――。これじゃお母さんは帰ってこれないかもな。会社で寝泊まりだろう。それから交通情報は特に問題は無いけどお父さんもこれでは会社に寝泊まりになるだろう。っていうかウチの親は二人共寝泊まりになるか。……何かと都合がいい。
「ありがとう、じゃあ引き続きネットの見回りを」
「りょうかいです、羽海さん」
現状何も出来ないけど仕方がない。
今日は食って風呂に入って寝る。……一番に幸せな事だ。
東北の方々は現状出来なくなってるのだから。自分達に関わった福島の皆さんはどうか生きてて欲しい。ひまわりを埋めて今も強く育って来てるのだから。そう――ひまわりのように、な。




