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自分の冬

 久々に千葉に雪が降った。ここ関東でも雪は降る……昔は雪を見た時ははしゃいだが、今こうして乗り物を持つと不安ばかりが残る。霜が出来たり、エンジンが一発で付かなかったり、走っても滑りやすくなったり――。こうなると雪が嫌いになる、麻衣も舞弥も流石に学校に来る時は電車や歩きで学校に来ていた。


「羽海ちゃんおはよう」

「ああ――」


 ちょっと早めに来ていた自分はその姿を追ってきた麻衣に挨拶を交わす。この姿を見るとは地味に寂しさを感じるな、いつもならブンブンとこっちに来てクラッチを握ってアクセルの右手を振るんだけど、今回はクラッチの手、左手を振りながらこっちに来た。

 自分は少しマフラーを下げて口を出し、麻衣に「今日も寒いな」と横目で言う。


「うん、寒いね」


 二年ともなると言葉数も少なくなる、しかも寒いからな。自分はスパッツなんて寒くて履けずモコモコの股引を来て学校の規則を大幅に破っていた。デニールの高いタイツだと思えばそれで良いだろ、面倒くさい……全部、面倒くさい。後一年この学校に通うのか。


「羽海ちゃん、どうしたの? 今日は――」

「うるさい、もう冬休みになるし。寒いし、何もしたくないんだ」


 何も出来ない事ほどイラつく事はない、それ以上に進路の事に関してもっとドクドクしていた。

 この雪が降る前の話――



          ※  ※  ※  ※



 カレー先生に一人教室に呼び出される自分、今回は学校の予定表を見ていたから何をするのかを分かっていた――一回目の進路調査だ、希望とかをここでぶちまけるらしい、どうせ適当に答えればいいんだろ?

 自分はガラッと扉を開けて先生と目を合わせる。


「どもッス、先生。今日はお呼び立ててアリガトウございます」

「あ、ああ――何をするかはわかってるみたいだな、始めるぞ」


 先生と対向に座り、話を始める。

 先生は通知表みたいなのを手に取り質問をする。


「成績優秀、林間の時もよくリーダーとして皆をまとめてくれた。一年の頃の『事件』をもろともせず、よくここまでやってきたな」

「まぁ――実力ッスよ」


 二の腕をパンパンと手で叩いてやれば出来る子みたいな顔をする。


「それで、就職するのか? それとも進学か?」

「そうですね……進学……ですかね」

「そんな曖昧だと来年苦労するぞ、会社の下見も必要だし、来年は色々やるんだぞ」


 自分は面倒くさそうな顔をする。そう、まだ自分の中では決まっていなかった。別に三年生の時にやればいいんじゃないのか? こういうのって。


「聞いてるのか名柄川」

「はい、聞いてますよ」


 また面倒くさそうに自分は先生に返す。嫌なんだよね、聞き直されるのは――


「今決めておかなきゃ本当に苦労するからな」


 自分はそんなのを本気で言われて――


「もう決めてる人いるんですか? 例えば麻衣とか鷹見とか」

「鷹見も聖山も皆就職予定でもう求人票を探してるとも言ったぞ」

「じゃあ自分も就職で」

「そんなのでいいのか――さっき進学って行ってたじゃないか」

「むなぎは進学なんですか?」


 自分は先生に通知表の束でペシッと叩かれる。


「人の事を気にするんじゃないぞ、お前自身が決めることなんだから。それで意見を左右させるお前の悪い癖だ」

「チッ……」


 この場は今嫌いになった。そんな面倒な事言われて誰が楽しいと思うか。まだ決まってない物は決まっていないのだからそれしか言えない。


「じゃあ自分は何を言えばいいんですか?」

「決まってないんだな?」

「まだ決まってないです」


 先生はため息を付いて自分を叩いた衝撃でバラついた通知表を整理する。


「いいか、首を締めることになるから早めに決めて次の進路調査までに――」

「わかりました!」


 自分はとっとと廊下に出る。こんなに先生にイラつくのは久々だ。

 こうにも面倒な事に何分も時間を割る必要は無いだろ、後一年で考えればいいんだろ? 鬱になってきたわ。外で待っていた麻衣と舞弥に手を振る。


「待ったか? 悪い、行こう」

「羽海ちゃん……決まってないの?」


 自分が首を縦に一回振る。


「大丈夫なの?」

「問題無いわ、こういう事に時間使ってる方が無駄になってるから」

「……」


 麻衣は黙ってしまったが、そんなに重要な事じゃないだろ進路調査って。その後が大事なんだから。




 冬は何をしようかと麻衣と舞弥で相談をする。が、さっきの自分の態度を見ていたからか、やっぱりその進路の事に関して話してくる。


「羽海ちゃん、もう決めないといけない時期なのに――」

「まだ言うか! 自分はまだ決まってない、それだけだ!」


 関係も無いのに口出ししてくる麻衣に自分は反発する。その話をするのは先生か両親のみだ、他の人の言葉は要らない。


「羽海殿、麻衣様に強く当たりすぎです」

「あ、いや。悪かった……」


 自分も焦っていたかもしれない。――先生の言葉が何回も頭の中でグルグルする。「苦労するからな」と嫌な程に。


「今日解散しよう、モヤモヤする」


 自分はそれだけを言ってバイクに跨がりさよならも言わずに麻衣達の横を走り抜けた。――本題は館山市まで走ると言ってたので日曜日が楽しみだ。




「今週中は雪になるでしょう」


 家のテレビから流れる予定流局のフリテン。つまり、気分空回り。来週の金曜日に二学期が終わり、三学期になるからその館山市の企画が立ったのにこのアナウンサーの非情の一言によって崩れ去る。持っていたコップを強く握り悔しがる。


「麻衣ちゃんと約束してたのに、残念ね」

「ああ、そうだな!」


 自分は水桶の中にコップを投げ捨て水が高く飛ぶ。「羽海! やりすぎよ!」とも言われるが聞く耳持たずとっとと階段を上がって自分の部屋に戻る。この時もドアを強く締めた。


「クソッ! この気持ち何処に投げ捨てればいいんだよ!」


 自分でも有り得ないほどの気持ちの揺れ幅、何かを壊したい何かを刺したい何かを叩きたい。焦りが怒りに変わってくる。雪と一緒に溶けたくなる。自分は今どうすればいいのか――。




 連絡も無しに鷹見の家に向かっていた。降り始めの雪……こんな寒い中すこし軽装でものともせずに。

 近くにあるようなもんだから直ぐに着いた、鷹見は買い物なのか、外に出ていた所をばったりと会った。


「よぉ――」

「羽海、どうしたの?」


 何事にもあまり挙動しない鷹見はこれには流石に不審になる。


「今から暖かい所に行こうとしてたんだけど」

「じゃ、自分も連れてけ――」


 鷹見は「分かった」と一言だけで歩き出す。自分もその後ろを着いていく。まだ雪は強いけど、鷹見が出歩くというのなら自分もその足跡にそって歩く。


「家に来るなんて珍しいね」

「そうだな、お前と遊ぶ事態が滅多だしな」


 最近はむなぎの家に遊びに行ったり、麻衣の部屋に行ったりと女子だけでワーワーしてたから鷹見と遊ぶのはこれが久々。


「なんか、あったのかい?」

「別に――」


 凄い察しの良さだ。これには自分も瞬発的に横を向いてしまった。またコイツも麻衣や先生と同じく進路の事で留めて来そうだからこれ以上は無駄に話さない事にする。


「余り一人で悩むなよ羽海、僕達が居るんだから」

「――久々の登場でお疲れさん」


 会話の途切れ方も普段とは違ってこのお疲れさんで終わってしまった。怒りの矛先を何処にも向けられず、自分の体の中で回る始末、自分が決めてないのが悪い訳だけどその感情を何処にやればいいのかと一生懸命になっている。




 鷹見と歩いて――電車に乗り――いつの間にか埼玉県のプレイスポットに着いていた。確かに暖かいと言えば暖かい場所だ。


「僕の部屋暖房効かなくって――たまにここに来て遊ぶんだ」

「意外だな。何して遊ぶんだ?」


 中に入って受付を終えて中に入る。最初にやるのはボウリングらしい、靴を選んでボウルを選ぶ。ポンドによって分けられてるけどこれによって何が変わるのだろうか。それを鷹見に聞いてみると


「重さがあればピンを倒す勢いが増して、軽ければスピンを掛けられる、でもおすすめは持ちやすいのかな」


 ここから既に勝負が決まるのか。自分は12ポンドのボウルを持つ、鷹見が言う持ちやすいはこのぐらいだった。こんな無機質な塊を投げて遊ぶと言うんだから昔の人は何をしてるのやら。



          ※  ※  ※  ※



 完全敗北、自分は途中で帰ってきた。部屋で大きな音を立てて椅子に座る。


「ああああああああもううううううううう」


 ついに爆発。

 自分が嫌いだ、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。どうすればいいのかも分からなくなった。皆に八つ当たりもしたくないし、両親にも喧嘩をしたくない。でも、どうしても気持ちが抑えきれなくって行動に出てしまう。


「こんのっ! あたたっ」


 自分はタンスを思いっきり蹴ったが足を痛めて中指のツメと肉の間から血が出てくる。自分は何を考えてるんだが。とりあえず、絆創膏を貼って止血する。これでまた嫌になったリストが増えた。自分のアホ……。

 ドアを叩く音。


「羽海? 友達――う、う、うなぎ?」


 その間違いで誰かが分かった。むなぎか――。




「羽海さんの部屋、意外と広いですね」

「むなぎの家に比べれば狭いわ」


 自分の部屋には椅子は自分のしか無いから少し距離が遠いがベッドに座らせてあげた。


「羽海さん、今日進路調査で何を答えた? これからどうするの?」


 自分はむなぎが言った進路の言葉を聞いてカチッと来た。


「チッ……お前もか? お前もその話なのか? なんでそんなに進路が気になるんだよ。おい、刃連鰻。答えてみろよ、なぁ……お前は気軽にそう進路進路って言うけどよ。自分は他の人にそう進路の事を言ったことが無いんだぞ。なんでお前らばっかり質問してくるんだよ!」


 自分はむなぎをベッドに押し倒す。もう自分も我慢が出来ない。ここに来て進路の話しをするとは思わなかった。お前だけがちょっと頼りだったのに――どうして。


「羽海さん……泣いてますよ」

「うっ……さいわ……じ、自分だって…………もうなんで泣いてるのか…………もう、わかんないんだよ……教えてよ……何が答え……なの……ねぇ、むなぎ!」


 むなぎが手を背中に回して押し込んでくる。自分はむなぎと体を密着する。


「答えなんて無いです」

「嫌だ! むなぎが……答えを言うまで……自分はこの手を離さない……」


 むなぎは一息吸ってから


「じゃあ、もういいんじゃないんですか? こだわらなくて」

「…………」


 こだわらなくていい? 自分はそのこだわりという理由が分からなかった。


「どういうこと……」

「だから、就職にも進学にもこだわりなく。適当でも良いんじゃないのかって」

「……むなぎが……むなぎが先生だったらいいのに……いいのにッ……」


 自分は外にも響く位に大声で泣いた。他人の前で泣くことなんて滅多に無いし、最近転校してきたむなぎに泣きついた。自分だけで悩んでいたのが仇となってしまった。――自分はとことんむなぎの服に涙の染みを作る。でもむなぎは嫌がる事もなく自分の頭を撫でてくれた。




 むなぎはこの事だけで用が済んだみたいで、帰ってしまった。『こだわりなく』……この言葉が頭の中で反射している。次の進路調査は三年の最初だから、自分は最大の答えを先生に突きつける。

 もう冬休みに入るし、今日はむなぎに感謝する。暫く皆とも会わないだろうし、暫くこの雪を眺めてその時を待ってやる。

 カレー……いや、和海勝先生。自分はあんたの予想を大きく越えてやる。

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