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『ムナギ』の部屋に遊びに行こう

 それなりに自分達と混じって遊ぶむなぎ。これが資料の一環としての遊びとは思えないが、ちゃんとメモ書きをしたりと資料を集めている。素性を知った自分からしたらこれは『人間観察』としか思えない。

 既に一冊目を迎えて二冊目に行ってるんだけどどんな事を書いてあるんだか……想像も付かない。多分人の何から何まで書いてあるんだろう、だって不自然に身長を聞いたり体重を聞いたり――人のデータを集めているんだ、むなぎはまことの変態かもしれん。変態同士は惹かれ合う……って自分が変態かと言うとそうでもないかも、どちらかというより惹かれ合うじゃなくて寄せ集めてる気が。




 さて、本日の自分の日程は刃連鰻さんに招待を受けたので今日はむなぎの家に向かっている所だ。習志野市住まいで自分と一緒ではあるのだが、千葉街道沿いに住んでるというから駅近く住まいの自分からにしたらちょっと遠い。

 レストランで待ち合わせと言ったが……いたいた、ロングヘアーで冬服コーディネートをした可憐で先生でアーティストな刃連鰻先生がやってきた。うーん、とても同人作家の方とは思えない、世の中は顔じゃないな。


「待ちました?」

「いや、今来た所。家はここから近い?」

「うん、大丈夫。行こう」


 自分はむなぎと一緒に歩く。そういや、珍しく自分は誰かと歩く行為をするな。林間の時は歩くというより作業だから無い事にして、バイク通学前に麻衣と一緒に電車で行ったきりぐらいか。あの時の麻衣は可愛かったのになぁ、今は全然可愛くもないや。でも付き合いの長さは今の友人の中で誰よりも長い……鷹見? 鷹見は最近どうしたのだろうか。アイツも自分の家の近くではあるんだけど、一年の頃に一回二回遊びに行ったキリ殆ど遊びに行ってない。それよりもこの『シリーズ』自体にも影を潜んじゃってる気が――。


「ここにも慣れたか?」


 自分はここの住民としてちょっと接してみた。もう数十年も習志野に住んでいるのだ。ここは便利な街だし、一日暇を潰せる場所でもある。


「うん、色んなネタ探しが出来ていいよ。ほら、こんなに」


 持ち前のミニノートがカバンから何冊も出てきた。これには自分も引く、作家ってこんなに資料が必要なのか? いくらでもあればいいってもんでもない気がするんだけど……。


「学校でも面白い人達が居るし、羽海さんもね――」


 本人の目の前で言い掛けるのは失礼にも程が。言い掛けた時にも何冊目か分からないミニノートをまた書いてる、これは恐ろしい。いつかミニノートの一枚をちぎって弱みを握られてアレやコレやのエロ同人みたいに! っていう展開になりそうだな。絶対ならないと思うけど。


「一冊、見てみる?」


 一号と書かれたノートを見せられるが自分は断る。


「別にいいッス!」

「有益な情報が書いてあるかもよ?」


 そう言われても……怖いからやっぱり断った。そのノートは永遠に見ないだろう……。




 レストランから歩いて数十分、家から歩いて三十五分位。やっぱり賃貸のマンションに着いた。どうもこうも自分の友達は賃貸に住んでる人が多いのやらか。一軒家に住んでるのは自分だけだぞ……、別に日本はそこまで貧困国では無いと思うんだけどそれは自分の偏見か?

 むなぎは玄関を鍵で開けて中に入る。


「お邪魔しま~す……」


 むなぎは颯爽と扉を開けて手で誘う。誰も居ない感じがするんだけどこれは気のせいでは無さそうだな。本当に誰も居ないようだ。

 誘われた所に入ると机とたくさんの棚。これはこれは――自分の部屋よりも狭く感じる、圧迫感が凄い。左の棚にはDVDとかブルーレイとかの棚、真ん中は漫画と設定資料集とか、右はフィギュアの棚だった。その机のパソコンを見てみると作業中なのか下書きが描かれていた。……⁉ 内容は触れないでおこう。

 真ん中の漫画棚を見てみると様々なジャンルな本があるんだな。ファンタジーから日常系からグロ系の漫画まで、所謂R‐15っていうやつだな。やっぱり他作者の内容も資料にはなるのだろうか。一番下の棚のこの漫画の内容を見てみるか、むなぎさんちょっと失礼して見ますね~。


「…………」


 自分はパタンと閉じる。「イヤァ……」とか「ヌプッ」とか書かれた凄くHな本だった。これむなぎさん買えないでしょ絶対。だってまだ十七歳なんだぞ……。


「見たね? 羽海さん」

「ああッ⁉ むなぎさん⁉ ごめんなさい!」


 お茶を御盆に乗せて持ってきたむなぎさんにそのHな本を鑑賞中の自分の姿を見られてしまった。だって、初めて見たもん、このHな本を。


「その本はね、女性の体とかがちゃんと描かれてるから参考になるの」


 Hな本でさえ参考になるとは本の内容としてはどうなのだろうか? ちょっと女だけどムラムラしたぞ。あんなの教育の授業でしか見たこと無いんだから……。


「そんなこと……したい?」


 後ろから耳元にささやかれる自分は驚いた。そんなことをしたい? ――実際これを見てしまった自分はこの後どうなってしまうのだろうか、この漫画みたいに? イヤァ……。


「冗談だから、大丈夫!」


 資料の一環にならなくて良かった。そんなR‐18な模写は作者には持ってないハズだからな、そこは大丈夫なハズだ。いや、書いたらここには居られなくなるから絶対には書かないハズだ。


「それじゃ、何する? 向こうの部屋にはゲームも置いてあるけど」


 椅子に座って足をゆらゆらとさせながら自分に問いてくる。自分も家に来た時の遊び方っていうのをあまり知らない方だから悩む。ゲームか、案外鉄板な事をするんだな。自分の家にもゲームは置いてあるけどまだビギナーで優しいゲームばかりだ。……むなぎのゲームの趣味はなんだろうか? それが気になるから「うん」と答えた。




 むなぎは立ち上がって今の部屋の扉を出て対向の扉に入る。自分も入るとまた独特な部屋で、ゲームだらけの部屋だった。何十年代のゲームなんだそれは……自分達が生まれる前のゲーム機とか初めて見たぞ、ファミコンとか。スーファミだったら薄っすらとCMで見たことはあるけど。


「どれにする? なんでもいいよ」


 このなんでもいいよって言われても……このダイヤルみたいの付いたオレンジのゲーム機はなんだ? 持ち上げてみる。


「これはテレビゲーム15。一九七七年のゲーム機かな?」

「一九七七⁉ 動くのコレ⁉」


 自分達が生まれる十七年前のゲーム機とか初めてみた。


「やってみる?」


 自分は興味からウンウンと顔を縦に振る。早速むなぎはテレビゲーム15をブラウン管テレビの下に置いて準備を始める。液晶テレビの横にブラウン管テレビ――ブラウン管テレビ自体久々に見た。……むなぎはタイツで白……か。


「はい、付いたよ」


 そう画面に出たのは左右に白い棒と0‐0と書かれた画面。これだけだった。質素で見た目はつまらなそう。


「始めようか? テニス」


 テニス? これが? 笑わせるな。自分はダイヤルの付いたコントローラーを持って対戦を申し込んだ。こんなシンプルなゲームでむなぎに負けるわけがないじゃないか。むなぎから飛んできたボールを自分は棒を動かして跳ね返す。


「カコッカコッ、ププッー」


 早速一点入れられた。


「はーっ⁉ ちょっと待って! その真ん中のなんか――点は判定あるの⁉」

「うん、あるけど」


 そんな、テニスだと思ってちょっと甘く見ていたらコレだよ。ちょっと白熱するじゃねぇか。昔のゲームと行っておきながら今のゲームよりちょっと見た目がアレなだけで内容自体は超シンプルで分かりやすい。でもシンプルだからこそ燃えるこのゲーム性。FPSだのRPGだのに負けない面白さが今ここにあったな。絶対勝ってやる!




「カコッカコッ、ププッー」


 15‐4


 完全に負けてしまった、なんで? どうして? 操作性は良いし別に滑るとかそういう事は一切無かった……完全にイカサマ無しのチート無しで負けてしまった。


「なぁ、一つ気掛かりなんだけど、自分の棒小さくない?」


 むなぎはそう言われてアッとなる。何を思ったかテレビゲーム15のスイッチの何かを押し上げた。


「おい」


 その押し上げたスイッチを見てみると……ラケットサイズの大と小が選べるようになっていた。それは自分側の棒は小さいでしょうに、そこでむなぎは知っていたのか分からないけど自分が知らないからこそ棒のサイズを何処かで小さくしたんだろうな。これはイカサマです、どう考えても。


「もう一回! こんどは棒のサイズ一緒でな」

「いいよ」


 さぁ、もう一回カコッカコッするぞ! 次は分かったから負けないはずだ。




「カコッカコッ、ププッー」


 15‐12


 やっぱり負けてしまった。次は純に勝負をして負けたから悔いは無かった。でも悔いは無くても悔しい思いはある。シンプルなだけに凄い悔しい。


「さ、次は何する?」


 むなぎは二勝したからかテレビゲーム15をしまいつつ問う。こんな棚いっぱいにゲームがある中で選ぶのにも一苦労だわ。


「マスターシステムもあるし3DOもあるよ」


 そんな事を言われても分からないのが……マスターシステム? 3DO? ゲーム機なんてそんなに触れた事が無いからさっぱり分からなかった。マニアにとっては多分ニヤッとくるゲーム機ではあるんだろうけど。あの三脚で立っている赤いやつはなんだろう? 自分は指を刺してむなぎに聞いてみる。


「それ遊ぶ? ……本当に遊びますね?」

「――はぁ」


 むなぎはそのゲーム機を出して目の前まで持ち出してくれた。


「……本当に後悔しませんね?」

「しつこいな。遊ぶってば」


 むなぎはACアダプターをコンセントに刺して


「ほんとに?」

「あそぶったら」


 むなぎはしつこく遊ぶかと聞いてくる。自分は気になってそのゲーム機を指差したのにそんなにむなぎはしつこいということは楽しくてハマるとかそういう事なんだろうな。

 自分はそのゲーム機をテレビに繋ぐかと思いきや「ここ覗いてね」と指差す。

 覗くと、赤い画面が目の前に広がった。


「うおお⁉ 飛び出してる⁉」


 赤い画面の中にキャラクター達がピョンピョンと飛びまくっている。


「あまり遊ばないでね」

「うん」


 自分はその飛び出すキャラクター達を画面の奥に移動させたり前に移動させたり、敵を持ち上げては奥に居る敵を倒したりする。これまたシンプルなゲーム性で楽しめた。

 次にカセットを変えてボクシングゲームに変える。本当に殴られる感じがする。すごい、これがゲームというものか。


 徐々にまぶたを閉じる回数が増える。楽しいは楽しいんだけど赤い画面が続いて少し視界が麻痺してきた。楽しいは楽しいんだけど、目が疲れてくる。しかも止め時が分からない。

 それに気付いたかむなぎは電源をオフにする。急にシャットダウンするような感覚に陥って暫く手が止まっていた。


「あ……眩しいな」

「だから言ったのに」


 なるほど、これは――目が悪くなりそうだ。長時間遊べるゲーム機でもないし、内容もどうと言われたらそんなに……万人受けではないな。むなぎもしつこく聞いてきた理由も分かってきた。


「目疲れた、もうゲームいいや……」

「そっか」


 もうコレ以上遊ぶと生活に支障が出る可能性があるのでゲームをするのは控えるとしよう。さっき居た部屋に戻る。でも家に居る以上他にする事が無い。自分は意外とアウトドア系だから家で遊ぶというのは滅多だ。むなぎは次に何をするのか検討もつかない。


「どうしよっか」

「うん、どうしよう」


 本人でさえ検討はついていなかったようだ。そりゃ家で遊ぶと言ったらゲームとか他以上にする事が無い気もする。別に勉強とかしに来た訳では無いからな。


「私の作業でも見てみる?」


 作業……と言ったら同人活動だろうか? それは気になる。

 下書きが画面上に出ていたがそれを先日に買ったペンタブに表示されてそこから線をなぞっている。こういうのは普通の漫画と同じ書き方ではあるんだな。そして次のページへ……。


「こういうのって一人でやるのか?」

「大体はね、大手の人だと何人かでやる人も多いけど私は一人」


 ほー、アシスタントの人も居ればもっと作業早くなると思うんだけどな。こういう企業じゃない場合の一人は大変だな。別に利益の為じゃないと思うから本人楽しいとは思うけど――他の人から見てみればそれは大変と見受けられる。特に自分から見たら。麻衣辺りに任せたらこの作業どうやるんだろう。アイツの画力も見てみたい気もするけど、多分作画の違いから直ぐに止めそうな。


「一度創作物を作って人に公開するとハマるかも」

「自分は遠慮しとく、そんな事したことも無いし」


 自分は特に飽きっぽいし、一度作ったら最後までやり遂げるかどうかも分からない。まぁ、ゲームとか別ではあるが……終わりが見えないのはあまり好きではない。


「それで、コミケっていうのはどうなんだ。自分は行ったこと無いから……」

「一言で言うと『戦争』かな」

「……」


 戦争なのか――。五十万人とかそういう規模で人が集まると言われるけど、やっぱり内部にそれほどの人が入るのだから混み具合も半端では無いんだろう、そんな人混みをかき分けて目標の物まで行くのは大変であろう。むなぎも毎回お疲れ様です……。


 ピリリリリ……


 電話が鳴る。開いて画面を見ると麻衣だった。


「もしもし?」

「羽海ちゃん今暇?」

「悪い、今むなぎの家だ」

「そう、今からお台場とか行こうと舞弥ちゃんと決めてたんだけど」


 そうか、お台場か……。その内容をむなぎに行ったら「作業してるから」ということで一人にしてほしいらしい。自分はその麻衣の遊びに付き合う事にしよう。


「また今度」


 むなぎは玄関まで付き合ってくれて手を降ってくれた。

 次に遊びに行くことは無いだろうけど、またゲームとかは遊び足りない物があるから麻衣とかと一緒に……。でも人の漫画を描く作業というのは地味なものなんだなー。

 ――あれ、結局むなぎの目的はなんだったんだ?

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