不思議の『ムナギ』ちゃん
休日、今日はたまたまむなぎと出会った。自分は季節外れのアイスクリームを持って偶然な出会いをしてしまった。
「羽海さん? こんな所で珍しいね」
「まぁ……な。むなぎはここで?」
「私はこれ」
スケッチブックを取り出して見せてきた。ここの街を絵描きしてたのか? というかムナギは習志野の津田沼に越してきたのか……?
「どんな絵を描くんだ?」
「この街の背景を――」
スケッチブックをパラパラと捲って見せてくれた。繊細な絵で中々綺麗だった。
「絵好きなの?」
「私、子供の頃から絵描くの好きで」
他にも川の絵とか、山の絵とか。色々な絵を見せてくれた。そういう自然の絵が好きなのか、まだ数日とししか知り合ってないが意外な趣味を知れた。
「さて――ここのも書き終わったし次に移動するけど……付いてきます?」
「いいのか? 自分が居ると集中できないと思うけど」
「もうスケッチブックはいいの、次は…………かな」
この季節の突風が吹いて聞き取れなかった。なんて言った? もう書くことはしないと思うけど次は何処に移動するのか。
「総武線使って、秋葉原にでも」
「あ? ああ――」
一体何を思って秋葉原に行こうと思ったのか。一体むなぎは何者なんだ……。
※ ※ ※ ※
休日の秋葉原。自分は秋葉原という近くの存在があっても、ほとんどアニメイトで事足りるので電気街にはあまり向かわない。パソコン自体も現状のスペックで満足もしてるからやっぱり向かわない。
――うーん、人が混み合ってて前に進みづらい。今回はむなぎがここの歩き方を案内してくれるみたいだけど、こんな可憐な娘に案内出来る所なんて一体何処があるのだろうか。ここの時点で明らかにギャップ違い。
「お腹空いたよね? 何がいい?」
着いたと同時にランチか。秋葉原で食べた事が無いから分からない。
「悪い、あまりランチと言われても『秋葉原といえば?』っていうワードであまりピンと来ない」
「じゃあ、言い方変えて……何が食べたい?」
ほう、何が食べたいと来たか。
「カレー……がいいかな?」
「変わったのがいい?」
「出来れば、ちょっと変わったのが」
むなぎは少し考えて――顔を上げる。
「わかった、付いて来て」
何を閃いたのだか……。秋葉原で鉄板なのはゴーゴーカレーだけど……これは余りにも鉄板の鉄板すぎて行きもしないのかな。コレ以上に変わったのと言ったら何があるのだろう。
駅からちょっと外れて道路の向こうに移動。連れて行かれたのは「カレーは飲み物。」とドストレートに書かれた店に着いた。
早速中に入ると販売機がお札を入れてくれと言わんばかり……?
「カレー二種類しかないのか?」
「黒いカレーと赤いカレーの二つ。後はトッピング三つ何にするか準備してね」
かなり慣れた口調でお札を入れて赤い鶏カレーの中盛にボタンを触れて券を取る。むなぎ手慣れすぎて美しく見えるんだけど。
自分は黒い肉カレーの中盛にする。赤いって聞くとなんか辛そうだから止めておいた。トッピングは十種類から三つ――福神漬けらっきょうフライドオニオンの三つかなぁ。むなぎは味玉ツナマヨコーンマヨの卵尽くしのマヨ尽くし、自分はマヨ嫌いだから止めてほしい。
結構なボリュームでして……女子にはキツイですね……。むなぎは食べ慣れていたのか余裕で自分より先に食べ終わっていた。それでもその体型を保つのは中々ですな。
「羽海さんはそんなに食べないっと……」
「行動をメモしてどうするんだ」
「使えるかもって」
使えるかもってどういう事だ。というか食べないというより食べきれないの方が正しいと思う。中は男性客で自分達が目立ってたぞ。あの中も平然と突き進むむなぎは天使か何かか。他にもメモ書きをしているようだけどかなり細かい文字で詰めて書かれてたからここからじゃ何も見えなかった。
「じゃあ次」
むなぎはまた歩き出す。
「待て、次は何処に行くんだ」
「次は、ペンタブ見に行こうかな」
ペンタブ……ペンタブレットだったっけ? 自分にとっては絶無な物だからそう言われても分からなかった。
「一個持ってるんだけどもう古くて」
「そんなに買い替え時期が必要な物なのか?」
「うん」
着いたのはソフマップ本店の三階。他にもガチャガチャと置いてあるけどむなぎは迷うこともなくペンタブコーナーに辿り着く。あんた慣れてるナー。本当に歩き方を教えられてるわ。
「えーっと……やっぱりワコムなんだけど……」
うーん、メーカーを言われても分からない。ワコム……。全部黒くて一緒のような気もするんだけど何の違いがあるのやら……。そもそも値段が高すぎてこれ高校生が買えるような品物じゃないような……。
「これにしようかな。羽海さんコレ持って」
「お? おおう……」
持たされたのはワコムのMサイズと書かれたペンタブレット。三万ナナっ……高いんだけどコレっ、どうするのむなぎ――。絵を描くために犠牲を払うというのはまさにこの払うという事なのかむなぎ? でも趣味の為ならお金を掛ける事はしょうがないこと。うーん価値観の違いかね。
「後は芯――かな」
「芯⁉」
ペンタブって芯が必要なのか⁉ パソコンの器具っていうのはまだまだ分からないことばかりだ。これはむなぎから学ぶ事がありそうだな。今日の秋葉原は決して無駄にならないだろう。
――という事は今回で自分はナードになってしまうのだろうか。
自分はさっき買ったむなぎのワコムのペンタブを持っていた。自分は荷物役になってしまった。むなぎは自前のペンをカチカチとして何かを考えていた。絵描きをしているのはわかったけどまだまだ不思議はいっぱいだ。別にこれぐらいだったら他でも買えそうなのだが。
「じゃあ、次はここね」
「イヤホンショップ……?」
イヤホン専門としたショップだ。東京メトロの末広町駅近くまで着ていた。秋葉原から離れたはずなのにそんなに歩いたつもりは無いな。ちょっと重いペンタブを持っていたのに疲れた振りも出ない。
中に入ると本当にイヤホンだらけだな、試聴用のイヤホンもブラブラと。
「むなぎはここで何を買うの?」
「イヤホンも消耗品、新しいの買うの」
「ほー」
自分は通販で買った九百円位の安いのを愛用しているが、そんなに使う機会が無い。音楽自体に興味が無いっていうかバイクに乗り込んでエンジンの音とか風を切る音が好きだから基本的に音楽は聞いていない。勿論、アーティストとかは知ってるつもりだが。
「これかなー」
むなぎは手に持ったのはSHAREのよんまッ……⁉ おいおい、冗談だろ。さっき三万五千円の買い物をした次は四万クラスの買い物をするとかとんだ富豪だなアンタは。
「これもいいな」
と次に持ち出したのはパイオニアのヘッドホン、これも四万クラス……。むなぎが次々と聴き分けしてるのは四万とか万が付くレベルのイヤホンとヘッドホンだらけだった。
「羽海さん見てるけど、色々聞いてみれば?」
「あ? ああ……」
自分はヘッドホンを掛けて試聴してみる……これが四万クラスの――次に隣の同じメーカーのヘッドホンを掛けてみる……あれ? 同じ?
別に変わらなかったので、次は十万レベルの凄いイヤホンを掛けてみる。何が変わるのやら……変わっ……た? 本当に違いが分からない。自分は難聴なのだろうか? よくわからないので安いのを掛けてみる。これだったら分かるだろう。ごめんなさいわからないです。
でもむなぎは凄い悩んでいる。この違いが分かるのかよ。
「あのさ――何を聴き比べてるの?」
「えっとね、重低音とか音が漏れないかとか、あとは耳に付けて軽い重いとか」
「漏れ……ない? 重低音……?」
音を聞いてるというより機能性を重視?
「だったらこの安いのとかでも……」
自分は適当にイヤホンを持ってきてむなぎに見せる。
「それだとね、重低音と中低音のバランスが悪くて重低音が聞こえすぎるの」
「え――」
音楽に関しての重要さが分からないからチンプンカンプン。もっと深く知っておけば分かるに……。
それでむなぎが決めたのは四万クラスオーバーのSHAREの五万のヘッドホン。それを現ナマで軽々と出すむなぎに自分は引く。それをアイポッドで聞いたら自分はどうなるのか――。
「これ、持ってくれます?」
買ったヘッドホンを軽々と荷物役の自分に渡すのを驚くわい。合計で八万五千円の超料金。これを落としたら自分はどうなるんですか――?
「買い物はまだ続きますからね」
「まだ続くのか……」
完全に中国人の買い物みたいで笑う。高校生がこんなに軽々買えるのは百合様と目の前に居るむなぎだけだよ。まだ百合様が買える理由は分かるけどむなぎのお金の出処は一体何処なのやら。自分はその潔さが逆に羨ましい。もし十万貰えたら自分はそれを元手に増やそうかなとか考えてしまう。消耗品なんて買う術を考えてない。
次にむなぎが向かうのはコトブキヤだった。
「む、むなぎ――ここは流石にやめようよ」
自分は止めるが
「え? どうして? 私は入りたいのに」
むなぎは普通そうに言うけど自分は苦い顔。あなたはオタクとかの類に入ってしまうのか? この類に入るのは麻衣だけかと思ってた。たまに麻衣からアニメとかの話を聞くけどむなぎは果たして……。
中に入って勿論三六〇度美少女フィギュア。購入……する気は無いのかずっと一体のフィギュアを隅から隅まで見ていた。ローアングルから見るフィギュアはさぞかし楽しそうだけどむなぎは女の子なんだぞ。
「資料になるかな――」
資料になるのか、確かに服のシワの付き具合とか服とか資料になるとは思うけど……それは普通に服カタログとか見ればそっちの方が資料になるんじゃ。まぁそんな野暮な事を言ってもむなぎは「これがいい」と言ってまた見始めると思うんだけど。
一体一体の見る時間は長かった。でも一つ気になるのがどうして一つの作品の同一キャラクターとかまたその作品のキャラクターばかり見るのだろうか。相当気に入ってるとか?
ちょっと長くなったから自分は他のキャラクターのフィギュアを見ていた。パンツも見てみるが凄い作り込みだな。パンツの真ん中にシワ……んんっ、別にその。うん、そこまでは求めてない気もする。というか、指とか突っ込まない限りヘッコミとか出来ないから。何を考えてるんだ。――そんな説明をしてたら自分が恥ずかしくなっちゃったじゃん。きゅうう……。
なんかしょうもない気になっちゃってむなぎの下に帰ると誰かと握手していた。……ダレ? むなぎは自分の存在に気付いてその人と離れて次は自分へと向かってくる。
「終わった? それより、さっきの人は」
「さっきのはファン」
「ファン⁉ ファンって何の⁉」
むなぎは自前のカバンからサイン色紙を出して何回も練習したであろうサインを書いて渡す。
――いや、いやいや。分からない。何のファンって言ったのにサイン色紙を出す理由が分からない。しかも普通に刃連……カタカナで『ウナギ』ってもしかして。
「ぺ、ペンネーム?」
「ペンネームっていうのかなぁ。そうだね」
ま、漫画家でもやってるのかな? 刃連ウナギって普通に面白い名前になっちゃってるもんね。
「そ、それで代表作とか何かあるんですか先生……?」
「じゃあ、寄ってみよっか」
直ぐ刃連ウナギ先生の本が見れるらしいということでコトブキヤを出ることにした。
着いたのは、同人ショップ……同人って聞くと『エロ』を連想するんだけど、せ……先生は『エロ』を書いているんですか? そんな失礼な事を言えないけどまだ高校生なんですよ? む、むなぎちゃん?
そんな事もまた気にもせずに同人ショップに入ってサークル名かな順に並べられた薄い本の棚をむなぎは探す。
「あった、これだ」
むなぎは差し出したのは、全年齢向け本の同人作品だった。サークル名は「つるつるいっぱい」っていうサークル名らしい。何かと連想してしまうサークル名ではあるが……全年齢向け本なんだな、それだけは安心した。
「ここのお店に受託してるから私の本も売ってるの。今度冬のコミケに出すからそれのネタ絞り中で」
あの夏と冬の大戦争コミケに出るとはこの刃連鰻、やりおるな。でも自分は言ったことも見たことも無いのでそこらへんの事情はさっぱり分からない。でもあそこには男達が揺さぶられる理由はよく分かる。特に二日目とか?
「じゃあ、今日はこれぐらいかな? 付き合ってくれてありがとう」
「あ、どうも……お疲れ様です」
お疲れなのは自分なのだが律儀にむなぎは「お疲れ様です」と一礼してくれた。それからもう一つむなぎが出している同人の作品で紹介してくれたのは自ら打ち込みをしたという音楽作品だった。これでむなぎがペンタブやらヘッドホンやらを買ったのかが分かった。素性がわかったのはいいんだけど、むなぎがまさか同人活動をしているとは思わなかった。昨日までのイメージとはガラリと変わった。
――つまり、麻衣以下舞弥や鷹見以上の変態という事だ。今後も不思議な『ムナギ』ちゃんの生態調査は欠かせないという事になった。




