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転校生、その名前は『ウナギ』

 ――午前七時

 夜更かししてたからか体がダルい、いつもの事だけどいつも以上に重みを感じる。そんな体を起こしてどうして高校に行かねばならぬのか。中卒じゃ駄目なの? 別にいいとは言ってないけど活躍は出来る。でも昔とは違って今はアルバイトしか出来ないから結局高校に通うべきという循環になるのだ。……アルバイトした事ないけど。

 とりあえずカーテンを開けて日を浴びる。今日も太陽は眩しい、太陽は直視してはいけないというけど別に直視した所で目をつぶって残像が残るだけだし、そんな何十秒も見る訳じゃない。因みに万有引力で有名なアイザック・ニュートンさんは光学で試したい事があって太陽を直視し続けた結果、特に何も無かったらしい。だからといってそれは幸運だっただけかもしれないし、自分達は試そうとも思わない。そこまでしてやるものでもないし。


 さて、窓を開けて遠くを見た所で着替え始める。まずはブラジャーとパンツだけの状態になりそこからスパッツを履く。これは学校の制服のスカート上バイク跨った時にパンモロになる状態が多いから必要条件であり対策。そこから後は順に着ていく。自分がスパッツ女子だと知って嬉しがる人がいる? とんだ変態だな、このスパッツでなんで嬉しがるのやら、スカートめくってスパッツが見えるよりパンツ見えたほうが嬉しいんじゃないのか。希少価値なのやらか。


 準備し終わった所でギシギシと階段を降りて……そのまま真っ直ぐに玄関に行く。因みにシューズは学校指定のスポーツシューズだから安心。でも左足はシフトレバーのシフトアップ動作で傷だらけ。――これは宿命だからしょうがない。


「準備完了、行ってきます……」


 玄関を開けると見えるのが日産のスカイラインとその横の自分のGSR400、いずれかスカイラインに乗る事にはなるだろうけど。ウチの人も何回も車を変えてるからこれに乗るとは限らないだろうな。第一この車が動いた所をほとんど見ないんだけどちゃんと乗ってるのだろうか。

 勿論、乗るのはGSRの方。鍵を刺してONまで回す。セルスターターで――一回は付くんだけど直ぐに停止する。な・の・で、もう一回付けてチョークを引っ張る。寒い時期に入るとこれがあるからツラい。舞弥はキックだから直ぐに付くだろうけど。

 さぁ温め終わった所で出発する、直ぐに出発できるように前を向かせてるからそのまま左に走る。




 暫く走り続けて信号待ち、八時迄に着けばいいから約一時間の走行。電車は混んでても道路は混んでないからどちらを選ぶか、勿論道路を選択。

 ここの信号は長いな、左のミラーに映った常日高校の制服の女の子を見る、綺麗に茶色掛かった髪色をした女の子。別に高校の近くだから違和感は無いけど細道を見ては立ち止まったり自分の目の前にある信号を渡ろうか渡らないかと随分もどかしい行動をしていた。

 自分と同学年のリボンをしていたし、通学途中で何かを探しているのだろうか。自分は面倒だなと思いながらスタンドを降ろしてその子に近づく。


「どしたの? 探し物? 学校そろそろ始まっちゃうけど」

「あっ、良かった。常日高校の子? 場所教えてもらえる?」

「――は?」


 その制服を着てるのに場所を教えてもらえるというのはどういうことだ。

 ヘンに思ったが――


「ここを真っ直ぐ行ったら見えるからそこが常日高校な。じゃあ自分は行くね」


 それだけを教えて自分はまたバイクに跨って走る。

 お礼なんて気にしない、自分は早く学校に行って終わらせたいからだ。今日だって面倒な事が多い。



  ※  ※  ※  ※



 何かと朝が早い麻衣と舞弥、もうバイクがいつもの位置に置いてある。自分はそのバイク達の横に止める。バイク四大メーカーの内の三メーカーのバイクがここに集まっている。GSR400とCB400SBとSR400――後の一メーカーkawasakiが無いけどいつか集まるのだろうか? 上手い具合にメーカーが分かれたけどこんな仲良しなのも中々無いだろう。

 さて、自分も教室に入るとしよう。




 ホームルーム前にいつもよりもざわざわとしているが何かあったのか?


「羽海ちゃんおはよう!」


 麻衣は自分の存在に気付いてこっちに近づいてくる。


「よう、今日この教室はうるさいな」

「うん、転校生が入ってくるって」


 転校生か――こんなしょぼくれた高校に何をもって入ってくるのやらか。自分は別に気にもならないので机にさっさと座る。


「どんな子が入ってくるのかなぁ?」

「知らね」


 冷たい言葉を吐いて麻衣は驚く。


「友達になりたいとか思わないの?」

「別に」

「結構羽海ちゃん酷いね」


 酷い――と言われてもまぁ麻衣はそう思うだろうに、自分はさっき言った通り気にもならないから冷たい言葉も吐ける。


「おーい席に着けー」


 いつぞやかのカレー先生が入ってきて皆が席に座る。


「今日転校生紹介するから、入ってきて」


 皆の期待が高まる。高まる中で自分だけは机にひれ伏して視線だけを扉一点に見る。

 そして扉から入ってくる転校生、その姿には既視感があった。

 ――あれは今日見た、道端で迷っていた子か?

 教壇の上に立って一礼をして黒板に名前を書き始める。――刃連鰻、全く読み方が分からなかった。恐らく下の名前は『ウナギ』なのだろうが、その子の親もどうして『ウナギ』という名前にしたのかも分からなかった。上の名前のその文字『刃連』の読み方はなんだろう……はれん?


「埼玉県から転校してきました、刃連ゆきいむなぎです。宜しくお願いします」


 一礼ペコリ。下の名前は『むなぎ』だったか。流石に『ウナギ』なんて読み方はしないか、ちょっと変だもんね。


「席はあいうえお順で刃連だったから――あいつの隣だ」


 そう指差されたのは自分だった。隣は昨日休みの奴だったから今日も休みと思っていたがまさかそこの席だったとは。

 むなぎは指差された自分を見て驚く、そりゃそうだ。だって今日の朝会っていたんだもの。自分に控えめに手を振って席に座る。自分はいつもこういう処理の役割に回されるけど面倒だから止めてほしい。


「今日会ったね」

「……」


 会ったからこそ恥ずかしい今。パン咥えて曲がり角でぶつかるよりはマシかもしれないけど、定番のそんなイベントはいらない。図ったかのような行動に見えるからこそいらないと思うんだ。そんな感じの偶然の出会いで鰻には悪いけど自分は気に食わない。




 ――正午

 お昼休みになると定番かのように転校生むなぎの方へと皆が集まってくる。麻衣もその一人だ。あいつの友達を作ろうという意思は鉄だから崩壊は不可能。


「むなぎちゃん! むなぎちゃん! むなぎちゃんはじゃんけんの時最初に何をだす?」


 麻衣は一体何を聞いているのだか。麻衣の質問にむなぎは困惑する。


「ぐ、グーかな?」

「せいかーい! 友達ぃ」


 よくわからない友達のなり方だ。他のを出してたら友達にはなれないのか?

 自分は買ってきたマッコーX(マッ缶のペットボトル版)とパンをモグモグしながらむなぎの方向を見ていた。むなぎは自分が見ているのに気付いたのか近づいてくる。自分は面倒だけどこれに対応しなければならないのか。


「あのー、名前は――」

「名柄川羽海、羽海でいいよ」

「えっと……朝はありがとう」

「どうも」


 自分はひたすら面倒、目線も合わせずにパンの包装をバリっと破る。そんなそっけない態度に麻衣は後ろから羽交い締めをする。


「オイッ、コラッ! 何をする! 人が食べてる時に!」

「羽海ちゃ~ん? いつも通りなんだから~、むなぎちゃん本当はこういう子じゃないからね~?」


 パイとパイと腕に挟まれる自分、苦しい。見ろ、こういう事するからむなぎが困ってるじゃないか。


「うん、朝に会った時優しかったから分かるよ」

「朝に会ったんだ~、そう抜け駆けしちゃって~」


 更に強く負担がかかる。

 自分は机を叩いて降伏の合図。麻衣は離してくれた。


「結構恥ずかしがり屋さんだからね、羽海ちゃんは」

「うるさいっ」


 むなぎが笑っているではないか、余計に恥ずかしい。自分はなるべく目立つ行動をしたくないから今日は一人でコンビニに行ってマッコーXとパン各種を買ってきてそっとここに座ったのに麻衣のせいで台無し。別に深い仲良しになりたい訳じゃないから大人しくしてたのに。


「羽海さん? 何か質問ってある?」


 ムナギが自ら質問があるか? と話しかけてきた。


「なんで『鰻』なんだ?」


 いきなり名前についての突っ込んだ質問。自分が気になるのはここだけ、刃連とかは気にならなかった。別に名字なんて変なのはいっぱいあるからな。名柄川みたいに。


「『鰻』っていうのは……元々『むなぎ』って読み方みたいで、私が七月三十日の『丑の日』産まれだからかな?」

「ほー、私の一ヶ月前に産まれたのか」

「羽海さんは八月三十日?」


 でも、丑の日だからって『鰻』は無いだろーって思ったけど、まぁ『ウナギ』よりはマシかな? 訳もしっかりしてるし何も言わなかった。


「そういえば、バイクに乗ってたけどもしかして……遠くに置いたりとかしてるの?」

「残念ながらアレは公認、普通に駐車場に置いてあるよ」


 前にも言ったけどここは乗り物での通学が公認されている。別に黙認されているわけではない。でも、車両は高額がゆえ乗る人が少ない。特に車で通学する人なんて他には居ないし、バイクはスクーターとか乗る人ばかりで高排気量のバイクに乗る人は自分と麻衣と舞弥だけだ。サークルとか出来そうな勢いだけど、残念ながら通学のみの公認でバイクのサークルを作るのは許可されていない、なんで知ってるかって? 麻衣が以前に部活を制作しようと思って部の届けを出したら内容が滅茶苦茶で人数が自分含めて二人だったから許可が降りなかった。そりゃそうだな。


「後でもっと近くで見てもいい?」

「乗るのは駄目だけど見るのはいいよ」


 一番に目が輝いていたのは麻衣なんだけどな。お前のバイクなんか教習所に行けばいくらでも見れるんだよ。

 ――昼休み終了のチャイムが鳴る。

 次は現代社会の時間、むなぎが転校生でまだ教科書が出揃っていないから机の端を合わせて一緒に社会の教科書を見ていた。新品のノートとか初々しさが満載。自分達の去年もこんな感じだったな。

 ――そういや、何冊か麻衣が「忘れた」とか言って何冊か新品のノート持っていったけどそれを麻衣は使っている。もう書き込みが激しいから今返してと言ってももう書き込み出来ないだろう。麻衣からの盗難率は異常。

 むなぎは聞き忘れた事があったのか、小さな声で質問をしてくる。


「いつからバイクに乗ってるの?」


 自分は特に抵抗もなく――


「麻衣に誘われて乗り始めたよ、別に乗りたくも無かったけど」

「仲良しなんだね」


 笑顔を見せてまた黒板を書き写す。別に今聞く事じゃないと思うんだけど……。

 一体なんなんだアンタは。




 全授業が終了、むなぎも片付けて「さ、バイク見せて」と急かしてくる。自分はせっかちな性格が嫌い。ちょっと転校生に対してのマイナスポイント。自分はゆったりと下校したいのだから。

 ……麻衣は既に終わったのか、むなぎの手を繋いで先に行った。はぁ、オッケーしたものの面倒だ。

 あんまりむなぎはバイクに対しての知識は無さそうだけど嬉しそうだったのはちょっとなんでだろう。女子としてはあんまり興味を持たない部類ではあると思うのだけどそんな魚みたいに食いついて来ても……。自分は鍵束をグルグルと指で回しての悠長な登場。


「羽海ちゃん遅い」

「何度でも言え、ほらバイクだ」


 自分は鍵を刺して近くで見ることを許可する。別に許可しなくてもこの人達は見に行くであろうけど。でも見る所がやっぱり素人だ。素人と言われても見る所で何が素人? と思うが、基本的にエキゾーストパイプの本数とかマフラーとかを最初に見るのがプロだと思ってる自分の偏見だ。むなぎはメーター周りを見てのタンクを見ての繰り返し。CBとSRを見ても同じ所しか見てなかった。

 舞弥が何事かとこっちにやってきた。


「羽海殿、麻衣様。えーっと……どなた?」

「今日転校してきた刃連鰻です。よろしくおねがいします」


 一礼、それに対して舞弥も一礼。


「砂原舞弥です。宜しくお願いします……」


 後輩に対してあまりにも丁重すぎて舞弥もキョトン。


「舞弥さんはこれ?」

「そ、そうです。私のバイクはSR400です……」

「可愛いですね」


 沈黙――? 自分以外に対しては毒舌な舞弥が沈黙するとは珍しい。


「ちょっと跨ってもいい?」


 むなぎが舞弥のSRに対して跨ってもいい? と問う。それに対して舞弥は「どうぞ」と快く返す。


「ん……しょ」


 他の生徒にパンツが見えないように股を抑えての跨がり。なんか舞弥よりもむなぎの方が似合ってる気がするな。長い髪にクラシックバイクは似合う? 他にも自分のと麻衣のも跨ってちょっと喜んだ顔をしていた。


「むなぎ、もういいか? そろそろ帰りたいから」

「うん」


 むなぎは降りてスカートの裾を元に戻す。


「ありがとう、はい」


 手を差し伸べて握手をしようとでも? でも握手ぐらいだったら別に減るものでも無いから握手をする。舞弥と麻衣にも握手を交わす。この行動に得はあるのだろうか……。

 自分はエンジンを始動して校門を出る。むなぎとは手を振って別れる。今日だけじゃむなぎの事は分からないな。抵抗はあった訳じゃないが、自分は相変わらず関わりを持ちたい訳じゃないから突っ込む事はやめよう。

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