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『未完成の英雄』と『未詳の青年』  作者: むぎ茶
第一章 偽りの平和
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第8話 白金の魔女

「さて、情報収集始めますか」


俺達は『ルミナス』という人物が何処にいるのか探るべく、人通りの多い大通りで聞き取り調査を始めた。


初めに聞く人は、この国の住人らしき男性。


「すみません、『ルミナス』っていう人を探してるんですが、何か知ってることありません?」


「おいおい冗談でもやめてくれよ、その名を聞くと運が逃げてしまう」


男性は嫌そうにそう吐き捨てて、どこかに行ってしまった。


「運が逃げるって、どうゆうことなの?」


「さぁ?何か勘違いしてるのかな?とりあえず、どんどん聞いてみるか」


俺たちは大通りを通る人たちに片っ端から声をかけた。


「……よせ、その名を口にするな。『白金しろかねの魔女』の呪いが移る」


「ははは…、この国であの『白金しろかねの魔女』の名前を使う人なんていないわよ。その探している人の名前が間違ってるんじゃないかしら」


「…テメェらさてはよそもんだろ、この国でその名を口に出す奴はいねぇ。悪いことは言わん、その名を口に出すのはやめとけ」


などと言われ、俺たちの質問は尽く拒絶されてしまった。


「……なによこれ。みんな、あんなに酷いこと言わなくてもいいじゃない」


「明らかに『ルミナス』って言葉を聞いた時、嫌な顔するもんな」


人々が揃って言っていた『魔女』や呪いなどの負のイメージ。

おそらくだが、この国の人々が持つルミナスへの印象はいいものではない。


「一旦探すことより、ルミナスになぜ嫌悪が向いているのか調べてみるか」


「でも、みんなルミナスについて話したくなさそうよ」


「そうだよなぁ…聞いても怒らなそうな人を探したいけど」


「あ、あのパン屋の店主良さそうじゃない?」


カノンが指差す先には、穏やかな微笑を浮かべ接客する若い男性。

優しそうな印象だったので、カノンの提案に乗った俺は早速彼に聞き出すことに。


「ルミナス、ですか……?」


焼きたてのパンを差し出していた店主の手が、ピタリと止まった。


「おい、聞いたか? 今、あいつら『魔女』の名を口にしたぞ」


俺たちの『ルミナス』という言葉を耳にした客のささやき声が、刺々しい毒となって耳に刺さる。


「困りますよお客さん!そんな名をここで出されちゃあ、うちの評判に……いや、店の存続に関わります。 神の加護を汚すような真似は、他所でやっていただきたい」


店主は慌てて周囲の客を気にしながら、喉を鳴らすように小声で囁く。


「ごめんなさい、失礼なことだと分かっています。でもどうしても彼女のことについて知りたいんです。だからどうか話だけでも…!」


カノンは慌てる店主に向かって、深々と腰を曲げる。


「ちょっとお嬢さん…そうと言われても…」


そこに俺は追従するように腰を軽く曲げる。


「俺からもお願いします!あとでこの店のパン、10個買いますんで!」


店主は天を仰ぐように深く溜息をつくと、肩の力を抜いた。

二人のあまりの熱意に、張っていた意地がプツリと切れたような顔だ。


「…あぁはい、分かりましたからっ!顔をあげてください、他の方に誤解を与えてしまう。…ごめんアリスさん、ちょっと他の接客頼めるかな」


「は、はい大丈夫です」


彼はアリスという女性に店を任せると、俺たちを店の奥へと促す。


「……特別ですよ?絶対パン10個、買ってくださいね」


トライアさんからのお金はたんまりある。少しぐらい散財しても怒られないだろう。


「もちろんですよ」


「ありがとうございます!」





表通りの喧騒が、厚い石壁に遮られて遠のいていく。

バックヤードには焼き上がったばかりのパンの熱気が立ち込め、小麦の香りが重く澱んでいた。店主は入り口の鍵を念入りに閉めると、俺たちの正面に腰を下ろした。


「えっと、それで二人は『白金しろかねの魔女』のことを知りたいんだね?」


さっきから聞く『白金しろかねの魔女』。

おそらく、ルミナスの二つ名的ものだろう。


「はい、おそらく」


「そうか珍しいね、この国であの魔女のことを吹聴する人なんてそういないから。その様子だと二人は他所の国から来たのかな?」


「はい、私たちはオルジン王国から来ました」


「そっか、だったらあの『魔女』の忌まわしき所業も知らないか」


「「忌まわしき所業?」」


「あぁ、代々この国に伝わる、『魔女』が起こした大罪だよ──」


彼は語った、『白金しろかねの魔女』と蔑称される『ルミナス』の大逆な過去を・・・。









時は600年前まで遡る。


それは聖教国ルミナリアが栄華を極める前、その土地には旧ルミナリアとなる国があった。


今のルミナリアの人口の約30分の1、およそ100万人ほどの小国である。

人口が少ないのは当然で、旧ルミナリアを囲む魔障の森『聖域の外縁』が原因だった。


当時、現在国に張られている『神の加護』による結界なんてものはなく、国民は森から襲来する魔物・魔獣・悪魔という魔族からの脅威に晒され脅える毎日だった。


しかしある日、存亡の危機にある小国に転機が訪れる。


旧ルミナリアの近くに集落を構える『エルフ』の民が、魔族に抗おうと共生を打診してきたからだ。


エルフは人間に比べ膨大な魔力量を誇り、魔法の才能に秀でた種族だ。

その彼らと協力すれば、魔族に怯える毎日に終止符を打てるのではないか、誰もがそう希望を灯した。


ただ、国内では不安も上がった。

エルフは他種族を拒む習性があり、突然人間との共生を願うのはおかしいのではないかと。


しかし、国家を守るため、当時の国王は国民の反論を押し切り、直ぐにエルフたちとの共生を図った。国内にエルフの住む住宅を建て、衣食住を取り揃えた。


そこから数十年、国民の不安とは裏腹に、エルフの活躍もあり森の魔族に怯える生活は過去のものとなった。


───はずだった。


ある日の夜、平穏の旧ルミナリアに火の手が上がる。


「ぎゃアァアあ゛ああ゛!!」


「助けて...!!誰か、誰かッ!!」


「なん...で...?今ま、でのは、嘘だったの...?」


人々が空を見上げると、夜空に浮遊し、街へ真紅の魔法を放つ女性が佇んでいた。


月光に照らされ、彼女の白髪が月に呼応するよう白く輝く。

そして、黒く塗りつぶされた夜空に、黄金の双眸が映っていた。


これが『白金しろかねの魔女』と語り継がれる所以。

エルフ族の長、ルミナスであった。


ルミナスに続くように残りのエルフの民も夜空に漂う。


共済を望んだエルフたちの裏切りだった。

そして、始まったのは魔法による蹂躙だ。


炎・雷・風・氷・水・地・闇の魔法


夜の暗闇に輝く七色の光となって、漆黒の夜を血に染める。


国民の悲鳴、絶叫、嘆き。

まさに、国は地獄と化していた。


その悪夢の中、民の生への願いが叶ったのか、地獄と化した空に、一筋の『純白』が舞い降りた。


雪のように透き通る肌、夜の闇さえも寄せ付けぬほどに白い長髪と双眸。

彼女が指先を振るうたび、狂い咲いていた七色の魔法は、まるで朝露が蒸発するようにその白光の中に消えていく。


明らかに人とは見えない、異常な容姿。

この人物こそが、この国の名前の由来である


唯一神:ルミナリアだ。


ルミナリアの力は絶大だった。

圧倒的な力で蹂躙するエルフたちを、彼女の白に輝く魔法で葬る。


そして、魔女:ルミナスとの聖戦。


一人で七色の魔法を操るルミナスを、白の魔法のみで対抗するルミナリア。


両者の力は拮抗していた。

しかし、結果はルミナリアの勝利だった。


ルミナリアの展開した、空を突き抜ける階層型巨大魔法陣。それは、殺傷能力ない、封印に特化した大魔法。


神の奇跡:『聖母の慈愛』


そのあまりに美しい名を持つ魔法は、あたたかな光の檻となって魔女を包み込み、そのまま音もなく大地へと沈めていった。


そして、ルミナスはこの国の地下深くに封印されたのだった────。








次回は『難航する魔女探し』です!お楽しみに〜



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