第8話 白金の魔女
「さて、情報収集始めますか」
俺達は『ルミナス』という人物が何処にいるのか探るべく、人通りの多い大通りで聞き取り調査を始めた。
初めに聞く人は、この国の住人らしき男性。
「すみません、『ルミナス』っていう人を探してるんですが、何か知ってることありません?」
「おいおい冗談でもやめてくれよ、その名を聞くと運が逃げてしまう」
男性は嫌そうにそう吐き捨てて、どこかに行ってしまった。
「運が逃げるって、どうゆうことなの?」
「さぁ?何か勘違いしてるのかな?とりあえず、どんどん聞いてみるか」
俺たちは大通りを通る人たちに片っ端から声をかけた。
「……よせ、その名を口にするな。『白金の魔女』の呪いが移る」
「ははは…、この国であの『白金の魔女』の名前を使う人なんていないわよ。その探している人の名前が間違ってるんじゃないかしら」
「…テメェらさてはよそもんだろ、この国でその名を口に出す奴はいねぇ。悪いことは言わん、その名を口に出すのはやめとけ」
などと言われ、俺たちの質問は尽く拒絶されてしまった。
「……なによこれ。みんな、あんなに酷いこと言わなくてもいいじゃない」
「明らかに『ルミナス』って言葉を聞いた時、嫌な顔するもんな」
人々が揃って言っていた『魔女』や呪いなどの負のイメージ。
おそらくだが、この国の人々が持つルミナスへの印象はいいものではない。
「一旦探すことより、ルミナスになぜ嫌悪が向いているのか調べてみるか」
「でも、みんなルミナスについて話したくなさそうよ」
「そうだよなぁ…聞いても怒らなそうな人を探したいけど」
「あ、あのパン屋の店主良さそうじゃない?」
カノンが指差す先には、穏やかな微笑を浮かべ接客する若い男性。
優しそうな印象だったので、カノンの提案に乗った俺は早速彼に聞き出すことに。
「ルミナス、ですか……?」
焼きたてのパンを差し出していた店主の手が、ピタリと止まった。
「おい、聞いたか? 今、あいつら『魔女』の名を口にしたぞ」
俺たちの『ルミナス』という言葉を耳にした客のささやき声が、刺々しい毒となって耳に刺さる。
「困りますよお客さん!そんな名をここで出されちゃあ、うちの評判に……いや、店の存続に関わります。 神の加護を汚すような真似は、他所でやっていただきたい」
店主は慌てて周囲の客を気にしながら、喉を鳴らすように小声で囁く。
「ごめんなさい、失礼なことだと分かっています。でもどうしても彼女のことについて知りたいんです。だからどうか話だけでも…!」
カノンは慌てる店主に向かって、深々と腰を曲げる。
「ちょっとお嬢さん…そうと言われても…」
そこに俺は追従するように腰を軽く曲げる。
「俺からもお願いします!あとでこの店のパン、10個買いますんで!」
店主は天を仰ぐように深く溜息をつくと、肩の力を抜いた。
二人のあまりの熱意に、張っていた意地がプツリと切れたような顔だ。
「…あぁはい、分かりましたからっ!顔をあげてください、他の方に誤解を与えてしまう。…ごめんアリスさん、ちょっと他の接客頼めるかな」
「は、はい大丈夫です」
彼はアリスという女性に店を任せると、俺たちを店の奥へと促す。
「……特別ですよ?絶対パン10個、買ってくださいね」
トライアさんからのお金はたんまりある。少しぐらい散財しても怒られないだろう。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます!」
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表通りの喧騒が、厚い石壁に遮られて遠のいていく。
バックヤードには焼き上がったばかりのパンの熱気が立ち込め、小麦の香りが重く澱んでいた。店主は入り口の鍵を念入りに閉めると、俺たちの正面に腰を下ろした。
「えっと、それで二人は『白金の魔女』のことを知りたいんだね?」
さっきから聞く『白金の魔女』。
おそらく、ルミナスの二つ名的ものだろう。
「はい、おそらく」
「そうか珍しいね、この国であの魔女のことを吹聴する人なんてそういないから。その様子だと二人は他所の国から来たのかな?」
「はい、私たちはオルジン王国から来ました」
「そっか、だったらあの『魔女』の忌まわしき所業も知らないか」
「「忌まわしき所業?」」
「あぁ、代々この国に伝わる、『魔女』が起こした大罪だよ──」
彼は語った、『白金の魔女』と蔑称される『ルミナス』の大逆な過去を・・・。
*
時は600年前まで遡る。
それは聖教国ルミナリアが栄華を極める前、その土地には旧ルミナリアとなる国があった。
今のルミナリアの人口の約30分の1、およそ100万人ほどの小国である。
人口が少ないのは当然で、旧ルミナリアを囲む魔障の森『聖域の外縁』が原因だった。
当時、現在国に張られている『神の加護』による結界なんてものはなく、国民は森から襲来する魔物・魔獣・悪魔という魔族からの脅威に晒され脅える毎日だった。
しかしある日、存亡の危機にある小国に転機が訪れる。
旧ルミナリアの近くに集落を構える『エルフ』の民が、魔族に抗おうと共生を打診してきたからだ。
エルフは人間に比べ膨大な魔力量を誇り、魔法の才能に秀でた種族だ。
その彼らと協力すれば、魔族に怯える毎日に終止符を打てるのではないか、誰もがそう希望を灯した。
ただ、国内では不安も上がった。
エルフは他種族を拒む習性があり、突然人間との共生を願うのはおかしいのではないかと。
しかし、国家を守るため、当時の国王は国民の反論を押し切り、直ぐにエルフたちとの共生を図った。国内にエルフの住む住宅を建て、衣食住を取り揃えた。
そこから数十年、国民の不安とは裏腹に、エルフの活躍もあり森の魔族に怯える生活は過去のものとなった。
───はずだった。
ある日の夜、平穏の旧ルミナリアに火の手が上がる。
「ぎゃアァアあ゛ああ゛!!」
「助けて...!!誰か、誰かッ!!」
「なん...で...?今ま、でのは、嘘だったの...?」
人々が空を見上げると、夜空に浮遊し、街へ真紅の魔法を放つ女性が佇んでいた。
月光に照らされ、彼女の白髪が月に呼応するよう白く輝く。
そして、黒く塗りつぶされた夜空に、黄金の双眸が映っていた。
これが『白金の魔女』と語り継がれる所以。
エルフ族の長、ルミナスであった。
ルミナスに続くように残りのエルフの民も夜空に漂う。
共済を望んだエルフたちの裏切りだった。
そして、始まったのは魔法による蹂躙だ。
炎・雷・風・氷・水・地・闇の魔法
夜の暗闇に輝く七色の光となって、漆黒の夜を血に染める。
国民の悲鳴、絶叫、嘆き。
まさに、国は地獄と化していた。
その悪夢の中、民の生への願いが叶ったのか、地獄と化した空に、一筋の『純白』が舞い降りた。
雪のように透き通る肌、夜の闇さえも寄せ付けぬほどに白い長髪と双眸。
彼女が指先を振るうたび、狂い咲いていた七色の魔法は、まるで朝露が蒸発するようにその白光の中に消えていく。
明らかに人とは見えない、異常な容姿。
この人物こそが、この国の名前の由来である
唯一神:ルミナリアだ。
ルミナリアの力は絶大だった。
圧倒的な力で蹂躙するエルフたちを、彼女の白に輝く魔法で葬る。
そして、魔女:ルミナスとの聖戦。
一人で七色の魔法を操るルミナスを、白の魔法のみで対抗するルミナリア。
両者の力は拮抗していた。
しかし、結果はルミナリアの勝利だった。
ルミナリアの展開した、空を突き抜ける階層型巨大魔法陣。それは、殺傷能力ない、封印に特化した大魔法。
神の奇跡:『聖母の慈愛』
そのあまりに美しい名を持つ魔法は、あたたかな光の檻となって魔女を包み込み、そのまま音もなく大地へと沈めていった。
そして、ルミナスはこの国の地下深くに封印されたのだった────。
次回は『難航する魔女探し』です!お楽しみに〜




