第9話 難航する魔女探し
「──と、魔女はこの地に封印され、ルミナリアは平和を取り戻したんだよ」
俺達はパン屋の店主からルミナスの過去について聴き終えた。
人間に協力を仰いだエルフが国民を裏切り、そしてそれを救ったのは唯一神ルミナリアだと。
確かに、この国がルミナリアを神として崇拝するのも通りだ。
そして、それはルミナスが魔女と呼ばれる理由でも言える。
「……ひどい、」
カノンは魔女の非道な行為に絶句してしまっている。
「加えて、ルミナリア様はこの国に魔族を拒む結界『神の加護』をお与えてくださった。それからルミナリアは急成長を果たし、今や世界有数の大国となったんだよ」
「なるほど…そうゆうわけか」
住人が言っていた『神の加護』、それはこの国を覆うルミナリアが張った黄金の結界のことで、魔族が蔓延る『聖域の外縁』からの襲撃を防いでいると。
確かに全て筋は通る。
しかし……一つ腑に落ちないことがあった。
「なんで、エルフたちは人間を裏切ったんだ?」
「そうだね……、エルフは人間を力で支配し、自分たちの国家を作りたかったんじゃないかな?」
「人間を使って国家の土台を作らせ、そこを乗っ取るって感じか……ん?どうしたカノン?」
ぐい、と服を引く感触に横を向く。
俺は横に座るカノンを見ると、カノンは不安のこもった眼差しで俺をじっと見ていた。
「ハクが本当に言ってたのは、この話にあるルミナスなの…?お姉ちゃんがこんな悪人を見逃すとは思えない、わ」
カノンの言うことは正しい。英雄アリアがルミナスと会っていた場合、彼女はおそらく魔女であるルミナスを倒そうと動いたはずだ。
ただ、あの記憶のルミナスには殺気というものは無く、黄金の双眸には諦めに近い感情が映っていた。
神に封印され、成す術も無く諦めてただけかもしれない。
だけど、記憶に映る女性が、歴史の魔女のような残虐行為をするとは思えなかった。
震えるカノンの声に、俺は努めて穏やかに頷いた。
「あぁ、容姿も一致している。ただ、俺が見た彼女の瞳にはそんな毒はなかった。俺たちは、その歴史が本当か確かめに行く、それだけだよ」
「…そうね」
一段とカノンが俺の服を引く力が強くなる。
「さっきからどうした?魔女が怖いのか?ビビっちゃった??」
「っ、うるさいわね!こ、怖くなんかないわ」
「うん、とっても反応が分かりやすい!」
俺たちの言い争いが始まると、事情の知らない店主は苦笑しつつ、椅子から立ち上がる。
「えっと…これでいいかな?二人の求めていた情報は」
「はい、完璧ですっ」
「ありがとうございました、店の邪魔してしまってすみません…」
「役に立ったのならいいですよ。私には、二人が何の話をしているかは分からないけど、君たちの冒険が上手くいくことを願っているよ。二人に神の御加護が在らんことを───」
こうして、俺たちは約束通りパンを10個買ってパン屋を後にした。
「さて、少し作戦を変えないとな」
「そうね…太古の昔に封印されたとなると、場所なんて知っている人なんかいないもんね」
「ふむ…どうしたものか」
俺は考えようと足組んで地面に座る。
「…前から思ってたのだけど、アンタって何か考え事する時、そうしなきゃいけないの?」
そこに思わぬツッコミが入り、思案の阻害を食らう。
「しなきゃいけないっていうか、この姿勢が一番落ち着くんだよ。文句があるんならカノンが考えたら?」
「文句があるなんて言ってないわよっ!はぁ…私はそういう考え事は苦手だからハクに任せるって決めてるの」
「それはそれでどうなんかな…、まぁいいか」
そもそも俺の役割は考えることだしな。
さてさて、思案に耽るとしよう。
あの話は600年前のことだから、ルミナスの居場所を知っているものは住民にはいないだろう。知ってるとしたら、封印した張本人のルミナリアぐらいか。
そして何より、あの話によればルミナスはこの地に封印されている。そもそも会うというか話すことが出来るのだろうか。
いや、その疑問の答えは出ている。
あの記憶では、少なくともアリアはルミナスと接触し対話している。
アリアが会ってから十年も経ってないはずだ、ルミナスの生死は分からないが、ここは生きていると仮定するしかない。
明らかな情報不足だ。
俺はなにか無いかと、今ある情報を精査する。
……そういえば、あの記憶では、ルミナスが自身のことを『書守』って言ってたっけ──
「あ、あった」
あるじゃないか、新たな情報が!
彼女は記憶の中で、本に囲まれた部屋に座っていた。
部屋に窓らしきものはなく、床には水が滴り、薄暗く湿った牢獄のような一室。
──地下だ。
封印かは分からないが、おそらく、彼女はこの国の地下にある書室にいる可能性が高い。
結論が出た俺はその場で立ち上がり、背筋を伸ばす。
今回は思案に10秒もかかってしまった。
「いつもはすぐに終わるのに今日は少し遅いじゃない。で、考えはまとまったの?」
「あぁ、ルミナスはこの国の地下の書室にいる」
「書室?彼女は封印されてるんじゃないの?」
「俺もそこは少し引っかかるけど、まぁこの記憶を見てくれ」
俺はカノンの手を取り、ルミナスの記憶を伝導する。
「確かに…、その線はありかもね」
「それなら善は急げだ!レッツ、ゴーー!」
「れっつ、ごー、?」
こうして俺たちは、地下の書室についての情報を聞き出すべく、再度聞き込みに向かった。
のだが……
「まさかの全敗かよっっ?!」
「ほんとよ、自分の国の地理ぐらい分かってほしいよね」
俺たちは大通りにあったカフェで不満を打ち明けていた。
それもそのはずで、二時間の聞き込んだ結果、地下の書室についての情報が全く得られなかったからだ。
「そういうカノンはオルジン王国の地理全部分かるのか?」
「……うんっ!」
「絶対嘘だろっ!その間は!」
あ、そういえば。
カノンって、俺が尋問を受けている最中に入室した時、迷子になって遅れたとか言ってたな。魔力操作もサポートないとまだまだだし、しっかりした子に見えて案外抜けてるんだよね。
「ちょこっとだけ方向音痴なだけ!ってそんなことより、どうすんのよハク。もうすぐ夕暮れになるし、手がかりゼロよ?」
カノンの指摘は確かにそうだ。
まだ空は晴天の青だが、太陽はすでに傾いていて昼間の日差しの暑さが和らいでいる。夜まであと一時間半ぐらいだろう。
今日の収穫はほぼゼロ。
ルミナスの居場所の予想がついたのは良かったが、そこでまさかの行き止まりに当たるとは。
「とは言いましてもね、そもそも地下の書室なんて誰も行かないから、みんな知らないぽいね」
「ならなんで初めにそれを言わなかったのよ」
「そりゃやってみないと分からないだろ?仮説と結果は必ず一致するとは限らない、トライ・アンド・エラーだよ」
「最後の三拍子はよく分からないけど、なんか正しそうで腹立つわ」
「なんで俺は腹立たれてんだ…」
理不尽な怒りを受け、万策も尽き、重い沈黙に沈んでいたその時。
閉ざされていた扉を叩くような、穏やかな声が響いた。
「おや、お嬢ちゃんに若い兄ちゃん、書室を探しているのかい?」
「は、はい、そうです」
声をかけてきたのは…隣の席に座る年配の女性だった。
カノンは予想外の質問にぎこちなく答える。
「そうかいそうかい。今時、こんな若い子たちが本を求めて彷徨っているのが珍しくてね。ついつい声をかけてしまったよ」
その穏やかな微笑みに、俺は身を乗り出した。藁にも縋る思いだった。
「もしかして、今の俺たちの話、聞こえていました? あの、地下にあるという書室について、何か知ってます?」
「えぇえぇ、私がまだ若い頃、よく通っていた場所があってね。誰にも教えなかった、私だけの秘密基地のような場所さ」
その言葉が耳に届いた瞬間、俺とカノンの視線が火花を散らすように重なった。
万策尽きたと思っていた夕闇の底で、一筋の輝かしい救いが、向こうから歩み寄ってきてくれた。
有力情報を得た二人はさっそく地下書室に向かうが·····、ハクにある悪意が迫っていて───
次回第10話『白に染まる悪意』です!
お楽しみに〜




