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『未完成の英雄』と『未詳の青年』  作者: むぎ茶
第一章 偽りの平和
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第9話 難航する魔女探し

「──と、魔女はこの地に封印され、ルミナリアは平和を取り戻したんだよ」


俺達はパン屋の店主からルミナスの過去について聴き終えた。


人間に協力を仰いだエルフが国民を裏切り、そしてそれを救ったのは唯一神ルミナリアだと。


確かに、この国がルミナリアを神として崇拝するのも通りだ。

そして、それはルミナスが魔女と呼ばれる理由でも言える。


「……ひどい、」


カノンは魔女の非道な行為に絶句してしまっている。


「加えて、ルミナリア様はこの国に魔族を拒む結界『神の加護』をお与えてくださった。それからルミナリアは急成長を果たし、今や世界有数の大国となったんだよ」


「なるほど…そうゆうわけか」


住人が言っていた『神の加護』、それはこの国を覆うルミナリアが張った黄金の結界のことで、魔族が蔓延る『聖域の外縁』からの襲撃を防いでいると。


確かに全て筋は通る。

しかし……一つ腑に落ちないことがあった。


「なんで、エルフたちは人間を裏切ったんだ?」


「そうだね……、エルフは人間を力で支配し、自分たちの国家を作りたかったんじゃないかな?」


「人間を使って国家の土台を作らせ、そこを乗っ取るって感じか……ん?どうしたカノン?」


ぐい、と服を引く感触に横を向く。

俺は横に座るカノンを見ると、カノンは不安のこもった眼差しで俺をじっと見ていた。


「ハクが本当に言ってたのは、この話にあるルミナスなの…?お姉ちゃんがこんな悪人を見逃すとは思えない、わ」


カノンの言うことは正しい。英雄アリアがルミナスと会っていた場合、彼女はおそらく魔女であるルミナスを倒そうと動いたはずだ。

ただ、あの記憶ログのルミナスには殺気というものは無く、黄金の双眸には諦めに近い感情が映っていた。


神に封印され、成す術も無く諦めてただけかもしれない。

だけど、記憶ログに映る女性が、歴史の魔女のような残虐行為をするとは思えなかった。


震えるカノンの声に、俺は努めて穏やかに頷いた。


「あぁ、容姿も一致している。ただ、俺が見た彼女の瞳にはそんな毒はなかった。俺たちは、その歴史が本当か確かめに行く、それだけだよ」


「…そうね」


一段とカノンが俺の服を引く力が強くなる。


「さっきからどうした?魔女が怖いのか?ビビっちゃった??」


「っ、うるさいわね!こ、怖くなんかないわ」


「うん、とっても反応が分かりやすい!」


俺たちの言い争いが始まると、事情の知らない店主は苦笑しつつ、椅子から立ち上がる。


「えっと…これでいいかな?二人の求めていた情報は」


「はい、完璧ですっ」


「ありがとうございました、店の邪魔してしまってすみません…」


「役に立ったのならいいですよ。私には、二人が何の話をしているかは分からないけど、君たちの冒険が上手くいくことを願っているよ。二人に神の御加護が在らんことを───」


こうして、俺たちは約束通りパンを10個買ってパン屋を後にした。


「さて、少し作戦を変えないとな」


「そうね…太古の昔に封印されたとなると、場所なんて知っている人なんかいないもんね」


「ふむ…どうしたものか」


俺は考えようと足組んで地面に座る。


「…前から思ってたのだけど、アンタって何か考え事する時、そうしなきゃいけないの?」


そこに思わぬツッコミが入り、思案の阻害を食らう。


「しなきゃいけないっていうか、この姿勢が一番落ち着くんだよ。文句があるんならカノンが考えたら?」


「文句があるなんて言ってないわよっ!はぁ…私はそういう考え事は苦手だからハクに任せるって決めてるの」


「それはそれでどうなんかな…、まぁいいか」


そもそも俺の役割は考えることだしな。

さてさて、思案に耽るとしよう。


あの話は600年前のことだから、ルミナスの居場所を知っているものは住民にはいないだろう。知ってるとしたら、封印した張本人のルミナリアぐらいか。


そして何より、あの話によればルミナスはこの地に封印されている。そもそも会うというか話すことが出来るのだろうか。


いや、その疑問の答えは出ている。

あの記憶ログでは、少なくともアリアはルミナスと接触し対話している。


アリアが会ってから十年も経ってないはずだ、ルミナスの生死は分からないが、ここは生きていると仮定するしかない。


明らかな情報不足だ。


俺はなにか無いかと、今ある情報を精査する。


……そういえば、あの記憶ログでは、ルミナスが自身のことを『書守しょもり』って言ってたっけ──


「あ、あった」


あるじゃないか、新たな情報が!

彼女は記憶ログの中で、本に囲まれた部屋に座っていた。

部屋に窓らしきものはなく、床には水が滴り、薄暗く湿った牢獄のような一室。


──地下だ。


封印かは分からないが、おそらく、彼女はこの国の地下にある書室にいる可能性が高い。


結論が出た俺はその場で立ち上がり、背筋を伸ばす。


今回は思案に10秒もかかってしまった。


「いつもはすぐに終わるのに今日は少し遅いじゃない。で、考えはまとまったの?」


「あぁ、ルミナスはこの国の地下の書室にいる」


「書室?彼女は封印されてるんじゃないの?」


「俺もそこは少し引っかかるけど、まぁこの記憶ログを見てくれ」


俺はカノンの手を取り、ルミナスの記憶ログ伝導パスする。


「確かに…、その線はありかもね」


「それなら善は急げだ!レッツ、ゴーー!」


「れっつ、ごー、?」


こうして俺たちは、地下の書室についての情報を聞き出すべく、再度聞き込みに向かった。


のだが……


「まさかの全敗かよっっ?!」


「ほんとよ、自分の国の地理ぐらい分かってほしいよね」


俺たちは大通りにあったカフェで不満を打ち明けていた。

それもそのはずで、二時間の聞き込んだ結果、地下の書室についての情報が全く得られなかったからだ。


「そういうカノンはオルジン王国の地理全部分かるのか?」


「……うんっ!」


「絶対嘘だろっ!その間は!」


あ、そういえば。

カノンって、俺が尋問を受けている最中に入室した時、迷子になって遅れたとか言ってたな。魔力操作もサポートないとまだまだだし、しっかりした子に見えて案外抜けてるんだよね。


「ちょこっとだけ方向音痴なだけ!ってそんなことより、どうすんのよハク。もうすぐ夕暮れになるし、手がかりゼロよ?」


カノンの指摘は確かにそうだ。

まだ空は晴天の青だが、太陽はすでに傾いていて昼間の日差しの暑さが和らいでいる。夜まであと一時間半ぐらいだろう。


今日の収穫はほぼゼロ。

ルミナスの居場所の予想がついたのは良かったが、そこでまさかの行き止まりに当たるとは。


「とは言いましてもね、そもそも地下の書室なんて誰も行かないから、みんな知らないぽいね」


「ならなんで初めにそれを言わなかったのよ」


「そりゃやってみないと分からないだろ?仮説と結果は必ず一致するとは限らない、トライ・アンド・エラーだよ」


「最後の三拍子はよく分からないけど、なんか正しそうで腹立つわ」


「なんで俺は腹立たれてんだ…」


理不尽な怒りを受け、万策も尽き、重い沈黙に沈んでいたその時。

閉ざされていた扉を叩くような、穏やかな声が響いた。


「おや、お嬢ちゃんに若い兄ちゃん、書室を探しているのかい?」


「は、はい、そうです」


声をかけてきたのは…隣の席に座る年配の女性だった。

カノンは予想外の質問にぎこちなく答える。


「そうかいそうかい。今時、こんな若い子たちが本を求めて彷徨っているのが珍しくてね。ついつい声をかけてしまったよ」


その穏やかな微笑みに、俺は身を乗り出した。藁にも縋る思いだった。


「もしかして、今の俺たちの話、聞こえていました? あの、地下にあるという書室について、何か知ってます?」


「えぇえぇ、私がまだ若い頃、よく通っていた場所があってね。誰にも教えなかった、私だけの秘密基地のような場所さ」


その言葉が耳に届いた瞬間、俺とカノンの視線が火花を散らすように重なった。

万策尽きたと思っていた夕闇の底で、一筋の輝かしい救いが、向こうから歩み寄ってきてくれた。


有力情報を得た二人はさっそく地下書室に向かうが·····、ハクにある悪意が迫っていて───


次回第10話『白に染まる悪意』です!

お楽しみに〜



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