第6話 奇妙な連携
この第六話から、新章『偽りの平和』が始まります!
『記憶』の中にいた女性:ルミナス。
一体、ルミナリアで二人にどんな冒険が待っているのだろうか───。
トライアさんに見送られ、俺たちはオリジン王国を旅立った。
過酷を極める冒険の始まりだと思っていたが、意外にも最初の一週間は快適だった。整備された街道のおかげで、ひたすら歩いて寝るだけの穏やかな旅路。
しかし、出発して八日後。状況は一変する。
街道の舗装が途切れ、足元は不安定な砂利道へと変わった。そして、俺たちは魔獣という「本物の脅威」を知ることになった。
「なんで急に魔物が湧いてくるんだよ!?」
現在、俺たちは全長三メートル級の、皮膚が岩のように硬質化した熊の魔獣に襲われ、全力で逃走していた。
「やっぱり『聖域の外縁』に入ったみたい!」
「『聖域の外縁』!? なんだそれ?」
「ルミナリアを囲む、魔族の多い森のこと!」
「物騒な場所だな、おい!!」
さっきから狼型や蛇型の魔物に立て続けに襲われているのはそのせいか。これまでの敵はカノンの紅炎で容易く駆逐できていたのだが、今度の相手は勝手が違う。
「ちょ……俺、そろそろ体力の限界かも!!」
「はぁ!? アンタ何のためについてきたのよ!」
「いや、そもそもなんで蒼炎が出せなくなってんだよ! 前はできてたじゃん!」
「なんか分かんないけど、できないものはできないの!」
やっぱりか。今までの魔物をすべて紅炎で倒していたから、なぜ蒼炎を使わないのか問い詰めたことがあった。その時、彼女はこう言っていた。
『えーと……まぁ、本気出すほどじゃないってこと! わざと、わざと!』
……おそらく、あの時も出せなかっただけだろう。
「はぁ…しゃーなし、もう一回するぞ」
俺は並走するカノンの手を握って立ち止まり、『英雄の導』の権能:『共鳴の領域』の『伝導』を行う。
「ひゃっ…!な、何すんのよ!この変態!」
手を握られたカノンの頬は赤く染まり、俺の手を振り解こうとブンブン腕を回す。
「いや乙女か!アイツが来るまで時間ないから、前の記憶流すぞ!」
俺は前に流したアリアさんの映像をカノンに『伝導』する。
「あっ、そういう──わ、分かってたから!」
カノンは誤魔化すようにそう叫んで、カノンの白銀の剣に纏う紅炎が蒼炎へと変化する。
「……よし、そんじゃあとは任せた!」
「結局倒すのは私なのね…」
「もちろん、俺に戦闘ができるとでも?」
「はぁ…一緒に冒険する人間違えたかも」
カノンは大きく息を吐くと、視線を熊へと移す。
そして、カノンの蒼炎の剣が魔獣へと牙を剥く。
「そこッ!!」
カノンの咆哮とともに、蒼穹を切り裂くような閃光が一閃。
少女の蒼い業火が魔獣の足は斬り落とし、その勢いのまま腹部へ致命的な裂傷を刻み込んだ。
三メートルを超える肉塊は、自重を支えきれず「グシャリ」と不快な音を立てて崩れ落ち、腹の底に響く鈍い地鳴りを鳴らして倒れこんだ。
「ふぅ。どうよハク、私はやればできる子なの」
カノンは腰に手を当て、自慢するように俺へ親指を立てる。
「その堂々と振る舞える図太さには感激だね──」
俺はカノンの方へ向かおうとした、その時だった。
──危険を確認
──『英雄の導』権能:『因果の予見』作動。
「は?」
鼓膜を突き刺すような、無機質な機械音が脳内を支配する。
視界が強制的にシステムカラーの灰色に染まり、目の前の光景に、アリアの『記憶』が重畳表示された。
(……クソッ、何だこれ!)
映像の中のアリアは、倒したはずの熊が死に際に爪から放った『不可視の真空刃』を、紙一重で受け流している。
そして、その記憶と同期するように、俺の網膜にカノンの首が音もなく吹き飛ぶ「確定した未来」が映し出された。
俺はそれが実際にあったことと錯覚するが、今のカノンは健気にグットサインをしている。
さっきのは現実ではない、記憶に近しい何か。
考えている場合ではない、と俺は間髪入れずにカノンへ叫ぶ。
「カノンっ!全力で避けろ!!」
「えっ──」
カノンが本能的に横へ回避行動した、その刹那。
パキィィィィィンッ!
空間そのものが引き裂かれるような乾いた音がしたかと思うと、カノンの背後にあった巨木が、まるで爆弾が炸裂したような轟音とともに両断され、凄まじい土煙を上げて地面を叩きつけた。
カノンの右頬には一筋の切り傷、そこから真紅の血が頬を滴っていた。
熊の魔獣はというと、その不意打ち攻撃を最後に一寸も動かなくなった。
「カノン!大丈夫か?」
俺は不意の攻撃に呆然とするカノンの元に駆け寄る。
「う、うん、大丈夫。ハクが叫んで教えてくれたから。…けどなんで攻撃が来るって分かったの?」
「いや、なんか脳内に映像が流れたんだ、カノンの首が、魔獣の見えない斬撃によって吹き飛ばされるっていう」
俺も今起きた現象を把握しきれていない。
けど明らかなのは、これも『英雄の導』の権能だってこと。
確か、『因果の予見』って聞こえた気がする。
俺はカノンの首が本当に斬られてないか、執拗に首を触って確認する。
しかし、心配とは裏腹に首には傷一つなかった。
「ちょ…何して、ってくすぐったい…!」
「良かった良かった、生きてるっぽいね」
俺は確認を終わり、カノンの首から手を離す。
「はぁはぁ…生きてるわよ。でもそのハクが見たっていう映像では、私は死んでいたってこと?」
「そう、そしてその映像でカノンを殺した不意の斬撃は、本当に来た。…これってつまり──」
「『予知能力』ってこと?」
「大正解〜」
『因果の予見』は、その名の通り未来を予見する権能なんだろう。そして予見の前に流れたアリアさんの記憶、つまりアリアさんは過去にこの熊の魔獣と相対していることが分かる。
だから今回、この魔獣が死に際に放つ、道連れのための初見殺し技『不可視の真空刃』を回避できた。
つまり、仮定だがこの権能のカラクリは…
英雄アリアの過去に相対した敵の情報から、敵の行動パターンを読みとり、実際の敵の行動を予測すること。
予知能力、というか『未来予測』の方が意味合い的に合ってるかも。
「これ、今までの権能の中でずば抜けて有能じゃね?!」
「…なんか一人で凄い興奮してるけど、これでアンタはお荷物じゃなくなったわけ?」
「お荷物とは失礼な!?俺だって避けるぐらいはできるし!……けど攻撃力はないから、そんときは助けてね」
「結局お荷物なのね。…けど予知能力は上出来よ」
「上から目線が腹立つけど、そうだろ?」
こういうわけで、開幕早々カノン死亡ルートを辿ることは回避し、新たな権能が開花した。
今、俺の『英雄の導』の権能をまとめると
Ⅰ『因果の予見』:俗に言う『未来予測』。
Ⅱ『共鳴領域』:俺に流れる記憶を他者に共有することができる。
Ⅲ 発動条件は不明だが、アリアの記憶を閲覧できる。
この三つになるだろう。
それにしてもだ、すべての発動条件が不明な点はよくないと思う。特殊能力の取扱説明書とかはないんだろうか?
「……まぁ、とりあえず。カノンは俺の補助なしで蒼炎を維持できるようにしよっか」
カノンの剣に纏う炎は、さっきの蒼炎からいつもの紅炎に戻っていた。
「んぐっ、頑張ります…」
的を得た指摘に表情が強ばるカノン。
この子、魔力操作が本当に雑。そして慢心も課題と見えた。
ただ、カノンの蒼炎は映像中のアリアの火力を凌ぐと俺は思っている。
つまり、使いこなせれば英雄を超えることも不可能ではない。
俺は今後のカノンの育成方法を考えつつ、俺たちは聖教国ルミナリアに向けて再び歩き出したのだった。
新たな権能を獲得したハクたちは、ついにルミナリアに到着することとなる。
次回第七話『黄金の国』です!お楽しみに〜。




