第21話 作戦会議
こうしてルミナスの説得に成功し、俺たち四人での作戦会議が始まった。
「まずは情報の擦り合わせだ。ルミナス、あの地下空間について何か知っていることはあるか?」
「そうよの……あの地下研究所にたどり着くには、三つの障害がある。一つ目は階段下の結界、二つ目は研究所を覆う結界。そして最大の鬼門が、システムへのアクセス権じゃ」
「システムって、あのカプセル装置を制御しているやつのことか?」
「そうじゃ。あのシステムにアクセスできぬ限り、同胞を解放することはできぬ」
「……ん? ちょっと待て。ルミナスは階段下の結界が破れなかったんだよな? なんで中の構造に詳しいんだ?」
「あぁ、言うておらなかったか。我がアリアと向かった時は、まだ階段下に結界などなかったのじゃ。結局、二つ目の結界に阻まれたがな」
「あぁ……ルミナリアが後から絶望を付け加えたってわけか」
マジで性格がひん曲がっているな、あのふふふ星人。
「それで、そのアクセス権ってのは?」
「『神の加護』を維持するシステムへ干渉するためのものじゃ。元々は構築者である我と、かつての友人にしか権限はなかったのじゃが……今はルミナリアによって書き換えられておるのが道理だろうて」
……かつての友人というのは、おそらくルナっていう天才魔導士だろう。ルミナスの数少ない心を許した人物であり、そして最後はルミナスを裏切ったという。
「…まぁ、とりあえず一つ目と二つ目の結界に関しては問題ないな。アクセス権については出たとこ勝負だけど」
「小僧、二つ目の結界も解けるというのか?」
「実際に解いてないから確証はないけど、さっきの『下見』で構造は掴んでるからね」
「あぁ、ハクが帰り際にコソコソやってたやつね」
「そそ」
「ふむ……。我にも解けぬ結界を人間の貴様が解くとは、少々癪じゃな」
「なんで俺が八つ当たりされなきゃいけねぇんだよ」
平常運転に戻ったルミナスの傲慢さに辟易していると、リュイが横から手を挙げた。
「あの、念のため、地下の防衛機構についても話しておいたほうがいいと思います」
「防衛機構って、私たちを襲ったあのキモい白蜘蛛のこと?」
「それもあるが、本当に厄介なのは『守護者』じゃな」
「「守護者??」」
カノンと俺の声が重なる。
「はい、研究所へ侵入した外敵を排除する自動迎撃システムのようなものです」
「え、でも私たちが侵入した時は、そんなのいなかったわよ?」
「ふむ……おそらく、その守護者の作動条件は我なのだろう。白蜘蛛に関しては、単に貴様らの運が悪かっただけじゃな」
「なるほどね。で、その守護者ってのは強いのか?」
「本来の我の力ならどうとでもなる。じゃが……今の我では、少しばかり時間を食わされるな」
「本来ってのは?」
俺が問いかけると、リュイが沈痛な面持ちで補足した。
「この国を覆う結界『神の加護』には、ばぁちゃんの力を削ぐ特殊な魔法が展開されていて、本来の魔力を引き出せないのです」
「げっ、ルミナリアの奴、本当に抜かりねぇな……。えっと、つまり?ルミナスが本気を出せないわけで、こちら側が圧倒的に不利な条件下で戦うってわけか」
「それに、ルミナリア本人まで動くとなると、いよいよ厳しいわね……」
カノンが不安そうに眉をひそめると、ルミナスは鼻で笑った。
「ふん、奴が直接動く可能性は極めて少なかろう。彼奴は自ら手を汚すのを嫌うのじゃ。自身の手駒を操って盤面を支配する、それが奴の戦法じゃからな。今までも、ずっとそうじゃった」
「なるほど。じゃあ実質、俺たちの相手はその守護者とキモ蜘蛛どもだけってことか。───勝機はまだあるな」
俺はニヤリと口元を上げた。その『守護者』って奴とは、かつてアリアさんが一度戦っているはずだ。つまり、俺の『英雄の導』の本領発揮ってわけだ。
「いえ……恐らくですが、今回は『宮廷騎士団』も動く可能性があると考えたほうがいいでしょう」
水を差すように、リュイが神妙な面持ちで告げた。
「宮廷騎士団…昔に聞いたことあるわ。確か、ルミナリアの最高戦力って謳われていたはず」
「リュイ、お主は心配しすぎじゃ。今まで、あやつらが地下の件で動いたことなど無かったろう?」
「そうですが、今回は今までとは状況が違います。結界を破れるハクさんに、英雄の妹であるカノンさんもいる。そして……これが恐らく、僕たちにとって最後の作戦になる─── 、それはルミナリア自身もきっと気づいているはずです。あの人も、今度こそ本気で僕たちを潰しにくると思います」
宮廷騎士団──おそらく、この国の軍か警察のような組織か。
「なるほどの……。あ奴らが宮殿内に常駐しておる、ゆえに、宮殿の真下にある研究所へも、容易に援軍が送れるというわけか。……厄介極まりない」
「最悪の場合、守護者と騎士団の挟み撃ちになるってことね……」
結界、防衛機構、守護者、そして宮廷騎士団。
越えなければならない壁が多すぎる。対するこちらの戦力は、わずか四人。それぞれに障害を一つずつ割り振ったところで、手一杯だ。しかもそれは、神ルミナリアが直接動かないという、不確定な前提の上でのみ成り立つ薄氷の綱渡りだった。
頭を回せ俺。今ある情報から、一つずつ最適解を導き出せ。
まず、結界の解除は俺が担当するしかない。
残るは防衛機構、守護者、騎士団の三つ。研究所へ向かう通路で確実にぶつかる防衛機構と守護者には、複数戦力で対処するのが定石だ。となると、問題は宮廷騎士団だな。
「リュイ、宮廷騎士団の規模と強さはどのくらいなんだ?」
「宮殿内に常駐する騎士は一千ほどだと言われています。王の膝元を守る精鋭ですから、一人一人が相当の手慣れだと思います」
「手慣れの騎士が一千、か……」
俺は小さく顎を引いた。
最悪のケースだが、俺たちが地下で疲弊したタイミングで、地上から一千もの騎士団になだれ込まれれば、その時点でチェックメイトだ。つまり、エルフを解放する本隊とは別に、宮殿で騎士団を抑え込む『撹乱役』が絶対に要る。
しかし、正面突破での時間稼ぎはまず不可能。ルミナスを特攻させる手もあるが、彼女が地上に出ることをルミナリアが許すはずがない。俺たちの作戦はルミナリアが現れた時点でゲームオーバー。あまりルミナリアを刺激することはしたくない。
──なら、取るべき戦術は宮殿への『潜入・奇襲』による内部撹乱だ。突然の侵入者に宮殿内が大パニックに陥れば、騎士団は侵入者への対応に追われ、地下へ回される兵力は確実に激減する。
問題は人選だが、この特別任務には、変装や隠密に特化した奴がベストだ。
俺とルミナスは先の理由で却下。カノンは……、カノンがいないと『英雄の導』が本領発揮しないので、離すわけにはいかないから却下。
ということは……。
俺の脳内で、ピシャリと最後のパズルのピースが噛み合った。
いるじゃないか。適任どころか、そのために生まれたような魔法──『変幻魔法』で姿形を自在に変えられる、うってつけの潜入のプロが。
思考を極限まで加速させ、俺は弾き出した役割分担を口にした。
「───地下研究所へ向かうのは、俺、カノン、ルミナスの三人にする」
「えーと……僕は……?」
取り残されたリュイが、おずおずと手を挙げる。
俺は口元を不敵に歪め、彼に視線を向けた。
「ふふふ。君には別行動で、特別な任務に当たってもらうよ」
「あの……もの凄く嫌な予感がするのですが」
「大丈夫大丈夫、リュイの得意分野だよ。これから詳細を話すから───」
・
・
・
こうして、三時間にも及ぶ緻密な作戦会議が幕を閉じた。
「──よしっ! こんなもんだろ。決行は明日の夜だ、いいか?」
「うむ」
「はい!」
「うん……」
ルミナス、リュイ、カノンがそれぞれ同意する。
だが、最後に返事をしたカノンの様子が、どこかおかしいことに気がついた。
「どうしたカノン? いつもの怖がりが始まったか?」
いつもの軽い調子で茶化してみるが、カノンの表情は晴れない。彼女は眉の根を寄せ、深刻な目を俺に向けてきた。
「違うわよ。……少し、引っかかることがあって────」
はたして、ハクたちは囚われたエルフを救えるのか。そして、ルミナスの本当の希望となれるのか。エルフ解放編、ついに次回スタートです!
次回『宮殿地下大騒動』
お楽しみに〜!




