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第14話 ルミナス

「この指輪を身につけ、紙に書かれた場所を訪れてください。そこに、()()()()さんがいます」


「「!!」」


リュイは、すべてを託すような決意を固めた表情で俺たちに告げた。俺は机に置かれた指輪と紙を手に取り、その詳細を確認する。


指輪そのものには魔力も感じられない、いたって普通の指輪だった。だが、添えられた紙に書かれた場所を目にした瞬間、俺たちは顔を見合わせた。


「え? ここって、前に行った地下書室じゃない……」


隣で覗き込んでいたカノンが不思議そうに呟く。


その通り。そこは以前訪れた、ルミナスのいない空っぽの地下書室だった。


「これは、どういうことなんだ?」


「あの書室は特殊な術式で守られて、通常の方法では『真の姿』に辿り着けません。ですが、その指輪を嵌めて扉を潜れば、ルミナスさんのいる書室へと繋がります」


なるほど、そういう仕掛けか。

あの時感じた、不自然なほど綺麗に手入れされた本の違和感もそのせいだろうか。


「リュイさん。……あなたとルミナスさんは、一体どういう関係なんですか?」


カノンの問いに、リュイは一瞬だけ視線を泳がせ、寂しげに微笑んだ。


「……真実と同様、ルミナスさんの許可がないと言えません。ごめんなさい」


「…まぁいいだろ、カノン。ルミナスの居場所は分かったんだ。これ以上彼を追求する必要はない。行こう」


「それも、そうね……。ごめんなさい、リュイさん」


俺たちはルミナスの元へ向かうべく立ち上がり、部屋を後にしようとする。

だが、俺は扉に手をかける直前、どうしても気になったことを一つだけ尋ねた。


「あ、悪いリュイ君。最後に一つだけ。……なんでルミナスの居場所を教えてくれたんだ? 君にとって、一番守るべき情報だったはずだろ」


俺の問いに、リュイは呆気に取られた表情で固まってしまった。


やがて彼は、自分でも不思議そうに首を傾げる。


「……なんででしょうか。気がついた時にはお二人に託してましたね」


「そっか。ありがと、マジで助かった!」


俺は軽く手を挙げ、カノンを連れてリュイの家を後にした。







「これで、良かったのかな」


一人、静まり返った部屋に残されたリュイは、物思いに耽っていた。


彼らという『希望』、それは彼女にとって『絶望どく』になりかねない。

そのため、リュイは全てを話すことは避けた。


ただ、今日突然訪れたアリアの妹。

そして、自分たちを()()()()()()()()()女性と同じ純白の瞳をもつ青年。


その異質さに、なぜか、期待せずにいられなかった。


「二人とも頼みます、……ばぁちゃんを」







数日間、何度も通った道だ。

俺たちは手際よく例の地下通路を抜け、地下書室の扉の前に辿り着いた。


「えっと、確かリュイ君は『指輪を嵌めて入れ』って言ってたな」


どの指にするか迷ったが、サイズ的にしっくりきた右の人差し指に嵌めることにした。二人以上で入る時は、指輪の所持者に接触していれば同時に術式を抜けられるらしい。


俺はカノンの手をしっかりと握り、準備を整える。


「ひゃっ…!」


静かな通路に、カノンの情けない声が響く。


『英雄の導』の特性上、必要な接触があるのに、そろそろ手繋ぎくらいには慣れてほしいものだな。


「はぁ……。それじゃ、『魔女』とやらにお目にかかるとしましょうか」


「……なんでアンタが呆れてるのよ! 緊張感持ちなさいよ!」


俺はカノンのツッコミをスルーして、扉を押し開けた。

果たして、本当に彼女は居るのか。それとも──。


「初めまして。あなたを助けに来ましたよ、『白金しろかねの魔女』さん」


かつての書室には明かりなどなく、カノンの魔法の炎がなければ歩くことすらままならなかった。


だが、今回は違った。


室内は柔らかな白光に満たされ、整備された膨大な書棚が壁を埋め尽くしている。そして、部屋の中央。重厚な机に鎮座する、一人の影があった。


透き通るような純白の髪を、サイドダウンの三つ編みに結い、特徴的な長い耳を覗かせている。そして何より目を引くのは、その白髪とは対照的に、すべてを見透かすような輝きを放つ黄金の双眸。


美しくも、神々しい。

記憶ログで見た、栄華のルミナリアを象徴するその姿。


「……これは驚いた。どうやって入ってきた、小僧。それに、後ろの小娘も」


ルミナスは俺たちを睥睨し、重苦しい威圧を孕んだ言葉を突きつけてきた。

だが、カノンは臆することなくその問いに答える。


「リュイさんに教えてもらったんです。あなたの居場所を」


「……チッ、あの世話ガキ。なぜこんな連中に教えたのじゃ。面倒臭い……」


「面倒臭いとは失礼な。こっちもあちこち探し回って、ようやく見つけたんだ。感謝してほしいくらいだね」


「ふん、腹の立つ小僧じゃ。……して、なぜ我を探しておる? なぜ我にそれほど固執する?」


「英雄アリアが殺されたのは知っているか? 俺たちはその犯人を追っている。あんたは昔、アリアさんと接触しているはずだ。彼女について、何か知っていることがないか聞きに来たんだ」


「ほう? なぜ貴様らは、我がアリアと面識があると断定しておるのじゃ」


───!!


その瞬間、俺の脳内にノイズが走った。

これまでにないほど鮮明な『記憶ログ』が俺の脳を埋め尽くした。




⚫︎




視界はアリアさんのものだ。彼女の手の先には、目に見えない透明な壁が立ち塞がっている。


『……ごめんなさい。私にはまだ、この結界は解けないみたい…』


アリアの悲しげな声。それに応えたのは、どこか達観したような、けれど穏やかな声だった。


『そうか。我でも解けんのじゃ、「英雄」であるお前でも荷が重いのは道理。ここまででよい』


『本当に、ごめんなさい。約束したのに』


『よい、謝るな。我の力不足じゃ、お前のせいではない』


アリアが振り返ると、そこには俺たちの目の前に座るルミナスがいた。

彼女は慈母のような微笑みを浮かべ、挫けそうなアリアを優しく慰めていた。


『……でも、必ず戻ってきます! 魔王を倒して、この結界が解けるくらい強くなって、必ずルミナスさんをこの牢獄から助けます! だから、待っていてください!』




⚫︎




「これって…」


カノンと手を繋いでいた影響で、彼女にもリアルタイムに『記憶ログ」が流れたはずだ。繋いだ手から彼女の驚きが伝わってくる。


「…!、貴様、その純白の瞳は…っ!」


ルミナスは先ほどまでの平然さを捨て、何かに取り憑かれたように声を張り上げた。

この白い瞳、一体どれほど嫌われてるんだよ……。


「落ち着けって、俺には『英雄アリアの記憶を見る』特殊能力があるんだ」


「アリアの記憶じゃと?」


「あぁ、『色変わり』したのを見たろ?たった今、アリアさんとあんたが昔交わした会話の記憶が流れたんだ」


「ぬかせ。そんな出鱈目な能力など聞いたこともないわ。……ほれ、ならばその会話とやらを、ここで口にしてみせよ」


「随分な挑発なこと、いいね、乗った。よしカノン、手伝え」


「え?私!?」


呆然とするカノンを強引にアリア役に見立て、俺はルミナスを演じる。

先ほどの記憶に残された一言一句、一挙手一投足完全に再現してみせた。


「…………ほう、なるほど。その能力とやらは本物のようじゃな。ただの聞きかじりで、それほど正確に模写するのは不可能じゃろうからな」


だが、ルミナスは調子を崩すことなく、あたかも最初から知っていたかのような不遜な態度で鼻を鳴らした。


「くそ、やっぱ素人の大根役者じゃ、人の心を動かすのは無理だったか……!」


「そういう問題じゃないと思うんだけど?」


俺たちの緊張感のないやり取りに辟易したのか、ルミナスは重い吐息を漏らした。


「……して、小僧のことはよう分かった。そこの小娘。名は?」


「私は、カノン。アリアの妹です」


「……やはりな。どこかあの御節介な女と雰囲気が似ておると思ったわ」


ルミナスは納得した様子で椅子から立ち上がると、その尊大な態度のまま、氷のように冷たく告げた。


「貴様らがここに来た理由は理解した。……だが、先に結論を言うてやろう。我に、あの女について知っていることなど何一つない。収穫なし、ということじゃ。早々にこの部屋から立ち去れ。……不愉快じゃ」


ルミナスをようやく見つけて、ついに手がかりを掴めるかと思ったが──。

現実は甘くない。冒険とはそう上手くいかないものだと、俺たちは改めて思い知らされることになった。

ルミナスに残酷にも手がかりは無いと断言され、泣き寝入りするしかないハクたちだったが、彼はそう簡単に諦める性根ではないようで───


次回第15話『栄華の代償(1)』です!

お楽しみに〜

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