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第12話 純白の瞳と狂える白の誘惑

「ふふふ!いいわ、もっと、もっとその『特別』を見せて!!」


彼女は狂ったように音速を超える拳を乱れ打つ。

一つ一つが必殺の籠もった攻撃であり、拳が空を切っただけで部屋に旋風が吹き荒れる。


音速を超えた拳の軌跡が、光の尾を引く記憶ログとして視界に焼き付く。

思考するより先に、視界に映し出された英雄の残像が、俺の四肢を最適解へと導いていた。遅延ラグは──ゼロだ。


体がすごく軽い。

自分でも驚くほど、戦闘が成立していた。


これは『過去視の追走(ログ=トレース)』という権能のおかげだろう。

仮説だが、この権能は名前の通り、過去視、つまり英雄アリアの記憶ログを自身へ適用する。言い換えれば、俺が過去の英雄の動きを追走トレースすることにより、擬似的に自身の身体強化が出来るって感じかな。


凄いな、何もかもができる、そう錯覚するぐらいに体が動く。戦闘経験ゼロの俺が戦えていること自体異常だ。


俺は空間を埋め尽くす乱拳を交わしつつ、床を、壁を、天井を走り抜け、一気に彼女との距離を詰めた。


彼女の頭上にまで接近し、俺の間合に入る。


「──もらったっ!!」


「ふふ、残念、上も見ないとねぇ」


「なッ!?」


俺は頭上を確認すると、彼女の忠告通り、俺の上方には直径1mほどの白に輝く魔法陣が展開されていた。


「私の愛を受け取りなさい『白に染まる愛情(ヴィッテゾルゲ)』」


俺はすかさず体を上方に捻り、攻撃から防御体制へ切り替える。しかし───


「ガッ……?!」


背中に巨大な杭を打ち込まれたような重い衝撃が走り、俺の体は床へと叩きつけられた。肺から空気が強制的に弾け飛び、目の前がチカチカと白く明滅する。


魔法陣から放たれた純白の閃光。

俺はその閃光を剣で受け流そうとしたが、圧倒的な光の物量に為す術なく地へ撃ち落とされた。


「ふふふ、貴方は頑張った方よ、褒めてあげるわ」


「お前、は…初めに『ふふふ』って、言わないと、死ぬ病気か、なんか、か?」


「ふふふ、まだ無駄口を叩ける元気はあるのねぇ」


「ぐぁッ?!」


地を這う俺を彼女は無造作に蹴り飛ばし、俺は壁に鈍い音を立てて激突する。


(くっそ、、動けねぇ…)


先程まであんなに軽かった体も、今や閃光と蹴りを喰らい、まともに動けない状態になっていた。


彼女は満身創痍な俺に、音もなく近づき俺の顎に手を添える。


「さっきは一般人ゴミって言ってごめんなさいね。貴方のその白い瞳は『特別』、私の駒として最高の条件だわ」


「そ、れで、俺は認められたって、わけか?」


「えぇ。ふふふ、気分がいいわぁ。…そうね〜、『特別』な貴方には、特別に慈愛をあげる」


その言葉が鼓膜を響いた直後、唇に柔らかい感触が襲う。


「っ!」


「ふふ、『甘美なる処刑(シュトラーヘ)』よ」


唇から流し込まれた「甘美なる処刑(シュトラーヘ)」。

激痛が引くと同時に、細胞一つ一つが彼女のあいによって繋ぎ合わされる。身体にあった傷はみるみると初めの綺麗な肌へ再生していく。


恐怖はなかった。

代わりに俺を支配したのは、骨の髄まで白く塗りつぶされるような絶望的な愛情だった。


「もう一つ、貴方にご褒美をあげるわ」


彼女が白い何かを投げ渡す。

俺は恐る恐る拾うと、それは目印の書かれた地図だった。


「その目印に行ったら、きっと、貴方たちが欲するものが手に入るわ」


──違和感。


「……さっきの回復も、この地図も、アンタにとって不利益を被るって思うんだけど?どうゆう腹づもり?」


「あらぁ、その言い方だと、まるで貴方が私の正体を知っているみたいじゃない?」


「推測、でしかないけどね」


彼女の純白の髪に、白く輝く魔法。

それは、パン屋の店主から聞いた御伽話の『救世主』と合致する。


加えて、彼女はルミナスのことを『あの子』と言っていた。

つまり、二人には何か接点があるに違いない。


ルミナスは何百年もの間封印されている。

つまり、そのルミナスと知り合いとなれば…


自ずと、前に立つ彼女は『人智を超えた存在』だと推測できる。


「御伽話では、アンタはルミナスと敵対関係のはずだ。ならなぜ、アンタは俺たちをルミナスに会うように仕向ける?」


「ふふ、貴方は相当頭の良い子なのね。けど残念、今は答えられないわ。だけどね──」


彼女:ルミナリアは俺を慈しむように見つめ、優しく、それでいて冷血に囁いた。


「それが、あの子にとっての、一番のあいだもの」


そして、白に染まる女性は扉のない壁へ歩き出す。


「あ、それと、今までのことは誰にも言わないこと。私のために、そして貴方のためにも、ね」


その言葉を最後に、彼女は壁の中へ消えて行ってしまった。


「……全部、アイツの掌の上ってわけか」


ただ、ルミナスと会いたい俺たちと彼女の利害は一致している。

ルミナスの手がかりのない俺たちは、皮肉にもにも彼女の思惑に乗るしかない。


「はぁ…、完全にしてやられたな。ま、いいか!こうして生きながらえたことだし、乗ってやるさ」


こうして、俺は宿屋へ帰ろうとした。って…


「肝心の扉ねぇじゃん?!」


扉も無いのにスタスタ帰りやがって、あのふふふ星人!


俺は内心愚痴りつつも、彼女が消えていった壁へ歩みを進めようとした。


その時、俺の体に異変が訪れる。


「イッ?!」


一歩踏み出した瞬間、脚の筋肉という筋肉が燃えるような痛みに襲われた。

俺は激痛で思わず膝から崩れ落ち、受け身を取ることすら叶わず倒れ込む。


全身を襲う、筋肉が千切れるような鋭痛。

筋肉痛なんて生易しいものじゃない、過剰の運動に耐えかね、全身が悲鳴を上げているようだった。


「くっそ…、大いなる力には、大いなる代償を伴うって言うもんな…」


俺の境地を救った『過去視の追走(ログ・トレース)』、それは無条件の強化ではなかった。


それも当然だ、無理に強化し無理やり動かしてたんだ。その反動が来るのは必然と言える。


「あーあ、武力も最強になったと思ったけど、これも考えもんだな」


俺は立つことが出来ず、這いずる形で壁に向かう。見た目はただの石壁、俺はぶつかる覚悟でそのまま直進すると──


「うわ、ガチで見えない壁じゃん!」


壁に頭がぶつかることなく、俺はすり抜ける形で部屋から脱出する。


『実体のない壁』とも言うのだろうか。

魔法の類なのかは分からないが、とりあえず出れたので良かった。


部屋の外は狭い通路となっており、少し進むと地上に出る階段を見つけた。

激痛に耐えながらも、這いずりながら必死によじ登る。


そして、ようやく地上の光を拝むことに成功した。


「さて、この這いずり状態で宿まで戻らないといけないと…。マジであのふふふ女、次会った時覚えてろよ!」


「──え、あ!!いた!!」


彼女の愚痴を吐露したとき、偶然、聞き馴染みのある声が道路の方から聞こえた。


「おぉカノン!、いい所に。助けてくんね?」


俺はクネクネと芋虫のように這いずりながら、ナイスタイミングに来たカノンに接近する。


「き、キモ。何んで這いずってるのよ…」


カノンはまるで害虫を見る目で俺を見つめる。


「キモイって失礼な!こんなになるぐらい頑張って、新情報を手に入れてたんだよ」


俺は手に握っていた紙をカノンに渡す。


「これは…地図?」


「そっ、ここに行けば何か得られるかもしれないんだ」


「いやいや、色々とツッコミたいんですけど?!何がどうしたらその状態になるのよ」


彼女が去り際に放った言葉を思い出す。


『今までのことは誰にも言わないこと。私のために、そして貴方のためにも、ね』


『貴方のために』という言葉の真意が分からない。

ただ、言うべきではない、と俺の本能がそう告げていた。


「……まぁ、人生そんなこともある!それより、なんでカノンは俺の居場所分かったんだ?」


俺ははぐらかすように話題を変える。


「えっ、あ、あぁ、女の勘ってやつ?ねっ」


「…もしかして迷子──」


「違うっ!昼になってもアンタが宿屋に帰ってこないから探しに行って…、そしたら自分の居場所が分からなくなった、だけよ」


「それを迷子と言わずなんて言うんだよ…」


まぁ、今回に関しては俺が突然消えたのが悪いのだけどね。


こうして、俺はカノンに肩を貸してもらい、激痛に泣きそうになりながら宿屋へ戻ったのだった。









なんとか生還することができたハク。

謎の女性の正体、言動、目的。不明な点は多いものの一攫千金となる魔女の情報を得ることに成功する。

はたして、地図に書かれてある場所には一体何が待ってるのか?


次回『謎多き青年』です!

お楽しみに〜



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