僕は何のために生まれてきたの?
今より未来のとある小綺麗な住居スペース
「おはよう、ヒデ」
「おはようございます。ノブ」
とある少年は生まれた時からこの、ヒデというヒューマノイドロボットに世話をされてきた。何不自由なくかなり裕福な住居スペースに住み、年齢になれば学校にも通った。しかし、少年には一つの疑問があった。
「ねぇ、ヒデ、どうして僕にはお父さんもお母さんもいないの?」
「いないからです」
「死んじゃったの?」
「いえ、いないからです」
何度聞いてもヒデは本当のことを教えてくれない。
「じゃ、なんで僕はお父さんもお母さんもいないのに、こんなところに住めるの?」
「それは会長のおかげです」
「その会長は僕のお爺さんかなんかなの?」
「いいえ、スポンサーです」
「……」
よくわからないが、そのうち、だんだんそういうことがどうでも良くなった。ノブはだんだん大きくなる。その過程で、学校に通う傍ら、家でもヒデ相手にいろいろな勉強をした。
「なくよ鶯平城京、じゃなかったぁ、平安京」
「なくよ鶯平安京」
「いいくに作ろう、鎌倉幕府」
「ねぇ、なんでこんな古い歴史を覚えなきゃいけないの?」
「いいから、さ、いい国作ろう、鎌倉幕府」
「いい国作ろう、鎌倉幕府」
とにかく日本史、学校でやるのとは桁違いに細かいとこまでじっくりやった。
「いいですか?戦国時代には、紙は貴重で」
「うん」
「うんこをしても紙で拭きません」
「え、ウォシュレットないの?」
「ある訳ありません。で、こう、大名であっても床に穴があって」
「穴?」
「蓋をとって、やります」
「で、何でふくんだよ」
「草とか」
「いやいやいや」
大名だよ?
「木とか」
「まっさかぁ」
大名ですよ?
そこまで、このヒデの話を聞きながら、ふと我にかえるノブ。
「ね、戦国大名のトイレの話なんて、何の役に立つの?」
「立つんです!会長の意向で、あなたの職業はもう決まっているんです」
「え……」
あったことのない会長は、勝手に人の職業を決めていた。しかし、スポンサーなのでしょうがない。そして、その職業は、時代劇専門の役者。
それから月日が経って、とあるテレビ局の廊下
「あ、ノブさん」
「あ、監督」
「イエーイ」
「イエーイ」
日本史の勉強から、日本の生活史の勉強、果ては、剣道、柔道、馬術、弓術までヒデの提供で収めたノブは、きちんと役者になった。業界でもそこそこ有名で、役者として安定した生活をしている。
「今度、俺、珍しく現代劇の映画撮ることなってさ」
「へー」
「ノブさん、でない?たまには丁髷のない役」
「あー」
ノブはスポンサーの意向で、時代劇しか出演できないのである。
「ごめん。生まれた時から世話になってる会長の命令で」
「残念だなぁ」
そして、ノブは順調に職業役者としてキャリアを積んでいたが、結婚の方はというと、結婚して離婚して、また結婚して離婚して、落ち着きがない。子供もいない。ま、別に、おりゃ、遊べる女の子がいたらそれで奥さんはもういいかなぁと思っていた。そんなノブもいつの間にか中年である。とある優雅な朝食の席。結局独身貴族なノブの脇には今日も奥様ではなくヒデがいる。
「ノブ様、今日はお誕生日でしたよね」
「ああ、俺もいつの間にか47歳だよ。早いもんだなぁ」
「お時間になりました」
「何の?」
「それをちゃっちゃと食べちゃってください」
「え、今日はオフじゃ」
「実は大事な用があるんです」
また、なんか大きな仕事の面接かなんかでもあるのかなと思いながら、大人しくトーストとオレンジジュースを飲み込むノブ。
「ところでノブさん、今まで、信長は何回も演じましたよね?」
「ああ、なんかわかんないけど、妙に俺のとこには信長役が回ってくるんだよな」
「それっぽく演じる自信はありますよね?」
「誰に口聞いてるんだよ。俺は、時代劇やらせたら、妙に生活くさいシーンから、刀と立ち回りまで完璧に演じるノブだよ?」
「了解です。それではお食事が終わりましたら、お召替えを」
なぜか、家の中で衣装を着せられた。しかも、なんか、寝巻きなんだが。白い上質な布地の着物だ。
「あ、それと、これがカツラです」
かつらまでつけさせられて、しかも極め付けが、
「なんで汚すんだよ」
「必要なんです」
衣装と顔やら汚された。からの、書斎へ連れて行かれて、机の引き出しをヒデが開ける、
「さ、この中に入ってください」
「何を言ってるんですか、机の引き出しなんかに入れるわけないじゃ……」
ヒューマノイドロボットであるヒデにむんずと捕まえられ、ヒデは机の引き出しにポイと放り込まれた。なぜか机の引き出しの奥には空間があり、咄嗟に落ちると恐怖したが、とすんと何かにのっかった。周りを見渡すと異空間の中に、ぷかぷかマシンが浮いている。異空間は、ウルトラマンが変身する時、その背景がマーブルに表現されるじゃないですか。わりと初期のウルトラマンね。あんな感じで、赤やら黄色やらグニャグニャっと混ざってるぞ。
「なんじゃこりゃあああああ」
「タイムマシンです」
てれれれれれ、てれれれれれ、てれれれれれ、てれれれ
お馴染みのミュージック。
「俺、のび太じゃないんだけど?ていうか、タイムマシンって本当にあるの?」
「一部の超富豪だけが持っている秘密マシンです」
ヒデはそう答えつつ、タイムマシンの操作盤に早速何か打ち込んでいる。中腰になって覗くと、それは数字だった。15820602
「どこいくの?」
「過去です」
「なんで?」
「ちょっとゆっくり移動しながら、説明しますね」
ポンとボタンを押すと、マシンはすうっと動き出した。こほん、ヒデはノブに向き合うと、まず咳払いをした。
「ノブさん、あなた、お父さんもお母さんもいません」
「何を今更、そんなん知ってっけど」
「そして、会長はあなたのスポンサーです」
「うん」
「あなたを47歳まで育てたのは、今日のこの日のためなんです。あなたは会長が大事に育てた、会長の夢です」
「夢?」
「会長は、織田信長の熱狂的なファンなんです。会長の生涯をかけて推した推しが、織田信長です」
「え、だから、俺、時代劇役者になったの?」
やっと明かされた、職業選択の理由、あははん。タイムマシーンは、ドラえもんのアニメで見る速度よりはややゆっくりな安全運転で過去へ向かっている。
「そこじゃないんです」
「そこじゃないって?」
「いいですか?ノブさん、あなた、お父さんもお母さんもいません」
「なんでまたそこに戻るんだよ。そんなん知ってるって」
「それは、ご両親が事故で亡くなったとか、病気で亡くなったとかではなく」
ヒューマノイドロボットであるヒデの、安定したいつもののっぺりとした顔を見ながら、ノブは、次の言葉を聞いた。
「あなた、クローンなんですよ」
「はあ?」
顎が外れないかと思うくらい、あんぐり口を開けてヒデの顔を凝視するノブ。その顔はやっぱりのっぺりとしていた。
「聞いてないけど?」
「言ってませんし」
声がちょっと裏返ったノブ、しゃあしゃあと答えるヒデ。
「で、なんで、俺がクローンで、なんで、過去へ向かって……」
その時、突如、雷が落ちたかのようにさまざまな別々の事象がノブの脳みその中で一つに集まる。
「ほんっと、のぶさんって、ハマり役ですよね、信長。本人みたい」
「またまたぁ」
よく言われた評価。
会長は織田信長の大ファンで……
15820602
いちごパンツで 本能寺……
「ちょっと待て、俺がクローンってもしかして」
「あ、つきましたよ」
チーン
突如、タイムマシーンの進行方向向かって右上のあたりの異空間に穴が開き、外は夜である。なんだか騒がしい。ヒューマノイドロボットのヒデは、結構力持ち。むんずとノブの体を後方から両手で掴む。
「会長はねぇ、織田信長の大ファンで」
「やめろー、人権侵害だー」
「だから、本能寺の変で信長が死んでしまったのをそれは残念がって」
「放せー」
ジタバタするノブ。しかし、ヒデの相手ではない。
「ちなみに、わたしのフルネーム、秀吉です。紹介遅れました」
「紹介、遅れましたじゃねーぞー」
「じゃ、ノブさん、こと、信長さん、よーい、スタート。アクション!信長の死ななかった世界、よろしくお願いしますよ」
ノブは、本能寺の変が起こっている最中の過去に放り出された。
「ヒデ、オメー、次会った時、覚えてろおおお」
ノブは、過去へと放り出されるその空中で器用に身を捻り、ヒデに向かって中指を突き立てた。一瞬の出来事であった。ノブさん、だから、アクションです。そんなセリフ、台本にねえぞ。
ところで、未来人が、戦国時代の大名なって、生きていけるんですかねぇ。
気が向いたら、この先もいつか書くかもしれません。
汪海妹
2026.08.29




