蚊に刺されやすい人の特徴が解明された未来の話
これは作者による100%の妄想に基づくフィクションであり、科学的根拠の全くないお話です。蚊に刺されやすい人ってそうだったんだ!と勘違いして、「ねえねえ聞いて」とさも本当の話のように噂しないでください!
汪海妹
これは未来の話である。とある年の権威ある科学雑誌にこんな学説が載った。「蚊に刺されやすい人の特徴は、頭の中で年柄年中すけべなことを考えている人である」大多数の人が、どうしてこんなに権威ある科学雑誌がこんなガラクタのような説を?と慄き、一部の人、これはずばり蚊に刺されやすい人だが、ぶっちゃけ心あたりがあったのかもしれない、これはこれで恐れ慄いたのだ。
ところがだ!この学説、さすが権威ある科学雑誌が載せただけのことはある。なんと、まっさかぁ、バカじゃねえの?と思える仮説にきっちりそれを証明する根拠がつけられていた。それは一体どんな実験で、どんな検証だったんだい?と言われたら、それはかしこみかしこみ割愛させていただくが、とにかく結論から申しますと、
これは、「蚊に刺されやすい人はすけべな人である」ということが事実として皆に信じられるようになった近未来の話である。
とにかく困ったのは蚊に刺されやすい人である。今までは別に痒いだけだった。ところがこれからは、蚊に刺されれば、あの人はすけべなのだという不名誉な烙印まで押されかねないことになってしまった。
すけべの何が悪い?人間すけべだから絶滅せずに綿々と続いてきたのではなかったか?大体、頭の中ですけべなことを考えていたからって、痴漢をするわけでも卑猥な話をするわけでもない。つまりは、これは非常にプライベートな個人情報な訳ですよ。誰にも知られない秘密の花園だったはずの脳内でのウヘヘな行為が、蚊に刺されることで他人にも露見するという事態になってしまった!
ぶうーん、あ!ぺち。
しかも、蚊はいかにもすけべそうな男性だけでなく、一見お淑やかそうな女性をも襲う!
ぶうーん、キャ!
そしてこのことにより社会には静かな津波が押し寄せた。ざわざわざわ。
例えば、ぎゅうぎゅうの満員電車に何の悪戯か蚊が迷い込む。
ぶうーん
皆、ギョッとして、そして、電車の乗員全てがその蚊を凝視する。誰に止まるか?誰に止まるのか?
バチ!
途中で、必殺仕事人のように飛行中の蚊を仕留めた人があるとする。
ざっ!
みんな、その男を見る。もしかしてこの人、自分が蚊に刺されやすいのが露呈することを恐れて、蚊を仕留めたのではなかろうか。
「いや、違います。違いますって」
「「……」」
複数の人に見つめられて、言い訳がましいことをゆう男。
こんな社会で株価を上げたのはいうまでもない蚊除けスプレーを開発販売している会社である。開発者は今までの何倍もの熱意で真剣に蚊除けスプレーの開発に取り組んだ。なんてったって、これは究極の個人情報(私は脳内で暇さえあればすけべなことを考えています)を守る最後の砦なのだから。
開発者は義憤に駆られた。別に涼しい顔して頭の中ですけべなことを年柄年中考えて何が悪い?痴漢するわけでも、卑猥なことを口にしてにやけるわけでもなんでもない!ただ、自分だけが知っている秘密だったはずなのにぃ!というか、開発者がまさに、その、蚊に刺されやすい人だったのかもしれない。
フリーダムアゲイン!渾身の一品の蚊除けスプレーには、熱い名前がつけられた。蚊に刺されやすいあなた、このスプレーにより 蚊に刺されやすい人だと後ろ指刺されることはなくなります。もう一度自由に、頭の中を解放しようではあーりませんか!ちなみに開発者たちが魂を込めてつけた商品名と上記の宣伝文句は、あまりにあからさまだったために採用されなかったらしい。
私は、開発者に敬意を示し、この品名をそのまま使わせていただく。フリーダムアゲインは売れた!しかし、これは、スーパーや薬屋、コンビニの店頭では全くと言っていいほど動かなかった。皆、買っているところを誰にも見られたくなかったのである。だから、基本は通販で購入される。この通販での販売でも業者は中に入っているのがフリーダムアゲインだということがわからないように外箱に気を使った。このように店頭等ではなく通販等の形式で、この商品は売れた!皆、人前で蚊に刺されることがないように躍起になったわけである。
困ったのは誰だと思います?ちょっと考えてみてください。
↑そりゃもちろん、蚊である。
人間である皆が躍起になって蚊除けスプレーを使いまくるものだから、人間からの血液回収が激減した。それでは、蚊の世界に分け入ってみよう。
「ぶっちゃけ別に、人間からの回収にこだわる必要ないんじゃね?動物からだって吸えるわけだし」
「そんなこというなよ。俺らのモットーは人間にも動物にも平等にだよ?我々の祖先がこの地球に現れた時からそう、決まっているのさー」
「人間にも動物にも平等に愛と平和をってやつか?」
「そうだぜい、イエーイ」
ところで、蚊に刺されることで、別に人間は蚊から愛と平和をいただいているわけではないと思うんだが、アミーゴ。
ところで、こんな社会に新たな一派が現れる。どんな一派だと思います?ちょっと考えてみてください。
↑
蚊に刺されて何が悪い?
つうか、すけべですが、何か?
ちゅうか、蚊除けスプレーって、環境的にどうやねん?
ザ、開き直りピープル。
この人たちはいつも、ラテンのノリで現れる。ア、ミーゴ!ドンドドンドンド、ドンドドンドンド、ドンドドンドンド、ドン!愛しあってるかーい、イエー、ベイベー!
ま、少子化の昨今では、こんな人たちも必要であろう。
ところで、こんなカオスな混沌の近未来にも、お見合いはある。近未来のお見合いに分け入ってみよう。
とあるホテルのカフェラウンジである。
「本日はお日柄もよくー」
「おほほー」
スーツ姿の男性に、振袖姿の女性。横に2人おばはんがこれも着物着ていて、おほおほしてる。そのうち、例の決め台詞。
「じゃ、後は若い人同士で」
「邪魔者は退散退散っと」
自分たちをゴキブリか何かのように退散させ消えるおばはん。消えがけに余計なひと言を残す。
「みっちゃん、お庭でもご案内していただいたら?」
「……」
庭かよ。庭にはヤツがいるじゃねえか。心の中で焦る男性。いや、大丈夫だ。こんなこともあろうかと、今朝はフリーダムアゲインをきちんとつけてきた。
「じゃ、いきましょうか」
着物の女性の椅子を引いて立たせる。ラウンジの端の方に庭へと繋がる出入り口がある。
「美津子さんは……」
2人で歩きながら男性が話しかけた時である。
「あ、あの……」
みっちゃんが男性の首のあたりを指差す。
「蚊が……」
「え!」
反射的にピシャリとやった。蚊は吸いかけの血を潰された際に男性の首元にぶちまけた。
「……」
「……」
気まずい。なんとなく気まずい。この沈黙。男性はそっとポケットからハンカチを出すと、潰れて貼りついた蚊と血を拭き取った。それから、何もなかったかのように会話を再開した。
「美津子さんは、お休みの際は一体何を?」
「ああ、えーと……」
かゆい、かゆい、今、刺された首がとてもかゆい。しかし、涼しい顔をして乗り切らねばと思う。
かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい
「ヨットを少々」
「へー、ヨット」
「それと、スカイダイビング」
「へー」
痒さのために女性がかなりトリッキーな趣味を持っていることをスルーしてしまう男性。そんな時に、ホテルの中庭の奥の方で、何やらマイクを持った人が話している声がする。どうも、何かのイベントらしい。
「僕たちも行ってみましょうか」
「ええ」
女性を前に立たせて小道を前へ進む、と見せかけて男性は1人止まる。すちゃっと出した。フリーダムアゲイン。朝付けしても、昼にはこの有様だ。常に携帯しているのだ。もう一度つけてやる。
「あの……」
「……」
フリーダムアゲインを首筋に塗ろうとしたところで、男性がついてこないことを不審に思ったみっちゃんが戻ってきた。
「……」
「……」
気まずい。とっても気まずい。みっちゃんの顔がだんだん赤くなってくる。あかん。この見合いは失敗した。反対に男性の顔はだんだん青くなってくる。
「あ、あのっ」
みっちゃんは真っ赤な顔で突然、着物に合わせて持っていた小さなバッグをゴソゴソと探る。そして、取り出した。
「あ……」
それは、フリーダムアゲイン!
「わたしも実は刺されやすいんです」
「え……」
それからみっちゃん、しずしずと男性に近寄る。
「どうせ結婚するなら、同じぐらい蚊に刺されやすい人がいいなぁって思ってました」
男性の傍でにっこり微笑むみっちゃん。
ドンドン!ア、ミーゴ!ハッピーエンド、おめでとー!!
ちなみに、四六時中すけべなこと考えている人が蚊に刺されやすいというのは、科学的根拠のない作者による100%の妄想です。今後皆様の周りに蚊に刺されやすい人がいたとしても、「え、この人?」などという目で見ないでくださいね。
何を隠そう私が蚊に刺されやすい人間。いつもムヒを持ち歩き、刺されたら即座にムヒを塗っているのですが、先日忘れて出かけまして、ありとあらゆるところを刺され、数日経った今も痒みに襲われています。そこから生まれた他愛もない短編です。お楽しみいただけましたら。
人間蚊取り線香にもなる、汪海妹
2026.06.21




