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短編集22〜26年  作者: 汪海妹
チクチクイーンとチクチキング
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チクチクイーンとチクチキング













チクチクイーンとチクチキング

2026.05.01












この小説のコアになるネタは、時々コメントをやりとりさせていただいているNoterの酒田様の下記記事よりいただいております。<(_ _)>酒田様、ありがとうございます。


https://note.com/embed/notes/n0a4aed5a4af1


日本のとあるところに、チクチクイーンとチクチキングという夫婦が住んでいる。カタカナの名前から類推する通り、純粋な日本人ではないのだが、それでも歴とした日本人として在住しているのだ。


この夫婦、今風でいうところの夫は主夫である。


「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


名前から連想するに、二人とも何となくいかつい感じである。勝手にイメージをお借りすると、最近アニメ放映も始まった黄泉のつがいの左右様が夫婦になったような感じであろうか。


「あ、雨が降るかも」

「じゃあ、傘、傘」

「そこにあるのじゃ、大きくて邪魔だ。どっかに折り畳みがあったろう」


妻の指図に従い、居間に戻りテレビの前やら座布団の下やらひっくり返して探す、


「あー、そっちじゃない、そっちじゃ」

「じゃあ、自分で探せよ」


そこで、クイーン、チッっとこれでもかと言わんばかりの舌打ちをする。舌打ちも常に行なっていると、大きく鳴らせるようになるものだ。チクチクイーン、スーツに合わせて履いていたパンプスを脱ぎ、どかどかと上り框に上り居間に入ってくる。


「あるじゃないか」


それは、居間の片隅にあるコートとか帽子とかごちゃごちゃとかけてある衣紋掛けにちょこんとかかっていた。


「なんでコートかけに折り畳み傘がっ」

「ふん、役立たずが」

「……」


モラハラばりばりなチクチクイーンは今度こそ、パンプスを履いて、ガラガラピシャんと出ていった。


私は見ていた。家政婦が見たよりももっと静かに、この場面を見ていた。


「おい、何で俺には仕事がねえんだよ」

「ぎゃー」


本来、話しかけられるはずのない傍観者である私に、チクチキングが話しかける。


「私は、傍観者、話しかけないでくださーい」

「いいから、答えろ」


そして、主夫であるチクチキングは、優しいことに私に昨日のあまりの焼き芋をくれた。二人で縁側に並ぶ。


「うわー、焼き芋、久しぶり」

「中国でも、かばスーパーとかで、売ってんじゃん」

「あれなー、まだ冒険できてないわ」

「焼き芋買うだけで冒険はないやろ」


皮を剥こうとすると、チクチキングに止められる。


「美味しい芋は皮ごと食えるんだって」

「え、ほんと?」

「野菜は本当は皮のところがうまいんだぞ。騙されたと思って食ってみろ」


素直な私は、食ってみた。


「うまー」

「だろ?」


で、なんの話でしたっけ?


「だから、なんで俺は仕事がねんだよ」

「ああ、そうそう。というか」


というか、ね。


「作者である私を引き摺り出して、焼き芋食わして、物語の先行きに干渉しようなんて、この芋は、賄賂かぁ!」「難しく考えるなよ、ただ知りたいだけだ。理由を」

「ああ、うん」


御されやすい人であることよ、我。よよよ。


「そりゃ、あんた、チクチクイーンの名前に秘密がある」

「あん?」

「チクチクイーンとは、歴とした肩書きなんです!」

「あんあん?」


ごっついキングに、あんと繰り返され、次はたい焼きが食べたくなる私。まぁいい、先を続けよう。


「チクチクイーンとはこう書く」


縁側で私は足をぶらぶらさせ、キングはあぐらを描いている。空に指で文字を書く。


「地面の地、区域の区」

「うん」

「それをもう一回、それから委ねる従業員の員で」


地区地区委員!


「なぬー」

「知らなかったんかーい!」


おめえら、夫婦やろ?


「じゃ、俺は?俺は漢字で書いたらどうなる?」

「えっと……」


血口金具……


「なんだ。俺もあるんか、漢字」

「いや、ほっとするな。ほっとするなぁ!」


これでは、肩書きとは言えない。


「なんでクイーンには立派な仕事があって、俺にはないんだ?」

「それは、地区地区委員の名前に感動して、キングも作ろうと思って、チクチキングを作ったからです」

「じゃあ、つまり、俺は生まれからそもそもクイーンのおまけなんやな」


おまけなんやな…おまけなんやな…おまけなんやな…


私の頭の中でハウリングするキングのつぶやき。私ね、こういうのに弱いんです。焼き芋ももらっちゃったし。


「血口は流石にまずいんですが、池口でどうでしょう?」

「ん?」


こうして、この界隈に『池口金具店』が誕生する。そこで、キングは金具を扱う店主となった。


「おばあちゃん、これは、研げばまだ使えるぞ」

「ほうけ?」


フィクションのキャラである池口金具には、そもそも生活感もなく銀行口座もなく、欲望もあまりなく、儲け度外視で地域の皆様のために奉仕したので、評判はすごぶるよかった。まんが日本昔ばなしの、めでたしで終わる方のバージョンである。キングは金より人に頼りにされる実感が欲しかったのである。


「めでたしめでたし」


経費の都合上、ナレーションにどこぞの方を呼ぶわけにもいかず、今回脇役として、またナレーションとして馳せ参じました。本当は作者です。やれやれ。


「なんか違う……」

「ん?」


路上から『池口金具店』を引き目に取った映像で、ちょっと季節は違うが桜の花びらを散らし、ナレーションを入れて終わらせようとしていると私の横にトレンチコートきたごっつい女が立つ。


「こんなのなんか違う」

「えっ」


金具店で、おばあちゃんやおばちゃん相手に商売しているご主人を見ながら、ため息をつく地区地区委員。


「いや、違うって言われても、もう尺がないんですが」

「あの人の、わたしがいないとダメなところが好きだったのに」


心の中で、ええええええと叫ぶ私。そんなの知らんがな。しかし、今度は店に立つキングをそのままに裏の縁側にクイーンと座る。大判焼きをいただいた。あんこゲットである。


「好きなら好きって言えばよかったじゃないですか」


優しくしてたら主夫のままでもいいと思っていたかもしれないじゃん。もぐもぐ、ズズズ。あんこと緑茶は黄金のコンビネーション。


「それじゃなんか違う」

「なんか違うと言われてもねぇ」


恋愛も結婚も相手あってのものですから、相手がわかってくれなかったらうまくいかないわけで。


しかし、融通の利かない地区地区委員は、出てゆくという。すくっとたつと荷物をまとめる。トレンチコートにかくかくした昔ながらのトランクを持って駅へゆくという。


「てえへんだ。池口金具」


どうしても、江戸っぽい弁を出したかった私。にわか江戸っ子として、店先に飛び込む。


「かくかくしかじかで、クイーンが出てってしまうぞう」

「なにぃ」


店にいたお婆さんもおばさんも、お爺さんもおじさんも。


「てえへんだ、てえへんだ」


江戸弁を口にしたかったようで、ちょっとハーモニーアンドラインダンス、からの


「こうしちゃられねえ」


愛のために、金具、走る!カメラもナレーターも、作者である海妹が一人で担っておりますが、私も走りまする。デデン。


ついたは、この街の駅。一昔前の灰色で殺風景な駅を思い浮かべていただきたい。田舎のローカル駅である。改札前に、トレンチコートとトランクを抱えたクイーンが佇んでいる。コートの襟は立ててくださいね!


「区委員」(漢字で書くとこうなります)


キングの呼びかけに振り向くクイーン、二人の眼差しと眼差しの間に流れる空気。灰色の寒々しい駅を背景に男女二人の視線は熱い!


「お前、出て行くんだってな。元気でなー」

「いや、止めろよっ」


平和に手を振るキングをどつく。めでたしめでたしで終わるはずだったのを尺を無理やり伸ばされた挙句、こんなエンディングじゃ、浮かばれねえっ。そんな私を掘っておいて、クイーンが淡々という。


「すまない。今のお前には魅力は感じない。出て行くことにする」

「落ち着いたら、便りよこせよ」

「いや、そんなあっさりしてないでしょう?男女の別れわよう」


この人たち、もう嫌だ。焼き芋と大判焼きで私を誑かした挙句、ドラマにならないエンディングで小説を終わらせるな!ジタバタする私に二人がいう。


「先生、古い。これはあれだ」

「発展的解消?」

「そう、それだ」


そういうところでだけ、息が合っている。夫婦である。


「いや、でも、普通は段階があるでしょうが。いきなり離婚はないよ」


クイーンが駅の大時計を見る。SEIKOである。


「あ、時間だ。それじゃ、そろそろ」

「いや、時間って、どこ行くんだよ」

「とりあえず、北海道かな」

「なにーーーー」


そして、はっとひらめいた。


「待て!地区地区委員」

「なんだ?」

「お前、地区地区委員、だろ?この地区を離れていいのか?」

「あ……」


チクチクイーンは、地区地区委員。この地区を離れていいのかにゃ?…いいのかにゃ?…いいのかにゃ?


それで、どうなったと思います?


我が意見を聞き入れたというわけではないが、クイーンはこの地区のとあるアパートに入居し、金具と発展的解消を念頭に、とりあえず別居することになった。そうです、そうです。いきなり離婚なんてありませんよ。


そして、キングは今日も『池口金具店』の店頭に立って、雑草を切るための鎌や、高枝切り鋏や、電動草刈機の替刃や、包丁や鋏やなんやらかんやらの金具を扱い、頼まれれば古い刃を研いだり、人様の庭の雑草を刈ったりしながら日々を過ごしている。


ある天気のいい日。空の青い日に、雑草を刈る合間に休憩してタバコを吸っているキングに話しかけてみた。


「これでよかったの?」

「ん?」


私に気づくとキングは吸っていた煙をフーッと吐き出した。


「形があるだけが答えじゃない」

「うん」

「少なくとも俺とクイーンは、今の方がいい関係だ」

「ああそう」


形があることだけが答えじゃない。これが発展的解消というものの中身なのかもしれない。


「じゃ、休憩終わりだ」

「ほい」


座っていた庭の置き石からぴょこんと飛び降りる。今日も空が綺麗だ。


2026.05.01


ちなみに地区地区委員は本来は職業ではないと思いますが、物語では職業として扱っております。<(_ _)>


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