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短編集22〜26年  作者: 汪海妹
福岡と事情の間
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25/62

11.5 福岡と事情の間












   1.5 福岡と事情の間

     2023.03.12












   






福岡で、うかうかと書き落とし、でもやっぱり書きたかったなと思ったことを、事情にねじ込むと微妙だなと思い、福岡と事情の間の幕あいの寸劇を書くことにしました。そして、それ以外の拾いたかった裏話は、事情の+αにて拾う予定です。パタパタと場面を変えながら細切れ肉のような物を書いてみたいというのが今回の希望でして。

 





福岡で、秀さんと崇くんがお互いの荷物と明太子と海苔と日本酒を持ち込んで飛行機の座席に収まった場面へと戻る。






   



「すみませーん」


機内で美人な機内搭乗員、一昔前の言い方ならスチュワーデス、スッチーのお姉さんを嬉々として呼ぶ秀さん。


「お呼びでしょうか」

「コップくれない?二つ」


片手に袋に入ったままの瓶を握りながら、そういう男性に向かってスッチーのお姉さん頭を下げる。


「申し訳ございません、お客様。離着陸の間のご飲食は危険な場合がございますのでご遠慮いただいております」

「ほら、だから言ったでしょ。すみません。わかりました」


崇くんが横から口を出す。


「それって、飛行機がこうあがって」


手を使って上昇する機体を表現する秀さん。


「こう真っ直ぐになったら飲んでいいの?」

「はい、さようでございます」


斜めになった手を言葉に合わせて真っ直ぐにした。


「じゃ、真っ直ぐになるまで飲みませんから、コップだけ先にくれる?」

「……」

「社長」


世間の常識を破らない標準仕様の日本人の崇くん、常識とは破るためにある障子紙のようだと思ってる秀さんを低く制する。


「かしこまりました」


スッチーのお姉さん、負けました。


「ああ、もう」

「国内線はうかうかしてるとサクッとついちゃうからなぁ。スッチーのお姉さんって笑顔はいいけど呼んでもすぐ来ないことあるし」

「さっきああ言ったんだから、本当に真っ直ぐなるまで飲まないでくださいよ」


つまらない男を眺めるような目で崇くんを眺める秀さん。


「お前って本当にルールを愛する男だな」

「違いますよ。とある人と働くようになってから、そうせざるを得なくなってるだけですっ」


崇、苦労してるな。わかるよ。その気持ち。


「離陸中に無理に飲んで、日本酒をスーツにこぼすとか、俺、やですよ」

「わかってるよ。別に。飲まねえって、真っ直ぐになるまでは」


そして、男に二言はない。プラスチックのコップをもらい、離陸した飛行機が安定した飛行に入るまでは福岡の街を上から眺めながら大人しくしていました。別に秀さんもね、自分の思うように事を進めたい人なだけで、交渉できそうな余地があれば交渉する人ですが、迷惑をかけるところまで踏み込む人ではないですから。


「もう、いいかな?」

「いいんじゃないですか」


そして、秀さん、座席から首を伸ばして、コップを片手に持ち上げて見せ先ほどのお姉さんの方を見てちょっと首を傾げた。お姉さんその様子に思わずクスッと笑ってしまいました。それから笑顔でうなづいた。


「崇、今の見たか?」


お許しをもらって袋から銘酒を取り出しつつ、ピキッと蓋を回しつつ、ボソボソと横の男に言う。


「何をですか?」

「いい笑顔だったなぁ。かわいい」


チーン


「いい年して、そういうこと口に出して、恥ずかしくないんですか?」

「いや、お前も思ったろ。ちょっと、一瞬、業務用の笑顔を外れてたよな。一瞬」

「さぁ」


ふっと笑う秀さん。


「本当は思ってたくせに」

「そういう発言してると、若い世代の子におっさんくさいと思われますよ」

「そういうのを気にしてるから、お前は口に出していわないだけだよな」

「……」


これ以上何を言っても無駄だなと思いつつ、ちょっとムッとしながら社長を見る崇くん。でもね、崇くん、ぶっちゃけあなたも可愛いなと思ってたよね。表情にも出さないように気をつけてましたけど。


「さ、一杯やろうぜ」


狭い座席の間で二つのコップにお酒を注ぐ秀さん。うわ、並々と注いでるぜと思いつつ受け取る崇くん。


「九州なら本当は焼酎の方が良かったんじゃないですか?」

「お前、最近色々忙しいから肝心の飲食の方の情報に疎くなっちゃった?」

「え?」

「わかんないで昨日も飲んでたのか。佐賀は日本酒が結構有名なんだぞ」

「え……」


透明のコップに入れられた少し黄色がかった透明な液体を眺める。


「ま、でも、日本酒はそんな扱ってないですし」

香具土かぐつちでは扱ってるだろ」


香具土は、海外から日本に旅行に来る人たちをターゲットにした和風創作料理の店でした。メインがフレンチやイタリアンの秀さんたちにとっては変わり種なお店。


「すみません……」

「ああ、違う、違う。お前が忙しいのはわかってるからさ。別に会社の中の誰かがやってればいいことだ。情報収集なんてさ」


それで、乾杯する。


「甘い」

「そうなんだよなぁ、全国的に言って珍しい味らしい」


どちらかといえば売れ筋は淡麗辛口が主流の日本酒の味わいの中で、佐賀の日本酒は濃厚に甘い。


「これ、海外の人にウケないかな?」

「……」


言われてもう一度飲み直す。


「よくわかりません」

「フレンチのこってりした料理に合わしたら?」

「え、フレンチに置くんですか?」


崇くん、一気に酔いが覚めた。というかまだ飲み始めで酔ってないんだけどね。その顔を見ながら笑う秀さん。


「お前、今、味わいや料理との組み合わせじゃなくって、それぞれの店舗の料理長の顔が浮かんだろ?」

「そりゃそうですよ。また、大騒ぎになりますよ」


フォンテーヌの料理長は、それぞれに別々の方向に癖やこだわりを持つ人が多い。やれと言って素直にやるような人たちじゃない。


「合わせる料理がないとイマイチわからんな。試飲会やろうか」

「また、フレンチのフの字もわかってないくせに奇抜なことばかりやりたがるって言われますよ」


ハハハハハと笑う神谷秀。


「別にやってもやんなくてもいいけどさ。ただ、常に脳みそは刺激して動かしてあげないと」

「はい?」

「あの人たちももう立派なおじさん達で過去にとった杵柄に胡座をかこうとするからさ。別に絶対に日本酒をおけなんて言わないけど、変化し続けないと世間に飽きられるよってことは定期的に教えてあげないと」

「はぁ」

「重要なのはさ、常に様々な可能性を考えながら、トライアンドエラーを行う姿勢を失わないってことだと思うよ」

「トライアンドエラー……」

「ぼつにしてもいいから泉から水が湧くようにぽこぽこと新しい発想が湧き続けることだ」

「あ、フォンテーヌだ」

「あ!」


顔を見合わせて笑った。


「言っとくけど、今、狙って言ったわけじゃないからな」


そう言ってぐびっとあける。


「さぁ、崇、さっさとあけろ」

「えー」


飲酒の強要かよ。うちの会社のCSRはどうなってるんだとまた思いつつ、でも、この人、そこそこイケる口である。しょうがないのであけました。トクトクとまた注ぐ。

ちょっと黙って日本酒飲みながらまた窓の外を眺めている秀さん。しかし、今日は雲が多くて下は見えません。からの、ちょっと酔った二人とも。そりゃそうだ。酒飲んでんだものな。ジュースじゃないぞ。


「社長」

「ん?」

「なんで北九州なんですか?」

「え、不服なの?」

「いや、そうではないです。ただ、なんか理由があるのかなって。京都でもなくて大阪でもないからって消極的な理由じゃなくて、もっと別の理由が」

「ああ、そうだなぁ」


片手で髪をかきあげながら前を見てちょっと考える秀さん。


「もともと地方へ出たいって時に、日本の地方都市の中で異国に開いていた港に興味があったんだよ」

「ああ」

「ええっと、どこだ?北から函館、横浜、神戸、長崎、かな?日本と海外が混ざったような独特の雰囲気があるだろ?」

「ええ」

「でも、その中でもやっぱり長崎かなぁと」

「なんで?」


酔っ払ったのか崇くん、子供みたいに食い下がる。その様子に秀さん、ちょっと笑った。飛行機の小さく切り取られた窓の向こうにふわふわとした白い雲がどこまでも広がり、その上に広がる空が徐々に茜色を帯びていく。


「崇、邪馬台国ってどこにあったか知ってるか?」

「なんで急にそこまで飛ぶんですか」


せいぜい鎖国時代の話をしている気になったのに、もっと昔へ行っちゃったな。


「いいから、考えろ。どこだ?」

「奈良のあたりじゃないんですか?」

「もう一個ある」

「あ、九州ですか?」

「そうなんだよ。北九州にあったって説もある。どっちが本当だと思う?」

「そんなんわかるわけないじゃないですか。そんなのはその道の専門家に頑張ってもらえばいい」

「そうなんだけどさ、でもさ、北九州って日本で一番外国に近い場所だと思わない?」

「……」

「北海道も近いと言えば近いのかもしれないけど、俺らの歴史に大きく影響を与えたのはやっぱ中国じゃない。中国と韓国。そこにむちゃくちゃ近いんだよ。北九州って」

「ああ……」

「俺らの文化の玄関なんじゃないかなぁ」


そう言われて、ふと、日本の地図を見たくなった崇くん。


「長崎は鎖国中もずっと開いていた港だし、それに、福岡と韓国は船で繋がってる」

「え、そうなんですか?」

「そうだ。3、4時間だ」

「へー」

「福岡はただの地方都市じゃないんだよ。古来から地の利がある場所なんだ。京都にはこれはないぞ」

「インバウンドですか?」


そこで秀さんはため息をついた。


「経済がガンガン成長して、日本の円が延々と買われて高くて、円高という名のモンスターと言われていた時代にはさ」

「はい」

「まさか、日本の円がこんなに安くなって観光国になるなんて思わなかったよな」


日本人がどんどん海外へ出ていって、ブランド物を買い漁った時代もあったよな。それが今は反対に海外からどんどん人が来て、自国のものが買い漁られている。


「その波に乗ろうってことですか?」

「うーん」


コップ片手に考え込む。


「いいから、飲んでくださいよ。ほら、あけて」

「ええ?」


なぜかさっきと真逆になって酒を飲まされる社長。でも、飲み明かさないと荷物になりますからね。クイっとあけました。空いたコップにまたトクトクと入れる。


「別に江戸が嫌いなわけじゃないけど、いい街だと思うし。東京になる前の江戸の時代からすでに世界的に言ってもレベルの高い大都市だったからな」

「はい」


秀さんに言わせると崇くんは東京の人になるらしいからか、江戸にお断りを入れる秀さん。それから、続ける。


「最近とある場所で京都の人に会ってさ。京都の人って独特のプライドを持ってるじゃない」

「ああ」

「江戸を目の敵にしてるじゃない、いまだに」

「え、そうなんですか?」

「ふ、やっぱり江戸の人は無意識だな」

「はぁ」


江戸、江戸、と言われても別に自分はチャキチャキの江戸っ子でもなんでもないんだがなと思いつつ黙って話の続きを待つ崇くん。


「京都発世界へって話をしていたことがあってね」

「京都発世界?」

「つまり、京都で売れているものを東京で売って、それから世界へ売ろうとか、世界へは東京経由でなければ出られない、つまりは、東京資本が京都のものをいいと思って世界へ出すってイメージが従来のイメージなのかなって思うんだけど、そうじゃないんだよ。東京なんか関係ないんだよ。京都のものは京都の人がそのままダイレクトに世界へ売るんだって言うんだよね」

「はぁ」

「なんかよくない?」


秀さん、ニコニコとした。


「奇抜だからですか?」

「出たよ」


目をつぶり、顔を顰める秀さん。


「そういうところが、江戸の人が無意識に地方に優越感持ってるってところだよ。さぁ、いいから、のめ」

「えー」

「あ、つうか、足りなくなるかもな」

「いや、飲み過ぎです」


不意に我に返る。常識的な標準仕様の日本人、崇くん。


「お前、今みたいな態度で京都の人と話してみろ、磔にされるぞ」

「いや、それはないでしょ」

「いや、される」


秀さん、それは流石に言い過ぎだと思います。されないよ。


「江戸だけじゃ足りないんだよ。日本全体のことを考えても、その地方のことを考えても、日本はもっと地方が元気で地方が強くなったほうがいい。東京という濾過装置を通して濾してから海外と繋がるなんて必要、ないんじゃない?」

「ああ」

「地方には東京にはない方法論があるんじゃないか。ここが意外と盲点なんじゃないかって思ってる」

「……」

「でも、京都の人や大阪はもうかなり確立してきている都市だからさ。俺がラブコールをあげても俺と付き合ってくれるかわからないじゃない。だから、九州なのかなぁ。九州発世界へってのを頑張る人たちと一緒にやりたい。その可能性のある街だと思うからさ」

「なるほど」


ちょっと腑に落ちてきました。


「今回、二見ヶ浦を見たじゃない」

「はい」

「すげえ綺麗だったよな」

「そうですね」

「あそこはあの土地の人たちにとって神聖な場所でもあるわけじゃない。観光資源でもあるかもしれないけど、だからって爆発的に人が訪れるようになっていいのかなってちょっと思わないわけでもないんだよ」


あの夕景の中に浮かぶよりそう二つの岩の様子を思い浮かべた。そこに外国人が雪崩のように押し寄せたらどうなるか。


「じゃあ、どういうアプローチがあるのかなっていうのは、よそ者が考えていいことだとは思わないんだよね。でも、その土地の人だけでやろうとしても視野が狭まるだろ?」

「だから、一緒にやるんですか?」

「そうだね」


崇くん、ため息が出た。


「社長、変化についていけません」

「ん?」

「どんどん広がってく。ついていけません」

「お前がそういうなよ」


そう言って、更に酒を注ごうとする秀さん。


「あ、ほんとになくなった」

「え?」

「いや、確か、機内にも日本酒が置いてあるって言ってたぞ。お勧めの銘柄だ。すみませーん」


秀さん、他のお客様の迷惑になりますから、スッチーを呼ぶ時はお手元のボタンを押してください。


「すみませーん」

「社長、もう着く」

「え?」

「ほら、もうそろそろ着陸体制に入ります」


目の前の画面を示して説明する崇くん



さて、二人が飲んだ量はどのぐらいでしょう?四合瓶、720mlを2で割る。360mlか。

うーん、楽勝かなぁ。

ワイン一本が同じぐらいだよね。ワインの度数は10〜15%、日本酒度数も15%前後だ。

うん、イケる。このくらいならイケる。しかし、二人はつまみを食べていませんでしたし、しかも飛行機って気圧がさ……。

どうかなぁ?

今度、日本に帰国するときに人体実験してみるか(被験体:汪海妹、中年日本人女性、身長ミドル)。

それにしてもですね、佐賀の日本酒、うまそうだった!!

飲みてー!!日本にいない身が呪わしい。


日本酒の風合いに酒米以上に影響を与える酵母。300年の歴史を持つ天吹酒造ではマリーゴールドやナデシコやイチゴといった花酵母を使用しているらしい。これが一番気になりました。飲みてー!!

今度一時帰国に合わせてネット買しますかね。


参照URL(https://my-best.com/5723?utm_campaign=spr_mb&utm_medium=organic&utm_source=Yahoo)

my best 日本酒おすすめ情報サービス より


お好きな方、お試しになってみてはいかが?

汪海妹


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