11 そうだ、福岡行こう 13
11 そうだ、福岡行こう!13
東京に着いた。社長と別れて本来なら家路に着くところを、空港の片隅でたち止まりスマホを取り出す。
春菜に会いたかった。
「ほいほい」
「お疲れ様」
「お疲れ様はそっちでしょ?あ、ていうか、携帯禁止」
ふっと笑った。忘れてたよ。そんな話。
「もう出張は終わりました。で、なんかあった?留守中」
「ああ、とある店舗で」
「なに?」
「別に大したことじゃないよ」
「いいから、教えて」
「ああ、あの、とある入ったばかしのバイト君が」
「何したのよ?」
「だから大したことじゃないって」
「いいから、早く言いなさい」
「盲導犬を連れて入店されようとしたお客さんを入店拒否しようとしたの」
「……」
ペットを連れての入店はご遠慮いただいているが、盲導犬などの介助犬は別である。それがうちのポリシー。携帯片手にこめかみにもう片方の手を当てる崇君。軽く目を閉じて渋い顔になる。
「で、どうなったの?」
「店の入り口でお客さんが困ってしまって、帰ろうとしたところを別の社員が見ていて慌てて追いかけて平謝りに謝って、ご入店いただきました」
「嫌な思いさせたなぁ」
「その時にね、予約する時にも問題ないか確認したのにって後で言われたって」
「……嫌な思いさせたなぁ」
「うん」
もう次のご来店はないかもしれないなぁ。ちょっとしんみりした。
「じゃ、そういうことで」
「違う違う」
「ん?」
業務連絡だと思って、彼氏の電話をさっさと切ろうとする春菜ちゃん。
「今、どこにいるの?」
「まだ会社」
「何やってるか知らないけど、それ、とっとと片付けて帰ってきなさい」
「ええ〜」
「どうせ、なんか食べながら、ダラダラとやってた仕事でしょ?」
「失礼な」
しかし、図星でした。残業時間が始まると小腹が減ってたまらない春菜ちゃん。いつも会社の冷蔵庫から戸棚から漁りまくって食べ物を探している。
「ちょっと話したいことがあるから春菜の部屋行っていい?」
「え?出張帰りで疲れてるのに?」
「うん」
「明日じゃダメな話?」
「やなの?」
「や、別にやなんて言ってないじゃん」
電話の向こうから、ガチャガチャと音がする。きっと、今すぐやらなくてもいいどうでもいい仕事をするのをやめて、荷物を片付けてるんでしょう。
「じゃ、後でね」
「ちょっと待って」
「なに?」
「今日、コンビニ弁当じゃやだ」
「だから?」
「ファミレスで待ち合わせしよ、あの、うちの近くの」
「はいはい」
ちょっと揶揄うような口調になって言葉を続ける春菜ちゃん。
「なになに、そんなに慌てて本当はちょっとでも早くわたしに会いたいんだったりして」
「それもある」
その後、ちょっと黙る春菜。照れ屋さんなんですよ。この子。
「またまた冗談言って」
ちょっと早口になっている。電話の向こうにいる春菜ちゃんが今どんな顔をしてるのだろうと想像しながら、崇君こちら側でちょっと笑った。本当に冗談じゃないです。
あなたに会いたい。
「冗談じゃないよ」
「わかった。じゃ、後でね」
電話を切られてしまいました。やれやれ。羽田空港からモノレールで行こうかな、切符売り場へと歩く。東京の夜の始まりは、福岡より寒いような気がするなと思いながら。
***
ファミレスには崇君の方が早く着いた。スーツケースやら荷物やらを自分の座席と床に歩く人の邪魔にならないように置いて、とりあえずコーヒーを飲みながら窓の外を眺める。待ち合わせをしている時、相手より早く着いて相手を待つのが好きだ。それは別に相手に迷惑をかけたくないとかそういうのじゃないんです。
そう、自分は待つのが好きな人間なんだろうな。
その人のことを思いながら、待つ時間が嫌いではない。その人が来たら、なにを話そうなんて思いながら。頬杖をついて、2階の窓辺から駅の改札口を眺める。老若男女が思い思いの方向へ、それぞれのテンポで歩み去っていく。その中にしばらくすると、ポンと飛び出してきた女の子がいた。正確に言うとそれは小学生とかではなく社会人だから女の人と言うべきなのかもしれないけど、跳ねるようにちょこちょことこっちへくるのが女の子みたいだった。
なんだよ、自分が早く会いたいんじゃん。
上から見られているのを知らずに嬉しそうにかけてくる春菜ちゃんを眺めていて、とても幸せな気分になった。どうしようもないくらい幸せでした。
そのうち、彼女は階段を上がってきて、そして、店に入る頃には普通の足並みで入ってきた。さっきまで駆けていたのを隠すかのように。お店の入り口でキョロキョロしてる。頬杖つきながらどっちかって言うと無愛想に片方の手を振る崇君。それを見つけて春菜ちゃん、思い切り笑うのかと思いきや、やっぱりどちらかというと平静な顔でこちらへくる。睨めっこしてるみたいだな。
「お疲れ様」
「そっちこそお疲れ様です」
席までくると手荷物を先に座席に置いて、立ったままストールを外そうとして、その端っこのふさの一つがジャケットのボタンか何かに引っかかった。
「無茶苦茶疲れたよ〜」
頬杖をついてたのを解いてファミレスの座席にすとんと背中を預けちょっとだらしない格好で、まだストールが引っかかったのを解こうとしてる春菜ちゃんを眺めてる崇君。
「なんかね。とある夜に、まだ早いですからもう一軒いきましょうと誘われて……」
「遅くまで飲んだの?」
「いや、そういう話じゃないの。もう一軒行きましょうと誘われて、バーの扉を開けたら、実は無機質な廊下になってて、変わったバーだなと思って奥まで進んでいったら、いきなり宇宙服着せられて」
「は?」
手を止めてぽかんと崇君を見る春菜ちゃん。
「そっからロケットに乗せられて月へ発射された挙句、命からがら戻ってきたような出張だった」
「……」
その長い文節が全て、出張を飾る修飾節だったんかいと思う、春菜ちゃん。まぁ、いい。引っかかっていたフサが解けてやっとストールを外してこれも座席におき、ジャケットも食事中に汚したらとでも思ったのか脱いでその上に置いた。そして、座ろうとした時でした。
「春菜、これ、福岡のお土産」
座席の横に紙袋のわきが見えるように置かれていたそれを、今度は紙袋の正面が見える角度で崇君がテーブルにとんと置く。
春菜、座ろうとした中腰の姿勢のままでフリーズした。
スローモーションの動画みたいだな。鳥が飛び立つ瞬間とかを高画質で撮るカメラがあったよな。ゆっくり、徐々に目を見開いていく彼女を眺めながら崇君、淡々と思った。
「え……」
びっくりしすぎて座席に座る、ということを忘れたらしい。中腰の姿勢のままで、テーブルに両手をついて前かがみなままで、やっと一言発した。
「な、な、な……」
「大丈夫か?」
「なぜ、な、な、な……」
壊れたロボットみたいだな。
「中川さんがそれを持ってるの?」
「とりあえず座ったら?」
そこで、春菜は視線を落とし、自分がまだ座っていなかったのに気づく。そして、すとんと力なく座席に腰を落とした。ポカーンとしている。ドッチボールのボールを打ち込んだら、普段の春菜だったらほぼ百発百中で避けるか打ち返してくるが、今だけは顔面にまともに喰らいそうなくらい、ポカーンとしている。
崇君、もう一度身を乗りだして頬杖をつく。
「それを説明するためにわざわざ来たの」
なんか楽しいな。崇君、ついちょっと意地悪な笑みが顔に上がってしまった。
To Be Continued……
2023.02.25




