11 そうだ、福岡行こう! 12
11 そうだ、福岡行こう! 12
余裕、余裕と思ってたけど、ホテル近くのレンタカー屋に車を返し、市内から空港へ出る時にすんなりと繋がらずに焦った。それでも、搭乗間際には空港の搭乗ゲートまで辿り着き、一人スーツ姿でタブレット片手に何か読んでる人を見つける。
隣にどさっと座ると、パッと顔を上げてこっちを見た。
「お、間に合ったか」
「麗子さんと和華ちゃんにお土産買いましたか?」
「明太子買った」
「じゃ、これは僕からって」
「なに?」
背もたれによっかかってたのをむくりと起こして紙袋を受け取り眺める。
「海苔?」
「有明海苔です」
「へー、でも、なんでまた」
「春菜の実家の海苔ですよ」
「え、うそ?まじ?」
もう一度まじまじと紙袋を眺める神谷秀。その紙袋は和紙でできてました。中の海苔も綺麗な包装紙で包装されてる。
「これ、高級品だな」
「味もすごかったですよ」
「づかちゃんのお父さんがやってる海苔屋なの?」
崇君、こくんと頷いた。
「え、づかちゃんって地方のお嬢様なの?」
「うんっと、なんとも言えませんけど、貧乏ではありませんね」
もう一度紙袋を撫でる秀さん。この和紙、結構いいやつだわ。
「なんか、今、お前に仲間意識を感じたわ」
「え……」
なんとも言えないじとっとした目で、それは、同情心を含んでいましたが、同時に自分をも憐れんでいる目。しばらく秀さんのその表情の意味がわからない崇君。
「ああ……」
そして、気づいた。そう、この人の奥さんもお嬢様でありました。
「づかちゃん、一言も自分が海苔屋のお嬢様だなんて言ったことないよな?」
「ないですね。多分誰も知らないですよ」
「なんで?」
「なんか弟さんによると」
「弟?」
「ああ……」
そうだ。この人まだ知らないんだった。疲れた笑顔で横にいる秀さんを見る崇くん。
「社長、あの、光君」
「ああ、あの?」
「息子みたいだったんじゃなくて、息子だったんです。つまり、春菜の弟」
「ええっ」
度肝を抜かれた秀さん。
空港の片隅で、いい歳した大人の男が二人、まるで男子高校生のような雰囲気で話してる。
「なに?おばちゃん、俺と崇に嘘ついてたってこと?」
「そうだったんです」
「あの、可愛い若い子がづかちゃんの弟?」
「そう」
「なんで、嘘ついたんだよ」
その時、搭乗の開始を促すアナウンスが流れた。荷物を持って立ち上がる二人。
「あ、そうだ。これ、飲もうぜ。中で」
「なんですか?」
搭乗のための列に並びながら社長が示した細長いビニール袋を眺める崇君。
「日本酒だ」
「え、どうやって持ち込んだんですか」
「ばか、安全チェックを越えて中で買ってんだよ」
「お土産なんじゃないですか?」
「違う、違う」
「え?」
「いや、下手したらお前が撃沈されて帰ってくるかと思ってさ」
なんだかんだ言って優しいのである。
「ま、でも、撃沈はされなかったみたいだな」
「無傷ではないですけどね。一応生還したみたいです」
「じゃ、勝利の酒だな」
「社長、飛行機の中で飲むと気圧の関係でもっと酔うみたいですよ」
「いいじゃん、いいじゃん。大した量じゃねえよ。こんなの。で、酔っ払った勢いで会いに行けばいいじゃん」
「え?」
「この騒動の真ん中にいるお姫様にさ」
崇君、少し俯いてふっと笑った。福岡で何が起こったかを知りもせず、呑気に家でテレビを見ている春菜の様子が浮かんだ。
「お姫様って柄じゃないでしょ」
「じゃ、お嬢様か?」
「頂戴します」
ちょうど秀さんの番になってチケットをグランドホステスに渡す。ピッと機械に通す音がする。それに続いて崇君がチケットを渡してまた受け取った。飛行機へと続くタラップの絨毯も空港の絨毯と同じ青だった。その上を片手でスーツケース持って、片手で日本酒と海苔の袋を抱えて秀さんが進む。
「ああ、でも、さすが、あのづかちゃんのお母さんだな」
「なにがですか?」
「まさか、初対面で一杯食わされるとはな。すっかり信じちゃったよ」
「ほんとですね」
「そうか、づかちゃんはお嬢だったのか」
まだ言ってる。その様子にふと不安になる崇君。
「なんか、本人隠してるみたいだから、ペラペラ言わないでくださいよ」
「え、そうなの?」
「ええ」
「でも、合点がいったな」
「何にですか?」
「社長を社長とも思わないあの態度だよ」
「え?」
「生まれと育ちが違ったんだな!」
「……」
ものすごく真面目な顔で感心してる社長をしばらく見た後、崇君、ぷっと笑った。
「社長、ほら、前、段差が」
「えっ?」
「御搭乗ありがとうございます」
飛行機に乗り込む。自分達の席に落ち着いて荷物を入れた後に崇君が言った。
「社長、感心してないでもうちょっとガツンといかないと、もっと舐められますよ」
「何言ってんだよ。めんどくさいな。づかちゃんはお前の担当だろ」
窓際の席に収まってしかめ面をする秀さん。
「プライベートとパブリック、ごっちゃにしないでください」
「なに言ってんだか、直属の部下に手を出しておいてさ」
「それを言うんですか?」
普通ならここでごめんなさいとなるのだが、崇君は謝らない。ふとちょっと真顔になる秀さん。
そう、この人もね、弱みを握られてるんです。
「前言は撤回だ。さ、仲良く飲もう。俺らはこれから、なんちゃら同志だからな」
「なんですか?なんちゃら同志って」
「あ、コップがない」
「離陸前から機内で酒飲んでたら、流石に迷惑ですよ」
「あ、すみませーん」
人の言うことなど聞かずに機内係員を呼ぶ秀さん。急いで飲まないと、着陸までに飲み終わりませんからね。ほら、国内便はそんなに長く飛ばないからさ。




