11 そうだ、福岡行こう!④
11 そうだ、福岡行こう!④
「あ、じゃあ、もうそろそろ市内に戻りましょうか?寒くなってきたし」
空気を読んだのか読まなかったのか、津島くんが声をかける。海風になぶられて、若干砂まみれになった体でもと来た駐車場の方へと引き返す。
「ごめん。来た道じゃなくってこっちの方へ海沿いへ走ってくれないかな。ちょっとゆっくりめに走ってもらえるとありがたい」
スマホで検索をしながら、道沿いを行く。いくつかカフェがある。カフェを見つけるたびに車を停めてもらって写真を撮りました。
「降りて撮る?」
「あ、いや、いいわ。今回はざっとでいい」
そして、海沿いの道を外れて市内へと向かいました。
「ちょこちょこと新しいカフェができてんだね」
「そうだね」
もう一度海沿いの地図に沿って今見たカフェを検索しながらその価格帯を調べる。自分達の店の価格とは程遠いカジュアルな値段のものが主でした。それから、海沿いのドームのそばにあるアミューズメントパークに来た。ドームがあって、アミューズメントパークがあって、そして近くにショッピングモールがある。*4
「他にもいくつかモールはあるんだけど、時間もないし、新しいところの方が参考になるかと思って」
「あれ、なに?ジェットコースターかなんか?」
突然建物の上の方を指差して聞く秀さん。
「ああ、あれはね。ぶら下がり式のコースター」
「ぶら下がり?」
「こう、座った形で上からぶら下げられたまま」
「あそこをゆくの?」
「うん」
二人の横でゾッとしながら上を見上げる崇くん。割と、割とな角度ですよ。あのカーブ。津島くんが説明を続ける。
「もう一つ滑って降りるのもある。建物の周りにチューブがあってさ」
「ほぉ」
社長が興味を持っている。嫌な予感がした崇くん、話題を換えようと思った。
「さ、社長、そんなことより飲食店フロアを見に行きましょう」
「あれ、乗ろう」
屋上を指差して神谷秀が言う。
チーン
「うちは飲食店を経営する会社ですよね?」
「いや、この空間を体験しないことには、見えないものがあるだろ?」
中年とは思えない生き生きとした純粋な瞳に見つめられた。
「俺たち、スーツですよね?」
「心配するな。これは仕事だ」
「……」
「どっちにする、滑るか?吊られるか?」
「いや、もう終わってるでしょ」
「ぎりぎりやってるぞ。さ、行こう」
いつの間にか営業時間をちゃっかり調べていた。腰が若干及んでいる崇くんを引きずって入り口へゆく。津島くんが二人に続きながらポカンとして言う。
「本当に乗るの?」
「これも仕事だからな」
「そうか」
あっさり納得してしまった津島くん。いや、もうちょっと疑問を持ってくださいよと思う崇くん。屋上に着いた。
「さ、崇、どっちだ、つらされるか、滑るか」
「これが一体どういうものか、いまだにわかってないんですが」
「時間がないから後から調べろ。どっちだ?」
「……」
もう暗い。こんな中吊るされて絶景の中をゆきたい常識的な大人がいるだろうか?
(思考する時間を与えずに即判断を迫るのは、道義的にどうかは置いといて有効な戦略である)
「どうしてもっていうなら滑る方で」
「そうか」
「でも、スーツですよ」
中川崇、最後の抵抗。秀さん不意にチケットを売っているカウンターの方を見て近寄ると肩肘をカウンターに置いて係のお姉さんに話しかける。
「すみません」
「いらっしゃいませ」
「服装制限って何かありますか?」
「サンダルやハイヒール、またスカートを着用しての滑走はご遠慮いただいております」
「うん」
「それと、肘が出た服ではご案内できません」
どうして、肘が出ていてはダメなのか?滑っている間に何が起こるんだ?(←崇の心中)
「ほら、全然オッケーじゃないか。意外と応用性があるんだぞ。スーツってな」
傍で聞いていた崇くんの方を見てボンボン肩を叩く秀さん。じめっとした顔で秀さんを見る崇くん。
「そんなにやりたいなら、二つとも社長がやったらいいじゃないですか」
「何言ってんだ。時間がねんだよ。しのごの言ってないでさっさと行ってこい」
「……」
「終わったらここまで戻ってこいよ」
いや、意味がわかりません。これが、本当に、仕事?仕事なのか?あれよあれよという間にチケットが買われ、滑走の入り口に連れて行かれて注意事項の説明を受ける。
「気をつけてねー」
素朴な津島くんが手を振る。そんな津島くんに社長が話しかけている。
「津島くんもやる?」
「あ、僕はー」
「それではいってらっしゃいませ」
終了時間を気にしているのか、笑顔で急ぐ係のお姉さんにどんと背中を押され、その後の会話を聞く前に滑ってしまった。
***
終わってから、滑って降りた分をもう一度エレベーターで登る。なんか、意味ないよね。むしろ、これを移動手段として利用したらどうだろう?
「おかえりはこちらです」
「いやっほう」
それぞれの階から乗れるようにして、65歳以上の人とお子さんにはエレベーターやエスカレーターを使ってもらう。エスカレーターは利用者がいない間は止まるようにしたら、電気を節約できてエコじゃね?どうでもいいことを考えながら粛々とエレベーターで登った。
すると先ほど滑る前にいた屋上に、イキイキとした秀さんが待っている。こんなふうにイキイキしているといつもに輪をかけて若く見える。
「いや、すげえ絶景だったよ。スカッとした。崇は?」
「思ったより、たいしたことなかったです……」
「そうか!よかったな」
ボンボンとまた肩を叩かれた。何が、よかったんだろう?というか、本当にこれ、必要だったのか?ただの時間とお金の無駄だったんじゃ……。
仕事が詰まっていると言っても、無理矢理福岡に連れてこられ、そして、意味があるのかどうかわからないこんなことをスーツでやらされて、もし、スーツが摩擦で破れでもしたらどうするつもりだったんだろう?
ていうか、その前に……。当たり前ですが、スーツで海辺に行ったりスライダー滑ったりしたら皺くちゃになりますよね?だって、スーツは仕事のために着るためのもので、海歩きや運動のために作られた服ではないんですからっ!
短い出張だし、これしか持ってきてないんだけど……。
「腹減ったな」
「……」
もう、怒る気もしない。
「じゃあ、フードホールに行こうか」*5
そして、その階に着くと秀さんの顔が真面目な顔に戻りました。
「どこに行こっか。それとも場所変える?」
「うん……」
空返事を返しながらざっとフロアに入っている店舗を眺めてました。
「和洋中、見事に全部揃ってるね」
「ここが1店舗目とか、あるいは九州発上陸とか、日本初上陸なんてのもあったかな?」
「崇」
「はい」
秀さんに声をかけられてスマホを取り出した崇くん。できるだけ目立たないように店舗の写真を撮っていく。これはですね。お店の店構えを撮っているというよりは、それぞれのお店の混み具合や客層を撮りたいんです。店の外から撮れるのは限られてますが。
「つまり、新しいというのがキーワードなのかな?」
「そうだね」
「なるほど」
そっと写真を撮ってる横でじっと周りを眺めている秀さん。
「ここに来れば今までにない新しい体験ができるって、結局このフロアだけじゃなくて全フロアがそういうコンセプトなんだね」
「そういう言い方もできるね」
「ふうん……」
腕を組み、考え込んだ。
「あ、神谷の参考にはならないか。洋食を食べに行った方がよかったか」
「いや、そんなことはない。むしろ全然違うジャンルの方が参考になる」
「何か食べる?」
「じゃ、ラーメン」
「社長」
崇くんに小突かれた。
「なんだ?」
「ただ自分が食べたいから言ってるでしょう」
「あー、ラーメンならもっとおすすめの所に明日連れてってあげるよ」
「じゃあ……」
どちらにしようかな。
「火鍋かな?」
「九州初上陸ね」
「そうなの?」
そして、食事を終えた後、津島くんはホテルまで二人を送ってくれました。そんなに遅い時間にはならなかった。9時前です。ホテルに入る前のところで挨拶をする。
「ごめん。今日はいろいろと」
「本当にありがとうございました」
崇くんが頭を下げる。
「いやいや、お礼なんていいよ。それじゃ、また明日」
素朴な津島くんはベンツで帰って行った。
*4 アミューズメントパーク
*5 フードホール
BOSS E・ZO FUKUOKA
Pay Payドーム横のエキサイティングに語感を刺激する複合エンターテイメント・ゾーン
(公式サイトより)
作者自体が福岡に訪れたことがなくもちろん上記のパークを訪れたこともございません。その状況で、ネットにより情報を得て作品の中に登場させております。秀さんと崇くんが滑ったりぶら下がったりしたアトラクションもまた、実在のものです。書いた人間が体験して書いたものではなくネットによる情報で書きましたので、実際の状況と一致しない点が出てくるかもしれません。その際はもうしわけありません。汪海妹




