11 そうだ、福岡行こう!①
1 そうだ、福岡行こう!
2023.02.25
本編が始まる前の作者による、
純粋に、作者のためだけの言い訳
言い訳のその1
普段は、私は一人称を使って書いております。
練習のためにだけ時折三人称を使って書いており、それは、主に短編でのみ。
で、今回、当初は短編の予定で書いていた、長編よりもちょっと適当に書いていたこの福岡。
途中から暴走して、慣れない三人称で書くのが辛くて一人称になったり三人称になったりしながら、進みます。
ほんっとうにすみません <(_ _)>
いつか、元気な日に、もうちょっと直します。
あらすじを追うのにはそこまで苦しくないかと思いますので、
「何をやってるんだ、わんはいめーい!」
とどこかの道場で、誰かに、お互い道着姿で怒られて、畳の道場に土下座する自分と壇の上にいる、誰か?が見えますが、大目に見ていただけましたら。
いつか、どっか、元気な未来の日に、もうちょっと直します……。
言い訳のその2
自分はリアルな世界で何か経営に携わるとか、非常にクリエイティブなことをして働いている人間ではありません。
そんな自分が、あれやこれやと資料を漁り、神谷秀という経営者を書いてみたり、生意気なビジネス的なことを小説に書いているわけです。あんた、何をやりたいの?って話で。
私はですね、企業小説を書きたいなどとはこれっぽっちも思っておりません。それでも、少女漫画や女性漫画的発想で書くよりはビジネス的なことを一生懸命努力して書こうとしているのはですね、自分が書きたいのは、人間が社会に出て働くときの戸惑いとかつまずきとか、苦しみなんです。
人と比較されておこる苦しみが心の中でどのように起こり、それが、どのような形でなら、消えてなくなるのか。
その心の動きを書くために、舞台におけるビジネスという大道具が必要なのです。
自分の知識と経験で、この大道具を観客席から見てそれなりのものに見せるために四苦八苦しております。
でも、やはりですね、社会に出た時の人の焦りや苦しみ、悲しさなどをよりリアルに書くためには、大道具にもリアルでいていただかないといけないわけです。修行中の身でして、なんかハリボテみたいだなと思われる箇所もあるかと思いますが、お目溢しいただけましたら幸いです。
自分自身は発想はあっても、それを上の立場で思う存分に試すことのできない立場。
いろいろな悔しさを経験しながらこの年齢になりました。
雑草のように踏まれながらも、でも、絶対に挫けてなるものかと、雑草としての根性だけは人一倍ありまして。
人生はまだ半ば。私はむしろ楽々と空を飛んでいる成功している方達に何かを届けたいのではなく、私と同じく地面に這いつくばりながら空を飛ぶ飛行機を眺めている人に何かを届けたいのです。
いつも一番手として道の真ん中を行っている人にではなく、二番手、或いは三番手として生きる人たちのために。
多種多様な価値観が生きるのに必要な時代です。
お互いにね。
人生の勝ち方というのだって、きっと多種多様なのだと、棺桶の中でつぶやきたいものです。
それでは、あくまで純粋に作者のための言い訳でした。
本編をお楽しみください。
汪海妹
息子のゲームの音がうるさい自宅より
2023.02.25
神谷秀
学生時代の友達と出先で偶然再会した。意気投合してそのまま飲みにいくと、今は東京にいないのだという。
「実は俺、坊ちゃんで」
その時咄嗟に、夏目漱石のあの坊ちゃん*1が思い浮かんだ。変なものだ。
「自分で自分のこと坊ちゃんっていう奴に初めて出会った。で、どう、坊ちゃんなんだよ」
「家が商売やってんだよ」
「商売って?」
そこはカウンターしかないような狭い飲み屋だった。オレンジがかった温かい光の中で、お互いに学生の頃とは少し趣の変わった顔を突き合わせていた。
「ああ、もう、神谷にわざわざ話すような内容じゃないよ。な、神谷社長」
そういって友人は笑ってポンと僕の肩を叩く。
「ええ?」
謙遜するのを宥めたりすかしたりしながら聞き出すと、家がもともと土地持ちでそれをもとに不動産業をしてるのだそうだ。
「なんだ、そんな人だったんだ。なんで最初っから言わないんだよ。カンパーイ」
グラスを合わせる。氷がぶつかり合う音が耳に届く。
「いや、そんな自慢するようなんじゃないんだって。それよか、起業したって。そっちのがすごいじゃん」
「いやいや、こんなん、何かがぽんぽんぽんって間違ったら、すぐにぽん」
空を三回指差した後に、片手を一回握ってパッと開いて見せた。この時少し酔っていた。もし、そばに会社の奴がいたら怒られそうな発言だ。
「内情は自転車操業だよー」
「え、そうなの?」
ここでふと酔いが少し冷めた。うちに投資している人が聞いていたらどうしよう。背中をヒヤリと汗が伝う。
「あ、ごめん。今のはちょっと言いすぎた。そんなことはない」
「なんだ。安心した」
その後に、俺は明日福岡へ帰るけど、いつでもいいから遊びにこいと。というか、福岡にもお店を作ってくださいよ。神谷社長。それもいいねぇ。なんなら来週来い。俺が主催で福岡の若い経営者が集まる講演会というか座談会をするんだ。神谷社長が来たら、俺の顔が立つ。いいねぇ、福岡。
こんなノリで別れた。同級生の名刺をもらった。それから、タクシーに乗ってお互い別々の方向へ帰る。鼻歌を歌いながら途中で寝て、ついたところでお客さんと運転手さんに起こされた。運転手さんは後部座席のドアを開けてその脇に立ち、僕の肩をトントンと叩いてた。その顔に向かって言った。
「ああ、ここが日本でよかった」
「はい?」
「治安の悪い国だったら夜中にこんな酔っ払って危ないでしょ?」
この夜は人類皆兄弟みたく機嫌が無茶苦茶に良くなっていたので、運転手さんに一生懸命話しかけていた。
「そんなことはどうでもいいから早く降りてくださいよ」
「ああ、はいはい」
よっこらしょっと降りて立ち上がると、
「ああ、だめだだめだ」
白い手袋で運転手が頭を抱える。
「どうした?」
「先にお金を払ってもらわなきゃ」
「それ、忘れちゃだめでしょ」
やれやれとスーツから財布を取り出した。
「で、いくらなの?つうか、運転手さんも、酔ってる〜?」
運転手さんをトンボを捕まえる時にくるくると目を回すように指差した。
「酔ってるわけないでしょ」
……ノリの悪い人だった。告げられた金額を支払った。ブロロと音も高らかにタクシーは去っていった。
***
その翌日、平日だったので会社へ行きました。エレベーターを降りてドアを開けて入ると、やな人と目があった。
「社長、遅いじゃないですか」
「別に、でも、今日はなんの予定もなかったでしょ」
「予定がなかったら勤務時間までに出社しないでいいなんてルールはありませんよ」
「うっさいな。俺は時間外勤務もあるんだから、たまの遅刻くらい……」
大目に見ろよー
昨日の酒がまだ残ってた。3年目の浮気と同じメロディで頭に流れた。この時、自分の中で素面の自分とまだ酔ってる自分とが二人いて、せめぎ合っていた。*2
「なんか酒臭い」
「いや、また、ハッタリいって。お前、絶対そういう引っかけするからな」
本当に臭くないのに臭いというやつである。ちょっとした詐欺である。裁判長、代理人は不適切な問いかけによって原告の発言を誘導しています。
「でも、二日酔いですよね?」
「いいやー」
「じゃあ、なんで、遅れたんですか?」
「……」
開き直るその態度が気に入らないのよー
まだ流れてる。3年目の浮気。
「中川さん」
「ん?」
俺にきゃんきゃん言ってる崇の横から、無表情なづかちゃんが何やらフォルダを胸にしっかと抱えて現れる。
「時間の無駄です」
「……」
「注意というのはその注意を聞いて更生する可能性のある相手にしているうちは意義がありますが……」
「ああ」
「この方に今まで何回同じような注意をされましたか?」
そっと俺の方を手のひらを上にして示す。
「えっと……」
空を眺めながら律儀にぶつぶつ言いながら指を折る崇。こいつ、こういう奴なんだよ。その崇をじっと無表情にみながらづかちゃんがもう一度言う。
「中川さん、時間の無駄です」
「たしかに」
妙に納得しやがった。そして、二人とも俺に絡むのをやめてすっと自席に戻る。
3年目の浮気くらーい……くそ、まだ流れてるぜ。
「なんか、ムカつく。妙にムカつくぞ」
しかし、二人に無視される。ため息が出た。ま、いいか。自分の部屋へ向かう途中で、
「あ、ごめん。コーヒーちょうだい」
「やっぱ、二日酔いなんじゃないですか」
誰にともなくそう声をかけると、一旦静かになった崇がやっぱり絡んでくる。こいつ俺の女房かなんかか?
「お前はたわけか。俺は二日酔いだろうがなんだろうが、毎日コーヒーを飲んでるだろうが」
両手をついて謝ったって許してあげないっ!
「ご自分でおいれになってはいかがですか?当店はセルフサービスですっ!」
「お、お前……」
こいつ、ウェイターとしてその台詞を言ったことはないはずだ。セルフサービスみたいなとこでコーヒーを運んだことはねえぞ、こいつは。高級店を梯子してきたやつだからな。クー!しかし、セルフサービスとまで言われたら仕方ない。自分で入れるか。コーヒーメーカーに近づく。
「あ、社長、わたしが」
「三原ちゃんいいって」
そそと立ちあがろうとした総務兼経理の三原ちゃんを飯塚春菜がすかさず、制する。
「づかちゃん、社長をいじめるのはやめて」
すると、優しい声をあげて立ち上がる人がいる。
「中川さんも社長に殊更厳しくしないでも大丈夫ですよ。みんな、社長の真似して遅刻なんてしませんから」
「でも、鏡になるべきなのに」
「まぁまぁ」
そして、俺の代わりにコーヒーを淹れてくれる。俺としては珍しいが、隣の男の肩を抱いた。(普通は女の肩しか抱かない)
「のだくーん」
「社長も大変ですねぇ、朝から」
「俺、自分が女だったら絶対野田くんと結婚する」
「えっと……ええ、ええ?」
ジーッと音を立てるマシンの前で動揺し始める青年。
「冗談だ。気にするな。ただ、そのくらい感激したのは冗談じゃない」
この人も時々冗談が通じない。本人がパニくるのでさっさと訂正を入れたほうがいい。
そして、やっと片手にコーヒー、片手に鞄を持って自分の部屋に入った。やれやれ。
コーヒーを一旦デスクに置くと、どさっと椅子に座った。
「う〜」
崇が見ていないところで頭を抱える。二日酔いである。
「くそー」
人は時々、独り言でくそーと呟きますが、正確にはこのくそは誰に聞かせているんだろうか?ちょっとどうでもいいことを考えました。それから、ガチャっと突然ドアが開いて誰かが入ってきた時のために、PCを立ち上げた。仕事をしているふりをするためである。うちの社員は誰が教育したのかわからないが、多分崇だと思うのだけれど、社長室を開けるときにノックを絶対しないのである。
しかし、やる気が出ないので、立ち上がったPCの画面を眺めながら、コーヒーを啜りつつ、3年目の浮気の歌詞でも検索してみようかなと思う。両手をついて謝っても許してあげないの次はなんだったっけ?
……
キーボードの上に両手を置いて、Sを押そうとして、やっぱりやめた。やめよう、やめよう、こんなくだらないこと。
前のめりになっていると若干気持ち悪いので、背もたれに思いっきり寄っかかってドヨーンとした。とりあえずコーヒーをすする。社長室の壁はガラス張りになっていて東京の街が見えます。今日は曇りだなと。
そして、3年目の浮気ぐらいのぐらいについて考えた。
浮気、ぐらい、
ぐらいはその前に修飾される言葉の程度を軽くする程度副詞ではなかったか?
すごく軽く言ってるけど、3年目の浮気は罪が軽いのだろうか?本当に?
……
すごく微妙な問題だな。こういうことに対する世間一般の評価がわからない。政府も調べてないしさ。統計データもないだろう。
とりあえずコーヒーを一口啜る。
「あなたは3年目の浮気をどう思いますか?」
「え、歌ですか?」
「いや、その罪の重さについて」
「えー」
頭の中でテレビのリポーターになった自分が、道をゆく人にインタビューしている。さっぱりわからねえな。
そのうち、3年目の浮気について考察するのに飽きたので別のことをしようと思う。ちなみにまだ仕事をする気にはならない。それでふと思いついて昨日もらった津島の名刺を取り出した。かつての同級生が気になる。何をやってるのか、年収はいくらなのか。男なんてたいていこんなもんだろう。同年代の男子の年収が気になるのである。どれどれ調べてみっか。
かるーい気持ちでコーヒーを啜りながら、ポンポンと会社名を入れてみた。ふんふん言いながら出てきた結果を眺めるうちに徐々に前のめりに。
「え、ウッソ。まぢかよ」
あんなに謙虚に大したことないと言ってたけど、大体、津島くんってさ。そんな、金持ちに見えないっつうか。昨日だって人のこと社長社長って持ち上げてたのに、ぶつぶつ。
脳ある鷹は爪を隠す
実れる稲穂ほどその首を垂れる
俺は元来なんだか普通にしてても生意気なんだと。だから、極力持ち上げられてもピノキオのようにはならないように気をつけている。大体ですね、我が社は規模からいくとまだまだ、まだまだだし。それに、ゆっくり地道に伸ばしてきている会社の資産負債表は、簡単に言えば自己資本率が高いとか安定しているものだけど、それと比べたらうちなんてさ。まだひよっこなんだから。
しかし、昨日は津島君が同年代のしかももと同級生だったしさ、腰の低い人だったじゃない。ついついちょっと俺にしては偉そうにしてたかもだよ。
でも、多分、津島君のお宅の方が色んな意味で言ってうちより手堅い企業なんじゃね?
つまりは、腰の低い、坊ちゃんには見えない津島君のお家は予想していたよりもきちんとおっきな会社だったんですよ。北九州を中心にその経営の中心は賃貸住宅で、一部ホテルも持っている。最近では福岡を中心にした街の開発にも携わっているようです。
俺、なんか、恥ずかしい……
今、ドアを開けられたら、完全に社員にこの社長は二日酔いだなとバレるぐらいのレベルででれーんと椅子に座りながら、営業マンのように気持ちよくヨイショしてくれる津島君にのせられて言ってしまったあれやこれやを思い出す。素面になって思い出すと赤面必至なあれやこれだ。
あれやこれや……
社長室の天井を眺める。
あれやこれ……
「秀君、頼むよ」
なぜだろう?不意に義父の声と顔が浮かぶ。すくっと背筋を伸ばしました。
しっかりしろ!神谷秀。お前、カリスマ社長だろ?(自分に自分でこういうのを許していただきたい)
いいじゃねえか。福岡。福岡に頼りになりそうな友人がいるぞ。
地方都市に出たいんです。それで東京中心に伸ばしてきている我が社を次のフェーズに進めたい。
東京とはまた全然別の魅力を持つものが作りたくて、でも、決めかねていた。
普段からぼやぼやと悩んでいたことが少し形になって、そして、前に進むかもしれない。こういうのはやはり一緒にやってくれる人を見つけるのが大事だからな。
「そうだ福岡行こう!」
声に出して立ち上がって片腕を上げた。えいえいおうのポーズだ。
馬鹿だと思ってはいけません。やろうと思ったことはとりあえず口にしなければね。さてさて。
そして、思い出す。そうそう。来週なんかがあるからこいと行ってたぞ。津島君。
そうとなったら吉日。スマホを取り出した。
「もしもし」
「もしもし、昨日はどうも遅くまで」
「あ、本当に神谷だ。どうしたの?俺、なんか忘れ物でもしてた?」
「いやいやそういうわけじゃなくって」
「うん」
「昨日さ、ほら、来週福岡に来いって言ってたじゃん」
「あ、あれ?ああ、ごめんごめん。なんか酔っ払ってたよ」
「本当に行っていい?」
「ええっ?」
ひときわ高い声が出た。その津島君の背景からザワザワとした声が聞こえる。
「今、どこにいんの?」
「ああ、空港」
「飛行機で帰んのか」
「うん」
「邪魔しちゃったな」
「いやいや」
あまり強引にいくと、なんだか微妙かな?詐欺を疑われる?だって、坊ちゃんだって知らなかったら素通りするような素朴な津島君だけど、実は金持ちだったし。
しまったな。自転車操業なんて冗談でいっちまって。
ブイブイ言わせてるようで、実は内情火の車で、堅実に金持ってる津島君ちにたかろうとしているように見えてないだろうか。
見えてないだろうか?
「ねえ、気を遣わないでいいよ。神谷。そんな酒の席のことでさ。そんな律儀にならなくても」
「ん?」
「お前、忙しいだろ?いいよ。福岡くんだりの田舎までさ」
「いや、福岡は田舎なんかじゃないだろ」
「田舎だよ」
「注目されてる地方都市だよ」
「いや、嬉しいな。地元を褒められると」
電話の向こうで素朴な津島君(実は金持ち)がほんのりとしている。ほんのりと。頑張れ、俺。あと一押しだ。別に俺は詐欺師じゃない。ただ、本当に純粋な気持ちで福岡に行ってみたいだけだぞっと。
「本当にもともと地方にね、出店を考えていて」
「そうなの?」
「福岡には行ってみたいって思ってたんだよ」
「でも、東京の次は普通は京都や大阪なんじゃないの?」
「いや、もうそれだと地方都市ではないんだよね」
ちょっと違うんですよね……。東京でうまくいったからってそのままホイホイ大阪や京都へ行ってごらん。都市というのは規模だけでみてはいけないと思うんですよ。同じ日本の都市だけど、文化が違う。
「東京でうまくいったから大阪でもうまくいくだろうって発想からして受け入れられない気がするよ」
「へぇ」
「それですったもんだしてるうちに髪が真っ白になって片足棺桶に突っ込むようになるって。あっという間だ」
ハハハハハと向こうで明るく笑う声がする。
「神谷はひねくれてるな」
「そうだな。でも、このくらいの歳になってみると、ひねくれてるのも意外と役に立つぞ」
「そういうものか。すごいなぁ起業家は」
本当に素朴な人でした。津島君は。こんなにまっすぐに人を褒められる人というのも、実は意外と希少価値だと思うのだけれどな。育ちの良さって本当はこういうことを言うのかもなぁ。ちょっとぼんやりしてしまった。
「あ、ごめん。搭乗の時間だ」
うかうかしてタイムリミットを意識するのを忘れてた。俺としたことが。
「ありがとう。偶然会えて、それにわざわざ電話までくれてさ。嬉しかったよ」
綺麗にクロージングしそうになってる。クーーー!俺としたことがっ!やっぱり福岡行くってのは冗談だと思われてるぞっ!
「ほんとに来る時はさ、連絡してよ。いろいろ案内するからさ」
「来週、行っていい?」
「え……」
津島君が人のいい顔立ちで笑いつつ当惑しつつ空港の片隅でスマホ片手に立ち尽くす様子を想像する。
「ほんとにほんと?」
「急すぎるか」
「いや、全然いいけど、ただ、バタバタしちゃってなんか何もしてあげられないような気がするんだけど」
「いや、いいいい。その、みんなが集まるとこに入れてもらってさ。それで、福岡の様子は自分たちでみて回るし」
「そんなんでいいの?」
「いいの、いいの。福岡がいいなと思ったら、また行くから」
ちょっとした沈黙がある。なんか女子に告白してリアクションを待ってる時のようにドキドキした。ドキドキしたぜ。
「やぁ、行動力が違うね。うん、わかった。じゃ、また詳しいことは電話して相談しよう。もう、飛行機の時間だからさ」
「お、ありがとう」
「じゃあね」
そして、電話は切れた。
よっしゃーーー!
なんか、いいぞ!なんかうまくいく気がするぞ!
「何やってんですか?社長」
「ん?」
声は出さなかったけど、ワールドカップで選手がシュート決めた直後ぐらいの気合の入ったガッツポーズを部屋の真ん中で一人で取っておりました。ばかと思わないでくださいね。社長にはね、時々、こういう不思議な行動が必要なんです。
そんな自分を崇がドアの入り口で部屋に入らずにいつものように冷たい目で見ている。
手に何か小瓶のようなものを持っていた。
*1 坊ちゃん
夏目漱石による日本の中編小説。1906年、『ホトトギス』第九巻第七号の『付録』として発表。
(Wikipedia参照)
*2 3年目の浮気
3年目の浮気は、ヒロシ&キーボーのデビュー曲である。佐々木勉作詞・作曲、櫻庭伸幸編曲。1982年リリース(Wikipedia参照)




