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名無しの騎士  作者:
9/14

閑話


 『ソレ』はまどろんでいた。


 近くに何かが来ていることは知っていた。


 懐かしく、穏やかな気配。


 見知らぬはずの、けれどどこか覚えのある気配。


 『ソレ』はほんの一時だけ目覚める。


 人間に興味を持って、酔狂にも守るようになって数百年。


 ささやかな、半ば冗談のような願いは、一時を除いて滞ったことはない。


 『ソレ』はゆっくりと瞼を上げる。


 懐かしい気配が、語りかけてくるのを感じたからだ。


 見知らぬはずの気配が、自分の波動に似ているように感じたからだ。


 『ソレ』はゆっくりと頭を動かして、頭上の天に輝く月を見上げる。


 懐かしい気配はとても幼く感じられる。


 人の時間はひどく短いせいだろう。


 見知らぬはずの気配はとても老成しているように感じられる。


 人であるにもかかわらず。


 『ソレ』は深い海のような瞳を細め、また地に伏せて瞼を閉じた。


 気配はまだ来ない。


 ほんの数時間後には来るだろうが、もう一度眠っては寝過してしまうだろう。


 だが、眠りが足りない。


 わずかな時間だが、記憶に残っている色あせた一瞬が脳裏に閃く。


 『ソレ』は、名のない自分が名を持つにいたった瞬間を思い、口角が上がるのを自覚した。


 キョトンとした小さな瞳は、数百年の時を経て受け継がれ、人型の腕を飾る者を与えた。


 同じ名の人間。


 過去の人間がつけた名を、現在の人間が刻んだ。


 それを知った時の感情を示すのなら、『歓喜』と言うのだろう、と考え、眠りに沈んだ。


 『ソレ』が目覚めるのは、全てが終わった後……。






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