【8話】激闘の末
坂口との殺し合いが始まった。
坂口は余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺との距離を詰めてくる。まるで、俺が逃げ場を失った獲物であるかのように。
「……どうする」
俺は剣を構えたまま、必死に頭を回転させていた。
問題は、坂口が持っている【九命の剣】だけではない。あいつがどんなスキルを持っているのか。それを見極めなければ、勝ち目はない。
「はぁっ!」
考えているだけでは何も始まらない。
俺は地面を蹴り、一気に坂口との距離を詰めた。そして、勢いよく剣を振り下ろす。
カキンッ!
「っ……!」
あっさりと弾かれた。
ならば、次は横から――!
カキンッ!
またしても弾かれる。
何度も剣を振るうが、結果は変わらない。俺の攻撃は、まるで通用しなかった。
「くそっ……!」
俺は一度距離を取り、呼吸を整えた。
一方の坂口は、疲れた様子すら見せていない。むしろ、こちらの攻撃を楽しんでいるようだった。
「あれ? こんなもん? 雑魚じゃん」
「……それはどうかな? 俺はまだ一回もスキルを使ってないぜ?」
強がってはみたものの、状況は最悪だった。
俺の持っている攻撃系スキルは、【水噴射】と【毒牙】。
毒牙は、剣で相手を攻撃して初めて効果を発揮する。つまり、そもそも攻撃を当てられなければ意味がない。
だが、水噴射なら話は別だ。
相手が俺の剣を弾いた瞬間、体勢が崩れるわずかな隙が生まれる。そこに水噴射を叩き込む。
狙うのは、心臓。
相手も人間である以上、急所を貫けば勝負を決められるはずだ。
ただし、一度失敗すれば、次は警戒される。
チャンスは一度きり。
「……やるしかない」
俺は剣を握り直した。
坂口がニヤニヤと笑っている。その余裕ぶった顔を見ていると、腹が立って仕方がない。
だが、今は怒りに任せて攻撃するわけにはいかない。
狙うべき瞬間を見極めろ。
そして――。
「うおおおおっ!」
俺は渾身の力を込めて、坂口に斬りかかった。
カキンッ!
狙いどおり、坂口が俺の剣を弾く。
今だ!
「坂口ぃぃ! 死ねぇぇぇ! 【水噴射】!!」
手のひらから勢いよく水が噴き出した。
狙いは完璧。
水流は一直線に坂口の胸元へと伸びていく。
これなら、いける!
そう確信した、その瞬間だった。
ギュンッ!
「……は?」
胸を貫くはずだった水流が、何かに弾かれた。そして、進行方向を変えた水が――。
ズブッ!
「がっ……!」
俺の太ももを貫いた。
「な、なんで……?」
何が起きた?
水が……跳ね返された?
俺は痛む太ももを押さえた。立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
くそっ……動け!
だが、どれだけ力を込めても、体は言うことを聞かなかった。
「ヒャハハハハ! お前の負けだぁ!」
坂口が剣を握り、倒れた俺に近づいてくる。そして、楽しそうに声を弾ませた。
「いーち、にーい、さーん、よーん!」
一回、また一回。
坂口は俺を斬りつけるたびに、わざわざ回数を数えていた。九回斬られれば即死。その剣の能力を、俺に思い知らせるかのように。
「くそっ……!」
逃げなければ。
だが、立ち上がることすらできない。
水噴射も通用しない。毒牙を使おうにも、攻撃を当てることができなければ意味がない。
何もできないまま、俺は追い詰められていく。
「……もう、ダメなのか?」
せっかく、ここまで生き延びてきたのに。
元の世界に帰るために、必死に戦ってきたのに。
こんなところで……終わるのか?
そのときだった。
「誰だ! お前は!」
突然、坂口が声を荒らげた。
剣を振るう手を止め、入口の方へと視線を向ける。
俺も、かすむ視界でそちらを見た。
開かれた扉。
その向こうに、一人の人影が立っていた。
「……林?」
助けに来てくれたのか……?
そう思った瞬間、俺の意識は闇に沈んだ。
◇
「正弘! おい、正弘!」
誰かが俺を呼んでいる。
……うるさいな。
今は少し、休ませてくれ。
「正弘! 目を覚ませ!」
聞き覚えのある声だった。
俺は重たいまぶたを、ゆっくりと開いた。
目に入ったのは、木でできた天井。
「……ここは?」
見慣れない場所だ。
少しずつ意識がはっきりしてくる。どうやら、宿屋のベッドに寝かされているらしい。
そして、俺のそばには林がいた。
「林……?」
「おお! やっと目を覚ましたか!」
林は安心したように息を吐いた。
「俺……あの後、どうなったんだ?」
坂口と戦っていたところまでは覚えている。だが、その後の記憶がない。
俺が尋ねると、林はあの後に起きた出来事を話し始めた。
林もまた、坂口を探して城へ向かっていたらしい。そして城内を探索している途中、俺がいる部屋を見つけた。
扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは――坂口に斬りつけられている俺の姿だったという。
林はすぐさま【身体能力上昇】を発動。俺を抱えて、そのまま城から脱出したそうだ。
「……そうだったのか」
俺は天井を見つめた。
林が来てくれなければ、俺は今頃、間違いなく死んでいただろう。
「助かったよ、林……」
「ああ。まあ、無事でよかったぜ」
林はそう言って笑った。
俺はゆっくりと上半身を起こし、自分の足に目を向けた。太ももにはガーゼが貼られている。水噴射で貫かれた傷を、手当てしてくれたらしい。
「……しばらくは動けそうにないな」
「無理するなよ。じゃあ、俺はちょっと用事があるから」
林はそう言い残し、宿を後にした。
部屋に一人残された俺は、深いため息をついた。
「はぁ……これから、どうするかな」
坂口には勝てない。
少なくとも、今のままでは絶対に無理だ。
水噴射は簡単に跳ね返され、剣での攻撃も通用しなかった。あいつのスキルが何なのかは、まだわからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
今の俺には、坂口と戦うための力が足りない。
なら、やるべきことは決まっている。
もっとスキルを集める。
そして、自分の戦い方を見直す。
あいつに勝つために、今できることをやるしかない。
俺はベッドに横になり、静かに目を閉じた。
足が完治するまで、およそ一週間。
今は焦らず、体を休めよう。
次に坂口と会うときは――絶対に負けない。
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