【6話】想定外の出来事
俺と林は、トータム王国を目指して歩き続けた。
森を抜けてから、さらに約二時間。
「やっと着いた……」
林は息を切らしながら、目の前にそびえ立つ城壁を見上げた。
長かった……。
この世界に転移してから、いったいどれほど歩き回っただろうか。魔物と戦い、森を抜け、ようやく俺たちは目的地にたどり着いたのだ。
だが、喜んでばかりもいられない。
問題は――この王国に、坂口憲二がいるかどうかだ。
「林、悪いけど、ここで一度別行動にしないか?」
「ああ、いいぜ。じゃあ、また後でな」
林と別れた俺は、さっそく街の中へと足を踏み入れた。
そして、真っ先に向かったのは武器屋だった。
以前訪れたとき、俺はとんでもない武器を見つけていた。
値段は一千万ゴールド。
その名も――【九命の剣】。
九回斬りつけることで、相手を即死させるという、とんでもない性能を持った剣だ。
坂口の金さえ手に入れば、あの剣を買うことができる。
そう考えていたのだが……。
「……ッ!」
店に入った瞬間、俺は言葉を失った。
あったはずの場所に、あの剣がない。
「九命の剣が……なくなってる……」
嘘だろ……。
いや、待て。
俺はそこで、ようやく自分の愚かさに気づいた。
俺たちはずっと、誰が先に坂口から金を奪い、あの剣を手に入れるか。そればかり考えていた。
だが、そもそも坂口にとって、一千万ゴールドなんて大した金額ではないのかもしれない。
何しろ、あいつは有名企業の社長の息子だ。
俺たちが必死に金を集めている間に、坂口はとっくに剣を買っていた。
……いや、買わない理由がない。
「つまり……」
俺は頭を抱えた。
この殺し合いを制するためには、まず坂口を倒さなければならない。そして、あいつが持っているであろう【九命の剣】を奪う。
それしかない。
正直、武器が普通の剣同士なら、勝負は知恵とスキルの使い方次第だ。俺にだって、勝ち目はあったかもしれない。
だが、相手があの剣を持っているとなると話は別だ。
九回斬られれば即死。
たった九回。
いや、九回も斬られるまで生きていられる保証すらない。まともに戦ったところで、勝てる可能性は限りなく低いだろう。
「となると……」
俺は小さく呟いた。
「バレないように……一撃で仕留めるしかないか」
そもそも、坂口がどんなスキルを持っているのかすらわからない。
剣の性能だけでも厄介なのに、他にも強力なスキルを持っていたら、ますます手に負えなくなる。
まずは情報収集だ。
坂口がこの王国にいるのか。そして、どこにいるのか。
それを突き止めなければ、何も始まらない。
俺は武器屋を後にし、街の人々を眺めながら歩き始めた。
◇
「……やっと別れることができたか」
正弘と別れた林は、街の中をぶらぶらと歩いていた。
もちろん、ただ観光しているわけではない。
頭の中では、ずっと一人の男のことを考えていた。
清正弘。
あいつは、絶対に何かを隠している。
俺が森に入るとき、あいつを殺すつもりで後頭部を殴った。
不意打ちだったし、狙った場所も完璧だった。普通なら、ただでは済まないはずだ。
それなのに――。
あいつは、血すら流さなかった。
「……あんなスキル、あるのか?」
俺は森での出来事を思い返す。
正弘は、俺たちが苦戦していたグリムマンティスの弱点を一瞬で見抜いた。しかも、俺が攻撃しやすいように、的確に指示まで出してきた。
あいつは、勉強が特別できるタイプというわけではない。
だが、ゲームのこととなれば話は別だ。クラスの中で、あいつほどゲームをやり込んでいるやつはいない。ゲームの知識で正弘に勝てるやつなんて、まずいないだろう。
この世界の仕組みを理解するのも、戦い方を考えるのも、あいつは得意なはずだ。
……敵に回せば、間違いなく厄介な相手になる。
だが、幸いなことに、俺と正弘は仲がいい。
だったら、その関係を利用させてもらうまでだ。
正弘には悪いが、これは殺し合い。
生き残るためなら、使えるものは何でも使う。
「……まあ、今はそんなことより坂口だ」
俺は思考を切り替えた。
俺は転移した後、森を抜けて二つ目の街へと向かった。そこで武器屋に入ったとき、すでに【九命の剣】は売り切れていた。
つまり、坂口があの剣を購入したのは、少なくとも二日前ということになる。
そして、ついさっき。
正弘は気づいていなかったようだが、俺たちが森を抜けた頃、クラスメイトが二人も殺されていた。
箱崎遥馬と小松原通。
転移する直前、あの二人は恐怖のあまり、お互いに抱きついていた。
俺と正弘が近い場所に転移したように、あいつらも同じような場所に転移した可能性は高い。
そして、二人で協力して坂口を倒そうとした。
だが――。
結果は、返り討ち。
そう考えれば、あの死亡通知にも説明がつく。
「……やっぱり、坂口はこの国にいる」
俺は確信に近いものを感じていた。
坂口は昔から目立つことが好きなやつだった。自分の金持ち自慢をするのも、周囲から注目されるのも大好きだった。
そんなあいつが、この世界で強力な武器を手に入れたのだ。
わざわざ人目につかない場所に隠れるとは思えない。
どこに転移したとしても、あの巨大な王国は目に入ったはずだ。
ならば、あいつがこの国にいる可能性は高い。
問題は――今の坂口が、どれほど強いのかということだ。
【九命の剣】を持っているのなら、正面から戦うのは危険すぎる。
俺のスキルで、あいつに対抗できるのか。
正直、自信はない。
だが、ここで逃げていたら、いつまでたっても状況は変わらない。
「……これでも俺は、一人殺してんだぁ!」
俺はナイフを強く握りしめた。
「やってやるよ」
坂口憲二。
お前を倒して、俺が生き残ってやる。
そう決意した俺は、人混みの中へと足を踏み出した。
坂口を探すために。
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