【5話】ユニークスキル
俺は巨大なカマキリに向かって、手を突き出した。
「水噴射!」
勢いよく放たれた水が、カマキリの体に直撃する。
だが――。
パシャッ。
「……は?」
なんとも情けない音を立てて、水が弾け飛んだ。カマキリは、まるで何事もなかったかのように、俺たちを見下ろしている。
「嘘だろ!? まったく効いてねぇ!」
くそっ……! 水噴射程度じゃ、こいつの硬い体には傷一つつけられないらしい。
一方、林は【身体能力上昇】を使い、カマキリの攻撃を引きつけていた。素早い身のこなしで鋭い鎌をかわし、隙を見つけては素早く距離を取っている。
さすがに、あの巨体を相手にするのは大変そうだ。
俺が使える攻撃系のスキルは、残すところ【毒牙】だけ。
……マジで頼むぞ、毒牙。
俺は剣を握り直し、カマキリの背中へと斬りかかった。
カンッ!
「なっ……!」
剣が弾かれた。
角度を変えて何度か斬りつけてみたが、結果は同じ。硬い金属にでもぶつけたかのような音が響くだけだった。
「でかいだけじゃなくて、硬いのかよ……!」
これでは、まともにダメージを与えられない。身体能力上昇を持ち、複数のスキルを使いこなせる林に任せるしかないのか……。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
「林! 交代だ!」
「よし、正弘! 頼むぞ!」
林はそう言うと、手にしたナイフを構えた。
俺は地面に落ちていた石を拾い、カマキリに向かって投げつける。
「おい、こっちだ! デカブツ! 俺と戦うのがそんなに怖いか!」
「キギャァァァァァッ!」
カマキリが怒ったような叫び声を上げ、こちらへと向き直った。次の瞬間、巨大な鎌が勢いよく振り下ろされる。
「うおっと、危ねぇ!」
俺は横に飛び退き、間一髪で攻撃をかわした。
ズドンッ!
鎌が地面に叩きつけられ、花畑の土が勢いよく跳ね上がる。
……やっぱり、とんでもない威力だ。まともに食らえば、ただでは済まない。
だが、こいつにも弱点はあるはずだ。
巨体である分、攻撃の動きは大きい。しっかりと相手の動きを見ていれば、攻撃をかわすこと自体はそれほど難しくない。
俺はカマキリの動きを観察しながら、必死に攻撃をかわし続けた。
しかし、林の方も苦戦しているようだった。ナイフで攻撃を仕掛けても、硬い外殻に阻まれてしまう。なかなか有効な一撃を入れられずにいる。
「くそっ……! 何か弱点はないのか!?」
こいつの強みは、あの硬すぎる体。
なら、逆に考えればいい。
体全体が硬いとしても、すべての部分が同じ硬さとは限らない。
俺はカマキリの体を注意深く観察した。
頭部、胴体、脚……。
そして、ふと気づいた。
「……そうか!」
硬い外殻に覆われていない場所がある。
関節部分だ!
あそこなら、攻撃が通るかもしれない。
「林! 関節だ! 関節部分を狙うんだ!」
俺の声に、林がハッとしたように顔を上げた。そして、カマキリの体を見て、すぐに俺の意図を理解したらしい。
「なるほどな……! よっしゃ、任せろ!」
林はナイフを逆手に持ち、カマキリへと突撃した。
「【身体能力上昇】! くらえ! これが今の俺の全力だ!」
身体能力を強化した林が、一気に距離を詰める。
狙うのは、カマキリの鎌を支える関節部分。
カマキリが迎撃しようと鎌を動かす。
だが、もう遅い。
スパンッ!
鋭い音が響いた。
次の瞬間、カマキリの二本の鎌が宙を舞った。
「よくやった! 林!」
「へっ、これくらい当然だろ!」
鎌さえなければ、こっちのものだ!
少なくとも、あの厄介な攻撃を警戒する必要はなくなった。
俺は剣を握りしめ、カマキリへと駆け寄る。そして――。
「これで終わりだ!」
全力で剣を振り上げ、首元へと斬りつけた。
「キギャァァッ!」
ゴトンッ!
大きな音とともに、カマキリの首が地面へと落ちた。巨体がぐらりと傾き、そのまま地面に倒れ込む。
そして、目の前にウィンドウが表示された。
【グリムマンティスを倒しました】
「……倒した、のか?」
しばらくの間、俺はその表示を見つめていた。
あの巨大なボスを、俺たち二人で倒したのだ。
「やったな、正弘!」
林が俺の肩に手を置いた。
「ああ……」
ようやく実感が湧いてきた。
生き残った。
少なくとも、今はまだ。
そのときだった。
【ユニークスキル『二連撃』を吸収しました】
「……っ!?」
思わず目を見開いた。
ユニークスキル……!
まさか、ボスを倒したことで、こんなスキルを吸収できるとは。
「二連撃……」
名前からして、連続で二回攻撃できるスキルだろうか。詳しい性能はまだわからないが、持っていて損はないはずだ。
むしろ、これから生き残るためには欠かせない能力になるかもしれない。
俺は表示されたウィンドウを閉じ、隣にいる林へと視線を向けた。
「なあ、林。お前も何かスキルを吸収したか?」
すると林は、なぜか慌てた様子でウィンドウを隠した。
「お、俺か? 俺は……何も吸収してなかったな」
「……そうか」
妙に歯切れが悪い。
何かを隠しているようにも見えるが……。
まあ、俺だって人のことは言えない。
「正弘はどうなんだ?」
「俺?」
さて、どうするべきか。
正直に話してもいい気はする。だが、ここは殺し合いの世界だ。今は協力できていても、いつか林と敵対する可能性は十分にある。
それに、ユニークスキルは貴重な切り札だ。わざわざ自分から手の内を明かす必要はないだろう。
「俺も何も吸収できなかったわ」
「そっか」
今は、これでいい。
俺たちは再び歩き始め、ムーン王国を目指した。
その後も何度か魔物と遭遇したが、グリムマンティスとの戦いを経験した俺たちにとっては、それほど苦戦する相手ではなかった。
そして、ようやく森を抜けた。
「……おお」
視界が一気に開ける。
その先に広がっていたのは、巨大な城と、それを取り囲むようにそびえ立つ高い城壁だった。
「あれが……俺たちの目指していた王国か」
「綺麗だな……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
遠くからでもわかるほど立派な城。その周囲には街並みが広がり、まるで絵画のような光景が目の前に広がっている。
ただ、まだ距離はかなりある。あそこまでたどり着くには、もう少し歩かなければならないだろう。
俺たちはその美しい景色に見とれ、しばらくの間、立ち尽くしていた。
――そのせいで。
目の前に表示されたウィンドウに、気づくことはなかった。
【箱崎遥馬 死亡】
死因:殺害
【小松原通 死亡】
死因:殺害
残り39人
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