【31話】霧迷える者
俺はワテラキ王国を出て、トータム王国へと向かっていた。
目指すのは、かつて坂口に惨敗し、林に助けられた場所だ。
「次こそは負けない!」
俺は拳を握りしめる。
あのときとは違う。今の俺には、新たに手に入れた称号【剣豪】がある。それに、坂口と戦うための準備も整いつつある。
俺は大多和と戦った場所へ向かうため、まずは洞窟を目指すことにした。
(懐かしいな……)
ここを通ったのは、つい最近のことだ。それなのに、あまりにも多くの出来事が起こりすぎたせいか、ずいぶん昔のことのように感じる。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて洞窟を抜けた。
すると、目の前に一軒の立派な家が現れる。
「そういえば、大多和の拠点には一度も入ったことがなかったな」
せっかく近くまで来たのだ。もしかしたら、何か使えるものが残っているかもしれない。
そう考えた俺は、少しだけ寄り道することにした。
家の中に入ると、乾燥させた肉や水が入っていると思われる樽が置かれていた。そのほかには、簡易的なベッドが一つあるだけだった。
「……何もないか」
俺は部屋の中を見渡したが、特に目ぼしいものは見当たらない。
そう思いながら、何気なくベッドの下を覗き込んだ。
「ん? 何かある……」
そこには、何か大きな物体が隠されていた。
俺は手を伸ばし、それを引きずり出そうとする。しかし、びくともしない。
「重っ……!」
仕方なく、俺はベッドそのものを持ち上げることにした。
そして、その下に隠されていたものを見た瞬間――。
「これは……!」
そこには、大多和が使っていたものとは別に、一本の立派な大剣が置かれていた。
剣先は二つに分かれており、柄の部分には悪趣味なほど宝石が散りばめられている。
「そういえば、剣を買うのを忘れてたな」
今の俺が持っている武器は、どこでも手に入るような安物のナイフだけだ。
これほど立派な剣を見つけたのなら、使わない手はない。
俺はさっそくウィンドウを開き、その名前と説明を確認した。
【聖剣エクスカリバー】
【古の職人が何十年もの歳月を費やして完成させた最高傑作。魔王を撃ち倒すために存在し、選ばれた者にしか扱うことができない】
「せ、聖剣エクスカリバー!?」
思わず声が裏返った。
それって、ゲームの終盤で入手できるような最強クラスの武器じゃないか。
こんな場所に置いてあったなんて……。
俺は期待を胸に、さっそく剣を持ち上げようとした。
だが――。
「お、重い……!」
持ち上げるどころか、動かすことすらできない。
(選ばれた者にしか扱えない……ね)
どうやら、俺には資格がないらしい。
まあ、仕方がない。俺は勇者じゃないんだからな。
「お前の力なんか借りなくても余裕だよ。ばーか」
俺は剣に向かって捨て台詞を吐き、大多和の家を後にした。
それにしても、なぜあんなものが大多和の家にあったんだ?
(あいつが選ばれた勇者だったのか?)
俺は大多和の顔を思い浮かべる。
昭和のヤンキーをそのまま現代に持ってきたような性格に、あのゴツい体格。
……あんな奴が勇者だったら、とっくに世界は滅びているだろう。
俺は聖剣がこの場所にあったことだけを記憶し、再び森の中を進み始めた。
◇
「あれ……おかしいな。道は合っているはずなんだけど……」
しばらく歩き続けているが、一向に洞窟へたどり着けない。
それどころか、周囲にはいつの間にか濃い霧が立ち込めていた。
(なんだ……どうなっている?)
俺は足を止め、周囲を見渡す。
さっきまでは、こんな霧などなかったはずだ。
すると、霧の奥で何かが光った。
「……あれは?」
淡い光が、まるで俺を誘うかのように揺れている。
俺は警戒しながらも、その光を追って進むことにした。
しばらく歩くと、次第に霧が薄くなっていく。そして、周囲の景色がはっきりと見え始めた。
「こ、これは……」
目の前にいたのは、体長三十センチほどの小さな生物だった。
背中には透明な羽が生えており、身体の周囲から淡い光を放っている。
しかも、そいつだけではない。
周囲を見渡すと、同じような生物が何体も飛び回っていた。
「妖精……?」
俺は思わず呟いた。
どうやら、とんでもない場所に迷い込んでしまったらしい。




