【3話】魔王からの宣告
俺はスキルを獲得するため、森の中を歩き回っていた。
これまでに遭遇したスライムやボアだけでなく、森の中には蜂に似た魔物も生息していた。
名前はスピアというらしい。
魔物の種類が増えれば、それだけ手に入るスキルの種類も増えるはずだ。
そう考えた俺は、見つけた魔物を片っ端から倒していった。
そして、ひと通り狩りを終えた頃、ようやく一つのスキルを吸収することに成功した。
【スキル 毒を吸収しました】
「……毒か」
俺は表示された文字を見つめながら、頭の中で考えを巡らせる。
今持っているスキルと組み合わせるなら、噴射が候補になるだろう。
「毒と噴射を合わせれば……毒噴射になるのか?」
名前だけなら、なかなか強そうだ。
遠距離から毒を浴びせることができれば、戦闘を有利に進められるかもしれない。
だが、一つ問題があった。
合成するためのスキルが足りないのだ。
「……もう一つ欲しいな」
せっかく新しいスキルを手に入れたのだから、ここで帰るのはもったいない。
俺は、あと一つスキルを獲得するまで、この森に滞在することにした。
しかし――。
「まったく落ちねぇ……」
いったい、何時間魔物を狩り続けたのだろうか。
気づけば空は暗くなり始め、森の中にも夕闇が忍び寄っていた。
それなのに、スキルは一向に手に入らない。
「どうにかして確率を上げる方法はないのか……?」
俺は焦りを感じながら、ウィンドウを何度も確認した。
統合のスキル説明を読み返し、何か見落としていることがないか探してみる。
そして、試しに統合の項目を指で押してみた。
すると――。
「……ん? ゴールドを使えば強化できるのか?」
ウィンドウに、新たな表示が現れていた。
【統合Lv1 → Lv2 3000ゴールド】
「なるほど……。スキル自体のレベルを上げられるのか」
俺は表示された金額を見つめた。
3000ゴールド。
今の所持金は、およそ7000ゴールドだ。
つまり、ここで強化すれば、手持ちの半分近くを失うことになる。
「どうする……?」
この世界でゴールドを稼ぐ方法は、まだわかっていない。
武器を買うにも、宿に泊まるにも金は必要だ。今後のことを考えれば、できるだけ残しておきたい。
しかし、このまま魔物を倒し続けても、いつスキルを獲得できるかはわからない。
それなら、少しでも確率を上げた方がいいのではないか?
「……よし」
俺は覚悟を決めた。
「やってやる!」
三千ゴールドを支払い、統合のレベルを上げる。
【ユニークスキル 統合 Lv2】
これで、少しは状況が変わるはずだ。
俺は再び森の中を歩き、魔物を探し始めた。
そして、しばらくした頃――。
【ボアを倒しました】
【スキル 剛牙を吸収しました】
「おぉ!」
思わず声が出た。
ようやく二つ目のスキルを手に入れたのだ。
しかも、今度のスキルは『剛牙』。
毒と組み合わせれば、面白い能力になるかもしれない。
俺はさっそくウィンドウを開き、二つのスキルを選択した。
【スキル 毒】+【スキル 剛牙】
そして――。
【スキル 毒牙に進化しました】
「毒牙……!」
俺は新しく獲得したスキルの名前を見つめた。
毒を持った牙、ということだろうか。
名前から考えると、接近戦で役立ちそうな能力だ。
「これは結構使えるんじゃないか?」
実際に使ってみなければわからないが、少なくとも無駄にはならないはずだ。
俺は近くにいたスライムを見つけると、剣を構えた。
「試してみるか……!」
そのまま剣を振り下ろす。
攻撃が命中した瞬間、スライムの体に緑色のエフェクトが浮かび上がった。
「……なるほど」
どうやら、攻撃した相手に毒を付与する能力らしい。
シンプルだが、これは強い。
剣で攻撃するたびに毒を与えられるのなら、相手が強敵でも十分に戦える可能性がある。
「よし、今日はここまでだな」
空はすっかり暗くなっていた。
これ以上、夜の森を歩き回るのは危険だろう。
俺は街へ戻り、宿屋で休むことにした。
幸い、帰り道で迷うこともなく、無事に街へたどり着くことができた。
そのまま宿屋を見つけ、部屋を借りる。
「……疲れた」
今日は一日中、魔物を狩り続けていたのだ。さすがに体も疲れている。
やることもないし、さっさと寝るか……。
そう思い、ベッドに横になろうとした、その瞬間だった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン!
「……なんだ!?」
突然、街中に大きな鐘の音が鳴り響いた。
何事かと思って身構えていると、頭の中に聞き覚えのある声が響いてきた。
「おいおい、何をのんびりやっているんだ? 何も面白くねえじゃねえか」
「……!」
この声は――魔王だ。
あの城で俺たちに殺し合いを命じた、魔王アシュベルト・バーン。
いったい、今度は何をするつもりなんだ?
俺が警戒していると、魔王は楽しそうな口調で話を続けた。
「そこで、お前らにいいことを教えてやろう」
嫌な予感がする。
「仲間を殺したとき、相手が持っているスキルや所持金を奪うことができる」
「……!?」
思わず息を呑んだ。
スキルだけじゃない。ゴールドまで奪えるだって?
つまり、金が足りなくなったときや、欲しいスキルがあるときは、クラスメイトを殺せばいいということか。
魔王は、わざわざそんなことを俺たちに教えたのだ。
「ハハハッ! いいか、早く俺に殺し合いを見せてくれ。では、健闘を祈る!」
そこで声は途切れた。
「…………」
俺はしばらく、何も言えずにいた。
ゴールドを奪える。
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
この世界では、ゴールドの価値が非常に高い。
俺は以前、武器屋で見かけた剣のことを思い出した。
値段は、なんと一千万ゴールド。
とんでもない金額だが、その性能も桁外れだった。
【九命断ち】
説明には、こう書かれていた。
『九回切りつけると、相手を即死させる』
「……あの剣さえ買えれば、ほとんど負けることはないだろうな」
もちろん、実際に使ってみなければわからない。
だが、説明どおりの能力なら、これほど強力な武器はそうそうないはずだ。
問題は、一千万ゴールドという大金をどうやって用意するか。
普通に魔物を倒して稼ぐにしても、いったい何日、何か月かかることやら。
……いや。
俺は、ある人物の顔を思い浮かべた。
坂口憲二。
確か、学校でも毎日のように金持ちだと自慢していた男だ。
それもそのはず、坂口は有名企業の社長の息子だった。
あいつなら、この世界でも大金を持っている可能性がある。
いや、そもそも俺が武器屋であの剣を見つけたように、ほかのクラスメイトだって街を訪れているはずだ。
そして、あの剣の存在を知った者がいたとしたら?
一千万ゴールドという大金を手に入れるために、何を考えるだろうか。
答えは簡単だ。
誰かを殺して、その金を奪う。
しかも、魔王は今、その方法をわざわざ全員に教えてしまった。
「……つまり」
俺は、ある結論にたどり着いた。
誰が最初に坂口を狙い、その金を手に入れようとするのか。
金を求めるクラスメイトたちが、坂口を狙い始める可能性は十分にある。
そして、それはもう始まっているのかもしれない。
俺は思わず、口元を緩めた。
「坂口強奪戦……か」
この殺し合いは、俺が思っていた以上に、とんでもないことになりそうだった。
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