【2話】次なる目的地
俺は無我夢中でスライムを倒し続けた。
しかし、そう簡単にスキルを獲得できるわけもなく、気づけばかなりの時間が経過していた。
「……全然出ないな」
さすがに、いつまでもスライムばかり倒しているわけにはいかない。
俺は一度周囲を見渡し、気分を変えるつもりで別の場所へ移動することにした。
そうして森の中を歩き続けていると、やがて木々の隙間から柔らかな光が差し込んできた。
どうやら、森を抜けられそうだ。
俺は少しだけ足を速め、そのまま森の外へと踏み出した。
「あれは……」
思わず声が漏れた。
視線の先に広がっていたのは、立派な城だった。
重厚な城壁に囲まれ、その周囲には数え切れないほどの建物が並んでいる。
もしかして、街があるのか?
ここからそう遠くはなさそうだ。
俺はあの街を目指しながら、道中で魔物を倒していくことにした。
森を抜けたからだろうか。今度はスライム以外の魔物にも遭遇するようになった。
「……イノシシかな?」
目の前に現れたのは、茶色い毛並みに二本の鋭い牙を持つ魔物だった。
どこからどう見てもイノシシにしか見えない。
ただ、普通のイノシシよりも一回り大きい気がする。
俺は警戒しながら、そいつの頭上に狙いを定めた。
「……ここだ!」
指先から水を噴射する。
放たれた水は狙いどおりに命中し、魔物はその場に倒れ込んだ。
【ボアを倒しました】
「ボア……。まあ、イノシシと変わらないか」
どうやら、この世界ではこういう魔物をボアと呼ぶらしい。
スライム以外の魔物を倒せたのは大きな進歩だ。
しかし、残念ながらスキルは獲得できなかった。
やはり、一度倒した程度では難しいようだ。
俺はその後もボアを見つけるたびに倒しながら、街へ向かって歩き続けた。
そして――。
「……街っぽいところに着いちゃったな」
気づけば、目の前には街の入口が見えていた。
結局、スキルを獲得するより先に着いてしまったらしい。
まあ、ボアから手に入るスキルなんて、せいぜい『突進』とかそのあたりだろう。
そう自分に言い聞かせ、俺は街の中へと足を踏み入れた。
「……ッ」
その光景を目にした瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
街は、想像していた以上に賑わっていたのだ。
道を行き交う人々の話し声。店先にずらりと並べられた商品。そして、あちこちから聞こえてくる活気に満ちた声。
そこには、まるで別世界のような光景が広がっていた。
ついさっきまで、俺たちは命を懸けた殺し合いを強制されていたというのに。
この街の人々は、そんなことなど知る由もなく、当たり前の日常を過ごしている。
……なんだか、不思議な気分だった。
俺はひとまず情報を集めるため、近くにあった建物へと入ってみることにした。
扉を開けた途端、酒の匂いと大勢の人々の声が押し寄せてくる。
中では大人たちが酒を飲み、陽気に踊ったり、仲間同士で盛り上がったりしていた。
「酒場ってやつか……」
いかにも異世界らしい場所だな。
俺は店内を見渡し、目的のものを探した。
「あっ、あった!」
見つけたのは、大きな壁に掲げられた地図だった。
この世界の地理がわかれば、次にどこへ向かうべきかも決めやすくなる。
そう考えた俺は、さっそく地図の前へと移動した。
「えっと……」
地図によると、俺が転移させられた場所は『古の森』というらしい。
そして、そこから北へ進んだところに、今いる場所――『アルカディア国』があるようだ。
「なるほど……」
俺はさらに地図を眺め、ほかの場所についても確認していく。
転移地点から東へ進めば『カナメロ山』があり、南には別の大きな街がある。
一方、西側には、見渡す限りの平原が広がっているようだった。
思っていたよりも、かなり広い世界らしい。
少なくとも、最初に転移させられた場所からすれば、街にたどり着けたのは幸運だったのだろう。
「よし、ここで情報収集するか」
とはいえ、地図を眺めているだけでは限界がある。
この世界について、もっと詳しく知る必要があった。
「情報収集するなら……」
真っ先に思い浮かんだのは、冒険者ギルドだった。
異世界といえば冒険者ギルド。
魔物の討伐依頼を受けたり、冒険者同士で情報交換をしたりできる、あの場所だ。
まあ、実際にあるかどうかはわからないけど。
俺は酒場を出ると、街の中を歩きながら、それらしい建物を探し始めた。
しばらく進んだところで、剣のマークが描かれた看板を見つけた。
「ここかな……?」
冒険者ギルドにしては、少し小さい気もするが……。
とりあえず、入ってみることにした。
しかし、扉を開けた俺を出迎えたのは、冒険者たちの賑やかな声ではなかった。
そこにあったのは、剣や弓、ナイフなどが所狭しと並べられた店内だった。
「……武器屋か」
どうやら、看板を見間違えたらしい。
だが、そこで俺はあることに気づいた。
「そういえば、俺って手ぶらだよな……」
今まで魔物を倒すときは石を投げたり、水噴射を使ったりしていたため、武器がなくても何とかなっていた。
しかし、これから先も同じように戦えるとは限らない。
武器を買っておくのも悪くないだろう。
そう考えて店内を見て回ると、さまざまな種類の武器が並んでいた。
剣だけでなく、弓やナイフなどもある。
どれにしようかと考えていた、そのときだった。
「……あれ?」
ふと、重大な問題に気づいてしまった。
俺、お金を持っているのか?
この世界に来てから、お金をもらった覚えなんて一度もない。
まさか、武器を買うことすらできないのか……?
俺は慌ててウィンドウを開いた。
【所持金 8532ゴールド】
「8532……!? 結構あるじゃないか!」
思わぬ金額に驚いたが、すぐにその理由に思い当たった。
……あっ!
そうだ。これは、異世界に来る前、元の世界で財布に入れていた金額だ。
確か、新作のゲームが発売されるとかで、あらかじめお金を用意していたんだった。
まさか、そんなものまで引き継がれているとは思わなかった。
「不幸中の幸いってやつか。これなら武器を買えるな」
俺は店内を見て回り、一番安かった石の剣を購入することにした。
値段は1500ゴールド。
所持金から考えれば、それほど大きな出費ではない。
こうして俺は、初めてこの世界で武器を手に入れたのだった。
その後も街の中を探索し続けたが、冒険者ギルドらしき建物は一向に見つからなかった。
「……この世界には、ギルドなんてないのかな?」
そんなことを考えながら歩いているうちに、空が少しずつ暗くなり始めていた。
もうすぐ夜か……。
途中で宿屋らしき建物も見つけていたが、今の俺にはお金を稼ぐ手段がない。
できることなら、所持金はなるべく温存しておきたいところだ。
「……仕方ないか」
俺は近くのベンチを見つけ、そこで横になって一晩を過ごすことにした。
◇
翌朝。
太陽が昇る直前、俺はゆっくりと目を覚ました。
「……ん、朝か」
まだ眠気の残る目をこすりながら、周囲を見渡す。
時間は、おそらく朝の五時くらいだろう。
さすがにこの時間では、街を歩いている人も少ない。
「さて、どうするかな……」
この街はひと通り探索したし、次に向かう場所を決めてもいい頃だろう。
俺は再び酒場へと向かい、壁に掲げられた地図を確認することにした。
昨日見た地図を眺めながら、次の目的地を考える。
この街からさらに北へ進むと、広大な森があるらしい。
そして、その森を抜けた先には、また別の大きな街があるようだ。
「森か……」
個人的には、もっと魔物を倒してスキルを獲得したい。
街を歩き回るのも悪くはないが、俺がこの世界で生き残るためには、何よりも強くなる必要がある。
そう考えていたとき、ふと一つの疑問が頭に浮かんだ。
そういえば、この世界にはプレイヤーレベルという概念がない。
あとになって気づいたことだが、俺のステータスにはレベルという項目が存在していなかったのだ。
つまり――。
「……より強いスキルを持ったやつが勝つってことか」
もちろん、スキルの強さだけですべてが決まるわけではないだろう。
それでも、強力なスキルを持っていることが、生き残るうえで大きな武器になるのは間違いない。
ならば、やるべきことは一つだ。
俺は地図を見つめ、街の北に広がる森へと視線を向けた。
「よし、決めた。次はあの森に行こう」
スキルを獲得し、少しでも強くなるために。
俺は次なる目的地を定めたのだった。
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